機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再   作:グランクラン

10 / 56
いよいよタービンズ編開始です。ここ数日風邪を引いていて全く執筆が出来ない状態が続いていたのですが、何とか仕上げました。


タービンズ編
成長の証


 鉄華団が火星圏から離脱した後、マクギリスは追撃は不可能という判断を素早く下した。

 すると包帯で傷を塞いでいる体の上からジャケット一枚をかけているだけという格好でガエリオがブリッジに現れた。

「無理せず休んでいろガエリオ」

「かすり傷だといっただろう。今度こそあのクソガキを……」

「追撃はしない」

 その言葉にガエリオは驚きの声と視線を隣のマクギリスへと向けるもマクギリスは涼しい表情をしている。

「落ち着けよ。コーラルが死んだおかげで仕事が山積みだ。すぐには動けない。連中から届いた荷物からクーデリア・藍那・バーンスタインが乗っていると確認できた。となればいずれ地球航路に乗るだろう。再会の機会はあるさ」

 届いた荷物とは「トド」の事である。

 ガエリオはどこか納得がいかないというような表情をするが、ここはマクギリスが正しいと引き下がるしかない。それに彼の言う通り地球へ向かうのならいずれは相手になることになるのは事実だった。

 そんな中、ガエリオはマクギリスが調べたバルバトスに関する報告を挙げた。

「ガンダム・フレームだと?」

「厄祭戦末期に活躍したガンダムの名を冠された72体の内の1つ。個体名はバルバトス。ちなみに同時刻より少し前に大気圏内に三機ほど確認したが、うち一機はギャラルホルンのデータベースに書かれていなかった」

「そいつらがそうだという確信はあるのか?そんな昔の機体」

「間違いない。エイハブウェーブのパターンを確認している。あれは専用設計のエイハブリアクター二基を搭載しているのがその特徴だからな。他三機も同じような形をしていた」

「そんな大昔のモビルスーツに苦戦させられたとはな」

「機体性能というよりは乗り手の問題かもしれん」

 ガエリオが素早く反応し、顔を挙げるとマクギリスは「気にするな」と返す。

「『阿頼耶識システム』はそもそも厄祭戦時にモビルスーツの能力を最大限に引き出すために開発された技術らしいからな」

 

「あれが阿頼耶識………か」

 俺は火星の中に存在しているフォートレスの隠れ家から少し移動した所に祖母ちゃんの農場が存在している。

 現在は桜農場はフォートレスの隠れ家から半分防衛と監視目的で機能しており、俺は桜農場を遠くから眺めており、家の中ではクッキーとクラッカが医療班から治療を受けている。

 俺は阿頼耶識システムと言う物を本格的に見た。

 短期間であれだけの戦闘が出来るのだから、俺達が使っている脳波式阿頼耶識とは全く違う。しかし、あの指揮官機がしてやられた理由は彼が単純に頭に血が上っていた事も理由だし、ガンダムの性能が高いのも理由だったからだ」

「正解。そう、いくら古ぼけた機体で、長年管理が行き届いていなくてもそれでも最新鋭機を超える性能を見せるのがガンダムよ」

 ソニアが俺の方へと近づいてきて、俺が持っている指令書をくれと手を伸ばす。俺がそれをわたすと同時にクッキーとクラッカがドアから姿を現し、こちらの様子を見てくる。

 どうしたらいい物かどうかと表情を作るのも難しい。

 するとその奥から祖母ちゃんがしかめっ面で現れた。

「少しぐらいこの子達と遊んであげてくれないかい?まさかとは思うけどもう行くからなんて言って逃げないよね?」

 俺もそう言うと逃げずらい。どうしたものかと悩んでいると知った声が聞えてきたので俺の視線はそちらの方へと向いた。

「相手にしてやったらどうだ?どうせ次の任務用の情報が来るまで暇だろう?」

 マハラジャ・ダースリンこと俺の容姿上の父親が笑いながら現れた。

 面白おかしそうに現れたこの人、どうも俺の仕事中には既にこの地にいたらしい。

「アンタ……どこに隠れていたんだ!?」

「勘違いをするなよ。今来たんだ。近くまで隠れ家が来ている」

 クッキーとクラッカはやって来た親父相手に今度は興味が移動していしまったらしく、俺はどう説明したらいい物かどうかと悩んでいると、親父は二人の前にやってきて、お菓子の入った箱を二人分手渡す。

「怖い思いをしただろう?我慢して耐えた子にはこのお菓子をプレゼントだ」

「「ありがとう」」

 嬉しそうにお菓子を受け取ると、二人はそのお菓子の箱を開けてしまう。中には色とりどりの袋に入れられた様々なお菓子が詰められている。

 クッキーやビスケット、キャンディーなど本当に様々だ。

「オジサン誰?」

「私は君達のお兄さん………そこにいる子のお父さんだ。義理のな」

 義理でもこの人は俺の父親なのだ。こんな人でも。

 なんてしていると俺の方を見るクッキーとクラッカは親父に尋ねる。

「お父さん?」

「お父さんてこと?」

「そう言う事だな………」

 なんて言うと二人は親父の周りではしゃぎ回っていて、俺は親父と遊んでいる姿を見ていると、俺は不意に空に視線を向けてしまう。

 今頃タービンズを接触している頃のなのかな?

 なんて黄昏ているとクラッカが俺の服の裾を強くつかんで引っ張る。

「一緒に遊ぼ!」

 俺は「いいよ」と言いながら一緒に遊びに行った。

 

 鉄華団は無事逃げ切るれたことを確認するとブリッジにいる全員が息を吐き出し安心する。格納庫ではモビルスーツの修理に悪戦苦闘しており、特に情報の少ないバルバトスの苦戦具合は酷い物だった。すると、コックピットの中の座席の隙間に奇妙な一枚の紙きれを発見した。

 中にはバルバトスに使える簡単な修理方法が書かれており、格納庫はその情報を信用する形で修理が始まった。

 ブリッジではクーデリアの秘書であるフミタンが通信オペレーターを引き受けている姿を見届けると、同時にオルガたちは三日月が持ってきたある人物への接触地点へと急いでいた。

 クーデリアは落ち込みながらも廊下に出ていく当てもなく歩いていると正面から三日月とアトラが姿を現した。

 三日月がすれ違いざまに「何してんの?」と尋ねるので先ほどまで経緯を簡単に話した。

「今後の方針について団長さん達と話し合ってきました。あなたはどうして参加しなかったのですか?」

「いや別に。俺難しいこと苦手だし、聞いてもよく分かんないから」

 なんて言ってすれ違うと、アトラと三日月が同じ鞄を担いでいる事に気が付いたクーデリアはふと「それは?」と尋ねると三日月は「弁当だよ」とだけ答えた。

「作業中の人達に届けているんです」

 そんな言葉を聞いてクーデリアは咄嗟に「私も!」と答えた。

「私もお手伝いしてもいいでしょうか?」

 三日月は「は?」と威圧したような声を出してしまう。

 しかし、めげずにクーデリアは付いてきて一緒に手伝いをし始める。倉庫やトレーニングルームなど順番に弁当を届けていくと、エレベーターで先ほどの内容を詳細に伝えると三日月はまるで興味が無いような声を発する。

「興味が無いのですか?大事な事ですよ」

「別に。オルガがちゃんとしてくれるだろ。大体俺あんたがなんで地球へ行くのかもよく分かって無いし」

「えっ!?私達地球へ行くの!?」

 今まで行き先を聞く暇が無かったアトラは驚きと共に三日月の方を見ると、三日月は「言ってなかったけ?」と答えた。

「でも、どうしよう。おしゃれな服とか持ってないのに……」

「そのまんまでいいんじゃないか?」

「だって地球に行くんでしょ?田舎者だって思われないかなぁ?」

 二人が少々的外れな事を言い合っていると、クーデリアは自分が地球へ行く目的を話し出す。

「私が地球へ行くのは火星の人々の自由な暮らしを勝ち取る為です。厄祭戦によって地球の国家群が四つの経済圏に統合されたのは知っていますよね?」

 三日月は当然のように「知らない」と答える。

「あっそうですか……。それを受けて火星・木星などの圏外圏でもそれぞれの経済圏により分割統治が積極的に進められていきました。クリュセ自治区は経済圏の1つ、アーブラウの支配下に入ったのですが、開拓時代に結ばれた不利な惑星間経済協定の名目の下、長年の不当な摂取に晒されてきたのです。この状況を改善する為に私は地球のアーブラウ政府と交渉を続けてきました。そして、先日アーブラウ代表である蒔苗東護ノ介氏が対話のテーブルに着くことを初めて了承して下さったのです。私の目的は火星の経済的独立を勝ち取ること。それが全ての火星の人々の幸せに繋がっているものと信じています」

 長いな橋を聞き終えるとアトラが拍手をしながら「すごい」と褒め称える。すると三日月は「ふ~ん」と口を開く。

「じゃああんたが俺達を幸せにしてくれるんだ?」

「……ええ。そのつもりです」

 その後も格納庫で弁当を配っていると三日月と雪之丞の話を立ち聞きしてしまったクーデリアは三日月が文字の読み書きが出来ないことを知ってしまう。

「三日月。あなた字が読めないの?だってこんな複雑そうな機械を動かしているのに?」

「字読んで動かすわけじゃないからね。モビルワーカーと大体一緒だし。あとは……勘?ていうか、モビルスーツをマニュアルとかいうのでちゃんと動かしているのってビスケットぐらいじゃない?」

 雪之丞が黙って同意してくれるので、クーデリアは次に気になったことを尋ねる。

「あの……学校とかには?」

「行ってないよ。行ったことある奴の方が少ないんじゃないかな」

 と三日月は雪之丞に同意を求めると、雪之丞は周囲を見回す。

「まあ生きていくだけで精一杯だった奴もここには多いからなぁ。ましな施設にいた奴はいくらか教わったこともあるようだがな」

 なんて話をしていると弁当を配り終えたアトラが近づいて来て「配り終えたよ」と声をかけてきた。

「アトラは字読めるんだっけ?」

「うん。おばさんに習ったから」

 クーデリアは「もしよかったら」と三日月に声をかける。

「読み書きの勉強をしませんか?私が教えますから。読み書きができればきっとこの先役に立ちます。本を読んだり手紙や文章を書くことで自分の世界を広げる事もできます」

 そんな話を聞くと三日月は「そっか。色々な本とか読めるようになるんだよな」と呟く。

「ええ!そうですよ!」

 やる気を出そうとしている三日月の話を聞いていた子供達も同じようにやる気を見せ始める。

「ええ。私でよければみんなでお勉強をしましょう」

 三日月はバルバトスの方を見ると一瞬だがバルバトスの姿がアガレスへと変貌したように見えた。

 アトラが心配して声をかけてくる。

「大丈夫?顔色悪いけど」

「大丈夫……」

 あれ以降三日月はある不安に襲われるようになった。

 

 アガレスの戦闘を間近で見ると何度も三日月は思う、「俺はあれに勝てるのだろうか」と想像し、何度も冷汗をかいては現実に引き戻される。

 三日月は何度も何度も同じようにシュミレーションしていたからだ。

 アガレスと戦闘することを前提にシュミレーションすると細かい違いはあれど基本は同じ結果。

 一方的に殺されて終わる。

 惨殺や打撃による殺害方法など様々であるが三日月が勝てるという方法が見つからなかった。

 いつだって最大限の整備を続けてきて、操縦にも慣れ親しみ、自分なんかよりよっぽど訓練や実践を積んできた人間に勝てる方がおかしいのだ。

 三日月は焦り以上の感情を抱いていた。

 劣等感。自分がオルガや仲間達を守れるだろうか?守り切れても自分は無事でいられるのか?あんな奴がもっともっとこの世界には溢れているのでは?

 そんな疑問は新しい焦りに変わろうとしていた。

 心の奥にいつだって喉元まで伸びるような死神の鎌を感じ、次戦えばいつだってアガレスの存在を感じて戦う事だろう。

 勉強をしていてもやはり感じるアガレスの存在感。

 三日月は見ていたのだから、アガレスと互角に戦う敵モビルスーツの存在を。その行く末を。

 戦いに負ければ死ぬのだという事を改めて三日月は知ることになったが、なぜだろうっと感じていた。いままで死を感じたことは何度もあっても、あの男の死を遠くから見たとき、三日月は不思議と恐怖を感じていた。

 まるであの男からの『死ぬとはこのことだぞ」と告げられているようだった。

 死を直視したのはあれが初めてではない。しかし、どれだけ強い人間でも『死』は訪れるのだと、そしてそれは次は自分かもしれないという現実を告げた。

 三日月から見れば目の前で戦っていた戦いは自分がしたことも無い『互角の戦い』だたからだろう。

 どちらもが死を感じながら戦い、喉元に届く死神の鎌をお互いが斬り合う。喉元をいつだって鎌が通り過ぎる感覚。

 三日月はいつだって感じていたはずなのに、今更になってそれが怖く感じた。

 いや、本当は分かっている。それは三日月にとって真の意味での『強者』だったのだろう。そして、強者同士の殺し合い。

 どんな強い人間でも死ぬのだと。

 三日月はイサリビ中に響き渡る警報を前に戦いを起きるのだと判断し素早くバルバトスの元へと向かう。

 サブレが告げた試練とでもいうべき時が来た。

 パイロットルームで着替えていると、ビスケットと昭弘もやってきてビスケットが早口で告げた。

「相手からのテイワズを紹介する条件。敵艦を制圧することだって。方法は破壊しない事が条件らしいけど……オルガと俺で作戦があるからとりあえず聞いてほしい」

 そんな言葉と共に三日月と昭弘は着替えながらビスケットの話を聞き、同時に自分のやるべきことをきっちりと把握する。

 全てを聞き終えると三日月、昭弘、ビスケットの順でモビルスーツのコックピットへと姿を消す。

 操縦桿を握ろうとすると途端目の前にアガレスがいるような錯覚をを一瞬だけ見えてしまう。

 しかし、戦いが始まったと脳を切り替え、素早く操縦桿を握りしめる。

 三日月は気が付いていない。

 彼がその恐れを抱いてしまったのは彼が成長した証なのだという事に、それに気が付くのはまだ先の話だった。

 

 俺は親父や二人の妹達と共に農場の裏手に作った手作りの倉庫の中に鎮座しているアガレスへと近づいていた。

 黒い装甲の上からハーフメタルのマントを背負って隠してあり、エイハブリアクターに繋がっているケーブルは外へと向かって伸びている。

「これがお兄ちゃんの機体?」

「そうだぞ。お兄ちゃんの機体だ。そうだ。良い事を教えよう。機体にこだわらず塗られている色。実はな白に近づくと安くなっていき、黒に近づいていくと高くなるんだ」

 そんな事を教えてどうするんだ?

 しかし、二人は初めて教えてくれるお話を前にワクワクしながら聞いているらしく、俺は親父が余計な事を離すのではないかとハラハラする時間を過ごしていた。

 俺はふと空を眺める。

 今頃戦いが始まって来る頃かな?

「そうだ。今日は焼肉にするか?」

「「焼肉!?やった!」」

 兄さんが聞いたら涙を流しそうな話ですね。

 なんて思いながらも久しぶりに妹達と食事ができるワクワク感が生まれていた。

 まあ、三日月・オーガスなら何とかするだろう。

 成長途中のあの少年ならいざとなれば何とか乗り越えるだろう。

 そう思うと俺は親父が進める焼肉の準備を手伝う事にした。




タービンズとの戦いが本格的に始まる少し前、タービンズの面々はそれぞれの時間を過ごしながらその時を待っていた。戦いが始まると知略と勇敢がぶつかり合う戦場で名瀬は鉄華団の真価を見届けようとしていた。
次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再第十話『いさなとり』

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。