機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再   作:グランクラン

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遅くなりました。今回はほとんどがオリジナル回となります。


地球降下編
父親と息子


 ビスケットとアトラの目の前に広がる三階建ての大きな家。家という言葉すらおこがましさを感じるほどに大きく、屋敷でも足りないぐらいである。

 実際門構えから見上げる事ばかりの屋敷、屋敷の外装は白で塗装されており、屋根は赤で統一されている。

 広い庭には庭師のセンスが光り、その大きさに目移りしてしまいそうになる。

 

 移動型コロニー『カゲロウ一号』の中に存在する住宅エリアの一角、間違いなくマクマード邸より大きく、存在感を発する家を前にしてビスケットとアトラは家に入る事すら躊躇うレベルだった。

 

 サブレは容赦なく鉄製の門を開き、中へと入っていく姿をビスケットとアトラはついて行くことしかできなかった。

 玄関を開けて中の空気が外へと漏れ出していくと、同時に周囲に広がる白い大理石のような綺麗な床に、木製を組み合わせた美しい壁紙やシャンデリアが嫌でも目に移る。

 

「お帰りなさいお坊ちゃま」

「マルナさん。お坊ちゃまはやめてくださいって言ったじゃないですか」

「旦那様の息子ですので。それより旦那様が昼食にするから直ぐに食堂に来るようにとのことです」

 

 サブレは「わかった」と言ってビスケットとアトラを引き連れて一緒に左側通路にある食堂と書かれた黄金のプレートの両開きのドアを開ける。

 長机が大きな部屋に置かれており、椅子の数だけでも合計で十二は存在する。

 

「し、失礼します!本日は……!」

「父さん。今日のお昼ご飯は何?」

「魚だ。お前肉を嫌がるだろ?」

「嫌がりはしないけどさぁ………まあいいか。何?兄さん。なんか言った?」

 

 サブレが自分の席に座りながら立ち尽くすビスケットの方へと視線だけを向け、ビスケットは口をパクパクさせながら恨みを込めた視線を弟サブレに向ける。

 

「何をしている?お前達は食事を取らないのか?」

「………い、いただきます。ビスケットも一旦行こう!」

 

 二人でサブレの対面に座り、目の前に置かれていく豪華な料理の数々に二人の胃から音が鳴り響く。

 アトラは一つ一つの料理を詳しく料理長に尋ねていき、ビスケットは意を決してマハラジャに向けて口を開く。

 

「あのですね。今回僕達鉄華団の事で頼みたいことがありまして!僕達が地球に降りるにいたりフォートレスの力を借りたいと思っています。勿論料金がかかるというのでしたら必ずお返しします!」

「それなんだがな。フォートレス側も事情が変わってしまってな、分野を分け合ってお前達の仕事の手伝いをすることにした。お前達が願い出る前に俺達も参加するつもりだった」

 

 マハラジャはコーヒーを飲みながらビスケットとアトラに指をさす。

 

「お前達は後で俺の部屋に来なさい」

 

 

 ビスケットとアトラが昼食後にマハラジャの部屋の前で部屋に入るタイミングを計っており、アトラはビスケットの背中を優しく撫でてやると意を決したようにドアを二回ノックした。

 

 マハラジャの「はいれ」という言葉に従い部屋の中に入るとマハラジャは大きなソファに腰を落とし、促されるままに対面のソファに腰を落とす二人。

 

「さて………飲み物はオレンジジュースでいいか?苦手な飲み物とかあれば言ってくれ」

「あ、ありがとうございます。そ、それで………僕達に話って」

「ああ、まずは君の意向だ。我々の力があれば食事に不自由することは無くなる。君が付いてくれば嫌でも巻き込まれることになる。君自身が望むならサヴァランの船と一緒に火星に送れるが?」

「だ、大丈夫です!心配してくださってありがとうございます」

「フム。君がそれでいいのならそれでいいが、まあ本題は全くの別だ。ビスケット、お前にサブレの事をきちんと話しておかなくてはなと思ってな」

 

 ビスケットは小さな声で「サブレの事ですか?」と尋ねるのだが、マハラジャは腕組みをしながら神妙に頷くだけ。

 

「お前達があいつをどう思っているのかは分からんが、俺からすればあいつは一人の息子として接してきたつもりだ。だからこそあいつの精神状態は良く理解しているつもりだ。あいつは才能が精神や肉体が成熟する前に完成されてしまった。それがあいつの精神面に悪影響を出してしまった。お前は親の死因の事を知っていたか?」

「いいえ。事故死ぐらいしか。でも、ドルトカンパニー本社が関わっていたぐらいは」

「そうだな。最後の引き金はドルトカンパニー本社だ。だが、きっかけはサブレが関わっている。そこにあいつの才能が爪を立ててしまった」

 

 ビスケットは息を飲み込む。アトラですらも空気が変わったのだという事ぐらいは察した。

 同時にアトラは自分は退室するべきなのではと考えたが、今更言い出せない空気だと感じて黙り込んだ。

 

「あいつは一般的な他の人間に比べて高い才能を持っていることは間違いない。それは一緒に過ごしてきたお前も良く分かっているはずだ」

「それは……両親からも期待されていました。それがサヴァラン兄さんは気に入らなかったようで」

「そのようだな。あいつは自分の所為で家族関係が悪化したとずっとそう考えていたようだ。しかし、あいつの才能は勘の良さや運動神経の高さという形で姿を現していたが、中でもえげつない才能が物事の本質を見抜きやすいという事だ」

「物事の本質ですか?」

「ああ、あいつは幼いながらにドルトカンパニーのやり口に気が付き、それを親に密告したことがドルトカンパニーが親を殺したと分かってしまったんだ。自分の責任で親が死んだと責めていた。そして、憎しみに駆られていた所で俺が拾ったというわけだ」

 

 ビスケットは苦しそうな表情を浮かべるが、マハラジャは特に気にした様子も無く話を進めようとする。

 そんな中、アトラの視界に複数の写真が目に入った。

 

「これ………この家ですよね?サブレ君すごく楽しいそうにしている」

「そうだな。この家に来てからあいつは『家族』という言葉を知ったようだな。初めて誕生日プレゼントを買ってやった時の様子は今でも忘れられん。欲しそうにしていたおもちゃを買ってやるとあいつは大粒の涙を流して嬉しそうにしてた。初めてもらった誕生日プレゼントが嬉しかったんだろうな。その写真にも写っているだろ?真新しい飛行機のラジコンを抱きしめている写真が」

「凄く嬉しそうにしてるよ。ビスケット」

 

 アトラはビスケットに向けて写真を見せる。

 そこには嬉しそうに飛行機のラジコンを抱きしめ、ジュリエッタと隣に後ろからマハラジャが二人の頭を撫でている写真。

 

「良かったです。サブレが幸せそうにしていて、ありがとうございました」

「そうか?まあ、私は父親であいつは息子だ。それだけの事だ」

 

 ビスケットは正直嬉しくなってしまい、嬉しさのあまり表情に出してしまう。

 

「そうだ。お前の誕生日プレゼントも部屋に置いてあるからな。ちゃんと中身を確認しておけ、クッキーとクラッカからお前の好きそうなものを聞いておいた」

「え?でも僕は息子じゃないですし………」

「何を言っている。サブレが俺の息子ならお前も私の息子だ。さて………話はそれで終わりだ。明日の昼に出るぞ。今日はゆっくりとするといい。そうだ。この家の風呂は露天風呂が在ってな……カゲロウは夜になると星空が綺麗に見える。露天風呂から見ると綺麗だぞ」

 

 そう。この時アトラはすっかり露天風呂に行くつもりになり、ビスケットも言ってみてもいいかも。なんて考えたことが後の悲劇へと向かう事をこの時の二人は知らない。

 

 

 夕食を食べ終え、サブレは再び自分の部屋にマハラジャも自分の部屋でやるべき仕事をしに行く。

 ビスケットとアトラは二人で露天風呂へと入ろうと言い出したアトラについて行くビスケット。

 

「じゃあお風呂をでたらここで集合だね」

「うん、アトラはゆっくりしていていいからね。楽しみでしょ?」

「ビスケットもちゃんと体洗うんだよ!時折匂いがするからね!」

「は、はい。考慮します」

 

 ビスケットは脱衣所で服を脱ぎ、身体を簡単に洗ったのちタオルを持って露天風呂のドアを開ける。

 広い露天風呂と湯気が視界を塞いでいるのだが、ビスケットは決して気にせず風呂に体を付ける。

 少しずつ奥の方へと移動して行き、露天風呂のど真ん中に鎮座する大きな岩を背に一旦落ち着く。

 

「すごい広いお風呂だな……鉄華団にも一つ欲しいな」

 

 そんなことを言いながらビスケットが息を吐き出すと、露天風呂に誰かが入ってくるのが音で分かった。

 

「サブレ?」

「え?ビ、ビスケット?」

 

 ビスケットとお風呂に入ってきたアトラの視線が完全にぶつかり合い、お互いに裸で見つめ合ってから三十秒。

 お互いに顔を真っ赤にして慌てたように二人そろって湯舟に消えてしまおうとする。

 

「ご、ごめんアトラ!い、今!今すぐ出るから!」

「へ?あ!?だ、ダメ!!」

「ど、どうして?」

「だ、だって………その立ち位置だと色々と……見えてしまって………」

 

 ビスケットの体積では小さな布では守り抜けない。

 もう一度湯舟に身を浸し、泳ぐように岩の反対側に隠れる。

 

「その………見えた?」

「だ、大丈夫。そこまで見えなかったから。ほ、星キレイだね!」

「そ、そうだね」

 

 そう言いながら上へと視線に向けるとそこには満天の星空が移っていた。

 

「すごいねぇ………火星にはこんなお風呂も無かったし」

「そうだね。帰ったら作りたいね。でも、アトラは三日月と一緒に入りたかったんじゃない?」

「え?そ、それは………ビ、ビスケットはあたしと一緒に入っていて嬉しくないの?」

 

 アトラから唐突に告げられる言葉に気まずさを感じたビスケットは、湯船から逃げ出そうとする。

 アトラは逃げ出そうとするビスケットの左手首を強くつかむ。

 

「教えて。ビスケットは私と一緒にお風呂に入れてうれしくないの?」

 

 ビスケットはつ良く引っ張られてしまい、足が滑り後ろに倒れそうになる。

 ビスケットは体を180度反転し、両手をアトラの横に付き押し倒してしまったビスケット。

 

「ご、ごめん………アトラ」

「う、ううん。私の方こそ急に掴んでごめんね」

 

 しかし、ビスケットの視線は自然とアトラの体の方に向いてしまい、脳内で処理できない情報をビスケットは………大量の鼻血という形で処理した。

 

 最後の力でアトラの上に覆いかぶさらないように配慮したのは彼なりの優しさだった。

 

「ビスケット!?大丈夫!?だ、誰か!!」

 

 

 ビスケットは自室のベットの上で目を覚ました。

 妙に体がスース―すると思ったのだが、裸の上に浴衣を着ているだけというのが理由だろ気が付いた。

 まだ頭がふわふわしており、何で自分がここで寝ていたのかすらよく分からない。

 

「あ、大丈夫?ビスケット。メイドさんたちがビスケットの手当の為に色々としてくれたんだよ」

「手当て?えっと………!?」

 

 思い出してしまい鼻血が出そうになるのを必死に耐えながら布団の中に入り込む。

 

「大丈夫?震えているけど」

「だ、大丈夫だよ!アトラこそ大丈夫だった?」

「う、うん。寒いなら何かしないとね。えっと………でもこの部屋には暖かい物なんてないし」

「だ、大丈夫だよ」

「駄目!ビスケットふるえてるもん。そうだ!」

 

 そういう声と共に布団が動く感触が伝わってくる。ビスケットはどうしても気になり振り返るとそこにはアトラは寝間着で布団の中に入ってきていた。

 

「ア、アトラ!?」

「これで大丈夫だね」

 

 恥ずかしくなったビスケットは背をアトラに向ける。

 

「ねえ………さっきの答え。私とビスケットは私と一緒に入れてうれしくない?」

 

 ビスケットは答えなかった。

 アトラは少しずつやってくる眠気に負けてしまった。

 寝たことを確信したビスケット。

 

「嬉しいよ………でも、アトラは三日月が好きだから」

 

 

 体に包帯を巻き無理を承知で格納庫でボロボロになった自らのモビルスーツを見上げるアイン。

 そんなアインに近づいていくガエリオ。

 

「無理はするなアイン。傷に障るだろう」

「もうしわけありません。またしてもあのような者共に不覚を……」

「何故謝る?それは俺を助けてくれて出来た傷だ。謝るのは俺の方だ。まさかガンダム・フレームが二機も出てくるとは。いや、それも言い訳か。何にせよお前に借りが出来てしまったな」

「私も阿頼耶識の手術を受ければあいつらにかなうのでしょうか?」

「何を言いだす。気持ちの悪い事を言うな。あんなものを体に埋め込めば人間ではなくなってしまう」

「人間ではない……その言葉は地球出身の同僚達にも言われてきました。俺には半分火星の血が流れているんです。ギャラルホルンは……いや、地球人は地球以外の純粋な血しか認めていません。それは火星でも変わらない。火星人の母を持つ私とギャラルホルンの士官であった父のお陰で入隊させてもらえましたが、やはり差別は続きました。そんな俺にクランク二尉だけはみんなと対等に接してくれたんです。クランク二尉は「いいかアイン。人間としての誇りに出自など関係ない。人間なんて一人一人違う。元々一括りにはできないものだ。自分が正しいと思う道を選べ。周囲に惑わされずお前という人間の生き方を見せるんだ」そう言ってくれた。クランク二尉は俺に自分を取り戻させてくれました。周囲からどう見られてもいい。俺は俺の考えを……」

「まるで俺がお前を馬鹿にした連中と同じだと言いたげだな」

「違います!そうではなく……」

「いや、いい。俺はお前のような男を初めて見た。お前の言う通り鉄華団は絶対我らの手で倒さねばな」

「しかし、このまま行けば地球外縁軌道統制統合艦隊のテリトリーです。セブンスターズといえども勝手な行動は許されないのでは?」

「分かっている。あいつに頭を下げるのだけは絶対に避けたかったが……仕方あるまい」

 




地球に降りる為モンターク商会と取引したオルガ達、それとは別に地球へ降りる準備を確実にするフォートレスの前にカルタ・イシュー率いる外縁軌道統制統合艦隊が立ちふさがる。
次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再第二十二話『願いの重力』
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