花音 - One second songs - 作:津梨つな
短編ですが、よろしくお願いします。
これからお話するのは、私が生涯で最も深く想い、心揺さぶられた、一人の"彼"のお話です。
とっても素敵な彼と、彼のことを考えて過ごした、とっても素敵で…かけがえのない大切な時間。
花咲川学園。私が高校2年生になる時、私たちの学校は女子校から共学へと変わりました。
それまで、中学から女の子だけの空間で過ごしてきた私にとって、期待よりも不安の方が大きい"変化"ではありましたが、それこそが彼との出逢いの切っ掛けだったんです。…運命の転機、とも言える変化だったのかもしれません。
私のクラスには4人の男の子が編入してきました。彼はその一人……尤も、人見知りでコミュニケーションがあまり得意じゃない私には関係のないことだと思っていましたが…。
「へぇ、あんた花音って言うのか。…綺麗な名前だな!!」
「ふぇっ!?…そ、そうかな…。」
「あぁ、それでいて覚えやすい漢字ってのは凄くいい。
…よかったらこの学校のこととか、教えてくれないか?」
「ふぇぇ…わ、私でよければ…その…」
「さんきゅー♪助かるわ。
花音はなんつーかアレだな。話しやすいし、他の子みたいに煩くないしな。…おまけに可愛いと来たもんだ。」
「か、かわいいって…」
「はははは!…ま、また何かあったら花音に訊くようにするから、無下にしないでくれよな~。
…じゃっ!」
可愛らしい笑顔を垣間見せながら明るい調子で話す彼。席が近いからといきなり話しかけてきたときは驚いたけど、ほんの少し話しただけで虜になってしまった気がしました。
それからも、彼は言ったとおり学校の案内をお願いしてきたり、お昼ご飯に誘ってきたりと、一緒に過ごす時間が増えていって…。
…そのせいか、いつの間にか二人で居ても違和感を感じなくなるほどの仲になったんです。…それが高校2年生の春から夏にかけてのお話。
「…それで?」
「ふぇ?それで…って?」
「彼の事よ。……花音、あなたずっと一緒に居るでしょう?
気になってるんじゃないの?」
少し涼しい風が吹く、ある夏の日。仲良しの
その場に一緒にいた
「あ、あはは…どうかなぁ……ちょっと仲良くしてくれてるだけ、だと思うし…。」
「ふーん……?」
「そういえば、今日は一緒に居ないよね。」
「あうん。……今日別の子と学食に行ったみたい…。」
「…よかったの?それで。」
「よかった、って…?別に、付き合ったりしてるわけじゃないんだし、そういう時だってあるでしょ?」
「うーん……どう思う?彩ちゃん。」
「えっ、わ、私は…あんまりそういうのわからないかなーって…。」
何だかぐいぐい来る千聖ちゃんと、ただ只管によく笑う彩ちゃん。…彩ちゃんはこういう話が苦手みたいで、逆に千聖ちゃんは押せ押せの方針みたい。
何だか両極端だなぁと思いつつ、ふと周りからどう見えているのか気になったんです。
「ねえ、彩ちゃん。私とあの人って、周りから見るとどう見えるの、かな。」
「うぇ!?…えーと…仲良さそうだな…とは思うけど、それくらいかなぁ。
…付き合ってる~とかは思わないかも。」
「そうよね。…まだ花音が一歩引いてる感じだもの。」
引いてるつもりはないんだけどな…。ただ、一緒にいると少しドキドキはするけどそれをどう言い表したらいいのかわからないだけで。
「…今は、仲良くしてくれるだけでいいんだぁ。
私みたいなおどおどして鈍臭い子に構ってくれるのって、あの人だけだから…。」
千聖ちゃんはまだ色々言いたそうだったけれど、その時の私は彼に出逢えたことの幸せだけで満たされていたんです。たまにあの含羞むような笑顔を見られるだけで、…あの少し低めの声で名前を呼んでもらえるだけで、幸せだったんです。