機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再 作:グランクラン
狭いコックピットの中で足の爪にネイルを塗るツインテールの女性『ラフタ』、足のネイルの完成度に満足しながら『イサリビ』の画像を見ながら楽しみにしていた。
「にしても早く食べたいな~あれ………茹でたエビみたいですっごく美味しそう~」
時を同じくし名瀬はハンマーヘッドと呼ばれる戦艦のブリッジの艦長席に座りながら相手の出方を見ていた。
イサリビは真後ろに付けているハンマーヘッドへと回頭し速度を変えずに一定の距離を保っている。
アミダと呼ばれている褐色肌の姉御肌の女性がイサリビの行動を画面越しに確認している間にアジーと呼ばれる女性が出撃していった。
「教科書通り速度は殺さず艦首だけをうちに向けてきたか。まずは合格点だよ。アミダ・アルカ百錬出るよ!」
百錬と呼ばれるテイワズ性のモビルスーツはギャラルホルン製のグレイズとは全く違う姿形をしており、アジー機は青、アミダ機は赤に塗り分けられている。
対して三日月のバルバトスはリアクターが調整不足なうえ、各モーターにも変な負荷がかかっており、正直全開で戦える状況では無かった。
先行した昭弘と合流した三日月と違い、ビスケットは引き続きカタパルトデッキで待機状態にあった。
長距離砲を装備したバルバトスは照準を敵モビルスーツへと向け、対峙の時を今か今かと待ちわびていた。
「躾の時間だよ。坊や達!」
ビスケットは不安が無いといえば嘘になる。しかし、文句を言ってもオルガの言葉や性格が変わるわけでも無いし、出来る事なら危険な事はしたくないし、でもそれが正しいのかと言えば頷くこともできない。
時にオルガの言葉が正しくなる時だってある。
故にビスケットはどうしようもなく不安だった。
オルガが生き急いでいるように見えたからだ。
文句を言いたいし、でも今はそれを言っている場合ではないという気持ちでカタパルトデッキで待機しているとユージンの焦りに似た声が聞えてきた。
「ちっとは回避出来ねぇのか!」
そんな声にビスケットはユージンの声を上回る声を響かせる。
「下手に舵を切れば距離を詰められて対艦ナパーム弾の射程に捕まる!」
そんな声と同時に正面に近づくナパーム弾をビスケットのグレイズが落とす。ブリッジの正面にナパーム弾の爆発が見て取れ、艦長席で阿頼耶識を使った操縦方法を取っているユージンにもそれがはっきりと見えた。
「あれを続けてもらえばナノラミネートアーマーでも溶解するんだ。今は迎撃可能距離を維持して!」
ビスケットはスナイパーライフルの照準を敵艦の砲台へと向け引き金を引く。
同じときハンマーヘッドのブリッジでは様々な女性が役割に分かれており、一人が「敵艦進路維持」と告げると誰かが「意外と肝は据わってるんだ」と感心している。
「長引きそうなのか?ならラフタに出てきてもらったらどうだ?」
なんて声を聴くとラフタと呼ばれた先ほどのツインテールの女性は「まだ爪乾いてなかったのにぃ」と不満げにしている。
そんなときだったハンマーヘッドが大きく揺れ、同時に右砲台に損傷を受けたというアラートが響き渡る。
「なんだ!?どこからの攻撃だ!?」
名瀬の焦り声から一秒も掛からず一人の女性がイサリビのカタパルトデッキでスナイパーライフルを構えるグレイズが映される。
ほぼ全員が驚きと共に目を大きく開くほどの衝撃を受けていた。そんな中ラフタが静かにやる気を出していた。
アミダは内心感心を覚えていた。
それは勿論目の前で戦う二機のモビルスーツ、バルバトスとグレイズのパイロットもそうだが、カタパルトデッキで移動し揺れる戦艦から小さな標的を撃ち抜いたもう一機のモビルスーツのパイロットにも言えたことだ。
「やるじゃないか。弾道と艦の揺れと相手艦の移動の予測を頭の中で計算しなきゃ長距離狙撃で砲台を狙えないからね。あれじゃラフタでも狙われるかもね」
手伝いに行きたいところだが、そう簡単にはいかない。
しかし、そんな中ラフタの乗る可変機構を取り入れたモビルスーツが艦へとまっすぐ向かっていた。
ビスケットのスナイパーライフルの攻撃をうまいこと回避しながら接近するラフタ、しかしその回避にも素早く適応して見せたビスケットは敵の動きについていた。
ラフタの機体が大きく揺れ止まりそうな機体の速度をあえて挙げる。
「やるじゃん。でも………これなら!」
ラフタの機体は大きく旋回し、横合いから艦からはみ出ているビスケットのグレイズへと突撃をかます。
ビスケットの機体はラフタの機体に捕まったまま艦から離れていく。
ユージンのビスケットを呼ぶ声がビスケットの元へと届いた。
「ユージンは作戦通りに!!」
コクピット内のビスケットは体中にかかるGに耐えているが、このままでは意識が持っていかれそうになる。
それを見ていた三日月の脳裏にアガレスの陰が重なる。死神の鎌を持ち、自らの喉元に当ててくるような気配が三日月を突き動かす。
「昭弘ここは任せる。ビスケットと交代してくる」
「ああ……任せろ!」
力強い声を聴くと三日月はどこか死神の鎌を意識しないで済んだ。
捕まっているビスケットのグレイズとラフタのモビルスーツの間に砲弾を当て引き離すとビスケットだけを回収する。
「ビスケットは昭弘の援護に。あいつは俺がやる」
昭弘が二機の百錬に囲まれながら奮闘しており、ビスケットは三日月に戦場を任せながら昭弘の援護に向かった。
クーデリアはノーマルスーツに着替えようと奮闘したが、うまく着替えられずにいた。
「いつもは……フミタンに手伝ってもらっていたから……」
なんて愚痴を漏らしながら着替えているとジャガイモを大量に抱えたアトラが現れクーデリアの名前を呼びながら覗き込む。
「えっ!?ア……アトラさん…ってそれは?」
アトラはクーデリアの姿を見て少しだけ笑うと着替えを手伝う為ヘルメットにじゃがいもを詰め込む。
クーデリアにノーマルスールの着替え方を教えているとようやくの想いで着る事が出来たクーデリア。そんなクーデリアにアトラは「じゃあ行きましょうか」なんて言うと自らの言葉に失言を感じてしまう。
「やっぱり私はブリッジに入ったらだめですよね」
するとクーデリアが呆然とアトラの方を見ながら自分がすべきことを見出す。
(落ち込んでいてもなんにもならない。鉄華団の戦いを見届ける。それが今の私にできる事)
「いえ一緒に行きましょ」
「えっ?え……ええ~!?」
ラフタと三日月の戦い。
ラフタの機体に遠距離から当てた所でラフタの狙いは三日月へと変わっていた。
「くっ……生意気」
しかし、ラフタの機体の速さに三日月の機体が付いていけていない。
「くっそ!速い!」
「推進力が違うっての」
周囲を旋回されながら三日月のバルバトスは完全にラフタの的になっていた。
シノ達は敵艦に乗り込むための準備へと入っていた。
数機のモビルワーカーが最終調整に入っており、シノが覗き込むと中で最後の調整を終えたヤマギと言う名の中性的な少年を呼ぶ。
「ようヤマギ!準備はどうだ?」
「今終わったところだよ」
「そっか。いっつも悪ぃな」
差し出すてとシノの笑顔を見ながらヤマギは不思議な感覚に襲われそのまま外へと出ていった。
シノが乗り込む中ミカのバルバトスは苦戦していた。
アトラとクーデリアがブリッジに上がると丁度三日月のバルバトスがアンカーをラフタの機体に付けている場面に遭遇した。
アンカーを振り外そうと加速するラフタだが、死んででも離すつもりの無い三日月は体にかかるGに耐えていた。
結果から見れば三日月はラフタをイサリビから引き離すことに成功した。
ユージンはハンマーヘッドへ向けてミサイルを射出し、ハンマーヘッドはそれを見事に迎撃するが、その瞬間に視界を塞ぐほどのスモッグが覆う。
「ただの目くらましか。それとも……」
「エイハブ・リアクターの反応増大!」
「これまさか近づいてきてるの!?」
その言葉は正しく、名瀬の目が大きく開かれるとスモッグの奥からイサリビが近づいてきていた。
ギリギリの所でうまく艦を動かしながらすれ違い、同時に離れていく。
「あとは任せたぞてめぇら!」
イサリビは素早くその場から離脱する。
「度胸は認めてやるがお前らはやっぱり未熟なガキなん……何が起こった!?」
大きく揺れるハンマーヘッドで名瀬の声に反応した女性がカーゴブロックでの爆発を告げた。
同時に監視カメラが侵入者を映し出した。
「さっきのニアミス時に飛び移ったってのか?艦の速度を考えろよ。体がミンチになるだろ」と呟いたところでサブレがひそかに告げた言葉を思い出した。
(そうか……あいつらは阿頼耶識があるんだったな。たく………)
同時に引き離されていると気が付いたアミダとアジーだったが、昭弘とビスケットの手によって引き離されていた。
アジーはビスケットと戦いながら、アミダは昭弘と戦っていた。
昭弘はアミダに食らい付こうとするが、アミダは昭弘の攻撃を素早くさばいて見せる。それに負けじと昭弘はグレイズでアミダの百錬の頭部を思いっきり殴りつける。
アミダは右足でグレイズの頭部へと攻撃を与える。
「思いっ切りが良くなったね!」
昭弘は肩に装備した砲台を至近距離で攻撃しようとするが、アミダはそれを素早く回避して砲台を斬りつける。
しかし、ビスケットとアジー戦は予想外の局面を見ていた。
ビスケットはアジーの百錬に向けてショートアックスを投げつける。
「武器を投げて………一体何のつもりで!?」
ショットアックスを右手で弾くと塞がっていた視界が大きく広がり、同時に視界いっぱいにビスケットのグレイズが迫っていた。
ビスケットがサブレからもらったマニュアルに書かれていた戦術の1つ。
あえて武器を敵の視界目掛けて投げることで視界を塞ぎつつ接近を気づかせにくくさせ、同時に接近すると同時に武器も回収し至近距離で攻撃する。
ビスケットは敵のコックピット目掛けて武器を振り下ろす。しかし、アジーはそれを左腕で受け何とか回避し、同時に距離を開けようとする。
「逃がさない!」
ビスケットはアジーの百錬にタックルを決め今度は右腕をショートアックスで切り落とす。
アミダは昭弘のグレイズを殴りつけていた。
「脳みそまで筋肉で出来ていそうな戦い方じゃないか。いいねそういうのはさ!」
アミダは剣で昭弘のコックピットへと攻撃しようとするがそれを制止する声によってコックピット目前で動きを止めた。
「待ってください!この機体のパイロットがどうなってもいいんですか!?」
ビスケットはアジーの後ろに隠れながらコックピットにショートアックスを構える。
「すいません。姐さん」
二人が睨み合う中、三日月とラフタの戦いも終局へと向かおうとしていた。
振り回されながらも絶対に離さない三日月。。
「そっちは慣性制御が追いついていないんでしょ?早く放さないと苦しいだけだよ」
「放したらあんたはイサリビを沈めにいくんだろ?」
「戦いってそういう事でしょ?」
「オルガの邪魔はさせない」
「邪魔をしているのはあんたの方だろ!」
バルバトスを小惑星にぶつけたラフタは勝利を確信してその場から離脱しようとする。
「バイバイ少年。楽しかったよ」
離れていこうと速度を上げるとラフタは強く引っ張られる力の存在に気が付いた。三日月の「捕まえた」という声と同時に砂煙の中からバルバトスがメイスを小惑星に打ち付け、ワイヤーを片手で引っ張るバルバトス。
思いっきり引っ張られたラフタの機体は強く小惑星に叩きつけられる。
「そろそろ消えろ」
とどめを刺そうとする三日月に対しラフタも「なめんな~!」と叫びなら隠していた腕が姿を現す。
突き刺そうとするメイスを隠していた腕で軌道を逸らし、バルバトスとラフタの機体の頭部の距離が数メートルまで接近する。
「往生際が悪いね」
「あんたこそしつこい男は嫌われちゃうよ」
「んじゃそろそろ終わりにしようか……」
大きく目を開き、三日月は殺意に満ち溢れメイスを抜こうとするが三日月にオルガの「もういい」という声が聞えてきた。
「手間かけさせたなアミダ。戻ってきてくれ。こいつらの勝ちだ」
「ビスケットも戻ってきてくれ」
ビスケットはコックピットの中で大きく息を吐き出し、昭弘は汗まみれになりながらも小さく「終わったのか?」と呟く。
しかし、ラフタは不満げでヘルメットを取り外す。
「最高に盛り上がっていたのに。ああっもう!一体何なの!?」
三日月も息を大きく吐き出しながら疲れを感じさせていた。
クッキーとクラッカの二人を寝かしつけたマハラジャは二階の廊下の窓から見えるアガレスの方へと視線を向けた。
コックピットではサブレがイーガの戦闘データとシュミレーションを行っており、一対一でも勝てるようにと念入りな特訓をしている。
「サブレを育ててくれたんだってね?」
桜がマハラジャの前へと立って見上げる形になるが、マハラジャはあえてそちらへは視線を向けない。
「俺は子供は好きだしな。あの子達の学費は俺が出そう。サブレの妹なら俺の子も同然だ。あれぐらい素直な子が一番育てがいがある。サブレも俺の娘もどうも反抗期が速くてな」
「あの子はいつもうああなのか?」
あの子がサブレを指すのだという事ぐらいはお互いハッキリわかっていた。
「成長速度で言えばあいつは他に追随を許さないほどだ。それに、自分が未熟なあまりにあいつは後輩を失ったことを忘れていない。それが今のあいつの行動原理になっている」
コックピットからサブレが出てくると汗をタオルで拭き飲み物で口内を潤しながら息を整える。
再びコックピットの中へと入っていき再びシュミレーションを開始する。
「死神。あいつと戦った誰かが言った言葉。黒い巨体に見た者が死ぬとさえ噂されるほどの強さ。裏社会であいつを知らない者はいない。逆を言うとギャラルホルンではあいつを知らないものの方が多い。あいつとアガレスはギャラルホルンにとって『銀の弾丸』なのさ」
一撃で殺すことが出来るほどの危険な存在。その存在を隠しながらもう少しすればギャラルホルン相手に戦ってもらおうとしていた。
「もう少しすればまた出ていく。あの子達に危険が迫らないようにこの辺に警護用の組織を置いておく、当分は農作業にでも使ってやってくれ」
すっかり夜も深まっていく。
アガレスを月明りが明るく照らし、サブレが再び姿を現していた。
テイワズへと向かう中オルガたちは名瀬たちと話し合う機会を得る。そんな中ビスケットは弟であるサブレの話を密かに名瀬達から聞く。疲れた彼らに休息が訪れる中、ビスケットはサブレの意味なとその理由を知る。
次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再第十一話『死神の片割れ』