ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
触腕型モンスターとの戦闘を終えた翌日の朝。
食事と休息を終えた僕は、調査を終えて野営地に戻って来たリヴェリアさんに杖の返却を求めた。前みたいに物凄く名残惜しそうに返すのを躊躇っていたが、ガレスさんがいてくれた事で何とか事無きを得る。
その光景を目撃した椿さんが自分にも貸して欲しいと言ってくるも、僕がいつものように断っていると、再びガレスさんが釘を刺してくれた。その直後、今までしつこかった筈の椿さんがあっと言う間に引き下がった事に僕は内心驚く。
どうやら僕が野営地から離れている間、フィンさん達から色々と注意されたようだ。これ以上ベルにしつこく強請るのは止めるように、と。僕としても本当に勘弁して欲しかったから、注意してくれたのは本当に感謝だ。フィンさん達が他所の【ファミリア】である筈の僕にそこまでしたって事は何か魂胆があると思うが、そこは敢えて何も気付いていない事にしておこう。
そんな事よりもだ。今の僕は申し訳ない気持ちになっている。
「てんめえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! 俺のやった事を無駄にしやがってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「ごめんなさい! ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」
現在、物凄く怒っているベートさんに謝罪していた。
僕や
翌日の朝、僕が解毒薬を使わずに目覚めて自分で治した後、他の負傷者達を治療したとベートさんが聞いて今に至る。
彼のやった事を無駄にしてしまった事に僕がずっと謝罪するも、怒りは未だに収まらない状態だ。
「ベート、うるさーい」
「アンタが怒る気持ちは分からなくもないわ」
「放せバカゾネス共ぉ!」
ベートさんの心情を考えれば僕の胸倉を掴んでいるが、ティオナさんとティオネさんが抑えていた。ジタバタと暴れる彼の腕をそれぞれ掴んで、僕に近寄らせまいとしている。
「え、え~っと、ベートさんのお怒りはご尤もです。なのでお詫びとして――」
「んなもんいるかぁ! 一発殴らせろ!」
ベートさんに使えそうな武器をお貸ししますと言おうとしたが、途中で遮られてしまった。
どうやら怒りは相当のようだ。僕がファイタークラスでやっていた頃の
「それとベル! 水浴びしてるアイズを覗いたみたいだな!?」
「いいっ!」
よ、よりにもよって此処でそれを言いますか!?
ベートさんの叫びに、出発の準備をしている【ロキ・ファミリア】の団員数名が僕を睨んでいた。
僕の反応を見て本当だと思ったのか、彼は更に怒りのボルテージを上げようとする。
「ベルゥゥゥゥゥゥゥゥ! 俺でもできねえことを易々とやりやがってぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「あ~もう、うるさいな~! それはもう終わったことなんだよ!」
「ベル、このバカ狼は私達が何とかしておくわ。アンタは気にせず帰り支度してなさい」
「テメエらもいい加減に放しやがれぇぇぇぇぇぇ!」
いい加減に鬱陶しく思い始めたのか、ティオナさん達は更に暴れて騒ぎ立てるベートさんを物ともせずに別の場所へと連れて行こうとする。
あの様子じゃ、僕は暫く睨まれる事になるだろう。折角あの人とは名前で呼ばれるほどの距離になったんだけどなぁ……。
「ベル君、ちょっといいっすか?」
そう思いながら帰り支度をする為に天幕に戻ろうとする中、ラウルさんが声を掛けてきた。
フィンさんからの伝言で、僕は【ヘファイストス・ファミリアと一緒に、部隊を二つに分ける後続隊に加わるようとの事だ。更にはラウルさんも引き続き僕と同行すると。
「あ、そうだラウルさん」
「何すか?」
「まだ遠征は終わってないですが、僕と一緒に同行してくれてありがとうございます。ラウルさんのお陰で、色々と勉強させてもらいました」
「あ、いや、自分はそんな大したことはしてないっすよ……!」
僕が感謝の言葉を述べる事に戸惑い気味のラウルさん。
大した事は無いと言っても、僕からすれば非常に有意義だった。ダンジョン19階層以降の
遠征に参加した際、ラウルさんは終始僕の面倒を見てくれたから感謝しきれない。だから僕としても何かしらのお礼をしたいと思っている。
「そんな事はありません。これをお礼と言うのは烏滸がましいですが」
そう言いながら僕はラウルさんに――。
「ではラウルさん、早速使ってみましょうか」
「は、はいっす!」
フィンさんや、アイズさんたち幹部勢を含めた【ロキ・ファミリア】先鋒隊が17階層へ突入後、ある程度の時間が経ったので後続隊も出発した。
しかしその途中、中層モンスターの群れと遭遇したので、
折角の機会が訪れたので、同行しているラウルさんに僕が所有している武器を即座に渡した。受け取るラウルさんは少し緊張しているが、それでも構えようとする。
彼に渡した武器は、僕が以前ブレイバークラスで使っていた
アークス用の武器をリヴェリアさんが使えたから、恐らくラウルさんも使える筈だ。その証拠に、彼が手にした瞬間に
「何なのだ、その武器は!? 是非とも手前にジックリと見せて――」
「椿、お主は引っ込んでおれ」
「我々の注意を忘れたとは言わせないぞ」
僕がラウルさんに武器を渡したのを見た椿さんが割って入ろうとするも、ガレスさんとリヴェリアさんが即座に止めた。
主要幹部二人には前以て説明していて、当然ラウルさんに武器の使用許可も貰っている。リヴェリアさんが羨ましそうに見ていたのは無視させてもらったけど。
中層のモンスター相手に呪斬ガエンを使う必要がないので、久々にフォルニスレングを展開して構える。椿さんが反応するも、僕は敢えて何も気にしない事にする。
そして――
「何すかこの武器の斬れ味は!? 皮膚が硬い筈のミノタウロスを簡単に斬れたっすよ!?」
「流石はラウルさん、お見事です!」
ミノタウロスを一撃で斬り裂いたラウルさんを称賛しながら、僕はヘルハウンドの群れを裏の技用のシュメッターリングで片付けていた。
リヴェリアさん達に凝視されながらも、僕とラウルさんは次々と襲い掛かってくるモンスターを難なく倒し、何のトラブルもなく着々と地上へ辿り着こうとする。
☆
「フィンさん、今回の遠征は大変勉強になりました。もし次がありましたら、また声を掛けて下さい」
「ありがとう、ベル。こちらとしても、君には色々と助けられたよ」
漸く地上に戻り、久しぶりに見た夕焼け空を感動的に見ながら集合場所となってる
フィンさんと握手を交わし、僕は【ロキ・ファミリア】と別れる。抱き付いているティオナさんやアイズさんが名残惜しそうに見ていたが、僕は「また会いましょう」と言いながら去った。【ヘファイストス・ファミリア】の椿さんに絡まれる前に。
「ふうっ。やっと帰れる……」
神様がいるミアハ様の
ダンジョンに長くいた所為か、ほんの少し道を迷いそうになったが、それでも問題無く辿り着いた。
そして出入り口の扉を開ける。
「神様~、ミアハ様~、ナァーザさ~ん、ただい――」
「――おかえりベルくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!!!!!!!」
「どわっ!」
入って早々、神様からの突進と抱擁を受ける事となってしまった。
「ベル君、ベル君、ベル君だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ちょ、か、神様! お、落ち着いて下さい……!」
心底嬉しそうな顔をしながら、僕の胸辺りに顔をグリグリとしながら叫ぶ神様に戸惑う僕。
「これこれ、ヘスティア。何をやっておる。ベル、よく帰って来てくれた」
「……おかえり、ベル。予定より随分遅かったね」
ミアハ様とナァーザさんも迎えてくれて、相変わらず対照的な反応だと内心思った。
「ただいま帰りました」
取り敢えず皆が出迎えてくれたので、僕は言いたかった事を告げた。
その後、神様達が遠征に戻った僕のお祝いをすると言って、今日の夕飯は豪華な物となった。
因みに――
「……ところでベル、お土産の薬草は?」
「勿論ありますよ」
お土産を催促してきたナァーザさんに、僕は約束通り出そうと、電子アイテムボックスから『大樹の迷宮』で入手した薬草入りの大袋を出した。
相当の量である事に予想外だったのか、彼女がホクホク顔となったのは言うまでもない。
漸く【ロキ・ファミリア】の遠征編はこれで終わりです。
後は後日談のみとなります。