ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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遠征の後日談③ 【ロキ・ファミリア】後編

 翌日の朝、【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)『黄昏の館』は騒然となっていた。

 

 物資や装備、戦利品の整理を居残り組の団員達が進めている他、遠征に参加した者達はロキの神室へ行って【ステイタス】更新をしている。

 

 三十名以上の長蛇の列と化して大変骨の折れる作業であるが、主神のロキは苦と思わずにわくわくしながら捌いていた。遠征に参加した大事な眷族(こども)達が、どれだけ成長したのかを見るのが楽しみでもあるので。

 

 しかし、それとは別の騒ぎも起きていた。主にエルフ達が、あの出来事を知って。

 

「リヴェリア様がついに『Lv.7』に!」

 

「これほど喜ばしい事は未だ嘗てないですわ!」

 

「流石はリヴェリア様!」

 

「他の同胞達を差し置いて申し訳ありませんが、改めてあのお方と同じ【ファミリア】に入れて良かったです!」

 

 団員のエルフ達が、この場にいないリヴェリアを激賞していた。

 

 それは当然の行動と言える。自身が崇拝している王族妖精(ハイエルフ)のリヴェリアが、今回の遠征で『Lv.7』にランクアップしたと知れば黙ってはいられない。益してや、彼女と同じ【ファミリア】に所属していれば猶更に。

 

 まるで自分の事のように大きく騒ぐエルフ達に、他の団員達は注意していない。もしあんな空気の中に入ってそんな事をすれば、間違いなく理不尽な目に遭わされると確信しているから。向こうが落ち着くまで無視するしかないと。

 

 因みに騒いでいるエルフ達の中にはアリシアも含まれている。彼女も当然喜んでいる一人だが、他のエルフ達から色々問い詰められていた。主にリヴェリアが遠征中にどんな大活躍をしたのかを聞く為に。

 

 尤も、喜んでいるのは何もエルフ達だけではなかった。

 

「『Lv.6』ー! アイズに追い付いたー!」

 

「しゃあッ! ようやくだっての!!」

 

 幹部のティオナやベート達からも喜びの叫び声を轟かせた。

 

 【ステイタス】更新で【ランクアップ】したからだ。今回の遠征で上位の【経験値(エクセリア)】を得て、『Lv.5』から『Lv.6』に至った。

 

 ティオナは当然はしゃぎ、ベートも珍しく他団員達の目も憚らずに笑みを浮かべてガッツポーズをしている。

 

「見て見て、アイズ! ほら、『Lv.6』になったよ!」

 

「うん……おめでとう、ティオナ」

 

「えへへっ。これでアイズにも負けないもんねー! ううん、このまま追い抜かしちゃうから!」

 

 興奮が冷めないティオナはアイズに抱き付いていた。彼女からの抱擁に嫌な顔を一切しないアイズは、ランクアップの報告を聞いて称賛する。

 

「アイズはどうだった? もしかして、リヴェリアみたいに『Lv.7』になっちゃった?」

 

「それは、ちょっと……無理かな。だけど――」

 

 そう呟いたアイズは手に持っている【ステイタス】更新した用紙へ視線を落とす。

 

 

『アイズ・ヴァレンシュタイン

 

 Lv.6

 

 力:I30→H128 耐久:I39→H105 器用:I58→H123 敏捷:I57→H133 魔力:I45→G202 

 

 狩人:G  耐異常:G  剣士:H  精癒:I』

 

 

 ランクアップせずとも、熟練度の上昇値がトータル460オーバーしている。

 

 余りにも圧倒的と言える数値の上昇に、アイズは思わず信じられないと驚愕していた。

 

『な、なんやコレ!? 今までとは比べ物にならんほど上昇しとるやないか!』

 

 更新していたロキですらも、これには驚いていた。

 

 今回の遠征で深層域『竜の壷』攻略に加え、『穢れた精霊』との死闘をしたからと言っても、ここまで上昇するとは思えなかった。

 

 何か他にも要因があるのではないかとロキが考えている中、アイズはある事に気付いた。遠征とは別の事をしていた。遠征が始まる一週間前、朝方にベルと手合わせした事を。

 

 アイズにとって、ベルとの手合わせは非常に有意義な物であった。他の冒険者達とは違う独特の戦闘スタイルで相手を翻弄し、ダンジョン深層域のモンスター以上に困難な相手であり、今も全力のベルと戦いたいと思っている。

 

 確証はないが、恐らくそれのお陰で熟練度が飛躍的に上昇した要因かもしれない。これからもベルの手合わせを続ければ、熟練度上昇だけでなくランクアップも早まる事が出来るかもしれないと。

 

 故にアイズは決めた。今後も時間があれば、ベルに手合わせをしてもらおうと。尤も、それが出来るとすればフィン達に内緒でやらなければならないが。

 

「アイズのも見せて! ……って、何これ!? 熟練度すごい上がってる!」

 

 ティオナがアイズの更新用紙を見て驚愕していた。自分でも過去にここまで飛躍的に上昇した経験がなかったので。

 

「ナルヴィにエルフィ、あんた達はどうだったの?」

 

「この顔を見て察して下さいよぉ」

 

「私達は、まだまだ道が険しそーです。アキさんやクルスさん、アリシアさんも『Lv.4』のままらしいです」

 

 同じく『Lv.6』にランクアップしたティオネが尋ねるも、ナルヴィとエルフィは肩を竦めながら苦笑していた。

 

 第一級冒険者の幹部達がランクアップするも、第二級冒険者のアキ達は誰一人ならない結果となっている。

 

 だが、それは少し違った。今回の遠征でアキ達の中で大きな変化をした者がいる。

 

「ちょっとちょっとラウルーー! 何でアンタだけなのよ~!?」

 

「どういう事だぁ~!?」

 

「あ、アキにクルス、落ち着くっす!」

 

 別の所で、第二級冒険者のアキとクルスがラウルに詰め寄って問い詰めている。何故こうなっているかと言うには当然理由がある。

 

 先ず結論から言うと、ラウル・ノールドは【Lv.5】へランクアップ可能となっていた。

 

 けれど、あくまでランクアップ可能(・・)であって、実際のところラウルは【Lv.4】のままで保留済みとなっている。

 

 今すぐにでも『Lv.5』に至りたかったが、そこを【ステイタス】更新したロキにストップをかけられた。出来ればアビリティをもう少し上昇させてからランクアップした方が良いと。

 

 【ステイタス】はそれなりに上がっているも、ランクアップさせるには余りにも中途半端だったのだ。ラウルを次期団長候補に挙げていると以前にフィンから聞かされたロキは、それを踏まえて見送ろうと提案した。もっと場数を踏ませた方が今後の為になると説得をして。

 

 ロキに説得されたラウルは少しばかり残念がっていたが、きっと深い考えがあるからと結論して保留する事を受け入れる事にした。

 

 それをアキとクルスに説明しようとするも、『ランクアップ可能』と言う単語を聞いたアキとクルスが、信じられないと言わんばかりに問い詰めている訳である。

 

 因みに、現在【ステイタス】更新を終えたレフィーヤもランクアップ可能状態となっているが、ラウルと同様の説得をされている最中だ。他にもリヴェリアから、遠征でベルに多大な迷惑を被った事によるキツイ説教を受けた際、自省の意味も兼ねて己を見つめ直す為の精進をしろと言われていた。よって、レフィーヤはランクアップ保留と言う形で終わらせている。

 

 それとは別に――

 

「あっ! そう言えばラウル、聞いたよ! 昨日、アルゴノゥト君から武器を貸してもらったって!」

 

「ラウルさん、それは本当ですか?」

 

「え!? 何でそれを!?」

 

 今朝方、他の団員からラウルがベルの武器を使わせてもらった事を聞いたティオナが問い詰め、聞き捨てならないと言わんばかりにアイズも加わった。

 

 予想外の問いに思わず問い返してしまった為、彼はアキとクルスだけでなく、ティオナとアイズにも問い詰められるのであった。四人に詰問されている事に、端から見ていた他の団員達は、『気の毒に……』と思いながら心の中で合掌していたのは言うまでもない。

 

 

 

 

「やれやれ。ワシとフィンはまたお預けか。どこかのエルフだけは、ワシ等を差し置いてランクアップしおってからに」

 

 神室にして団員達の【ステイタス】更新を粗方終え、最後となった首脳陣のガレスが腕を組みながらぼやいていた。リヴェリアを睨みながら。

 

「ああ。こればっかりは僕も、流石に文句の一つも言いたくなるなぁ」

 

「……そのような事を言われても困るのだが」

 

 苦笑しながら抗議の視線を送るフィンに、嘆息しながらも瞑目するリヴェリア。

 

 昨日の夜にランクアップしたリヴェリアとは別に、フィンとガレスは未だ『Lv.6』のままであった。その結果に二人は如何にも不満そうな表情だ。

 

 子供染みた嫉妬である事を二人は重々承知している。とは言え、同期(リヴェリア)が自分達より先にランクアップしたので、一緒に遠征で戦ったフィンとガレスからすれば、思わず不公平だと口にしたくなってしまう。

 

「まぁまぁ。自分らの気持ちは分からんでもないが、ここは『Lv.7』にランクアップしたリヴェリアを祝おうやないか」

 

 ロキは心情を察しながらも、主神(おや)らしく宥めた。

 

 そうする事に、フィンとガレスは取り敢えずと言った感じで頭を切り替えようとする。

 

「リヴェリア、念の為の確認だ。君がランクアップした最大の要因は何だと思ってる?」

 

「訊くまでもないだろう。59階層でベルが私に貸してくれた、『あの杖』しか心当たりがない」

 

 さも当然のように言い放つリヴェリアに、フィンは分かっていても「やっぱりか」と言い返す。それは当然ガレスも分かっていた。

 

 あの強力な杖で凄まじい威力の魔法を放ったのは今でも鮮明に覚えている。しかしまさか、威力だけでなく【ランクアップ】の要因があったのは完全に予想外だ。

 

 ベルが遠征に参加した事により、これまで自分達が持っていた冒険者の常識を何度も粉々に破壊されていた。余りの非常識っぷりに、団長のフィンですら思考放棄したくなる程に。

 

 遠征が終わって漸く一段落したかと思いきや、リヴェリアのランクアップの要因が例の杖だ。この場にベルがいなくても再び冒険者の常識を破壊された事に、フィンはまたしても頭が痛くなってきた。もはやこれは呪詛(カース)じゃないかと、一瞬本気で考えた。

 

「全く。ベルには本当に驚かされるわい。彼奴は一体どこまでワシ等を驚かせれば気が済むのやら」

 

「うちは報告でしか聞いとらんが、ベルはホンマに歩く非常識やな。いや、【常識破壊者(クラッシャー)】か?」

 

「それが彼の二つ名だったら、僕は何の違和感も無く受け入れてたね」

 

「まぁ、そのお陰で私はランクアップする事が出来たがな」 

 

 思った事をそれぞれ口にするフィン達。

 

 冒険者としての常識を散々破壊されたとは言え、ベルに色々と助けられたのは事実でもあるので。

 

 そう割り切ろうと、フィンは話題を変えようとリヴェリアに話しかける。

 

「リヴェリア。よかったら立場を交換しないかい? 君が団長で、僕は副団長だ。オッタルや彼と同じく、世界最高位の『Lv.7』になった君が副団長のままだと、他のエルフ達から色々と文句を言われそうだし」

 

「悪いが遠慮させてもらう。私は副団長の方が性に合っているのでな。立場まで変えるつもりはない」

 

「それは残念」

 

 フィンからの提案にリヴェリアは即座に辞退する。自分が団長の役割を果たす事が出来ないと最初から分かっている他、他のエルフ達から何を言われても無視すると決めている。余りにもしつこい場合は、相応の手段で黙らせようと考えているが。

 

「あと君がランクアップした要因については、後ほど緘口令を敷いておかないとね。うちの【ファミリア】を除くエルフ達に知られたら、色々と面倒事を起こしそうだ」

 

「だろうな。ベルに多大な迷惑な行動をするのが容易に想像出来る」

 

 リヴェリアが『Lv.7』にランクアップしたのは、ベルが所持している杖のお陰であるとエルフ達に知られてはいけない。それが発覚すれば、間違いなくエルフ達はベルの所に押し掛けるだろう。『リヴェリア様に例の杖を献上せよ!』と、あたかも当然のような振る舞いをして。

 

 そんな事態になれば、ベルは【ロキ・ファミリア】との関係を完全に断つ事になってしまう。それどころか、オラリオから去ってしまう可能性もある。今回の遠征でベルと友好的な関係を築き上げている最中に、他のエルフ達によって台無しにされるのは非常に困る。だからフィンは緘口令を敷こうとしている。勿論、後ほどベルにも言う予定だ。

 

「せやな。後でレフィーヤやアリシア達にも言っとかんとな」

 

「まぁそこはリヴェリアが言っておけば問題無いじゃろう」

 

 ロキとガレスも緘口令を敷く事に何の異論も無かった。寧ろ賛成の様子だ。

 

 そして一通りの話を終えた後、遠征の後処理をしようと動き出そうとする。

 

 

 

 ~おまけ~

 

 

「そうや。折角やし、今夜の遠征お疲れ様会にベルも誘ってみたらどうや?」

 

「ロキ、それだと神ヘスティアにも声をかけないといけないんだが」

 

「あ、せやった。……………すまん、やっぱなしで頼むわ。ドチビに酒奢るのだけは絶対嫌や……!」

 

「そうかい。じゃあその宴会とは別に、僕が後ほど個人的な宴会で彼を誘うとしよう」

 

「待てフィン、それなら私も参加させてもらう。ベルに礼を言いたいからな」

 

「当然ワシも行くぞ」

 

「やれやれ。僕としては、出来ればベルと二人だけで話したかったんだけどなぁ」

 

「そないな事をしたら、あのアマゾネス姉妹が絶対黙っとらんやろ。特にティオナの方が」

 

「………………」




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