機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再   作:グランクラン

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新年最初の一話となります。少し遅くなりましたがどうぞ!


ヒューマンデブリ

 昭弘達が襲われておりまだバルバトスが現場に入る前、バルバトスに乗っている三日月はクタン参型を操縦しながら雪之丞と共に戦場に一気に近づいた。

 オルガ達がイサリビの横から通り過ぎるバルバトスを目撃し、三日月は昭弘を救出する為にクタン参型を分離させようとする。

「このまま突っ込むね。これのコントロールそっちに返すね」

 雪之丞は焦りを見せ始め突然託された操縦に混乱しながらも無駄な抵抗を試みる。

「ちょっ……待ておい!俺は操縦何て……!?」

 最後に『ぐわっ!』という叫び声を挙げながらどこかへと流れていった。

 そしてマン・ロディの隙間に太刀を突き刺し救出した。

 敵パイロットの一人は死んだ仲間に動揺を隠せず「嘘だろ?」と現実を認識できずにいた。

 モビルスーツを操縦する少年はライフルを連射しながら少しづつ近づいていき、三日月はマン・ロディを盾にする。

 そして蹴ってマン・ロディを相手に返しながら翻す。

 敵パイロットの一人も先行する一人に近づいていき、「落ち着け」と冷静になるように促し、連携で叩こうと提案する。

「昭弘とタカキは一度イサリビに戻って」

 そう言う三日月に昭弘は戦場から離れていくクタン参型を操縦する雪之丞を想うが、三日月は戦場から離れていっている事を良い事に「まあ敵から離れていってるし回収は後でいいでしょ」と返す。

「鬼かよ……」

「三日月さん!また来てる!」

 三日月は敵の方を向きながら「お前も調子よさそうだな」と独り言をつぶやく。

「んじゃ行こうか」

 煙幕の手榴弾を蹴って起爆させ、バルバトスの周囲にスモッグが視界を塞いでいき、三日月は「こういうものもあるのか」と感心している。

「背中ががら空きだぜ!」

 隙だらけに見えるバルバトスの背中にハンマーチョッパーを横なぎで切りかかるが、バルバトスはそれをまるで背中に目が付いているようにきれいに回避する。滑腔砲を取り出しマン・ロディの足元へと着弾させる。

「ぐっ!あいつこの距離で!」

「気を付けろ!あいつも俺達と同じ「阿頼耶識」使いだ!」

 バルバトスが複数のマン・ロディと戦っている間、撤退する昭弘とタカキに別の機体が襲撃を仕掛ける。

「残念。まだ終わりじゃないのよ~!」

 お姉喋りのゴリマッチョの男がマン・ロディにそっくりのツインアイ型のモビルスーツで姿を現す。

 三日月は滑腔砲を背中に当てるが全くダメージが通る気がしない。

「くそ……さっきの奴といい、嫌に堅いな。昭弘達はやらせない」

「ったく、あっちのガキは何してんだ!お前らはしっかり仕事しろよ。こっちの相手は俺がしてやる!」

 ツインアイ型が振り返りバルバトスに襲い掛かってくる。

 ずんぐり体型な見た目と違いグシオンは素早く動き回り、至近距離で放つ攻撃も簡単に回避して見せた。

「このクダル・カデル様とグシオンを舐めるんじゃないよ~!」

 グシオンは背中の両手ハンマーを取り出しバルバトスに叩きつけようとするが、三日月は大きく回避し小惑星に叩きつけられる。

 肝心の昭弘は最初の二機に追撃されながら撤退戦を繰り広げており、敵の攻撃がタカキのモビルワーカーと昭弘のグレイズ改を分断させられ、敵がモビルワーカーを手に入れたパイロットに「昌弘は人質を連れて下がれ!」と指示を出す。

「昭弘……さん………逃げ…て」

「昭弘?」

 昭弘は敵モビルスーツを上手く捌きながらタカキを連れ去ったモビルスーツに食いつき、大きな声で「そいつを返せ!」と叫ぶ姿を「まさか」と言いながら昌弘は呟く。

「おい!てめぇ聞こえてんだろ!さっさと」

「あんた昭弘……兄貴?」

「兄貴?お前……昌弘……?」

 戦場で敵として対面した兄弟。

 完全に場の空気が停止し、ラフタとアジーとビスケットが救援に現場に現れる。

 タカキを連れて撤退しようとする昌弘に対して昭弘は「これは置いていけ……」と必死になる。

 バルバトスとグシオンが接近戦をしているが、バルバトスの太刀では太刀打ちが出来ず、苦戦を強いられていた。

 ラフタが三日月の援護に入るとグシオンの燃費の悪さを理由に撤退していく。

 

 タカキは再生治療器の中で治療中で、メリビットの的確な治療のお陰で何とか大事にならずにおり、名瀬達はブルワーズと一戦を交えようとする中、昭弘はらしくなく落ち込んでいた。

 そんな状況でオルガは「お前の所為じゃない」と励ます。

「お前がタカキの事を自分の所為だって思ってんならそりゃ違うぞありゃあ俺が指示したんだ」

 あまり返事の無い昭弘に対し三日月は「らしくない」と言うと、昭弘は「そうだな」と肯定した。

「らしくねぇんだよ俺は。ヒューマンデブリらしくねぇ」

 オルガは「なんだそりゃ」と心のままに返す。

「弟がな………いたんだ。昌弘っつって、ヒューマンデブリとして俺とは別々に売り飛ばされた。迎えに行くって言っていたのに、いつの間にかどうせもう死んでいると勝手に思い込んでた」

「その弟が?」

「タカキを襲ったモビルスーツに乗ってやがった……、最近楽しかったんだ。お前らと鉄華団を立ち上げて一緒に戦って、仲間の為に……とか言ってよ。姐さんたちにしごかれんのも楽しかった。楽しかったから俺がゴミだって事を忘れてた。ヒューマンデブリが楽しくっていいわけがねぇ。だから罰が当たったんだ」

 なんて言うと三日月は「そっか。俺達の所為で昭弘に罰が当たっちゃったんだ」と告げると昭弘は「そう言うわけじゃなくて」と言いよどむ。

「鉄華団が楽しかったのが原因ってことは団長の俺に責任があるな」

「いや違う。俺が言いてぇのは……」

「責任は全部俺が取ってやるよ。昌弘って弟の事もな。お前の弟は別に望んで俺達の敵に回ったわけじゃねぇんだろ」

「それは……分からねぇ」

 昭弘は自信なくそう答えた。

「どのみちお前の兄弟だってんなら俺達鉄華団の兄弟も同然だ。なあそう思うだろ?お前ら」

 オルガが視線を向ける先に昭弘も視線を向ける。

 そこにはシノやビスケットをはじめに鉄華団のメンバーが揃っていた。ガヤガヤという声に反応したタカキが目を覚ました。

「あの……なんかうるさくて寝てらんないですけど」

 クーデリアやアトラも部屋の中に入ってくると、いっそ医務室が騒がしくなっていく。

 その後オルガは名瀬と二人廊下で話をしていた。

 名瀬はオルガに対し「悪いな」と告げた。

「偉そうなこと言っといて結局海賊なんぞに絡まれてこのざまだ」

「よしてくれ兄貴。道理の分からねぇチンピラが売って来た安い喧嘩だ」

「で……どうする兄弟」

「安い喧嘩だがなめられっぱなしってのも面白くねぇ」

「同感だ。じゃあいっちょ俺達の道理ってやつを教えてやろうじゃねぇか」

 

 サブレは艦内の休憩室でコーヒーを飲みながら対面のソファに座るマハラジャからタブレットを手渡された。

「アイン・ダルトンとクランク・ゼントに関する最終報告?誰それ?」

 全く興味のない人物の記憶はサッサっと消去しているサブレからすれば全く知らない人物である。

「先ほど地球のギャラルホルンに潜入しているうちのスパイから報告が上がった。火星出身者である『アイン・ダルトン』がやって来たとな。それでウチで彼の経歴を調べた。それを見てみろ」

 サブレは手元のタブレットに書かれている記載内容にはクランク・ゼントが火星に赴任した理由として『火星の少年兵の急増』だったらしく、クランク・ゼントとアイン・ダルトンがCGS襲撃騒ぎに際し出撃していたことが書かれていた。

「ああ。あの時の戦いにいたんだ。だったら知らねぇや」

「まあな。それは良いんだ。問題はクランク・ゼントの死の理由だ。確かお前の話では三日月という少年兵は「自ら死を望んでいた」と言っていたな?」

「確かそう言う話だったよ。で?何?」

「その理由だが。彼は自らの手で少年兵に手を掛けることに躊躇いを持っていたようだ。しかし、戦いは避けられない。そして、自分の部下であるアイン・ダルトンにも同じように子供を手にかけてほしくなかった。だから、そうなる前に自分が責任を背負って死ぬ道を選んだ。それが理由だ」

 確かにタブレットにはそう書かれており、三日月から聞いた話とも一致する場面が多い。

「問題はアイン・ダルトンの戦う動機に関してだが、どうやら鉄華団に対する憎しみが大まかな理由であるらしい。それでマクギリス・ファリドとガエリオ・ボードウィンの両名に地球行きを申し出た」

「?火星出身者が地球に言ってもろくな扱いを受けないだろ?それに、クランク・ゼントの意向を踏むのなら復讐しないのが正解じゃないのか?」

「………『闇堕ち』とでも言うのだろうな。自分のしている行動が『クランク・ゼント』の意向にならないと知っていながらも、復讐したいという感情に逆らえない」

「復讐……か。分からないでもないけど。でも……それが何で俺に説明する?」

「問題はアインを連れてきたマクギリスとガエリオの方だな。この両名はクーデリア・藍那・バーンスタインを狙っている可能性が高い。となると地球についてからは最悪ウチが動く可能性が高いという事をまず理解しておけ。今回の依頼はお前が受けているんだ」

「たしか父さんが無理矢理俺に押し付けてきたと把握していますが?」

「まあ、切っ掛けなんてどうでもいいんだ。そして……今回ブルワーズの標的はマクギリスからの仕事の依頼で鉄華団からクーデリアの奪取らしいな。これからマクマードにこちらに任せるようにと言っておく。いくらマクマードでもウチと真正面から事を構える気はないだろうしな」

「ま……したら負けるしだろうし。俺達としても無暗に戦力を使いたくないしな」

「そう言うわけだ………それと」

 サブレはコーヒーを飲みながら視線をマハラジャの方に向けると、マハラジャはあっさりと凄い事を言ってのけた。

「アガレスが故障中だから別の機体に乗ってもらうぞ」

「そっか……それは困ったことに………!?なんの話!?故障?この前の戦闘の時はまだ使えたでしょ?」

「戦闘時に使われるシステム用の回路の方に問題が発生してな、腕と足を繋げている回路が焼き切れている。新しい回路に切り替えようにもガンダムフレームの回路は独自なうえ、アガレスは特殊仕様だからな。他のガンダムフレームの部品では代替えが出来ん」

「だったら………どうすんの?」

「マルコシアスを使う。持ってきているし、ソニアが火星にいる間に最終整備を完了させてある」

「………半年前に俺が見つけたあの機体?あのコックピット部分とエイハブ・リアクターしか見つからなかったという?」

「これがメイン武装だ」

 『バスタードメイス/大太刀』と四本のサブアームを使った『短剣』が書かれており、腕には細長いシールドも装備しているようだ。

「背中の翼に見える装備に意味はあるわけ?」

「機動力向上じゃないか?飛行能力を獲得するにはさすがに重すぎるだろうしな」

「難しそうな機体だな。特にこのバスタードメイス………鞘から抜けば大太刀に変わるシステムは戦局を良く確認しておいた方が良いな。これから少しだけテストしておいていい?」

「ああ勝手にすればいいさ」

 サブレはそのまま格納庫に向かって歩き出す。

 

 サブレがパイロットスーツに着替えてマルコシアスの真ん前で立ち止まる。

「お前に乗り込む日がするとは思わなかったが、今回の任務だけだろうがよろしく頼むぞ」

 厄祭戦時の姿を再現したマルコシアスは白を基本色とし所々赤が使われている。

 背中には翼を模した背部バインダーを装備し、背中にはバスタードメイスを装備し、腰にはサブアームが隠れている。

 ソニアが髪を弄りながら寝ぼけた様子で現れた。

「扱うのは良いけど、この先のデブリ帯で別の海賊がヒューマンデブリの販売をしているって噂があるから気を付けてね。あと……武装は全部アンチナノラミネートが装備されていいるわ」

「分かった……ならテストがてら海賊を壊滅させてくる」

 そう言ってソニアが「はい?」と振り返る前にはコックピットの中に入っていき、操縦桿を握りしめながら視界が明るくなっていく。

「お前の才能を俺に確かめさせてくれ………ガンダム・マルコシアス!サブレ・グリフォン!出るぞ!」

 カタパルトデッキから出撃していき、目標のデブリまで一気に近づいていき、デブリを足場にして速度を上げながら少しずつマルコシアスのシステムに慣れていく。

 目の前に見えた海賊が使用する武装を搭載した艦を前にマルコシアスのバスタードメイスを取り出し周囲を護衛しているロディ・フレームのコックピット目掛けて横なぎに叩きつける。

「こいつ!?どうやって現れたんだ?」

 慌てた海賊がライフルで牽制するがサブレはそんな攻撃をものともせず一気に至近距離まで近づきバスタードメイスを振り下ろすが、敵は右腕を犠牲にして攻撃を受け止めショートアックスをマルコシアスに向けて振り下ろすが、サブレはシールドで攻撃を受け止めサブアームの短剣でコックピットに突き刺す。

 次々に現れる敵機を前に四本の短剣とバスタードメイスから抜いた大太刀を構える。

「こいよ!悪魔の名の由来。お前達の命で確かめさせてくれ」

 

 明楽とジョシュアが少し遅れて出撃してデブリを回避しながら現場に駆け付けると、デブリ中にモビルスーツと戦艦の破片が浮かび上がり、戦艦の中心部分の上にマルコシアスが大太刀を刺しながら立っており、その無傷な姿を二人に見せる。

 正直に言えば二人は心の底からゾッとした。

 いくら海賊と言えどモビルスーツを所有する者達であり、一機のモビルスーツが戦って勝てる相手ではない。

 サブレは無傷で勝ち、いまだに余裕を見せている。

 艦の壊れ方も異常な状況で、どう考えてもこれだけ徹底してぶっ壊す必要も無かったはずだ。

「来たのか?もう終わったぞ。しかし、こいつ中々良いな。気に入ったよ」

 残骸に囲まれながら微笑むサブレの姿は文字通り『死神』に見えた。

 見る者全てに『死』をもたらす存在に見せてくれた。




戦いに向かう三日月達の前にブルワーズが立ちふさがる。しかし、先にブルワーズに仕掛けられたと知るフォートレスはバルバトスも狩りの対象に入れてしまう。昭弘は昌弘を取り戻すために説得を試みるが……?オルガはビスケットの夢を鮮明に見始める中、三日月も嫌な予感に駆られてしまう。
次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再第十五話『暗闇』

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