機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再 作:グランクラン
明日からの手紙
三日月をテイワズ本拠地歳星に残し、鉄華団は進路を地球へと向けて動き出していた。
アトラはクーデリアと三日月の後ろ姿を想像しながらため息を、ビスケット達は火星からのメールを確認したりしている。
ビスケットは鉄華団所属であるタカキという金髪の少年と共にお互いに妹のメールを見ていると、クッキーとクラッカの背後で小さなハロが飛び回っているのが分かった。
二人が言うにはこのハロは『サブレ』からのプレゼントらしく、本人は既にここを経ったらしい。
やる気を見せるタカキとビスケット、家族のために頑張ろうという声を一人聞いていた昭弘は一人家族の事を思い出していた。
クーデリアの下にも家族からメールが届くが、「帰ってこい」というメールにクーデリアは嬉しくない表情を浮かべ、巻き込んだとフミタンに謝る。
しかし、クーデリアから言葉を受ける最中、フミタンの表情は決して晴れない。
彼女の心にサブレの言葉が深く突き刺さっていた。
名瀬達とブリッジに呼び出されたオルガ、ビスケット、ユージンの三人は改めてこれからの航路の説明を受けていた。
「エイハブリアクターを動力に使用する以上無線の類は一切使えねぇ。唯一の目印はこのアリアドネだけだ」
そう言いながら床モニターを靴で叩くと『アリアドネ』と書かれた文字が表示される。
「とはいえこいつはギャラルホルンの管理下にある。道標として利用しつついかに監視の目を掻い潜って航路を組み立てるかが腕の見せ所ってわけだ。まっこっちはそいつが本業だからな、お前らは俺の指示する通りに舵を切ってりゃあそれでいい」
なんて言うと名瀬の右隣に立っていたアミダが「問題は同業者の方だね」と言うと、ビスケットが「同業者?」と尋ねる。
「アリアドネを回避する航路はギャラルホルンには有効だけど、そこを通る船を専門に狙う海賊まがいの連中がいるのさ」
なんて説明していると名瀬はオルガの肩を叩きながら「お目付け役で一人乗せる」と言い出して一人の女性を紹介し始めた。
オルガは使用されていないと不満げな態度を見せるが、名瀬はうまくかわしながら女性前に出す。
「初めまして。メリビット・ステープルトンです」
金髪のカールのかかったスーツ姿の女性が目の前にいた。
オルガがメリビット相手に強がりを見せる間、鉄華団のメンバーはメリビット相手にデレデレするなどそれぞれの対応をしていると、家族からメールで気分が落ち込んでいたクーデリアがアトラに手伝いを申し出る。
そんな中クーデリアはアトラに鉄華団との出会いを尋ねた。
「私が最初にいたのは女の子ばっかりのお店だったんですけど、稼ぎのあるおねえさん達と違って小さかった私は雑用ばっかりで、それもうまくできなくって。毎日毎日失敗してその度に怒られて、いじめられたり、殴られたり、何か失敗すると何日も食事を抜かれて………。どうしてもお腹がすいて眠れなくて、私はお店を抜け出したんだけど………」
怯えてさ迷い歩いていくうち、路上に座り込んだ対面に幼い三日月と出会った。
「見ててもやらないよ」
「私だって働くから」
「子供はどこも雇ってくれないよ。CGSも女は駄目だし」
なんて言うと宣言通り三日月は持っていた食べ物を本当に食べきってしまった。
しかし、アトラはそのまま腹をすかせたまま倒れそうになっており、三日月は店の中入ると女将さんに自分が持っている金を差し出す。
「これしかないや。なんでもいいからこれで食い物売って。あいつ腹減り過ぎて立てないみたいなんだ」
アトラを指さす三日月。
クーデリアはそんな話を聞き入っていると、アトラは「それで……」と語り始めた。
「事情を聴いた女将さんが私を雇ってくえることになって。それから手伝いでCGSにも配達にいくようになって。だから三日月のお陰なんです。私がこうしていられるの」
「そう………大変な思いをなさったのね」
「いえそんな事!三日月達と会ってからはみんな優しくしてくれるし」
「少し羨ましいわアトラさんが、心から信頼できる仲間という家族がいつもそばにいるんですもの、私には両親がいるけれど信頼どころか……父は私の存在を疎んじて命まで奪おうと……」
表情を暗く落とすクーデリアにアトラは「誤解とかじゃないですか?」と励まそうとする。
「でも、クーデリアさんは私達の仲間の………家族の一人ですから!」
そこからアトラは一人想像を肥大化させ、頭の中で三日月ハーレムを想像する。
やる気を出すタカキは哨戒に出ようとしている昭弘に同行を申し出る。
監視の目は多い方が良いと連れて出るタカキは迂闊にも昭弘に家族の話を持ち掛けてしまう。昭弘は「気にするな」と言いながら弟がいたと語りだした。
そんな話を聞いているとタカキは動く光を見つけ出した。
エイハブリアクターの反応を昭弘は感じそちらに視線を動かす。
目の前に迫る丸っこいボディが特徴の『マン・ロディ』が急襲を仕掛ける。
三機のマン・ロディを前に翻弄されるグレイズ、逃げることもできない昭弘は次第に追い詰められていく。
しかし、そんな昭弘の前に三日月が救援のために駆け付ける。
フォートレスが所有する宇宙海陸の三拠点での運用を目的に開発された特別運用母艦。エイハブリアクターとナノラミネートアーマー、エイハブリアクター周りにはハーフメタルが採用されており、固有周波数を隠すための細工もなされている。
対空砲や連装主砲を二基、ミサイルをそろえており、全長はハーフビーク級と同サイズを誇る。陸と海で運用されることが前提で開発を受けており、カタパルトデッキは上方と下方に備え付けられており、陸と海で運用される際は上側のみ使用できる。
単独での大気圏突破機能こそ持っているが、運用の際は非常に繊細な作業を必要としており、三百年前に少数が生産されたが、その扱いの難しさと生産の困難がマイナスイメージとなり少数生産しかされなかったという曰く付きの船である。
サブレ達はその運用母艦でアリアドネの運行ルート間を移動しながら、フォートレス本拠点である『アナグラ』からの連絡を待っているような感じになっている。
ブリッジも安全性を重要視してど真ん中に作られており、モニターが周囲を三百八十度横に広がっていて、運用に際してはAIでのみ運用できるようになっている。
勿論戦闘や細かい作業に際しては人員を要する場合もあるが、サブレ達のように少数が運用する上ではこの艦はメリットしか存在しない。
サブレは寂しいブリッジで艦長席に座りながら各モニターに移されているアリアドネのハッキング状況を正確に記録させ、同時にアナグラに送信している模様を見ているだけだった。
さすがに暇になったサブレはそのままエレベーターから食堂まで移動して行く。
すると食堂ではマハラジャと明楽の母親である絵里・アルトランドがテーブルを挟んでコーヒーを飲んでおり、サブレは冷蔵庫を漁りながら紅茶を探す出す。
しかし冷蔵庫には缶コーヒーしかなく、仕方なしに缶コーヒーを持ち出してそのまま口をつけて飲み始める。
「絵里さんいらしていたんですね」
「ああ、暇だからね。それにマハラジャの偏食に合わせられる人間は少ないからなね」
「失礼なことをいう奴だな」
マハラジャは渋顔を作りながら膝をついて鬱陶しそうにしている。
サブレは缶コーヒーを持ったまま、絵里たちに近づいていきある不満をぶつけた。それというのも明楽が嫌に兄弟を欲するのだと不満げにする。すると、絵里は苦笑いを浮かべながら「あの子はね……」と呟く。
「昔弟のように可愛がっていた親戚の子がいたからでしょうね。その反動で今度はお兄さんが欲しくなったんじゃないかしら」
「?昔と言うと運送業だったか?その頃はパイロットをしていたんだったかな?」
「ええ。夫と一緒にモビルスーツパイロットをしていたんだけどね。ああいう仕事のパイロットは大体その子供もパイロットになるから他の子のように仕事を手伝うようなことも無かったかな。だから、あの子は暇そうにしていてね。そんな中、自分と年の近い二人の兄弟を見付けたって興奮していた時があったかしら」
「その子はどうしたんですか?」
「どうかしら?両親は死んでいるのは確認したけど……生きていれば……まだ十代かしらね」
「待て。その子の両親とお前の関係はなんだ?」
「私の姉がその兄弟の母親なのよ。だから今でもアルトランドの姓を名乗ってくれていると良いけど。いや、生きていてくれるといいかしらね」
サブレは心の中で「アルトランド………か、そう言えば三日月・オーガスがそれっぽい話をしていたような、していなかったような気がする……が」と記憶を探り出す。
しかし、それっぽい話を思い出す前に二人はそれぞれ仕事があるからと部屋から出ていき、サブレは一人展望場へと歩いて移動していた。
天井一面が星空で埋め尽くされているとサブレは昔の事をふと思い出した。
初めてアガレスに乗って哨戒任務に出たときはまだレンチメイスを持っていなかった。刀のような扱いやすい武器を携帯して、近場のデブリ帯を回っていた時の事である。
アガレスを壊すわけにはいかないので、最低限のシールドを装備しながら簡単な性能実験テストをしている最中でもあった。
当時はまだ黒でカラーリングされておらず、ハーフメタルを使ったマントも羽織っていた。
「暇だな~こんな事なら学校の課題でも持ってくれば良かったよ」
一人でぶつぶつ呟きながら足をバタつかせるわけにもいかないので、気持ちと身体を左右に揺すりながら暇であることをアピールする。
まだ幼さが残るサブレ、当時からエージェントとしての教育を受けながら学校にも通っていた。いや、今でも学校には通っており、フォートレスの意向で十八までは学校に通わなければならない決まりがある。
学校の課題でも持ってくれば良かったなんて考えていた時だった。
アガレスのコックピット中にアラート音が響き渡り、左モニター下に複数のエイハブリアクターの反応を見つけ出した。
しかし、それがアガレスとは関係の無い方向へと集団で移動しているのも確認したところで、サブレはその情報を上に報告する。
そんな戦闘情報をジッと見ていると一機のモビルスーツを十機のモビルスーツが追い回しているという構図だと理解できた。
「虐めみたいな状況だよな。なんか………嫌だな」
しかし、勝てるかどうかで言えば正直不安だったが、ソニアが言っていた言葉を思い出したらなんかいける気がした。
「アガレスは全てのモビルスーツで最強のモビルスーツなの。性能で言えば追随できるモビルスーツなんていないわ。まあ、パイロットが高い性能を持っていればだけどね~」
後半の言葉は思い出そうとしないが、サブレは操縦桿を握りしめながら走り出した。
アガレスは戦闘のロディシリーズのコックピットに刀のような武器を差し込む。
残り九機のモビルスーツに囲まれながらもサブレは戦いを挑む気持ちを曲げようとしない。
すると頭をハンマーで叩かれたような痛みが走り、アガレスのモニターに赤い文字で『予測演算モード開始、戦闘データの収集を開始します』と表示された。
外ではアガレスの左目が青く発光し、周囲に不吉な雰囲気を感じ取れた。
「やらなきゃ……やられる。アガレス………やるぞ!」
アガレスは素早く跳躍しモビルスーツの一機に刀を突きさしながらシールドで攻撃を受け止める。次第にアガレスは周囲の機体の動き方を学習していき、サブレの視界に重なるように敵モビルスーツの攻撃予測が仮想ヴィジョンとして映し出される。
アガレスが指し示す勝率が凄まじい速度で上がっていき、その度アガレスを動かす機体の動かし方も変わっていく。素早く、不規則に、デブリや機体を足場に変えていきながらすさまじい速度で動いていく。
その動きは悪魔と言っても変わり映えの無いもので、敵モビルスーツ一人が目の前に迫るアガレスを見ながら「死神」と呟いた。
サブレの左目には神経が集まったように浮き彫りになっており、サブレは痛みより研ぎ澄まされた神経で敵をひたすら殺していく。
気が付けば十機のモビルスーツはサブレの手によって全部倒されており、サブレが大きく息を吐き出したところでやっと頭痛も収まった。
アガレスの秘めたる力。
サブレは未完全ながらその一片を引き出した。
「多分。あの時がそうなんだよな。知らなかったけど」
俺が助けた相手がそうだったのは後日知ったが、あの時は夢中で戦っていたから印象が薄い。
近くの椅子に座りながら休学中の課題をこなす為に近くの椅子に座りタブレットを起動させる。
すると後ろから明楽が話しかけてきた。
「先輩!学校の課題があるんですけど……分かんないから教えてください!」
「代わりにやってくださいじゃないのか?」
「違いますぅ!」
不貞腐れるように頬を膨らませるが、俺は「仕方が無いな」と言いながら隣に座るようにと進める。
教えていくと俺はどうしても気になったことを尋ねた。
「明楽………もし、もしだぞ。もしお兄さんがいたらこうして教えてもらうか?」
「う~ん……うん!憧れる!俺お兄ちゃんがいなかったから!」
俺からすれば兄がいるけど頼るという場面が無かった気がする。むしろ俺がシッカリしなければという意識が強く、甘えることはしなかった。
俺の隣で宿題を聞いてくる明楽を見ると「弟ってこういう奴の事なのかね」と思ってしまう。
思うだけ。
決して口には出さない。
見つかると良いな。お前にとって兄のような存在に。
俺も元通りになれるだろうか。兄と妹と元通りの関係に。
タカキを守りながら戦う昭弘の前に弟昌弘が強襲を掛ける。ヒューマンデブリが家族を持つことを負い目に感じ昭弘にオルガ達は昭弘の為にもブルワーズと戦う決意を固める。しかし、サブレ達はテイワズがブルワーズと戦おうとしているという話を聞いてしまう。そんな中オルガはより一層悪夢を見るようになる。
次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再第十四話『ヒューマンデブリ』