機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再 作:グランクラン
ブルワーズ旗艦内ではノルバ・シノの潜入部隊がブリッジまで進撃を進めており、道中ヒューマンデブリの子供達を発見していた。
しかし、ヒューマンデブリ側からの予想外の攻撃に潜入部隊の一人が反撃してしまう。
シノの制止も聞かず、潜入部隊は被害を出しながらも進んで行く。
一方三日月達の戦いにサブレが乱入し、グシオンを沈黙させている頃、ハンマーヘッドとイサリビにフェネクスがナパーム弾で攻撃を仕掛けていた。
アンドロマリウスがラフタの百里の横っ腹に強烈な一撃をお見舞いし、ラフタは悲鳴を上げながら突然の奇襲に回避すら間に合わずそのままデブリまですっ飛んでしまう。
「ラフタ!?こいついつの間に接近を!?」
アジーがアンドロマリウスの背に向けて一気に接近するが、フェネクスが横から突撃をかましてきたことに気が付かなかった。
アミダの悲鳴に似た声を聞いた時に視界一杯にフェネクス、衝撃とその反対側からアンドロマリウスの一撃を受けてアジーも沈黙。
アンドロマリウスとフェネクスの視線の先にアミダの駆ける機体を捉えた。
三日月の乗るバルバトスの顔面を押さえてそのままデブリに何度も打ち付け、コックピットの中で派手な衝撃が三日月を襲う。
ビスケットが追おうするが、ワイヤー周辺からビスケットのグレイズを捉え、昭弘は昌弘を回収しながら後ろの光景に目を移していた。
三日月はマルコシアスの攻撃から逃げるため機体を翻る、それをサブレはバルバトスの右足を掴んで阻止し、そのまま振り回して小惑星まで打ち付ける。
「うぅ!」
三日月の口から漏れ出る悲鳴、オルガの背に嫌な汗が流れ誰の脳裏にも『三日月の敗北
』が想像してしまう。
「負けんな!ミカ!」
その声が聞えたのか、三日月はメイスで砂煙を作って視界封じに使いながら、マルコシアスのコックピットへとメイスを突きつける。
しかし、サブレはその攻撃をバスタードメイスで受け止め、鞘を抜きそのまま大太刀に切り替えて切りかかる。
武装の切り替えに三日月は驚き、大太刀の打撃部分で頭部を打ち据えられた。
角が両方折れ、視界にマルコシアスの悪魔のような目が接近してきた。
三日月の心に小さい恐怖が生まれると、頭の中で逃げるべきか、それとも立ち向かうべきかの二択を生まれた。
三日月の葛藤の間にマルコシアスはバスタードメイスに切り替え、バルバトスの腰、腕、足の順に攻撃を受けながら三日月はサブレの狙いが自分なのだと気が付いてしまった。
「ごめん………オルガ」
そう言って三日月はもう一度小惑星で砂煙を上げ、身を隠しカウンターを狙う。
意識を全身に集中させ、砂煙の中で動く物体に意識を向ける中、背中からモビルスーツの形をした影が接近してきた。
ここだというタイミングで影目掛けてメイスを突き刺すが、現れた影はグシオンの物で、グシオンの強固な外装にメイスの先端が弾かれる。
罠なのだという事に気が付いた時は既に真後ろを取られており、グシオンを投げるために使ったバスタードメイスを捨て、身軽になったマルコシアスは隠し腕を使ってバルバトスを捕らえた。
その姿は二人以外のほぼ全員の目に移っており、オルガは「うそだ……」と呟き、他の誰もが三日月の敗北を知った瞬間である。
バスタードメイスの打撃によって既にバルバトスは拘束から逃れるだけの力もない。
誰もが叫んだ。
「止めろ!!」
しかし、マルコシアスの右拳は容赦なくバルバトスのコックピットへと直撃し大きくめり込んでいく。
その光景はオルガにはスローモーションのようにゆっくりと見えた。
バルバトスを両腕で、隠し腕でグシオンを回収したマルコシアスは撤退の合図を上げ、アミダと交戦していたアンドロマリウスとフェネクスも同じように撤退していく。
フォートレスの艦からスモッグ弾が射出され、そのスモッグに隠れるように三機のモビルスーツは撤退していく。
三日月を載せたバルバトスもグシオンと共にスモッグの中に隠れていく。
「ミカ!!!」
「だから言っただろ?マクマード。お前が出すべき違約金を出せばパイロットごときちんと返すとな。それとも………俺達とやるか?こっちはいいんだ。お前相手に全力で潰してもな」
ドスの聞いたような睨み方、マクマードの画面越しに睨みつけてくるフォートレス代表の偽名『マーズ・マセ』、マクマードは先ほど名瀬・タービンからフォートレスと戦ったという話を既に聞いていた。
その後素早くフォートレスからの違約金を収めるようにという脅しをマクマード自身が受けていた。
ここで断ることは簡単だが、その後の事を考えればフォートレスとの関係を考えればここで断る事がテイワズの終わりを意味している。それは出来ない。
「分かった。こちらもフォートレスと正面切って争うつもりは無い。違約金。そちらが受けた依頼の三倍の額を支払う」
「了解だ。では………交渉の場はドルトコロニーにしようか。お互いに用事があるだろう?」
マクマードは目を大きく開く。
この男はどこまで知っているのだろうか、目の前で睨んでいるこの男が呟くこの言葉。
「ドルトのテイワズ支店にこちらから出向かせてもらう。ただし、お互いに交渉役二名のみとする。盗聴や盗撮の類を使用した場合は裏切りとみなし人質及びバルバトスは返さない。以上の条件でよいな?」
「交渉役とは?」
「そっちは勝手に決めればいい。こっちは私以外と言えばよいかな?」
「分かった。ではドルトで」
三日月はゆっくりと目を開き、自分の体が拘束されていないことを足から腕にかけて確かめ、ゆっくりと立ち上がると白の個室。
ベットだけの寂しい部屋で、ドアに手を掛けて開こうとするが開く気配がしない。
自分の病院着以外見当たらない、拳銃もノーマルスーツすらも見つからない。
捕まったのだという気持ち、負けたのだという感情が三日月に襲い掛かる。
再びベットに戻っていき、腰を掛けて出入り口をジッと眺めているとゆっくりとドアが横に開いていき、外からサブレが入って来た。
「どうやら起きたようだな」
「ここはどこ?」
「フォートレスの艦と言えば分かるだろ?お前は捕虜と言う扱いになっている。ドルトコロニーで交渉しだいで直ぐに返してやる。最もお前が暴れ回れば話は別だがな」
「大人しくしていれば?」
「一々確認するなよ。不信だと思われるだろ?」
サブレは三日月の側に飲み物をそっと置き、立ち去ろうとしたとき三日月が「どうすれば?」と尋ねてきた。
サブレは「はぁ?」と振り返る。
「どうすればあんたみたいに強くなれる?」
「お前は十分強い。それ以上強くなってどうする?」
三日月は暗くどこまで問う。それをサブレは質問で返した。
「強くならないと皆を守れないし、何より………オルガの命令もまともにこなせない」
サブレの強烈な視線、三日月の視線がぶつかり合い衝突するがサブレは三日月を見ないように立ち去ってしまう。
「強さの理由なんて俺が教えられるような物じゃない」
そう言いながらその場から立ち去ってしまうサブレを未だにジッと見つめていた。
しかし、いなくなったと思うと三日月は視線を下に落とし、飲み物に手を伸ばす。
すると三日月の腹から小さな音が鳴り、同時に空腹感が訪れる。
「腹減ったな。何かないのかな?」
「お弁当を持ってきてやったぞガキ」
部屋の扉をゆっくりと開いて中を入ってきたのは『マハラジャ・ダースリン』…彼がお弁当箱を持って現れた。
お弁当を三日月に手渡すとマハラジャはお酒を持ってきていた簡易的な椅子に座ってお酒を飲みだした。
「さっきの話聞かせてもらったぞ。あいつに『強さ』を聞いたな」
「聞いたけど?」
「フン。あいつはそれを答えんだろう」
「なんで?」
「照れくさいのだ。恥ずかしいとも言うな。あいつにとって強さとは己の弱さを知るという意味でもあるからな」
三日月は「弱さ?」と呟く。
「ああ、強さを突き止めたければその証明を知る事だ。それが『強さの証明』であり、『弱さ』でもある。自分の弱さを知り、その弱さと向き合う事で強さへの道が出来る」
「強さの証明?強さへの道?」
「ただ修行して、特訓して強くなっても手に入る強さは『修羅』の道しかない。修羅の道は自滅の道でもある」
「自滅………」
「目標を見付けて、その為に努力する。その為には自分の弱さを知る事、自分の弱点を知り、その為に何が出来るのかを知ることも大事だ。お前にそれが出来るかな?」
マハラジャの視線に三日月はつい逸らしてしまう。
「強くなりたい。仲間を守る為という理由は立派だが、同時にお前はそれ以外の事を見ないようにしていないか?お前は守る為に何が出来るのか、そのための努力をしているのだろうが、お前は周囲の苦労を知っているか?」
「苦労?」
「そうだ。例えばお前の仲間が何に苦しみ、お前の仲間が何を考えており、その為にお前が何が出来るのかを知ろうと努力はしているか?知らないからとそこで考えを閉ざしていないか?」
それだけ言うとマハラジャは黙り込み、それ以上は何も語らない。
「お前はお前の代表に何をしてやれているのか、代表一人に思考を預けていないか?お前が分かち合いたいと思ってもな、周囲にいる大人たちにまみれていれば自分が背負わなければと思い込むのも無理はない。その状況でもお前はそんな人間に「何をすればいい?」と尋ねていないか?」
尋ねている。
きっとこれからもそれだけは変わらない。
それでいいんだと思っていた。
「それも一つの方法だと思うぞ。でも、それではいずれ自滅する。思考が袋小路に迷い込んでいるのと同じだ。広い視野で物事を見つめることが、探し出すことが重要なんだ。はっきり言おう。お前の代表も、お前も子供なんだ。それを自覚し、自分達がどうやれば大人になれるのかを考えようとせん限り、何をしても子供のままだ」
子供であり、ガキである。
何をしていても決して大人になれない。
「自分のしたいことを時に我慢することも、したい事の為に努力することも大切な事だ。時として正しさがお前に牙をむくだろう。時として大人がお前達を道具として利用しようとするだろう。だが、それはお前達が幼い限りどうしようもない。そこから抜け出すことは出来ない」
かつてCGSの大人たちはオルガ達を利用していた。
それはブルワーズの者達も同じである。
「大人達に頭を下げて、大人たちに従うふりをして何かを学び、学習する為に吸収する為に誇りを投げ出すことも大切だと知るべきだな」
対等に見てもらいたいという気持ちが強く、オルガはそれ故に大人に対しても喧嘩口調で接しようとする。
「今お前達の周囲にいる大人たちはお前の代表の子供っぽさを見ないふりをしてくれているだけだ。しかし、私は甘くないぞ。はっきり言ってやる。お前達は子供だ。自分のケツもまともに拭けない情けない子供」
強くなりたい。
「サブレは強くなりたいと思うのは自分の弱さを知っているからだ。闇雲に強くなりたいわけじゃない。仲間を守るためにはただ強くなればいいのではない。知識としての強さ、戦略としての強さ、何より絆としての強さが必要だ。サブレの言葉ではないが、お前のモビルスーツ戦の強さは十分だ。それ以上突き詰めようがないほどにな」
マハラジャはゆっくりと立ち上がり、三日月を幼い子供を見るような目で見つめる。
「それ以上の強さは人間を捨てるしかないな。お前がそれでいいのならそう提案すればいいだろう。その場合、お前は人間としての大事な『何か』を失い、お前の仲間達も『人』としての大事な感性を失う事になる。お前が仲間達にそれを押し付けたいのなら話は別だ」
押し付けたいとは思わない。
しかし、強くなりたいという想いに決して偽りはない。
「まあ、少し考えてみる事だ。その上で頼み方を少し考えてみろ」
三日月はあれから少しだけ考えた。
マハラジャが言っていた言葉の意味、人間を捨ててでも強くなりたいのか。そんな重みを仲間達に押し付けたいのか。
分かっている。
強くなりたい、その上で仲間達を守りたいという気持ちは決して変わらない。
それでも、今後の事をきちんと考えたうえで自分達に必要な何かをこの組織は持っているように思える。
オルガの幼さと周囲の考える『理想のオルガ』が本人を大人なんだと言い聞かせる切っ掛けになっているのは確かだった。
オルガを変えるだけの人間が必要で、その素質を『マハラジャ・ダースリン』は備えている。
サブレが部屋に入ってきて事務的に今後のスケジュールを話す姿を見ている。
「以上だ。他に質問は?」
「強くなりたい」
サブレは大きなため息を吐き出す。
「またその話か?」
「みんなを支えられるように、一人でも多くの仲間を守れるように。戦術を教えて欲しい。戦い方を」
「………父さんから何か聞いたのか?お前の弱さ。少しは自覚できたようだな」
「うん。俺考えることを放棄してた。でも、もう放棄しない。だから教えて欲しい」
「俺が教えてやれることがどれだけ多いのかなんて言えないし、その上で時間がない事だけは言える。最低限の事は今すぐにでも叩き込んでやる」
サブレはタブレットを開く。
「まずは集団対集団を学ぶところが必要だな。モビルワーカーとモビルスーツでは集団戦の戦い方がまるで違う。と言うのも、モビルスーツは個々の性能や才能の差がはっきりと表れる。それは今までの経験で分かったはずだ。違うか?」
「うん。タービンズの戦い方はうまかった。正直ビスケットがいなかったら昭弘はやられてた」
「これは兄さんが事前に俺の戦術としての知識があったからだな。モビルスーツ戦は戦術が重要な意味を持つ。周辺に活用できる物は無いのか?性能や才能差を埋めることが出来るのは戦術しかない。逆に言えばどれだけ戦術が高くても、個人の練度が低ければ負けることもあり得る。お前達の初戦で勝つことが出来たのは個人の練度で言うとお前個人の練度が勝ったのと、お前達の戦術が勝ったお陰だ。他にも色々と戦術や戦い方があるのだがな」
サブレはタブレットを三日月に投げつけ、三日月はそのタブレットを受け取る。
「それにモビルスーツの効果的な動かし方や、お前でもできそうな戦術を入れたる。文字が読めなくても音声によって教えてくれる。まあ、次に味方として出会う機会があれば続きを教えてやる」
そう言ってサブレは部屋から出ていく。
『モビルスーツ戦において動作の初動を見抜くことは大切です。モビルスーツとモビルワーカーとの大きな違いは搭載できる武装の多さです。そして機械で運用する以上は初動で必ず動きを読むことが出来ます。また、阿頼耶識も初動に対して動きに一定のパターンがある事があります。戦いに対して相手の動きを読むことが大切です』
女の機械の声でそんな説明を受ける中、三日月は自分が負けた理由を知った。
今までの戦い方から三日月の動作の予測を考え、その上で動きを読んで戦っていた。
今までの積み重ね。
それが三日月の敗北だった。
三日月を取り戻すため鉄華団とタービンズ一行はドルトを訪れようとしていた。クーデリアとアトラはショッピングへと出かける為ドルト3訪れようとする。当初の予定通りにいかないフミタン。そんな彼女はサブレから告げられた言葉によって心が大きく揺れていた。そんな中、サブレもまたドルト3を訪れていた。
次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再第十七話『交わる者達』