機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再 作:グランクラン
朝起きると右腕に重みを感じるビスケット、起き上がろうとしても右腕の重みが邪魔をする。
昨夜の記憶があいまいで、正直何をしていたのかが分からない。
何かをしていたような気がするし、ハッキリしない意識を現実に合わせながらビスケットは夜寝る前の事をウトウトとした意識で思い出す。
(そういえば……昨日の夜アトラがやってきて……?)
少しずつ意識が現実に戻っていき、恐る恐る右隣を見るとそこには確かに居た……スヤスヤと眠っているアトラの姿が。
ビスケットの顔面が真っ赤に染まっていき、何度も揺さぶりながら起こそうと試みる。
「起きて!アトラ!お願いだから!誰かが来る前に!」
しかしすっかり眠りの中にいるアトラはちょっとやそっとで起きやしない、そしてタイミングが悪い事に外からサブレの声が聞えてきた。
「兄さん。いい加減起きた方が良いぞそろそろ………!?」
サブレの視界に写った姿、半裸のビスケットとアトラが仲良くベットの中で寝ている。
開いた口がふさがらないよ数のサブレ、そのまま静かに扉を閉めた。
「待って!サブレ!」
クーデリアは眠れぬ夜を過ごしていた眠れぬままフラフラと部屋を出ていき、廊下のど真ん中で三日月を見付けた。
数日ぶりの三日月。
窓の外に広がる星空を見つめたままの彼に近づいていく。
「何か見えますか?三日月」
「……綺麗だなって思って。クーデリアこそ何してるの?」
特に理由があったわけじゃない。
明日の作戦を前に少しだけ眠れなかっただけ。
「三日月。握手をしませんか?」
「俺の手また汚れてるよ?」
「……私の手ももう汚れています。皆の血と皆の想いと……この手に私は誇りを持っています」
最初こそ戸惑っていた三日月だがゆっくりと汚れた右手を差し出し、優しく握りしめる。
(大きな手。こんな小さな体なのに大きな手)
「どんな困難が待ち受けていたとしても絶対皆さんを幸せにします」
三日月は優しくクーデリアを抱きしめる。
急な出来事で驚くことしかできないクーデリア。
「震えているから」
知らず知らずのうちに無理をして追い詰められていたクーデリア、三日月は優しく抱きしめられていくうちにクーデリアは涙をを流していた。
三日月の胸の中で大粒の涙を流していた。
モンタークは商売に失敗していた。
というのも本来の予定であれば今頃クーデリア・藍那・バーンスタインにシャトルを売り飛ばし、ハーフメタルの権利をいくつか手に入れるはずだった。
しかし、モンタークが取引をしている間に、クーデリアに渡すはずだったシャトルを五倍の値段で買い付けてきた商会が現れたからだ。
「いいんですかい?」
「これは忠告だよ。これ以上関わるなっていう顔の見えない相手からの」
モンタークはそう感じた。
モンタークとしての立場あるからこそ分かるギャラルホルンが知らない影の組織があると。
「彼らに喧嘩を売れば我々の命では済まないぞ」
「そんなやばい奴らなんですかい?裏で調べても大した名前は出てこなかったじゃないですか」
「当然だ。そんな簡単に表には顔を出さないさ」
トドは正直複雑な表情とは別にモンタークは微笑んでいた。
イサリビにはとある商会から無償提供されたシャトルを受け取っていた。
あと少しで作戦を開始することを既に確認済み、ビスケット側からの連絡が今だ来ていないが、きっとビスケットはビスケットで動くだろうという確信と共にオルガはシャトルに乗り込む。
同時刻イサリビの反応を捕らえたカルタはやる気に満ちていた。
「アリアドネに反応!エイハブ・ウェーブ確認。報告にあった船と一致しました!」
「まさか本当にくるとは。いえそれでこそよ!」
カルタのやる気に水を差すように目の前の画面にガエリオが姿を現し「カルタ」と呼び捨てるが、カルタの方は「カルタ司令」と少々強調する。
「参加させてあげたのだから我々の足を引っ張らぬようそれなりの働きをしなさい」
「分かって……います」
「それよりあの男はどうしたの?」
「あの男?」
「そっ……そんな鈍い事で今回の作戦が務まるの!? あの金髪の高慢ちきな……地位の為にしょんべん臭い子供なんぞと婚約した。いっつも前髪イジイジしている男の事よ!」
「相変わらずの物言いだ。マクギリスなら休暇中ですよ。地球でその子供と過ごしている」
「地球に?それで私になんの報告もなかったと?」
「直属の上司でもないあなたに報告する義務が?」
「ガエリオ!あなたも我ら地球外縁軌道統制統合艦隊をバカにするつもり!?」
「はっ?いやそのつもりは……」
「いい!? 成果を上げられなかったら承知しない。折檻が待っているわよ!」
「折檻!?折檻って何……」
「統制局の連中にお飾りだなんだといわれてきた私達……その真の実力をここで証明してあげる。我ら地球外縁軌道統制統合艦隊!」
「面壁九年!堅牢堅固!」
カルタの指示の下後ろでポーズを決める部下、右から二番目が少し遅れていることを鋭い一斉で指示する。
「さあ!ひねり潰してあげるわ!」
ユージン、チャド、ダンテの乗るイサリビは順調にアリアドネに補足されていた。
張り切るユージンの乗るイサリビはワザと補足され、同時にカルタは攻撃を開始していき、ユージンはブルワーズの旗艦を盾にしながら突っ込んでいく。
「船を盾にだと!? なんと野蛮な。両翼の艦隊を前に出しなさい!鶴翼に構え撃沈する!撃てぇい!」
イサリビは攻撃を最後まで捌き切ろうとしてみるのだが、捌き切れないダメージがイサリビに襲い来る。
「このままじゃブルワーズの船だってもたねぇぞ」
「そしたら次は俺達だ!もう仕掛けるしかねぇ!」
「まだだ!もっと突っ込ませんだよ!あいつに頼まれた仕事だぞ!チャド!前の船のコントロールもよこせ!」
「馬鹿言うなって!阿頼耶識で船を二隻も制御するなんて出来るわけが……」
「ここでカッコつけねぇでどうすんだよ!」
チャドは「どうなっても知らねぇぞ!」と言いながら二隻の船の制御をユージンにまわると同時に、ユージンの元に強烈な負荷が鼻血という形で現れる。
「見とけよ……お前ら!」
突っ込んで来ようとする船にカルタは砲撃を集中させる。
二隻の船の進路が別れ、ブルワーズの船の撃沈と共に周囲にナノラミネートチャフが播かれていく。
「光学照準が目標も完全にロスト!」
「LCS途絶。通信できません!」
「うろたえるな。全艦に光信号で通達。LCSを最大出力で全周囲に照射。同時に時限信管でミサイル発射。古臭いチャフなど焼き払いなさい!」
ミサイルの爆炎がチャフを焼き払う。
「LCS回復しました」
「まったく……さっさと位置の再特定急げ!よし。素早いのが取り柄のネズミでもこの短時間では何もできまい。どこだ?」
イサリビはナノミラーチャフで稼いだ時間で宇宙ステーションにぶつかり軌道を地球へと変更していく。
「グラズヘイム1より救難信号を受信!軌道マイナス2。このままでは地球に落下します!」
「モビルスーツ隊の出撃後救援に向かいなさい……!」
カルタは悔しさで表情を歪ませ、ユージンは離脱しながらも鼻血を流す。
「後は任せるぞお前ら……」
「ユージンやったな!」
「なあ……一つだけ………俺かっこいいか?」
ユージンの意識が途切れた頃、オルガ達はシャトルでの大気圏突入に動いており、オルガは去っていくイサリビの方を見る。
「最高にイカしてたぜユージン。ありがとな」
このまますんなり大気圏に突入できるかと思われたときに何処からともなくやってくる攻撃にシャトル内は不安な様子、しかしアインはシャトルを落とすために攻撃を仕掛けるのだが、カルタの方には更に最悪の情報が入っていた。
「別の企業から作戦宙域でのシャトル降下を行うので作戦を中止せよと!」
「今更!?」
「しかし、この作戦より前に決まっていたことらしく、統制局の指示です!」
その指示はアインやガエリオの下にも届くが、既に戦いは始まっており作戦を今更中止させることもできそうになかった。
タービンズのアジーとラフタも百錬を改装した『漏影』という名の機体で応援にあらわれており、複雑な戦局を見せている。
そんな状況で五隻のシャトルが作戦宙域内で降下を始めようとするのをアインは見つけ出した。
「まだ逃げようとするのか!?」
アインは容赦の無い攻撃をシャトルに向け、弾丸が一隻のシャトルに当たるのだが、一発程度で落ちるほどシャトルも弱くも無い。
「こちらは民間企業のシャトルである。ギャラルホルンであろうと一方的に攻撃を受ける権利は無い!この状況はしかるべき手段でギャラルホルンに通報させてもらう!そちらから攻撃をしてきたという事はこちらも防衛行動に移らせてもらう」
宣言と同時にシャトルの中からマルコシアスが姿を現し、アインのシュヴァルベに食いついてくる。
「新型!?お前達も火星ネズミの仲間か!」
「俺達は民間企業だったんだがな。先に仕掛けてきたのはそっちだ。死んでも後悔するなよ」
シュヴァルベはマルコシアスにライフルを向けるが、引き金を引くよりも早くマルコシアスはライフルを掴んでいた。
ならとワイヤーを使ってマルコシアスを捕らえようと試みるが、マルコシアスは隠し腕を使ってワイヤーを掴んでいく。
マルコシアスは掴んだワイヤーをシュヴァルベの拘束用に使用する。
「火星ネズミが!」
「俺は阿頼耶識を持っていないんだけど……盲目的になっているな」
「なら何故邪魔をする!?あいつらはクランク二尉を殺した!」
「本人が望んだことだ」
サブレの落ち着いた声がアインの心に小さくは無いダメージを与えた。
「クランク・ゼントは自らの死を望んだはずだ。あの男は死を望んでいたんじゃないのか?」
「そんなことは無い!」
「それはお前がそう思いたいことだ。彼は子供を殺す事がどうしてもできなかった。今のアンタの姿を見たら彼はどう思うかな?子供殺しの部下を持ったといえば……。自分の部下が自分の意思をまるで理解していないと知れば………」
「あ……!? ああ………!」
アインの心は素早く音をたてて壊れ始め、その状況にガエリオが素早く反応して見せた。
「アインから離れろ!」
三日月と戦闘していたはずのガエリオが三日月の戦闘をカルタの部下に任せ、マルコシアスに乗るサブレへと近づいていく。
サブレはマルコシアスで拘束しているアインのシュヴァルベを盾にする。
「それ以上近づけばこいつを殺す。お前達がここから離れるなら開放する」
「お前達が邪魔しなければいい事だ」
「言い訳にもなっていない。こちらは数日前から降下すると予定した場所で勝手に作戦行動を開始した。結局はお前もアリアンロッド艦隊と同レベルの悪党だったわけだ」
「くっ!あんな連中と一緒にするな!」
「そう思うなら撤退すればいい。どっちを選ぶ?部下を生かし、民間人を守る正義の軍人か、民間人も部下も殺す上司になるか………」
ガエリオに選択肢なんて存在しない。
アインを生かすためにもとるべき行動は一つしかなかった。
しかし、どんな理由であれど、カルタの部下もまたカルタからの指示が届いていない状況。
目の前にいるマルコシアスがアインのシュヴァルベを拘束する為に制止している状況が目に入れば襲い掛かるのは確実な事だった。
「火星人の命一つで敵を道連れにできるんだ!」
「よ、止せ!」
ガエリオの制止を聞かずカルタの部下はサブレへと攻撃を仕掛けるがサブレはとっさにアインのシュヴァルベを盾に攻撃を受け止めていた。
サブレ自身も咄嗟の事で特に意識していたわけじゃない。
アインのコックピットに深々と剣が突き刺さり、サブレはアインのシュヴァルベを手放しグレイズリッターにバスタードメイスを叩き込む。
意識の無くしたアイン。
ガエリオは心も体もダメージを受けてしまったアインを受け止めながら必死に呼びかける。
「アイン!返事をしろ!アイン!」
戦線を離脱していくガエリオとアイン。
それとは別に三日月達は大気圏を突破しながらカルタの部下との戦いを優先しているが、その内の一機が道連れ覚悟で攻撃を仕掛けていた。
しかし、三日月の前のメイス攻撃の前に敗北するが、同時に三日月は地球の重力に引かれていくので自然と逃げられない。
サブレが大気圏突破用の耐熱シールドを足場にして現れる。
「三日月、その機体を耐熱シールドにすれば耐えられるはずだ」
「あ、そっか。助かったよ。そっちも仕事?」
「お前達と同じ仕事だ。それより大気圏を突破したらシャトルまで一気に飛べ。いいな?」
サブレの指さす場所にあるシャトルの上には鉄華団のメンバーが三日月の無事を祈っている。
しかし、オルガにはデジャブに似た感覚が襲い掛かっていた。
地球に降下したオルガ達鉄華団の前にあらわれたのは亡命してきた蒔苗とフォートレスの代表であるマハラジャだった。オルガはマハラジャからガキ扱いを受けてしまう。ビスケットは兄であるサヴァランからのメールを受け取る中、積もり積もった感情をオルガに爆発させてしまう。
次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再第二十三話『相棒』