ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
「ま、待ってくれ子兎ちゃん!」
「せめて話だけ! 話だけでいいから頼む!」
「弱小【ファミリア】はすっこんでろ! 俺はベル・クラネルに謝らなきゃいけないんだ!」
「ベルきゅん、君を追い出した門番のバカは既に追放したんだ! だから今度は神の俺と正式な話し合いを!」
(本当にしつこいなぁ、この世界の神様達は……。ウチの
昨日の楽しいお風呂の団欒とは別に、僕は現在追われていた。さっきまで囲まれていた数人の
経緯について簡単に言うと、休日なので久しぶりに街を見て回ろうと散策していた。ついでに未だ中途半端な状態となっているオラリオの地理を記録しようと。
散策時には『シャルフヴィント・スタイル』ではなく、オラリオ用の普段着を身に纏っていたが、僕を見た神様達が速攻で取り囲んだ。どうやら普段着の僕を認識していたようだ。
相手は一応神様だから取り敢えず用件を訊くと、思った通りの答えが返って来た。遠回しに言いながらも、結局は僕についての自分の【ファミリア】へ
丁重に断っても、向こうはまるで聞いてないように勝手に話を進めていた。それどころか、もう決定事項のように催促してくる。嫌だと言っても、「あれ? ゴメン、ちょっと何て言ってるのか分からなかった~」と言い返される始末。
これがもしキョクヤ義兄さんだったら――
『口で言っても理解出来ぬ莫迦共に、俺から闇の洗礼を与えるとしよう。そして知るがいい。己の愚かさを絶望の果てまで後悔させてやる!』
そう言いながら得物を出して痛めつけようとするだろう。尤も、物凄く手加減して驚かせる程度で終わらせると思うけど。
僕の場合は流石に無理だった。異世界にいるキョクヤ義兄さんと違って、僕はこの世界の人間だ。天界に住まう神様に手を出してしまえば大問題なので。
だけど、ここまで粘着質かつ横暴な神様達に絡まれるのは嫌だ。ゾンディールを使いたいと思う程に。アレは目標を吸い寄せるテクニックでダメージはないが、僕がそれを使って跳躍した瞬間、吸い寄せられた神様達は顔をぶつけ合う事になるだろう。最悪の場合、男神同士でキスする破目になると言う悍ましい事故も起きる。
何とか心を落ち着かせ、どうやって撒こうかと考えた結果……ファントムスキルで姿を消す事にした。
姿を消すスキルを持っている事を
取り敢えず撒く事に成功したからオラリオの散策を再び行う。
「ベルではないか」
歩いている最中、誰かが僕に声を掛けてきた。思わずさっきの神様かと思って警戒しながら振り向くと、カフェテラスの椅子に座っているミアハ様と、燃える赤い髪で眼帯をしている女神様がいた。
「ミアハ様! それと……」
僕の知っている善良な神様であった事に安堵するも、一緒に座っている女神様が誰なのかが分からなかった。
「ああ、そう言えば君とはまだ初対面だったわね。私はヘファイストス。【ヘファイストス・ファミリア】の主神をやっているわ」
「ヘファイストス様!?」
その名前はよく憶えている。神様が
「す、すみません。一度もお会いした事が無いとは言え、大変失礼しました……!」
「気にしないで」
頭を下げながら謝罪する僕に、ヘファイストス様は必要無いと言ってきた。
それを見ていたミアハ様は苦笑しつつも、時間があれば自分達の話し相手に付き合って欲しいと、空いている椅子に座るよう頼んできた。
しつこく迫って来た神様達とは違って、ミアハ様は凄く紳士な対応だ。僕としては断る理由が全くないから、お言葉に甘える事にした。
今は一つのテーブル席に僕、ミアハ様、そしてヘファイストス様が囲むように座って談笑をしている。話をして分かったが、ヘファイストス様はミアハ様と同様に善良な女神様だ。神様と気が合うのがよく分かる。
「そう言えば、遠征の時は悪かったわ。椿の事だから、遠征中に何度も何度も武器を貸して欲しいってせがまれたでしょ?」
「え、いや、まぁ、あははは……」
本当にしつこくてうんざりしました、なんて流石に言えなかった。目の前にいるのは主神だから、団長である椿さんの行動を堂々と批判すれば怒りを買う事になる。
だけど、僕の考えがお見通しだったみたいで、ヘファイストスは苦笑しながら言う。
「私が主神だからって、そんな気を遣う必要なんかないわよ。もし私が君の立場だったら、遠慮なく言ってるわ。ま、さっきの返答でもう充分に分かったけどね」
「あの、その……」
「これこれ、ヘファイストス。そうやってベルを困らせるでない」
思った事をそのまま言うヘファイストス様に僕がしどろもどろになっていると、ミアハ様が助け船を出してくれた。
「そなたとて、そちらの団長と同じく気になっているのであろう? つい先程まで、私にベルの事について聞いていたではないか」
「ちょっとミアハ!」
「え?」
椿さんと同様に気になるって……。
僕が聞いてしまった為か、ヘファイストス様はミアハ様に悪態を吐きながら観念するように嘆息する。
「はぁっ……。実を言うと、君の使う武器が今も気になってるのよ。私も一人の鍛冶師として、ね」
「そう、ですか」
思わず警戒してしまう。椿さんだったら速攻で断るけど、相手は神様だ。下手に断って機嫌を損ねてしまうと、神様との付き合いに支障をきたしてしまうかもしれない。
すると、途端にヘファイストス様が両手を上げて、首を横に振った。
「安心なさい。私は椿と違って、武器を貸してくれなんて厚かましい事は言わないし、君を問い質す気なんかないわ。そんな事をすれば、ヘスティアに申し訳が立たないからね。だけど……」
椿さんみたいな事はしないと言った後、僕に質問をしようと真剣な顔になった。
「ベル・クラネル、せめてこれだけは確認させて。椿から聞いた際、君が使う魔剣は制限無しで使えると言ってたけど、それは本当なのかしら?」
「……ええ、そうです。物理的に壊れない限りは」
僕は間を置きながらも取り敢えず答える事にした。この世界の神様は相手の嘘を見抜けるけど、今更嘘を吐く気はない。椿さんに教えた事は本当なので。
返答聞いたヘファイストス様は、「……そう」と言って僕に警告しようとする。
「なら今後、その壊れない魔剣の事を他の神達や【ファミリア】、あと商人達の前で決して言わないようにして。君の知っての通り、魔剣は――」
そう言いながら、魔剣についておさらいするように説明を始めた。この世界の魔剣というものが、何回か使ったら壊れてしまう消耗品である事を。
椿さんや【ロキ・ファミリア】の幹部達が、あそこまで驚いたのがよく分かった。僕の使ってる武器が途轍もない物だというのが。
フィンさんも僕に警告する筈だ。リヴェリアさんに貸した
「もし知られれば最後、誰もが君の武器を喉から手が出るほど欲しがろうとするわ。どれだけの大金を叩いてでもね。最悪の場合、君を殺してでも奪おうとする筈よ」
やっぱりそうなるだろうな。どうやらこれは今以上に気を付けないといけないようだ。
今の僕はただでさえ『Lv.3』にランクアップして、オラリオの人達から注目されている。この状況で団員募集すれば、誰もが僕の事や武器について調べる目的で入団してきそうな気がする。神様には悪いけど、もう暫く団員募集しないように言っておかないと。
「警告ありがとうございます。鍛冶神のヘファイストス様に言われると、改めて気を付けなければいけないと認識し、て……」
あれ? 鍛冶神って思い出したけど、僕はこの前、【ゴブニュ・ファミリア】のゴブニュ様に大剣の整備依頼をしていたような……。
確かゴブニュ様が三日経ったら来いって言われ……って!
「ああ~~~~~~~!!!」
「ど、どうしたの?」
「まるで何か大事なことを思い出したような叫びだな」
僕が立ち上がりながら叫んだ事でヘファイストス様が吃驚し、ミアハ様は察したように言い当てた。
「す、すいません! 僕、整備依頼した【ゴブニュ・ファミリア】の所へ行かなきゃならなくて……! 申し訳ありませんが、今日はこれで失礼します!」
二柱の神様に謝りながら理由を言い、僕はすぐに【ゴブニュ・ファミリア】の工房へ向かおうと走り出す。
「まさか、あの子がゴブニュのところに整備依頼してたなんてね……。一応あそこは私の商売敵なんだけど」
「大方、遠征中に何度も強請ってきた椿に辟易して、ゴブニュに依頼をしたのであろう」
「でしょうね。全くもう、椿ったら……。これじゃもう、あの子と交渉出来ないじゃない……!」
「おや? ベルの前であのような事を言っておいて、実は密かに狙っていたのか?」
「人聞きの悪い事を言わないでよ、ミアハ。私はただ単に、あの子が持っている壊れない魔剣を含めた武器を狙う不逞の輩が迂闊に手を出さないよう、私から保険を提示しようとしただけよ」
「遠回しに言ったところで、結局はベルの武器を自分の目の届く所に置いておきたいのだな?」
「………後で椿に文句を言っておかないとね」
「うむ、見事に誤魔化したな」
☆
「すいません、ゴブニュ様。今日が約束の日だって事を忘れてしまって……!」
「そこまで謝る必要は無いぞ。俺は『三日経ったら来い』と言っただけだ。時間の指定までは言っておらん」
ミアハ様達に別れを告げた後、僕は急いで【ゴブニュ・ファミリア】の工房へ向かった。
鍛冶師の人に整備依頼の件について話すと、いきなりゴブニュ様の元へと案内された。どうやら僕が来たら案内するよう言われたようだ。
そして【ゴブニュ・ファミリア】の主神ゴブニュ様と三日ぶりに会ってすぐ忘れていた事を謝るが、向こうは気にしていないと返された。
この話はもう終わりだと言った次に、整備依頼をした大剣を渡してきた。以前見た時と違って、刃が鋭くなっている。
「あれ? この大剣、なんか軽くなった上に、刃の部分も少し小さくなってるような気が」
「お前の体格に合わせるよう、俺が少しばかり調整させてもらった。その大剣は本来、体格の大きな者が扱う武器だからな」
成程。前に戦ったミノタウロスは片手でも軽々と振り回していたけど、僕からすれば両手で持たないと満足に振るえない大剣だ。今はとても馴染んで片手でも持てる軽さになっている。
もし僕がハンタークラスだったとしても、この武器は非常に扱い辛いだろう。でも、ゴブニュ様が調整してくれたお陰で、今ならファントムクラスとか関係無く軽々と振り回せる。
「態々調整までしてくれて、ありがとうございます。あ、でしたらお金も多めに支払った方が……」
「気にするな。これはあくまで俺が勝手にやっただけだ。お前は請求書に書いてある通りの代金だけ支払えばいい」
「そ、そうですか。では、料金は此方です」
厳しい表情のままで追加料金は必要無いと言ってくるゴブニュ様に、僕は苦笑しながらも電子アイテムボックスからお金が入った袋を出して渡そうとする。
「うむ、確かに受け取ったぞ」
「えっと、整備してもらって言うのも何ですが、もしこの大剣が壊れたら場合に修理依頼をしても良いですか?」
「構わん。それが鍛冶師の仕事だからな。だが使って早々に壊すなよ? 出来れば大切に扱って欲しい」
「分かりました」
念を押すように言ってきたので、僕は首を縦に振りながら頷いた。
すると、ゴブニュ様が突如質問をしようとする。
「確認したいのだが、その大剣は一体どうやって入手したのだ? 遠征中に手に入れたと言っていたが……」
「ああ、これはですね――」
簡潔に説明しようと、ミノタウロスと戦った件について説明する。
聞いているゴブニュ様は厳しい表情でありながらも、僕の話を一字一句逃さない感じで聞いていた。
「……成程な。まぁ、確かにそのような武器を放置するのは勿体ないな。拾った以上は最後まで責任を持って使うのだぞ」
「はい!」
力強く返事をした後、僕はゴブニュ様に再び整備をしてくれたお礼を言った後、工房を後にした。
「ゴブニュ様。【
「【剣姫】と同様、必ず俺を通すようにと団員達に言っておけ」
「わかりやした。にしても、あの坊主が持ってきた大剣って……確かゴブニュ様が作った武器じゃないですか? それにアレは【フレイヤ・ファミリア】の所にいる【
「余計な詮索は不要だ。用が済んだなら早く仕事に戻れ」
「へ、へい、失礼しました!」
「…………ミノタウロスを倒して手に入れたと言っていたが、オッタルは一体どういうつもりで……いや、この場合フレイヤと言った方が正しいか。あの女神は一体何を考えているのやら……」
~おまけ~
場所は変わって【ロキ・ファミリア】の
「……ガレス、今日も平和だね……」
「……そうじゃのう」
フィンとガレスが黙々と執務を行っている最中だ。
慰安旅行と言う名目で
今の
以上の理由で、男性陣はロキの指令があるまで待機と言う事になっている。とは言え、オラリオ内でもやる事はあった。ロキはフィン達に同盟相手であるディオニュソスとヘルメスの動きを見張るように頼んでいるので、決してやる事が無い訳じゃない。因みにベートは最初からやる気がなく、
「神ディオニュソス達はどうなっている?」
「団員達の報告では、今のところ何もなさそうじゃ。」
頼まれた事をやっている二人だが、何の音沙汰もないから殆ど暇に等しかった。
ロキ達が
すると、執務室の扉の奥にある廊下が慌ただしい足音が聞こえた。
「団長、失礼します!」
「アキじゃないか。君が此処へ来たって事は、もしや向こうで何か遭ったのかい?」
慰安旅行に行った筈の女性団員――アナキティ・オータムが
「はい、それが――」
執務室に入って早々、アキはフィン達に
【カーリー・ファミリア】が入港し、引き起こした経緯と状況。
女性団員達の得物も含めて装備を揃える指示。
【ロキ・ファミリア】を全員集結させ、
全てを聞いたフィンは即座に了承し、アキに指示を命じようとする。
「アキはラウル達に同様の説明をした後に準備を手伝ってくれ」
「分かりました」
頷いたアキはすぐに執務室から出て行動に移した。
先程まで静かだったのが、急に騒がしくなった事にフィンは内心苦笑する。
「ではワシもアキの手伝いをするか。にしても、まさかオラリオの外で大暴れする事になるとは思わんかったわい」
「僕もだよ。まぁ、ガレスにとっては丁度良いんじゃないかい?」
「まぁの。ずっと執務ばかりしてた所為か、鈍ってたところじゃ」
座っていた椅子から立ち上がり、まるで固まっていた身体を解すようにストレッチをするガレス。
「フィンはどうするんじゃ?」
「ガレス達には悪いけど、僕は少しばかり出掛けさせてもらう」
「? こんな時に何処へ行くつもりだ?」
フィンが無駄な事をしないのは分かっているが、ガレスはそれでも問わずにはいられなかった。
「
「とある冒険者じゃと?」
「ああ。アキからの報告で現在行方知れずの団員二人いるけど、引き留めるのは僕だけじゃ無理だ。だから万が一の事を考えて、もう一人の適任者を連れて来ないとね」
「……おい、まさかお主」
「大丈夫、この件についての全責任は僕が負うから」
ガレスはフィンの目的が分かったのか、少しばかり眉を顰めていた。
さて、フィンの言う冒険者とは誰の事を指しているでしょうか?
感想お待ちしています。