地の底に星を求めて   作:ヴォイ

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4.正義の剣士、ブラッディ☆レオとお話!

 わりと絶体絶命のピンチに駆けつけ、銃撃で獣を追い払ってくれた、自称正義の剣士。小さく冷たい手が離れ、彼女と改めて対峙する。背丈は僕より頭半分低いくらい、中学生か、高校生か。青みがかった黒髪は短くまとめられ、活動的な印象だ。騎士風というのか、王子様っぽいというのか、今は人懐っこい調子でニコニコしているからそんな感じはしないがキリッとした表情をすれば女の子にモテそうだ。益体もないことを考えながら見つめていると不審に思ったのか、少し調子を落として話しかけてくる。

 

「あの、大丈夫? やっぱりキミも正気じゃないのかな? 珍しい、まともな人間かと思ったんだけど」

 

「ああ、ごめんね。自分ではまともなつもりだよ、僕も。助けてくれてありがとう、ええと、ブラッディレオ?」

 

 ボクが答えると、すぐに彼女は色素の薄い瞳を輝かせ、んふーと鼻息を荒くしてまくし立てた。

 

「そう、正義の剣士! ブラッディ・レオ! 助けを呼ぶ声があればどこにでも駆けつけるさ!」

 

 1歩2歩と少し離れ、腰帯に挿していた刀をスラリと抜くとくるりと回して刀身を立て、逆手で懐から銃を取り出しバッと構える。決めポーズなのだろうか、それらしきものをバッと決めた。

 

「おおー」

 

 ポーズ自体はともかく、決めポーズまでの動きは無駄に洗練されており、見る人が見ればカッコいいと思うようなものなのだろう。とりあえず拍手しておいた。

 

「へへっ、ありがとう!」

 

 刀と銃をしまった彼女は再びこちらに歩み寄る。

 

「まあ、一々全部呼ぶのは面倒だからね、レオでいいよ。ところでキミは? 迷い込んで魔獣に襲われてたってわけじゃ、なさそうだけど」

 

「ああ、僕は……」

 

 かいつまんで事情を説明することにした。近くの高校の生徒であることや狼人間について調べていること、獣化した人間や動物たちと戦う力をいつの間にか身につけ、そして先程の獣と戦うことになったことなどだ。

 

「なるほどね、コナタ。キミもまた魔獣を狩る戦士、正義の剣士たるボクの同志というわけだ!」

 

 レオは僕の手を両手で掴むとブンブン大きく上下に振り回した。あまりの勢いにちょっと痛みを覚えるほど。

 

「そう、なるのかな?」

 

「そうとも。悪夢の魔獣を狩るのは尊い業。人々の安寧のために夜を駆けることこそボクらの使命さ!」

 

 謎の使命を勝手に背負わされてしまった。

 

「そもそも、悪夢の魔獣ってのが狼人間のことなのか? 僕は、正直、全然事情がわかってないんだけど……」

 

「むむっ、そうだねえ……」

 

 レオはしばし顎にてをあて悩んだあと、ぽんと手を合わせる。

 

「ひとまず、場所を移そう。長話になりそうだしね」

 

「それは賛成かな」

 

 広いとはいえ室内、そして乾くまでには随分と掛かりそうな血溜まりから漂う芳醇な香り。油断すればすぐにもおかしくなってしまいそうな気分だ。もちろん直接血を浴びるのと比べればなんてことはないのだが。……こんなことを考えないようにするためにも、清潔な場所に移るべきだと、理性は訴えていた。

 

「それじゃ、明るい所に行こう。駅の辺りがいいね!」

 

 彼女はまた僕の手をぎゅっと握ると先導して歩き出した。誰かと手をつないで歩くなんて小さな子供の頃以来ではないだろうか。気恥ずかしくて、振りほどいてやろうかと思ったが、気分良く鼻歌を歌いながら笑顔を浮かべる横顔に水を指すのもなんだと、やめておいた。恩人でもあることだし、好きにしてもらおう。

 

 ……見た目にそぐわないハイパワーで掴まれているので手が痛い。無理に引き離そうとしてもできなかったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「この辺りなら大丈夫そうかな。中心から離れて、現実に近い領域であるほど安全なんだ。それじゃあお話しようじゃないか」

 

 改札を抜けるとレオは駅前のベンチにぴょんと跳ねて座った。ぱしぱしと自分が座った横を叩く。まあ目の前で立っているというのも妙なので大人しく横に座る。するとずいと横に動き距離を詰めてきた。思わず横を見ればはにかむように笑っている。さっきからこの子なんか距離感おかしい、おかしくない? 硬い素材の服のせいで感触はわからないが高めの体温の暖かさと、甘く、芳しい香りが鼻につく。花と血と、混ざったような、死の匂い。

 

 ちょっと離れると少し残念そうに顔を曇らせた。

 

「むぅ、悪夢の中で初めてあったまともな人だから、キミとは仲良くなりたいと思ってるんだけどな」

 

「僕もそう思ってるけど、もうちょっと順序を踏もう。色々教えてくれるんだろ?」

 

 変な子だが、悪い子ではなさそうなので仲良くなりたいのは本音だ。グイグイ来る人は本来苦手なのだがなぜだろう。さっぱりして嫌味がないというか、見た目以上に子供っぽいからだろうか。

 

「そうだった! それじゃあこの悪夢の世界と、魔獣について教えてあげよう。このボクがね!」

 

「お願いします。まず悪夢ってのは? このおかしくなった夜は、夢なのか?」

 

 まさかの夢オチだろうか。こんなに長くリアリティのある夢なんて見たことないのだが。明晰夢とかって奴だろうか。

 

「夢だけど夢じゃないんだ」

 

「?」

 

「ええと、夢と現実が混ざってるっていうか。悪夢の世界っていう現実と重なり合って存在するもう一つの世界、みたいな!」

 

「わかったようなわからないような」

 

「ともかく、凶悪な魔獣、さっき見たようなやつだね。ああいうのが悪夢の世界を作ってる。放っておくと悪夢の世界はどんどん侵食して広がって、いずれは現実の世界を飲み込んでしまう。だからボクらのような正義の戦士が獣を狩らなきゃならないんだ!」

 

 どうも誰かの話の受け売りのような調子だったが、最後のところはぐっと拳を突き出しながら力強く宣言した。そして僕に向けてニッと笑う。白い歯が眩しい。

 

「まあ、それは置いておいて」

 

「置いとかないで! ずっと一人だったから仲間ができるの嬉しいんだよぉ!」

 

「置いておいて」

 

「ひどいっ!?」

 

 叫び、涙目になるレオ。くるくると表情が変わって楽しいが、ずっとそうしているわけにもいかない。

 

「これについてはなにか知ってる?」

 

 ポケットに仕舞っておいた注射器を取り出す。赤黒い血のような液体で満たされたそれを一瞥すると彼女はあっさり答えた。

 

「ああ、それは魔獣の血液だね。たぶんあのでかいやつの血だよ」

 

「……あの化け物の?」

 

 そうと認識した途端に、食欲をそそる香りが漂いだしたように錯覚した。それを振り払うようにケースに戻し、しまう。

 

「そうだよ。獣の血を受け入れれば獣となり、悪夢に飲まれてしまう」

 

「もとに戻す方法とかはないの?」

 

「……ないよ。魔獣になった人は残念だけど、倒すしかないね」

 

「うぅん、じゃあ、この血を現実の世界でばら撒いているのは誰なんだ? そいつがこの、悪夢の世界の元凶なんじゃないかと思っていたんだけど」

 

「それは、ちょっとわからないな。血を受け入れて狂った人、人と獣の中間のような存在は、この悪夢の世界と現実の世界を行き来できるから、ソレだとは思うけど。昔からこの悪夢の世界の力で悪さをしてる悪の組織みたいなのもあるらしいから、そういうのかもしれないし」

 

 人と獣、狂った人間……思えば、最初に殺した獣はそんなような存在だったかもしれない。見た目は人のようで、しかしたしかに獣の貌を持つ。そして狂った彼らを利用する何者か……。

 

「まあ、悪夢の主と呼ばれる大物を倒せば悪夢の世界は壊れてしまうから、悪さをしようったってできなくなるはずさ。だから、とにかくあの魔獣を倒せばいい。ヒーロー的にわかりやすいね!」

 

「思いのほかシンプルな結論」

 

「まあ悪そうな奴らを片っ端から倒せば平和になるよ! これから一緒に頑張ろうね!」

 

 レオはぐっと腕を突き出し、同意を求めてくる。

 

「えぇと、まぁ、うん。よろしくね」

 

 全身に揺蕩うこの熱を思えば、獣が恐ろしいから、関わることをやめるという選択肢はそもそもない。友好的な相手を強いて跳ね除ける理由もない。正直どうかと思うが、僕はこの正義の剣士を名乗る少女の仲間になることになってしまったのだ。

 

「それじゃキミのヒーローネームを考えようか。どんなのがいいかな? ボクのと並べていい感じになって、なによりカッコいいのがいいよね!」

 

 ニッコニコでされた提案。まず考えるべきはそこなのかよ。

 

「いや、そういうのは、いいかな」

 

 苦笑いで答える。普通に恥ずかしいし、ヒーローに憧れるなんて、もう思い出せないほど過去の話だ。

 

「むぅ、名前は大事なんだけど……まぁいいや。まだ戦闘スタイルとかも定まってなさそうだしね」

 

 まずはその格好をなんとかしないと、と彼女は一夜にしてズタボロになった僕の制服を見ながら呟いた。そっと僕の膝の上に手をかざすと指の先から血が1滴、傷もないのにツゥと流れる。そして宙に舞ったかと思うと、血の雫は解けるように光の帯に姿を変えた。その血の色の鮮やかな、淡い真紅の粒子が僕の体、破けた制服にまとわりついていったかと思うと、瞬く間に修復されていた。

 

「えっ」

 

「どう?」

 

 ふふーん、と胸を張る少女。犬に噛みつかれたスラックスや、巨獣の爪が掠った部分なんかは本当に襤褸切れのようになっていたのだが、今ではまるで新品のようだ。

 

「……すごいね。ありがとう」

 

 何が何だか分からないが、彼女が好意でやってくれたのは間違いないだろう。

 

「ま、まぁキミもすぐできるようになるよ。血のチカラの扱いはもうある程度できているようだしね」

 

「血の力?」

 

「そう、ボクら悪夢を狩る戦士にとって基本にして奥義。血に宿る力を操る術さ」

 

 広げた指の先から赤い光を零しながら、彼女はドヤ顔で胸を張った。

 

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