機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再 作:グランクラン
交わる者達
イサリビとハンマーヘッドは交渉が行われる予定のドルトコロニーへと向かっていた。
鉄華団のメンバーはどこか意気消沈気味であり、みんなどこか仕事が手につかない様な状態である。
ブリッジでも同じような状態である。
ユージンがイライラしながら振り返り、オルガに不満をぶつける。
「本当に帰ってくるのかよ!?なんで俺達が金を支払わなくちゃいけないんだよ!!」
ユージンの言葉にため息を交えながら口を開いた。
「兄貴から言われただろ?俺達が討ったブルワーズは本来あいつらのターゲットだったんだ。俺達が代わりに討ったことは裏社会では違反行動で、そのツケをテイワズが支払わなくちゃいけないって」
「それは聞いたよ!なんで俺達狙われたのにそんな金も支払わなくちゃいけないんだ!?」
「裏社会のルールだって聞いたろ?相手は裏社会では『裏のギャラルホルン』なんて言われ方をしているぐらいだ」
「あいつらそんなに強いのかよ?数だってそんなに多くなかったじゃねぇか?」
ユージンの言葉にオルガが反応するが、それより早く名瀬・タービンがブリッジにやって来た。
「アレは氷山の一角の中でもごく一部だ。まあ、今回は相手が悪かったな。あいつは『死神』と恐れられるあいつらの中では五本指に入るぐらい恐ろしい奴だ」
ユージンを含めてほぼ全員が「死神?」と口をそろえて呟く。
「ああ、五本指に入る様な奴らは皆裏社会ではそれなりに名の通った奴らで、一人一人がやばい実力者だからな。特に死神はある噂でも有名だ」
「噂っすか?」
「死神と戦った奴で生き残った奴はいない」
低い声でそう語る名瀬の言葉に全員が息を呑む。
ユージンすらも反抗する気欲が湧いてこなくなった。
名瀬の言葉の後にビスケットがブリッジに入って来た。
「オルガ今良いかな?」
「ああ。どうした?」
「クーデリアさんやアトラを連れてドルトにショッピングにでも行こうかと思ってね。二人共三日月がいなくなってから正直テンションが下がっているし。気分転換でもしてこうと思ってね。その方が良いだろうし」
「ああ、そうだな。あの二人にしてもらうことも無いし、いいんじゃねぇか?その代りお前とフミタンさんが付いていくことが条件だ」
「分かった。フミタンさんにもそう伝えておくね」
『手筈は予定通り。クーデリアを伴いドルト2へ入港せよ』
フミタンの元に送られてきたメールを確認しつつ、視線をクーデリアからプレゼントされたネックレスをジッと視線を送る。
かつてフミタンはクーデリアから『火星の人々を知りたい』と言っていたことを思い出し、心が揺れる。サブレに火星で言われたことも彼女の心が大きく揺れる理由になっている。
しかし、ドアを叩く音と共にフミタンの意識がドアの方に向く、外へのモニターにアトラとクーデリアがやってきていた。
「フミタン。ドルト3に観光しに行かない?ビスケットさんが仕事をすることも無いから行きませんかって」
フミタンはドアを開けて姿を現す。
「しかし、お嬢様」
「ね?いいでしょフミタン」
クーデリアの言葉に何故か否定できずにおり、「分かりました」と呟く事しかできない。
どうして自分がクーデリアの言葉を否定できないのか、彼女自身がよく分かっていなかった。
グシオンの外装が剥がされていくと中からガンダムフレーム共通の頭部が姿が現し、それをフォートレスの技術班が解析していき、アガレスとグシオンとバルバトスを繋げてしまう。
「あれって何しているんです?」
明楽の些細な質問にサブレ自身は心の中で(前に教えてやったような気がするけど……)と呟く。
「アガレスには詳細なガンダムフレームの全データが入っていて、そのデータを照合させながらガンダムに最適な装備をアガレスが演算してくれるというわけだ。アガレスには一種の演算処理システムも搭載されていて、戦闘データを入れれば詳細な装備の追加データを演出してくれる」
「へぇ………なら俺のガンダムも?」
「ああ、アガレスがお前の戦闘データとアンドロマリウスに合う装備を定期的に導き出すことが出来た。今回も同じだ。グシオンは別だが、バルバトスは現在パイロットである三日月の戦闘データを現在アガレスが演算している最中だ」
アガレスのツインアイモニターが青く発光しているのがその証拠である。
先ほどまで修理はすっかり終わっているらしく、次の戦闘では使えそうだという話。
しかし、サブレはその視線をマルコシアスの方へと向け、落ち着いた様子を見せていたが、別の部屋から格納庫で装甲をドンドン剥がされていくバルバトスの様子を複雑な様子見つめる三日月。
「どうした?お前がここに連れてきてほしいというから連れてきたんだぞ。少しぐらい感謝したらどうだ?」
三日月はマハラジャに連れられて格納庫直ぐの特別部屋にやってきていた。三日月は「ありがと」とだけいい視線を移動させない。
「あれって何しているの?」
「バルバトスの強化をしている最中だ。お前のデータを合わせて造っている。まあ、あそこまでボロボロにしてしまったんだ。違約金を支払う代わりと言った所だ。まあ、感謝せんでもいい」
バルバトスに新しい装甲をつぎ足されていき、三日月はその分厚い装甲と追加スラスターを足されていくバルバトスの追加形態を見つめていた。
「そうだ。お前グシオンのパイロットに候補はおらんか?あまりガンダムフレームを持っていると面倒だからな。お前達に渡しておこうと思って。誰かおらんか?」
「………昭弘なら多分」
「そうか………?昭弘?おい。そいつの姓はしらんか?」
マハラジャの言葉に今度は三日月が反応して見せる。「なんで?」と尋ねるが、マハラジャはあえて何も答えない。
「アルトランド。だったはず。だけどなんで?」
「やはりか………向こうに小柄な小僧がいるな?あいつは『明楽・アルトランド』という、ちなみに母親は今も健在だ。そこまで言えば十分だろう」
まっすぐ向ける視線には純粋な目でサブレに付きまとう明楽がいた。
昌弘は他のブルワーズの子供達とは全くの別の個室で待機しており、昭弘が部屋に入ってきて嫌な沈黙が流れる。
「今更………今更許してくれとは言わねぇ。お前を捜すことを辞めたことは事実だ。正直諦めてた」
「もう……いいよ」
「でも………お前を連れて戻したいといった時に、手伝ってくれた仲間達がいた。諦めそうになった俺に喝を入れた。お前との関係を諦めたくない。少しづつでいい……元通りになりたい」
昭弘はそれだけを言って立ち去ろうとすると昌弘は小さな声で「……昭弘兄ちゃん」と呟いたのを昭弘は聞き逃さなかったがあえて気づかないふりをして立ち去った。
アインとガエリオはマクギリスの休暇中に部隊を動かし鉄華団を追撃しようとしていた。
アインはそれこそ勝手に部隊を動かすことを指摘したが、ガエリオは『演習目的』と言ってきかなかった。
時を同じくしてビスケット達もドルトへと入港しようとしており、アトラと一緒に港に入港した本当に三十分後にサブレと明楽とジョシュアも入って来た。
オルガ達鉄は団は三日月回収の交渉を名瀬達に任せ、自らは仕事の為にドルト2に入っていった。
「あんたらが鉄華団かぁ。驚いた。本当に若いんだなぁ」
「なんだ?ガキだからってなめてんのか?」
「いや誤解しないでくれ。俺達はみんなあんた達が来てくれるのを待ってたんだよ」
社員は一緒にこの場にきていたメリビットの方を見ながら「アンタがクーデリア・藍那・バーンスタインさんか?」と質問する。
「クーデリアは用事で別のコロニーに行っている。ここへは来ない」
社員の一人が「なんだ」と残念そうにしており、更に「十代にしちゃ老けてると思ったぜ」とし釣れないことを言う。
メリビットが「老け…」と気にしており、オルガがどこかおかしさを感じている。一緒についてきたシノやユージン、ヤマギも同じくおかしさを感じている中、社員の一人の言葉に首を傾げる。
「俺達労働者の希望の星だからな。それとクーデリアさんを守って地球へ旅する若き騎士団」
しかしオルガは気にしないことにして仕事をし始める。
ショッピングセンターで買い物をする切っ掛けは、ビスケットに尋ねた「前に風呂に入ったのはいつですか?」という質問に、「五日前?」と答えたのがきっかけだった。
アトラとクーデリアは前々からイサリビ内で漂っている匂いが気になっていた。
これを機に衛生環境を正そうとしており、着換えから洗剤まで色々と購入していく。
ビスケットはショッピングセンターの中を眺めており、それを興味深そうに見ているアトラが「どうしたの?」と尋ねるとビスケットは自分がここの出身だと語り始める。
「じゃあビスケットはこのコロニー出身?」
「出身はドルト2のスラム街だけどね。でも、ドルト2の生活環境は最悪で、まともに保険みたいな仕組みはなくて、働けなくなったらそこでクビなんだよ。僕達の両親は事故で死んだんだけど、僕たちはその所為でこのコロニー群に住めなくなったんだ。それでバラバラ。一番上の兄さんはまだここにいるはずだけど」
「ビスケットにお兄さんが?」
「うん、随分長い事あって無いんだけどね。学校に行ってた兄さんは勉強ができて会社の偉い人の家に引き取ってもらえたんだ。あれから連絡も取ってないけど、まだドルト3に住んでいるのかな?」
「会ってみようよ!」
「でも急に連絡何てしたら困るかもしれないし」
「困るわけないじゃない!兄妹なんだからお兄さんだって会いたいに決まってるよ!」
アトラの言葉にクーデリアも「私もそう思います」と告げた。
「このまま会わずにここを去ってしまったら後悔が残るのでは?」
クーデリアの言葉にアトラは何度も頷く。
「連絡してあげて。ねっ?」
ビスケットが一番上の兄サヴァランに連絡を取っていた頃、サブレは近い場所でショッピングを楽しんでいた。しかし、そんなサブレの前に一台の車が止まった。
明楽やジョシュアが表情を暗くし、サブレはあくまでも冷静で落ち着いた表情で見つめている。
「サブレ様。ご主人様が是非お会いしたいと」
明楽が小声で「誰?」とサブレに尋ね、サブレは大きな声で運転手に対して告げる。
「お会いしたくないと告げて帰ってくれ。カヌーレ家の使用人。俺は今更会いたくないと」
「ご主人様は少しだけで良いからと………」
「今更俺達兄妹をバラバラにしたことを反省していると?そんな奴なら俺を呼び出したりしないよな?」
「はい。ご主人様はあなたを養子として引き取りたいといっております」
サブレは小声で「そんな事だろうと思ったよ」と告げる。
「だとしたら余計にお断りですね。俺はあんたみたいにドルトに未練なんて存在しない。正直どうでもいい」
「ご主人様曰く、それなら二人のお兄さんが無事に帰る保証はないとのことです」
サブレの眉がかすかに動く。
明楽は「人質?」とジョシュアは嫌そうな表情で「卑怯者」と告げる。
「サヴァラン兄さんならともかく、ビスケット兄さんは………!?まさかこのコロニーに来ているのか?」
「はい。もう既に同じ場所に一緒に隔離しており、ご主人はあなたが来ないならこの二人の安全は保障できない」
「たとえついて行っても俺が首を縦には振らないぞ」
「それでも構わないとのことです。では………こちらです」
サブレはリムジンに乗り込もうとする寸前に明楽とジョシュアに耳打ちで「二人の確保を頼む」と告げる。
そのままリムジンに乗ってカヌーレ家の本家にまっすぐ向かって行く。
オルガ達は自分達が運んだ積み荷がモビルワーカーだと知って驚きを隠せずにおり、社員の一人が「いよいよ始まるんだな」と戦う気満々の声がする。
「ああ。長い間の我慢もこれで終わりだ」
やる気満々の組合員であるが、オルガ達は自分達が武器を提供したと気が付き、驚きながらオルガがメリビットに確認させる。
「リストには『工業用の物資』としか……」
武器を持ちはしゃぐ者達、メリビットが「依頼表を確認してみます」と言って立ち去っていく。
「あんた達は何をやろうとしているんだ?」
「聞いていないのか?あんたら俺達の支援者に頼まれてこいつを届けてくれたんだろ?」
「支援者?俺達はただ仕事で……」
「あんたたちの支援者ってのは一体誰なんだ?」
「名前は知らん。クーデリアさんの代理を名乗っていたが、火星に続いて他の場所でも地球への反抗の狼煙を上げようとクーデリアさんが呼びかけてるってな。その為に必要な武器弾薬を鉄華団の手を通してクーデリアさんが俺達に提供してくれるって」
なんて説明をしているとギャラルホルンがまるでタイミングを見計らったように現れた。
「ギャラルホルン!?」
「全員動くな!武器を捨て両手が見えるように高く上げろ!戦闘用のモビルワーカーに武器弾薬かぁ。通報は本当だったようだな。ここで違法な取引があるってな!」
しかし、ギャラルホルン相手に一人の組合員がアサルトライフルの引き金を容赦なく引き、それを合図と多くの組合員が戦い始める。オルガ達が巻き込まれる形で戦火が開く。
戦おうとするユージン達を制止する。
するとイサリビに戻ったメリビットから連絡が入った。
「団長さん?そっちは一体何が……?」
「今直ぐ船を出せ!ギャルホルンの小競り合いに巻き込まれた。この場に鉄華団の船があるのはまずい」
「一つだけ報告が。荷物の依頼主ですがGNトレーディングという会社のようです」
フミタンの心は揺れていた。
クーデリアは本来ドルト内での暴動で命を落とすというシナリオ、しかし、今彼女はフミタンと共に買い物をしている。
迷いの中で葛藤するフミタン。
彼女はどうして自分が命令を無視しているのかが分からなかった。
葛藤と共に思い出すのはサブレに告げられた言葉だった。
カヌーレ家の思惑と共に多くの人の運命と、グリフォン家の過去が明らかになろうとしていた。
クーデリアと誤解されて誘拐されたアトラとビスケット、救出する為に明楽とジョシュアが向かう。同じときカヌーレ家にやって来たサブレだが、罠だと判断しジュリエッタと共に脱出する。そんな中、ビスケット達はカヌーレ家とサブレが隠し続けてきた真実を知る。サブレだけが知る秘密が今水面下でカヌーレ家との戦いを引き起こそうとしていた。オルガもドルト3を目指して動き出す中、ドルトは争いで満ち溢れようとしていた。
次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 第十八話『守り続けてきた弟』