花音 - One second songs -   作:津梨つな

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祭夜に見た幻想

 

 

 

"そのバスは次の 枯れた停留所で停まった"

 

"無邪気に飛び込んでくる明日が 今はただただ怖い"

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

「はーあ……。」

 

「…花音ちゃん………。」

 

 

 

 文化祭が終わって、制服も冬服に変わりました。…それでも、私の頭は、あの文化祭の一件でいっぱいで…。

 彩ちゃんや千聖ちゃんに凄く心配をかけているのは分かっています。…それでも、彼に言われたことがずっと頭から離れなくて、苦しくて…。

 

 

 

「…諦めるにしろ攻めるにしろ、ここで立ち止まってるわけにはいかないと思うわ?

 花音は、どうしたいの?」

 

「私は……どう、なんだろ。」

 

「あなたが煮え切らない態度ばかり取るから相手だって…!」

 

「ち、千聖ちゃん…っ!……花音ちゃんだって、わざとそうしてたわけじゃ…」

 

「……わかってる、わよ…。そんなの。

 …でも、納得できないの!許せないのよ!…散々、そういう雰囲気出しといて、あんな…。」

 

 

 

 納得できない、それは確かに私も抱いていたことだった。…でも、人の気持ちなんて、結局のところ本人にしかわからないことだし…何の意図があるかも他人が考えていいものじゃない。

 …そうわかっていたとしても、私は確かに彼のことが好きでした。こんな状況になって、何も手につかないくらい彼のことを考えて、悩んで悩んで悩んで…沢山の時間を無駄にしてると気づきながらも、あの日のことが引っかかって前に進めないんです。

 

 

 

 文化祭三日目、最終日の夜。校庭では毎年恒例の打ち上げ花火の準備が進められていました。

 少し早めに場所を取って、寄り添いつつその時を待っていた私と彼。一日ずっと一緒に過ごしていろんな体験をした、そんなあの人。いつの間にか握られていた右手に、私の幸福度はまさに絶頂といったところでした。

 

 

 

「なーなー花音?俺さ、打ち上げ花火っていっつも緊張しちゃうんだよな。」

 

「緊張?…ふふっ、どうして?楽しみとかじゃないの?」

 

「なんかさー、あの"ドーン!"って音がこう、心臓に響くじゃんか?

 …それがこれから始まるんだって思うと…妙に落ち着かなくなるっていうか…。」

 

「そうなんだ~。…可愛いね。」

 

「…んー…。」

 

 

 

 可愛い。そのワードに、彼が毎回複雑そうな顔をするのを知っていました。…でもこれは、私が唯一できる彼に対しての意地悪だから、つい頻繁にやっちゃうんです。今だってほら…困ったように垂れる眉と尖った口のアンバランスさが…。

 弄ったり弄られたり、謝ったりおどけてみせたり。そうしているうちに、その時は来ました。

 

 

 

…ッヒュゥゥゥ…………ッド…ン……

 

 

 

 空に昇る一筋の光。一刻遅れての閃光と炸裂音。

 昼間のように明るくなる校庭と照らされる生徒の顔。…ビクッと体を震わせながらもやんちゃそうに笑う彼。

 文化祭、最高。

 

 

 

「文化祭、サイッコーだな…。」

 

「えっ?」

 

「…だってさ、この三日間、すっげぇ楽しかったんだもんよ。…花音とずっと一緒だったし、色んなもの見れて、色んな人とも交流できた。」

 

「ふふ、そうだね…。友達いっぱい増えたもんね?」

 

 

 

 まだまだこの学校では新顔の彼。その持ち前の明るさや人懐っこさから、彼はどこに行っても人気者だった。

 中には彼に連絡先をせがむ後輩や生徒会に勧誘する先輩なんかも居て、少し妬いちゃったりもしたけど…。それでも、そんな彼とふたりっきりで歩き回れることに、ほんの少し鼻が高かったんです。

 その人気者である彼が、一番仲のいい人と言ってくれる。一番の理解者だと紹介してくれる…。一教室回るごとに、喜びが増していくようでした。

 

 

 

「あぁ、全部花音のおかげだよ。…本当に、最初に話しかけたのがお前で良かった。」

 

「……ぁ、ええと…その、」

 

「花音。…折角花火が綺麗なところごめん。

 …少し俺の目を見て、話を聞いてくれないか。」

 

「…え。」

 

「どうしても、花音に伝えたいことがあるんだ。」

 

 

 

 熱っぽい彼の瞳に、周りの空間が無音になった気がしました。私の世界には、私と彼の二人だけ…そんな錯覚を覚えたんです。

 …あの人は本当に不思議な人で、人を惑わすような魅力があったんだと思います。きっと。

 

 

 

「…は…ぃ。」

 

「…花音。……俺と、友達になってくれてありがとう。仲良くしてくれて…一緒にいてくれて、本当にありがとう。」

 

「……ぅん。」

 

「……その、これからも……ずっと俺と一緒にいてくれると、嬉しい。

 お前といる時間は、なんつーか…すっげぇ幸せなんだ。」

 

「!!……。」

 

 

 

 そっと、壊れ物を扱うかのような彼の両手が私の右手を包み込みます。緊張から冷たくなっていた体に、その触れている手から温もりが流れ込んでくる気がしました。

 幸福感とその安心感から思わず涙が溢れそうになるのをグッと堪え、次の言葉を待つ私。…花火を背にした二人の姿は、きっとドラマのワンシーンのように美しいものだったでしょう。なんて、少し浸りすぎですかね。

 …でも、そう思い込んでしまうくらい舞い上がっていたんです。この時までの私は。

 

 

 

「花音。」

 

「…はい。」

 

「俺は、その幸せな気持ちを、お前の傍でずっと感じていたい。」

 

「そ、それって…。」

 

「あぁ……。きっと、俺と花音って相性がいいんだと思うんだよな。だからこんなに仲良くなれた。それはきっとこれからも、同じで…」

 

「うん…。」

 

 

 

 近づく彼の顔に、心臓が煩いくらい跳ね回るのが分かりました。

 

 

 

「俺と花音は…きっと親友になれると思うんだ。」

 

「…うん…。………え?」

 

「本当に花音と出会えてよかったよ。…これからも、俺の友達第一号として、ずっと傍にいて欲しい。…いいかな?」

 

「………ぅん。」

 

「よっしゃぁ!……やっぱ文化祭は最高だなぁ…。」

 

 

 

 クライマックス。夜空に最後の一輪が咲き誇るのを、先程までとは違う意味で…潤んだ視界で見上げる私は、まるでこの世界に一人きりになってしまったような孤独感を感じていました。

 隣に、彼が居るはずなのに…それは、酷く遠くて。

 

 

 

 




そろそろ折り返しですね。
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