機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再 作:グランクラン
「久しいのうマハラジャ」
「仕事しに来てやったぞジジイ。おいビスケット、お前んとこの団長を爺さんの邸宅まで連れてきな。サブレ!お前も来るんだ」
俺が適当に「はいはい」と返事をしながらモビルスーツから降りてパイロットスーツから私服に着替える。
兄さんが森の中へと姿を消していき、絵里さんがシャトルから降りてくる。
「絵里さんもついてきていたんですね?」
「ええ、昭弘がいるらしいからね。久しぶりに会ってやりたいし」
まあ、分からないでもないけどさぁ。
俺としてはさっさと父さんについて行かないとこの島で迷子になりそうだった。
オルガは奇妙なデジャブに襲われており、そのデジャブはこの島に足を下ろしてからもまるで変わることは無い。
周囲がシャトルから荷物を降ろす作業の真っただ中でも、オルガは呆然としていた。
「オルガ!蒔苗って人がオルガを呼んでるよ!」
全員が声のした方向に振り向くとビスケットが心配した素振りで見下ろしており、みんながいっせいに駆け付けようとしている。
しかし、オルガの脳裏にはビスケットが亡くなる光景が鮮明なビジョンとして思い浮かんでいた。
「そんな……はずは」
蒔苗邸に向かっているオルガ達とは別に、昭弘達はフォートレスの人達と共に格納庫などでそれぞれの時間を費やしていた。
昭弘とシノが荷物を運んでいる最中、絵里の「昭弘」という声に昭弘自身が驚いていた。
「何年振りかね。幼いころに一度だけあったことがあるけど………私の事覚える?」
「………絵里おばさん?」
二人の感動の再開を前にして明楽が勢いよく昭弘に突っ込んでいく。
「昭弘お兄ちゃん!」
嬉しそうに昭弘の周りをはしゃぎ回る昭弘に困惑する昭弘、嬉しそうにしている絵里。
「あんたに会いたいってはしゃぎ回っていたのさ。この子お兄ちゃんが欲しいってうるさかったからね。昌弘は一緒じゃないのかい?生きているって聞いたけど?」
「はい。昌弘は上に………でも」
「そうかい。あんた達が生きているって知ったら死んだ姉さんも喜ぶよ」
シノはあえて口出しが出来ず遠くから見守ってやることしかできなかった。
蒔苗邸での話し合いはある意味混沌を極めようとしており、事のきっかけは蒔苗がアーブラウ議会から逃げ出してきたという一件だった。
さすがにショックを隠し切れなかったのはここまで必死にきたクーデリアであったが、オルガはどこかでこの話を聞いたことがある様な錯覚を覚えていた。
しかし、心の底からやってくる蒔苗への怒りだけは抑えきれなかった。
「ちょっと待て!それじゃ俺達は何の力も無いじいさんに会う為にこんなとこまでわざわざ来たってことなのか!?」
ビスケットはオルガを諫めようとするが、オルガ自身どうして自分がこんなにも興奮しているのかが分からなかった。
「落ち着けガキ。お前がここで怒鳴りつけた所で状況は好転せん。とゆうより、蒔苗が失脚して亡命中だと知らんお前達が悪い」
オルガは突然声を放つマハラジャの方を睨むが、マハラジャはどこ吹く風と特にその鋭い睨みに真正面から見つめて返す。
オルガは視線を咄嗟にそらし、蒔苗の方をじっと見つめるが蒔苗は髭を弄りながらどこか楽しそうにしている。
「お前さんはきちんと策があるのじゃろう?出なければお前さんが自らこの場所に姿を現さんからな」
「まあな、そこのガキとは違うんだ。きちんとした策をもってこの地に降りている」
ガキと言われることに苛立ちを覚えたのか、オルガはマハラジャの襟を強くつかんで右拳を殴る為に握りしめる。
しかし、殴るより早くサブレはナイフを抜き出してオルガの頸動脈を切る寸前まで突き出す。
「拳を下ろしてその手を放せ」
底冷えするサブレの声、オルガは鋭い睨みに怯んでしまった。
「サブレ……ナイフを下ろしてやれ。こんなガキのやる事に一々頭にきていたら時間がいくらあっても足りん」
「俺達は!」
「お前達とは言っていない。お前個人を指してガキだといったんだ」
言い争いにもならない醜いやり取り、サブレはあくまでもオルガに拳を下ろすようにと促し、オルガはその拳を下ろしながらそのまま怒りを抱えたまま部屋を出ていった。
「若い若い。昔のお主に似ておるかな?」
「蒔苗さんはこの男性をご存じなのですか?」
「無論じゃよ。儂が一番信頼しておる男じゃな」
マハラジャは胸ポケットから煙草を一本取り出し火をつけようとするところでサブレが「コホン」と席をする振りをする。
「まあいい。あのガキについてはこっちに任せてくれるな?お嬢さん型も手出し無用だ」
「しかし!団長さんに依頼したのは私で!」
「お嬢様。ここはこの男に任せておいた方が良いかと思います」
「そっちのメイドのお嬢さんに言う通りだ。こっちはこっちでうまくやるさ。あんたと違って俺達は実働が仕事だ。それに、あのガキがあのままじゃ俺達としても命を預ける事は出来ん」
マハラジャの言い分にクーデリアは黙る事しかできなかった。
ビスケットがオルガを追いかけようと立ち上がる瞬間、マハラジャが一枚のディスクを手渡した。
「お前の兄からだ。悪いが閲覧済みだ。お前のお兄さんは現在安心して火星に向かっている最中だ。それは安心しろ」
「サヴァラン兄さんの?」
「お前へのメッセージだ」
ビスケットはそれを手持ちの機器で再生しながら部屋を出ていった。
「あれを渡すんだ。父さんは地雷を二つも爆発させて何がしたいわけ?」
「別に………ガキを導いてやるのも大人のやる事だろ?お前は手を出すなよ」
サブレは部屋を出ていくマハラジャの背中をじっと見つめていた。
サヴァランのメールを見たビスケットは夜の海岸線の流木に腰掛けていると、後ろからオルガの声が聞こえてきた。
「俺達だけでやらないか?あのおっさんに手を借りなくても俺達だけでやれるだろ?蒔苗のじいさんが何を望んでんのかよく分かんないけどさぁ」
「帰ろう。目的はもう達したんだ。あとは皆で火星へ。テイワズに頼めば装備は無理でも俺達だけなら……」
オルガの脳裏に再びビスケットの死がビジョンという形で降りてきた。
(そんなはずねぇ!)
「それじゃダメだ。火星で細々やってるだけじゃ俺達はただのちょっと目端の利いたガキでしかねぇ。いずれまたいいように使われるだけだ。のし上がってみせるんだ。テイワズからも蒔苗のじじいからも奪えるものは全部奪って」
「止めてくれ!今のままでも十分じゃないか……仲間の事ももっと考えてくれ……」
「俺が仲間の事をかんがえてねぇってか?」
「そうじゃないか!いつもいつも三日月の目を見て決めて!みんなを危険にさらして!なんでそんなに生き急ごうとするんだ!?」
「皆の事を考えたうえで決めてんだ!俺達の将来を考えているからこそ!」
オルガだけが聞えたあのかもしれない。
オルガの耳に「ほんとに?」といい声が聞えた。
「ここで無理してまた誰かが死んだりしたらどうなる。こんなこと続けて将来も何も」
「決めたことだ!前に進む為にな!」
「だったら!だったら僕は……僕は鉄華団を降りる」
ビスケットは黙ってオルガから離れていった。
サブレはサヴァランからのメールの中身を知っていた。
「勝手なんだよ。今更『堅実』とか言われてもさ。そんなんだからあんなことになるんだろ?」
オルガとビスケットの言い争いを影ながら見守っており、こうなる事を予想もしていた。
しかし、マハラジャから手を出すなと言われている以上自分がここで勝手な事は出来ないが、サブレにとって面倒ごとは隣で話を同じく聞いていた三日月だった。
「行かないの?」
「父さんから手を出すなって言われているんだ。父さん達に作戦があるみたいだから黙って見守っているさ」
オルガは施設の方へと立ち去っていき、三日月とサブレはそれを黙って見守る。
「なあ、三日月。お前にとってオルガって何?」
「?……………なんだろう」
「これを機会に少し考えてみたらどうだ?お前にとってのオルガとは何なのか?それを知るだけで少し分かると思うぞ」
オルガが食堂に戻ってくるとそこにはマハラジャがコーヒーを飲みながら座り込んでいた。
オルガはバツが悪そうに視線を逸らして水道に右手を伸ばす。
「誰かとでも喧嘩したのか?顔に書いてあるぞ……ガキ」
苛立ちが再びオルガの頭のてっぺんにまで登ってくる。
「俺はガキじゃねぇ!」
「ガキだよ」
マハラジャの言葉に反応し襟を強くつかむ、しかしマハラジャは真直ぐオルガの目を見つめ返す。
「無い見栄を張り。仲間の為に危険な選択肢を取ろうとするのはお前が子供だからだ。大人として見られたい。早く大人になりたいとおもう反面、どうすれば大人になれるのかが分からないから年上に喧嘩を売り、大人のやる事を真似て生きる。はっきり言ってやろうお前じゃ名瀬・タービンにはなれん」
視線を逸らすオルガ。
「そうやって視線を逸らすのはお前自身が反論できないという証拠だ。ほら見ろ、お前が本当に大人だと、お前が俺より正しいと思うのならお前はきちんと反論出来るはずだ。でもしない。お前………夢ってあるのか?目標でもいいが?」
「俺達がのし上がる為に……」
「のし上がってどこに行く?世界を敵に回し続けて、何人の人間を敵に回し、何人を殺して、何人の仲間を犠牲にすれば納得できる場所に辿り着く?」
オルガは反論も言葉での指摘もできなかった。
「お前の目標は漠然とし過ぎている」
「じゃああんのか!? あんたは!」
「ある。俺の目標を叶えるためにはギャラルホルンを潰す。そして……友を殺す。それが俺の目標を叶えるための条件だ」
まっすぐな目。その奥にある闘志と覚悟。
オルガはこの目をまっすぐ見ても敵う気がしなかった。
だから目線を逸らし逃げてしまう。
「だったら………だったら俺はどうすればいいんだよ!!分かんねぇんだよ!目標も!夢だって!どこに行けばいいんだよ!」
まるですがるような言葉にマハラジャは初めて………手を出した。
右拳で殴られたオルガの体は反対側の壁まで吹っ飛んでいく。
「いいか?お前一人で大勢の命を背負えるほどお前は強いのか?お前自身の両手を何回仲間の血で染め上げればいいんだ?お前が目標を見つけ出したとき、本当に鉄華団は一つにまとまるんじゃないのか!? そのお前がフラフラと!情けない言葉を吐き出して、お前がしたいことはなんだ!? お前自身がまず決めることじゃないのか?そして、それを支えてくれる人間は誰だ!? お前のその両手をきちんと見てみろ」
オルガ自らの両手をジッと見つめ、思い浮かべるその思いにオルガは表情をゆがめていく。
「お前がどうしたいのか……相棒ときちんと話し合ってきな」
「どうしたの?ションボリした顔して………」
「ソニアさん?いいえ……そのオルガと喧嘩しちゃって」
白衣を着て膝を付いて整備されているアガレスを見上げるソニアに話しかけられたビスケット、ソニアは笑顔で返す。
「もっと穏やかな道だってあるはずなのに………いつだって生き急いだように……」
「そうだね。でもね。彼もまた必死なんじゃないかしら?見えない未来に怯えて、分からない選択肢に迷いながら歩いている子供よ。だから大人の前に無い見栄張って、あなた達に誇れる『オルガ・イルカ』であろうとしているんじゃない?」
「だったら相談してくれてもいいのに」
「だから出来ないんでしょ?彼は仲間と一緒にいるつもりでも、本当の意味で一緒にはいないんだと思うよ」
「え?」
「あなたもそうだけど。皆「オルガなら何とかしてくれる」って信頼感がない?」
黙り込むビスケット、今までの事を思い出していく。
「信頼感は大事よ。でもね、行き過ぎればそれは押しつけと一緒。自分がやる事は自分で決めないとね。あなたはどうしたいの………フフ」
ビスケットは両目から大粒の涙を流していた。
「俺………オルガに…酷い事………」
「若いっていいわね。そう思うんなら………あなたがいまするべきこと、これからあなたが『オルガ・イルカ』という少年の為に出来る事は何?」
「仲直りをする事………一緒に歩く事」
「そうね。じゃあ行ってきなさい!あなた達子供尻拭い位きちんとしてあげるから」
ビスケットは海岸で座り込んでいると後ろからオルガが姿を現した。
「よぉビスケット」
「あオルガ」
二人で海岸で座りながら黙り込んでしまう。
どちらが言い出すきっかけを探しだし、同時に声を出した途端二人は腹を抱えて笑ってしまった。
「悪かったなビスケット」
「僕もごめんねオルガ」
やっと心から謝ることができた二人、笑い終えたオルガは星空を眺めながら大きくため息を吐き出す。
「すげぇよな………あんなおっさん達が世界を相手に商売しているんだぜ。俺達はその足元でウロチョロしているタダのガキだ。こんなんじゃ俺達『ガキ』だって言われてもおかしくねぇよ」
「でも………いずれは大きくなっていくんだろ?このままじゃ終れない」
「そうだよな……なぁビスケット。俺な。この島にきてからお前が死ぬ夢を見たんだ。いや……デジャブだな。なんかそなるような気がした。怖かったんだ。お前が止めて助かるならそれでいいんじゃないかって思った。でもさ、そうやって逃げてばりじゃ行けねぇんだよな」
勢いよく立ち上がるオルガ。
「俺……火星をもっともっと盛り上げてぇ。そしてさ火星で生まれたことを、火星で育ったことを誇れるような場所にしたい!手伝ってくれよ」
「………うん!」
「俺達が揃えばきっと運命だって超えていけるさ!」
相棒と共にひたすら前に歩いていく。
オルガ達鉄華団の前に外縁軌道艦隊のカルタ・イシューが立ちふさがる。マハラジャに頭を下げてでも共闘を願い出るオルガとビスケット。万全の備えをもって立ちふさがる彼らの前にカルタが立ちふさがる。そんな中アガレスはその真価を発揮する!
次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再大二十四話『別の未来へ』