ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
今回は幕間的なお話で、フライング投稿です。
それではどうぞ。
「リューさん、戻っているかなぁ……」
ギルドの報告と【ロキ・ファミリア】からの報酬を受け取った翌日の夕方。僕は『豊穣の女主人』へ向かっていた。
遠征が終わり、数日の休暇を取って身体を休めるよう神様から言われているから、久しぶりの休日を満喫している最中だ。
新
改装と言えば、極東式の檜風呂は凄く良かった。広い浴槽に入っている暖かいお湯に入浴した瞬間、全身の疲れが取れてしまう程に気持ちよかった。水浴びやシャワーとは全然違う快感が走り、身体が蕩けてしまいそうな程だ。入浴中に、お風呂を作ってくれた神様に凄く感謝したよ。
因みに翌日、神様のバイト仲間である男神タケミカヅチ様と【ファミリア】一行を招待する予定だ。勿論入浴もさせるつもりでいる。極東出身じゃない僕でも感動したから、絶対に大喜びする筈だ。
それと、【タケミカヅチ・ファミリア】は僕が以前に入団しようとした探索系【ファミリア】の一つだった。当然断られたが、あそこは他と違ってタケミカヅチ様が対応している。
『悪いが俺の【
あそこまで真摯な対応をされた上に頭も下げられたら、諦めざるを得なかった。
【ロキ・ファミリア】にいる門番の人達もああ言う対応をしてくれたら、悪印象を抱く事はなかったんだけどね。まぁ遠征に参加させてくれた恩があるから、もうそこまで悪く思っていないけど。今のところは、ね。
「っと、着いた」
考え事をしながら歩いている中、いつのまにか目的の場所に辿り着いた。
話は脱線したが、今回ここへ来たのはシルさんから借りたお弁当箱を返す他、夕飯を食べる為だった。
本当は神様も連れて行きたかったけど、今日はバイトの時間がいつもより遅くなると言われた。なので今回も僕一人だ。
前と同じく、店の中から楽しんでいると思われる客の声が聞こえている。今も繁盛して店主のミアさんや、ウェイトレスのシルさん達は大忙しだろう。
そう思いながら店に入ると、思った通り多くの客がいて賑わっていた。
「いらっしゃいませ。お席は……って、ベルさん!?」
客の対応をしているウェイトレス――シルさんが僕を見た途端に驚愕した表情となるも、すぐに喜色満面となって近付いてきた。
「どうも、シルさん。お久しぶりです」
「お久しぶり、じゃないですよ! 一昨日に遠征が終わったんでしたら、どうして昨日お店に来てくれなかったんですか!?」
僕の挨拶にシルさんは急に表情を一変させ、憤慨するように頬を膨らませて文句を言ってきた。
彼女がそれを知っているのは恐らく、一昨日に【ロキ・ファミリア】が遠征から戻って来たという情報を聞いたんだろう。もしくは諸事情でダンジョンに行ったリューさんから聞いたとか。
「す、すいません。後処理が色々とありまして……」
「もう。昨日は【ロキ・ファミリア】のみなさんが来たから、ベルさんも一緒に来ると思って待っていたのに」
フィンさん達は既に来ていたのか。そう言えばラウルさんが言っていたな。遠征が終わった翌日には、ロキ様が団員達を労う為に宴会をするって。
僕も同行するとシルさんが予想していたようだが、流石にそれはないと思っていた。いくら何でも、他所の【ファミリア】である僕を誘う事はしない筈だ。
そう思っていると、店の奥にいるミアさんが叫ぶ。
「シル! いつまでも話してないで、早く席に案内しな!」
「は、はい!」
ミアさんの怒号にシルさんがビクッと震えたが、すぐに僕をカウンター席へと案内する。
「あの、シルさん。お仕事は良いんですか?」
席に着いて早々に何故かシルさんが空いてる隣の席に座っていた。
「ベルさんを接客するのも大事なお仕事ですから♪ そこはミアお母さんも分かって――うきゅぅ!?」
「あたしはそんな許可出してないよ、この不良娘。とっとと出来た料理を運びな」
お盆で頭を叩かれたシルさんが可愛い悲鳴をあげるも、叩いたミアさんは仕事をするよう言ってきた。
「で、ではベルさん、後で絶対に来ますので……」
逆らう事が出来ないのか、痛そうに頭を抱えながら泣く泣くと席を立って仕事に専念する。
気の毒だけど、同情はしない。仕事をさぼるような事をしたらミアさんが怒るのは無理もないので。
取り敢えずお弁当箱を返すのは後にして、夕飯を食べよう。客が食べている料理を見た所為で、僕の胃袋から空腹のお知らせが鳴り響いている。
今日のお勧め料理と
「お飲み物をどうぞ」
料理を待っている中、一人のウェイトレスが此方へとやってくる。
「あ、リューさん。この前は――」
「クラネルさん。出来れば此処で言わないで頂けますか?」
ダンジョンで会った事を言おうとする寸前、ウェイトレスー―リューさんが
そうだった。この人は冒険者の資格を剥奪されて、ギルドの
迂闊な発言だったと気付いた僕は咄嗟に口を手で覆いながら周囲を見渡していると、リューさんが苦笑している。
「そこまで大袈裟にしなくても大丈夫ですよ」
「す、すいません。つい……」
何か僕、この店に来て早々二回謝っているな。まぁ自分に非があるから謝っているんだけどね。
「本当でしたらクラネルさんにお訊きしたい事があるのですが、今は御覧の通り大変忙しい状態ですので、後ほど伺います。それでは」
「へ?」
訊きたい事って、一体何だろう?
…………まさかとは思うけど、僕とティオナさんの関係について問い質す……じゃないよね?
この店に来てしまった事を少しばかり後悔し始めるも、料理を作り終えたミアさんが直々に運んで来た。しかも大盛りで。
「はい、できたよ!」
「えっと、あの……何か量がいつもより多くないですか?」
「坊主が大食いなのは前から知ってるからね。それと今日はあたしからのお祝いだよ」
「お祝い?」
はて、僕はお祝いをされるような事を何かしたかな?
疑問を抱いていると、ミアさんはすぐに答えてくれた。
「この前の遠征でランクアップしたんだろ? 【ロキ・ファミリア】の所にいる妹の方のアマゾネスが叫んでいたのが聞こえてね」
うわぁ、それティオナさんじゃないか。
恐らく昨日の宴会中にフィンさんが『Lv.3』にランクアップした事を話した直後、ティオナさんが大きな声を出して驚いていた光景が容易に想像出来る。
………まぁ、ギルドに報告したら僕のレベルは公開される事になるから別に良いんだけどね。
「坊主のランクアップには色々と疑問はあるが、あたしには関係の無い事だ。今日はたらふく食いな。ついでに金もじゃんじゃん使ってくれよ」
「あ、あはは……」
うわぁ、お祝いと言っておいて結局はそう言う事か。何だかんだ言って、この人ちゃっかりしてるなぁ。
まぁ良いか。今回の遠征で【ロキ・ファミリア】から報酬をたくさん手に入ったし、ちょっとした贅沢をしても罰は当たらないだろう。
他にもギルドで魔石やドロップアイテムを今日換金しようと思ってたけど、リヴェリアさんが『Lv.7』にランクアップした件が未だに騒いでる状態で無理だった。特にエルフの人達が一斉に物凄い勢いで、エイナさんや他のギルド職員が大変気の毒と思える程に。
取り敢えずは目の前にあるご馳走を頂くとしよう。早く食べないと料理が冷めちゃうので。
僕が頂きますと言って熱々の料理を頬張り始めると、ミアさんは笑顔で「後で追加を出しておくよ!」と言って厨房に戻った。
頼んでもいないのに追加を出すって、これはもう強制的にお金を出させられる展開のような気がしてならない……。美味しいから文句は無いんだけど。
その後、一品目の料理を食べ終えて食休みとしてジュースを飲んでいる途中に、シルさんとリューさんが約束通り来た。今度はちゃんとミアさんからの許可を貰ったみたいで、僕のお祝いをする為に来たらしい。
「ベルさ~ん、リューからちょっと面白い話を聞いたんですよね~。何でも、【ロキ・ファミリア】のティオナさんって言うアマゾネスの人と抱き合っていたとか」
「え゛?」
「私もそれが一番気になっていました。クラネルさん、貴方はあの【
「ちょ、お二人とも何かちょっと恐いんですけど……!」
笑顔のシルさんと少し睨み気味のリューさんは、どちらも凄い威圧感を醸し出していた。
もうこれはお祝いじゃなくて取り調べじゃないかな? 僕は別に何も悪い事はしてない筈なのに。
まるで浮気を追及されているされるような感じになるも、以前ゴライアスを倒したのを目撃したティオナさんから一方的に熱烈な好意を抱かれている事を説明する。
「あ~、確かにアマゾネスは強い男性に惹かれますからね~」
「成程。そう言う事でしたか」
アマゾネスの習性を知っていたのか、シルさん達はすぐに理解してくれた。
説明した事で二人は追及の姿勢を解いて、今度は純粋に僕のランクアップを祝ってくれた。その途中、遠征当日に借りた弁当箱もちゃんと返している。
すると、シルさんが急に何か思い出したような仕草をして、僕に話そうとする。
「あ、そう言えば昨日、小耳に挟んだんですけど……何でも【ロキ・ファミリア】は今日、慰安旅行として
「
「はい。まぁ、あのロキ様の事ですから、慰安旅行とは別に何か深いお考えがあるんじゃないかと私は思いますが」
「…………………」
………僕の思い過ごしかな? シルさんが笑顔のまま意味深な事を言ってるような気がする。まるでロキ様の考えを見抜いているんじゃないかと思う程に。
それに、何と言うか……この人から感じる気配が奇妙だった。僕と同じ
「どうかしましたか、クラネルさん?」
「え? あ、いや、何でも無いです。あはははは……」
僕が無言となった事にリューさんが不可解そうに声をかけたから、何でもないように笑顔で誤魔化す事にした。
今度は前みたいに酔った冒険者達に絡まれる事無く、楽しい夕飯の時間を過ごす事となって何よりだった。
~おまけ~
時間は少し遡り、
シルが予想していた通り、【ロキ・ファミリア】がとある目的で調査をしている最中、外部の【ファミリア】が入港してきた。嘗てティオナとティオネが所属していた【カーリー・ファミリア】が。
主神カーリーは眷族達を連れてロキ達に観光目的で来たと一通り話し終えた後、ある事を思い出して聞き出そうとする。
「おお、そうじゃ。肝心な事を忘れておった。オラリオにおるヒューマンの雄――ベル・クラネルとやらは今も息災か?」
『!』
カーリーから予想外な人物の名を上げた事に、ロキだけでなくロキの眷族達も目を見開く。何故外部の【ファミリア】である筈のカーリーが、そんな事を尋ねるのかを疑問を抱いている。
「おいドチビ二号、何で余所者の自分がベルの事を知っとるんや?」
「知っておるも何も、以前にお主等が
「……さよか」
理由を告げたカーリーにロキは納得した。
「弱者共の遊戯には興味など毛頭無かったが、暇潰しで『鏡』を見て思いも寄らぬ展開に心を踊らされてのう。あの雄を『Lv.1』だからと油断しておった弱者共の間抜け面が傑作じゃったわ! あれほど笑わせてくれる道化は久しぶりに見せて貰った」
カッカッカと笑うカーリーだが、誰一人同調しなかった。
そんな中、ティオナが問おうとする。
「ねぇカーリー、アルゴノゥト君の事を聞いてどうするの?」
「アルゴノゥト? 何じゃティオナ、あの雄を以前に読んだ本の英雄の名前で呼んでおるのか。まぁ良い。そんなの決まっておろう。あの雄を是非とも我がテルスキュラに迎えようと――」
「ダメ! アルゴノゥト君はアタシのなんだから! カーリーに絶対渡さないよ!」
「…………は?」
嘗て自身の眷族だったティオナの発言に、先程まで余裕綽々としていたカーリーが思わず目が点になっていた。
公衆の面前で堂々とベルの自分の物だと宣言した事で、シリアスな雰囲気に少し罅が入っているのをロキ達は感じ取っていた。
次回は【タケミカヅチ・ファミリア】との会合です。