花音 - One second songs -   作:津梨つな

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秋の日の勇気

 

 

 

 

 

"私を乗せた恋という名のバスは次の停留所へ"

 

"同じ景色の中に居た二人 同じじゃない景色を見ている二人"

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 文化祭が間近に迫ったあの秋の日。教室は半分が出し物の準備で改造され、いつも通りの授業も何だかそわそわしちゃう…そんな日々が続いていました。

 

 

 

「なぁ、花音。」

 

「んー?なぁに??」

 

「ちょっとこの後、さ。…飯でもいかないか?」

 

「放課後ってこと、かな…?でも、クラスの準備手伝わないと、だよ?」

 

「もー、花音は真面目だな…。

 たまにはいいんだよっ!…ちょっと相談も、ある…しさ。」

 

 

 

 皆と協力して…とか、当日までもう時間がないんだよ、とか…。正しいことも言えたのかもしれません。でも、少し気恥ずかしそうな、もじもじと袖を弄りながら話す彼の姿に、正論なんて呑み込むことしかできなかったんです。

 結局その日は、家の用事があるとか何とか適当に話をつけて、二人でそそくさと下校したのでした。…思えば、玄関から校門までを駆け抜けるあの一瞬が、彼と初めて手を繋いだ(触れ合った)時だったんです。

 

 

 

 学校から離れ、制服を着た人と擦れ違わなくなった場所で、何だかおかしくなった私たちは顔を見合わせては笑って…。不思議なもので、彼といるだけで、ほんの少しの罪悪感を忘れるくらい、幸せに胸が満たされる思いでした。

 いつの間にかしっかりと握られた手をすっかり忘れ、そのまま近くの喫茶店に入りました。学校の近くにずっとあったはずなのに一度も来たことがないお店に、少し緊張を覚えたりもしましたが…そんなこと瑣末な問題にもなりません。

 

 

 

「なに、ここよく来るの?」

 

「ま、まぁね…えへへ。」

 

 

 

 普段は絶対につかない嘘も、初めてついちゃいました。

 

 

 

「いや~、あんなに走ったら腹減っちゃったぜ。…何食べよっか?」

 

「あ、ええと……め、メニューを…」

 

「あれ?常連さんなんだろ?」

 

「…実は、ちょっぴり、うそなの…」

 

「はははっ、だと思ったよ。

 …んじゃ、一緒に見ようぜ。」

 

 

 

 嘘をついた私を咎めるでもなく自然な流れのまま隣の席に移動してくる彼。触れ合う肩に、私の心臓ははちきれそうでした。

 ご飯を…そう、食べるものを考えて気を紛らわせて…

 

 

 

「…花音?顔真っ赤だよ?」

 

 

 

 …無理でした。顔から火、いや煙が出そうなほど恥ずかしい!!

 だってずっと、ずっと届きそうで届かなかったあの彼が今は触れ合うほど近くにいる。…あぁ、やっぱり私、この人のこと異性として好きなんだ…。千聖ちゃんの言うとおりだったんだ。

 鈍いと言われてしまうかもしれませんが、本当にこの時までそういう気持ちに気付かなかったんです。…ずっと。

 

 

 

 目の前に置かれる料理に目を輝かせる貴方は可愛い。一口ずつ交換して意見を言い合う時の真剣な表情も可愛い。…食べ終わったあとの幸せそうな細めも可愛い…。

 …きっと見蕩れていたんでしょう。気づけば料理は空に、そして目の前には真剣な眼差しの彼がいて。

 

 

 

「それでさ、花音…。相談…っていうか、訊きたいこと、なんだけどさ。」

 

「……う、うん。」

 

「もうすぐ、文化祭があるよな。」

 

「うん…。」

 

「き、きっと…みんな盛り上がっちゃうよな?」

 

「…うん?」

 

「そしたらさ、なんというかこう…こっ、ここ、告白、したりされたりする奴なんかも出てきちゃったりして…さ。」

 

「………。」

 

「えと、なんというか、その…。」

 

「…うん。」

 

「……花音は、今までにそういうの、あった?」

 

 

 

 吃りながらも一生懸命訊く彼の表情に、今度ばかりは咄嗟の嘘は付きません。

 

 

 

「…ない、よ。」

 

「そっ…か。……こ、今回、そうされそうな予定?…とかは?」

 

「…ない、かな…。」

 

「…っ!ほんとっ!?」

 

「う、うんっ」

 

「っはぁぁぁぁぁぁぁ…………よかったぁ。」

 

「ど、どういうこと?」

 

 

 

 緊張が解けたのか、それはそれは深いため息を吐いて。どういうことだか理解が追いついていない私は、そのまま真意を問いました。

 

 

 

「えっと…さ。今のクラスに入ってきて、みんなそれとなくは仲良くしてくれるんだけど、どうしても女子とは上手くやれなくてさ…。

 今だって、まともに友達として絡んでくれるのって花音だけなんだよ。」

 

「…うん?」

 

「それでさ、折角仲良くなれたんだし文化祭も一緒に回ってみたいなーって思ったんだけど、花音にもう彼氏とか好きな人が居たらそいつに悪いだろ?

 でも何だか探りを入れるのも男らしくない気がして…直接訊こうって、ここ何日かで決心したんだ。」

 

「……ぷっ、…ふふ、ふふふふ」

 

 

 

 そのあまりの一生懸命さに、その誰かもわからない人に対しての思いやりに、…そしてころころと変わる百面相の愛らしさに、思わず吹き出してしまいました。

 あぁ、なんて可愛らしい人なんだろう。こんな人に良くしてもらえる自分は、なんて幸せなんだろう…って。

 

 

 

「あっ、わ、笑うこと無いだろ!!」

 

「ご、ごめんごめん…ふふっ。一生懸命言ってるのがすごく、可愛くってつい…ふふふ。」

 

「…か、可愛いとか、男が言われても別に、嬉しくねえし…。」

 

「ふぇぇ、ご、ごめんねぇ?」

 

「…いいけど。…それで、一緒に回ってくれる…?」

 

「……は、はいぃ、私なんかでよければ、お願い、します…」

 

「ぃよっしゃぁ!!!」

 

 

 

 ガッツポーズ。貴方は嬉しいことがあったとき、いつもそれだったよね。…ずっと鮮明に覚えているくらい、大好きだったよ。

 斯くして、いずれ私が勇気を出して立候補しようと思っていたポジションは、彼の可愛い頑張りによって達成されたのでした。

 その日の夜、喜びのメールで千聖ちゃんに鬱陶しがられるくらいには、舞い上がった私がいました。

 …だって、幸せだったんですもん。

 

 

 




甘酸っぺぇ。
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