機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再 作:グランクラン
タービンズから参加しているエーコを含めて大急ぎでモビルスーツやモビルワーカーの支度が進んで行き、ソニアは一人最終チャックが進むアガレスを見上げていた。
アガレスのバックパックには追加の大型コンテナのような物が積まれており、アガレスのツインアイは点滅を続けている。
時を同じくして話し合っていたオルガとビスケットは海岸から二人話し合いながら戻ってきている最中、施設の中は慌ただしい様子であり、二人は急いで施設の中へと入っていく。
するとマハラジャが廊下を横切ろうとしている真っ最中で、ビスケットが話しかけると二人の方に体を向けた。
「何があったんですか!?」
「お前達が戦ったカルタ・イシューが部隊を展開させていてな、要求内容はお前達とクーデリア・藍那・バーンスタインと蒔苗だ」
二人としては今すぐ襲い掛かってくるとは思ってもみなかった状況、正直フォートレスとの足並みが取れていない状況で一緒に戦うとなるとパイロット同士ギクシャクするかもしれないという不安があった。
「これはチャンスだぞ。相手がわざわざ揚陸艇を用意してくれるんだからな、これ以上なくチャンスだ。後はお前さん達次第だな」
ここでオルガが意地を張ればフォートレスは手伝ってくれないだろうし、ここで意地を張らなければ団員が納得しないだろう。
ビスケットが不安視している部分でもある。
三日月がサブレと一緒に事の成り行きを見守っていると、オルガは黙って頭を深々と下げる。
「今まですいませんでした!俺達を助けてください!」
オルガは今までの非礼を頭を下げる事で詫び、他の団員が見ている前で初めて意地やプライドを捨てた。
ビスケットも同じく頭を下げてお願いするその姿勢に他の団員が不安そうに近づいて辞めさせるべきかと悩み始める。
「サブレ!モビルスーツのチェックを急がせるようにソニアに告げておけ、絵里には食事を人数分きっちり用意させておけ、今回はオルガ・イルカとビスケットと一緒に作戦を立てる。俺がこいつらの分の報酬を三倍にするように交渉しておく間に最低限の作戦を立てておくように」
「その全てを俺一人でやれと?」
サブレは少々不思議そうな表情をしてみる。
「そこに隠れている三日月と一緒に行けばいいだろう」
「「えぇ~」」
「お前達………良いから黙って仕事に行け!!どうせモビルスーツに乗るまで暇だろう」
「待ってくれよ。三日月はともかくとして、俺は兄さんとの同調で時間取られるんだけど?」
「どうせ三十分ぐらいだろ!いいからいけ!」
二人は不満タップリの表情でトボトボと歩き出していく、三日月が黙って従っているその姿を見ていると他の団員も「やるか」という気持ちで行動を始める。
「ビスケットはおやっさんを呼んできてくれるか?俺は他の奴らに一通り声を掛けてくる」
「分かった。作戦だけど……オルガの夢の話は俺達だけの秘密にしておいた方が良いと思うんだ。最低でもサブレと三日月程度にとどめておいた方が良いと思う」
「そうだな……夢の通りに行くとは思わねぇしな……」
「だね。サブレでも止めると思うよ。不確定要素にしかならないし……あくまでもオルガの夢をベースにして作戦をたてよう」
あれから一時間サブレは会議室に重要メンバーを集め、ホワイトボードに細かい作戦を記載している。
「さて……作戦を告げるわけだけど……不満や意見は作戦終了後に五秒だけ設けてやる」
明楽が小声で「それって事実上意見は聞かないって事じゃ」と真実に気が付いたが、サブレは黙って黒ペンを明楽の額めがけて投げつけた。
明楽……ノックアウト!
「モビルスーツ隊は海岸から上陸隊と宇宙からの部隊の相手だ、モビルワーカー隊は蒔苗邸を中心に敵揚陸艇からおりてくるモビルワーカーの駆逐が目的だ。一機も取り逃がしてはいけない。モビルスーツ隊は第一陣はジョシュアの援護をしつつ上陸する敵モビルスーツ隊の撃退。配置はアジー機、ラフタ機、昭弘機、シノ機だ。第一陣の隊長期はアジーさんが担当。第二陣は滑走路で待機する。こっちは降りてくるモビルスーツの相手だ。第二陣は直接カルタの部隊を相手にすることになる。気を引き締めておけよ。俺と兄さんの乗るアガレスを隊長機とし、三日月機と明楽機をつける」
サブレが一気に説明する中、気絶している明楽に一瞬だけだが全員が向く。
「「「話聞いていないけど………大丈夫?」」」
「さて………モビルスーツ隊の総隊長は兄さんが、モビルワーカー隊の総隊長はオルガに担当してもらう。第二陣の指揮は直接俺が取る。モビルワーカー隊の作戦はオルガから直接聞いてくれ」
「先輩!私どうすればいいんですか?」
「ジョシュアの機体には予め耐海水用コーティングをかけておく、これはもうソニアが作業を始めているはずだ。敵モビルスーツと戦艦が展開する前にひっそりと潜水して待機、アガレスの閃光弾で一気に上空へ飛翔、そのまま戦艦へと攻撃を仕掛けながら戦ってもらう」
エーコが大きく前のめりに立ち上がった。
「耐海水用コーティングなんてあるんですか?ぜひ見せて欲しいです!」
「良いですけど?ソニアに言えば見せてくれるはずです。ちなみにマルコシアスと一緒に持ってきた『あの機体』は使わない」
一部が不満そうにしており、その不満をシノが代表して口を出し始めた。
「オルガ!本当に手を組むのかよ!俺達で出来るんじゃねぇのか!?」
ライドなど一部は黙って頷くが、雪之丞やアトラなどは決して意見を言うことも無い。
「この人たちの実力は確かだ。それは俺達がよく知っていることだろ?」
「でもよぉ!三日月も何とか言えよ!!」
「俺は不満は無いよ。俺達だけで戦うよりずっと良いし………」
三日月は特に不満は無いようなそぶりを見せる。
そこに勇気をもって一言を言い出したのはタカキだった。
「俺は!団長の一言に賛成です!ここで皆死なないように戦うためにはこの人たちの力を借りるべきだと思います!プライドを張って………そんなんで死んで何か意味があるんですか!?」
オルガは黙ってマハラジャの方を見る。
マハラジャは黙っているが、マハラジャだけが知っていた事であるが、タカキはオルガとの会話を聞いてしまっていた。オルガが何に悩み、自分達がオルガに対してどういう感情を持っていたのかを。
この瞬間をシチュエーションするための下準備、鉄華団の意識を変革させるための準備だった。
「俺達はまだまだガキだ。だけどいつか俺達は火星で一番大きな組織にする!火星で生まれ育ったことを誇りに思えるような場所にして見せる!それが……」
気恥ずかしさが込み上げてくる。
「それがお前の目標か?」
「………はい。これが俺達の目標です。俺の……夢です。こいつらが誇りに思えるような場所を作る!」
「いい夢だ。サブレ………きっちり支えてやれよ」
サブレは小さな声で「了解」と呟いた。
ステンジャとという名前の艦長は空母の中で作戦時刻を待っていた。
「ステンジャ艦長。降伏勧告の刻限を過ぎました」
「そうでなくてはな。これで火星に散った我が弟オーリス・ステンジャの敵が取れるというものだ。全艦に通達。掃討作戦を開始する。カルタ様に戦場に花を添えよ!」
戦艦からの攻撃で島全体に火の手が上り始めていき、三日月はバルバトスを立ち上がらせていた。
足元はヒールのような装備に変わっており、武器コンテナを探しているとその途中にアガレス用にと用意されたレンチメイスを発見した。
「これでいいか……」
そんなことを言いながら武器を拾って最前線へ向かい、サブレはコックピット内で大きなため息を吐いていた。
ビスケットはどこか申し訳なさそうにしながら、頭にまるでゴーグルのような装置を付けている。
「はぁ………本当に」
「本当にごめんなさい。初めての同調で緊張しちゃって」
「そういう問題か?頭の中が十八禁で一杯一杯になって………そんなに一緒に泊まった女の裸体が大事ですか?」
「本当にごめんなさい!」
ビスケットの方を振り向くとビスケットが帽子をしていないという事に気が付いてしまった。
「帽子どうしたの?」
「タカキに上げたよ。オルガの隣にいる自分は帽子で隠れるような自分で在りたくないから」
「そっか………帽子取ったら髪薄く感じるね」
「え!?今なんて言った?」
サブレはビスケットの言葉を無視しながら黙って戦場に向かう為にレンチメイスを探すがどうしても見つからない。
その代りに三日月が持っていくはずの刀がコンテナ内に置かれている。
また大きなため息を吐きながら刀を持って戦場に、青空を火力で埋め尽くされ、作戦が既に始まっていることに気が付いたサブレは砲台を黙って敵艦体の上空に向けて引き金を引く。
閃光弾が放射線状に飛んでいき、戦艦の上空で弾けて眩い光となした。
その瞬間ジョシュアの乗るフェネクスはマントを外し、海水からものすごい勢いで上昇を始める。
「エイハブ・リアクター反応場所は…………真下!?」
それが彼らの最後の言葉になった。
フェネクスの強靭な翼は戦艦を真っ二つに切り裂き、フェネクスの体は上空に海水を吹き飛ばすように姿を現した。
戦艦の混乱をよそに、モビルスーツ隊が次々と発艦していくが、それの邪魔をするようにフェネクスが飛行形態で海面ギリギリを襲ってくる。
完全にモビルスーツ隊は混乱を極め、前方から襲ってくる火力とフェネクスの連係プレイに全員が混乱していく。
「昭弘、そこから船は狙えるの?」
ビスケットの言葉に昭弘は「やってみる」と言って射撃するが、思いっきり外してしまう。その姿をサブレは「へたくそ」とヤジを飛ばす。
「地上では重力や大気の影響を強く受ける。何やってるんだが」
アジーから不満がやってくる上、ラフタも「ちゃんと狙えバカ!」と言われる始末。三日月の「最初に撃った感覚が残ってるだろ?」とのアドバイスを元に撃ち直す。
「俺このスナイパーライフルで撃てる気がしねぇよ」
シノが不満げにしながらもやってくるモビルスーツを一つ一つ迎撃していき、その後ろでサブレはコックピット内でラジカセを動かし始める。
大音量で鳴らせば指揮に影響が出ると音量を落としながらコックピット内にジャズ音楽を鳴らし始める。
「宇宙にいる部隊が降り始めた!皆構えて!」
「間違っても今は撃つなよ。耐熱シールドを下に敷いて降りてくるんだ。撃ってもダメージにならないぞ。各機散開!」
降りてくるモビルスーツ隊からの攻撃をきっちりかわしながらサブレは「プランA」と指示を出す。
三日月と明楽がアガレスの前に立ちふさがる。
「まずは敵の出方を見るぞ。兄さんはアガレスに記憶させるのを忘れないように」
現場を見ながら指示を飛ばすサブレ。
カルタの部隊が降り立つと全員が七機のモビルスーツが綺麗に並び始めるのを黙ってみていたサブレの操作で、アガレスのバックパックに備え付けてあるランチャーが火を噴いた。
「我ら!地球外縁軌道統制統合艦隊!面壁九年!堅牢堅固!」
サブレが撃った弾丸がもろに右から二番目の機体に着弾した。
「まさか戦場でカッコをつける馬鹿野郎がいるとは思わなかったな。さすがお飾り艦隊。噂以上だな」
明楽が爆笑している間にカルタは怒りで震えていた。
「なんと………不作法な!圏外圏の野蛮人に鉄の裁きを下す!」
カルタと共に敵モビルスーツが真正面からやってくるのをサブレはため息お共に不満を吐き出しそうになる。
明楽のアンドロマリウスは強靭な拳で一機を吹き飛ばし、三日月とサブレは機体を土台にして真後ろに移動する。
「カルタ様!我らの陣が!」
混戦状態に移行するのにそこまで時間は掛からなかった。
「サブレ、上陸したモビルワーカー隊が蒔苗邸にまっすぐ向かってる」
「そっちはオルガに任せる。他は?」
「海上からやってくるモビルスーツは上陸する前に叩けているね。ジョシュアさんがかく乱してくれているお陰だね」
「だろうな。それぐらいしてもらわなくちゃ困る。問題はこっちがどれだけ早く決着をつけられるかだ」
サブレとビスケットの乗るアガレスは一歩下がった立場から戦場を全体を見ており、アガレスの広範囲索敵システム『ウァサゴ』で戦場全体を調べながら戦い全体をコントロールしていく。
アガレスは黙って敵機の情報を検索し、やってくる敵にだけ黙って相手をするという作業が続いている。
蒔苗邸で戦っているモビルワーカー隊は迫りくる敵に苦戦を強いられていた。
「よく我慢したお前ら。敵の誘い込みは成功だ。退くぞ」
「団長。ビスケットさん達は大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だ!ミカだっているんだ。信頼してやらねぇとな。タカキだってその帽子を託されたんだろ?」
モビルワーカーの操縦をしているタカキは黙って帽子を触る。
オルガは双眼鏡で蒔苗邸の方をじっと眺め、爆弾のリモコンに指を置く、ギャラルホルンが誰かに連絡を取りながら蒔苗邸で捜索をしているところを狙ってオルガは爆弾のリモコンのスイッチを押した。
「良し!俺達はこのまま揚陸艇の確保をしてくれているライドたちの部隊に合流だ!」
「はい!」
オルガが肩に冷たい物を感じた。
「何だ?水?」
雨が降り始めようとしていた。
雨が降っている。
カルタは焦りを感じていた。
海上から侵入する部隊は艦事叩き落され、自分と一緒に侵入した部隊もカルタを除いて三機になってしまった。
「明楽!そこは爆弾を仕掛けたはずだろ!」
明楽が「ヤバ!」と言いながら後退し、爆弾の爆発に巻き込まれる形でまた一機が大破してしまった。
しかし、カルタはその声をばっちり聞いていた。
「カルタ様!あの黒い機体が敵のリーダー機です!ここは我々が押さえます!」
カルタはアガレスに向かって機体を走らせ、三日月と明楽は二機のモビルスーツに足止めを食う。
しかし、この状況もサブレとビスケットの予測通り。
アガレスは瞬時にカルタの戦闘データから演算した予測演算結果を映像という形でサブレに見せる。
カルタが放つ剣の振り下ろし攻撃をギリギリまで引き付けつつ回避、そのまま流れるような速度で剣をカルタのコックピットに差し込む。
その動作はまるで鞘に剣を片付けるように滑らかに、一切の無駄の無く隙の無い攻撃だった。
それを見ていたほぼ全員が唖然としてしまうのはおかしなことではなかった。
「「カルタ様!!」」
サブレの冷めきった感覚をビスケットは怯えながら感じていた。
(何?この感覚………どうしてこんなに寒いの?)
「これで一人目。一族よ。鉄血のオルフェンズの祖先よ。裏切り者に救いを………」
この小声はビスケットだけが聞いていたが、アガレスの後方から何かが近づいている事に気が付いたビスケット、サブレは黙ってそっちにカメラを向ける。
そこには海上を恐ろしい速度で近づいてくるキマリスが居た。
「カルタぁ!!」
サブレはカルタの機体から刀を抜き、機体の隙間からカルタの状態が見えたが、胴体を横から縦に真っ二つにされている。
即死だろうと感じてサブレは一旦カルタ機から離れていく。
ガエリオは咆哮を上げながらカルタの機体を回収する。
向かい合うキマリスとアガレス。
カルタの部下二名もカルタの側に寄り添う形で近づき、アガレスを守るようにバルバトスとアンドロマリウスが立ちふさがった。
一触即発の雰囲気の中ガエリオは部隊の全滅を確認した後黙って撤退していく。
「カルタ………すまない」
彼女は既に返事が出来ない体になっていた。
オルガがモビルワーカーから降り、揚陸艇で脱出の準備をしている真っ最中だった。
雨で体中が冷えていき、クーデリアはフミタンが差す傘の中へ、アトラも一緒にいれてもらい、タカキ達はモビルスーツ隊の戦局がどうしても気になっていた。
マハラジャと蒔苗だけは余裕たっぷりの表情でいたが、その余裕に答えるようにモビルスーツが一機、また一機と近づいてくる。
最後にアガレスが姿を現すとオルガは大きな安堵の息を漏らした。
「行こう!……オルガ!」
「ああ!行くぞ!お前ら!!」
彼らは別の未来へと歩き出す。
まだ見ぬ白紙の未来へと。
オルガはまだ見ぬ未来へと歩き出した。アガレスも又今回手に入れたデータをもとに新しいシュミレーターを開始する。目的地であるエドモントンへと目指すオルガ達。しかし、アトラとビスケットはどこか奇妙な間が存在していく中、アトラは三日月との関係に破綻が訪れる。
次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再第二十五話『愛シテイマス』