機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再 作:グランクラン
ビスケットは頭を悩ませるような状況に追い込まれていた。
アトラは三日月に対して怒りを滲ませ、シノとライドは顔に「やらかした」と書いてあるような気がするし、キッチンで何かを調理しているサブレはそもそも興味すらない様な表情をしている。
何よりアトラがビスケットの右腕に絡みついて離そうとはせず、三日月は何で自分が怒られているのかがよく分かっていない様な表情をしている。
いや、三日月は本当の意味ではまるで理解していなかった。
何故自分が怒られているのか、アトラが何に怒っていいるのかをまるで理解できていない。
「要するに三日月は私はビスケットとお似合いだって言いたいんだよね!?」
「うん。お似合いだと思うよ。アトラとビスケットなら幸せな家庭が築けそうだなって思うし」
ビスケットは怖くてアトラの表情を見る事が出来なかったが、アトラの顔が見えてしまうシノたちの顔が真っ青に染まっていくのが見えたので相当怒りを表情に浮かべているのが想像できた。
内心どうしても考えてしまう。
(どうしてこんなことに………?)
全ての切っ掛けを話し始めたらきりがないが、ビスケットはここ数日アトラと気まずい関係を続けており、その理由はアトラとビスケットがサブレの自宅に泊まってしまったのが理由だった。
二人は少々危ない一夜を共にし、下手をすれば一線を越えかねない状況だった。
一緒にお風呂に入り、その後半裸で一夜をベットで共にする。
明らかに危ない関係だったし、サブレからも誤解を受けそうになってしまった。
それについてはお互いに反省しているし、お互いに謝って終わった話だが、そう簡単に割り切れる事では無かった。
なんだかんだあり、戦いを挟んだ結果気まずい関係に拍車をかける結果になった。
その結果ビスケットはアトラに話しかけずらい状況が完成し、それ故に食堂に行かないようにしていた。
それが、食堂で起きていたあの事態をビスケットは阻止できなかったきっかけになった。
全ての切っ掛けはシノとライドが話していたどの女性が一番好みか、なんて言うビスケットからすれば話そのものが馬鹿らしい内容だったが、本人達は意外と真剣に語り合っており、それ故に本人達はアトラが物陰に隠れており、食堂にいるという事に気が付かなった。
そんな時、食堂で食べていた三日月にシノが話を振った。
「お前はクーデリアさんとアトラどっちが好みなんだ?」
三日月には特別好みという考え方は無かっただろうし、だから別段考えることは無かったが、シノたちの返答に対して少々困った顔をした。
そんな中シノの「クーデリアさんの方がボンキュッボンだろ!?」なんて言うものだから、三日月の中で「クーデリアの方がいいんだ」という考え方が浮かんだ。
その結果三日月は「じゃあクーデリア」というのだが、サブレはその時マハラジャから頼まれたうなぎを焼いている最中、下にいたアトラに視線を移した。
そこには体を震わせるアトラの姿があった。
「三日月は私よりクーデリアさんが良いの!?」
アトラ怒りの登場。
「え?」
「じゃあ三日月は私と誰がくっつけば納得いくの?」
「う~ん………ビスケットかな?」
シノ達の顔に「空気読め!」と書いてあるのだが、そういう空気や雰囲気を読めないことで有名な三日月、アトラは顔を真っ赤にしたり、三日月への怒りなんかで態度がおかしくなっていく。
「でも、アトラはビスケットが好きでしょ?」
全員が心の中で「何でそうなる!?」と叫びそうになり、一触即発の雰囲気の中これまたタイミング悪くビスケットが入室した。
なんとなくの雰囲気を感じ取り、嫌な予感やアトラに対して合わせる顔が無いビスケットは逃げ出そうとするのだが、それ以上の速度でアトラがビスケットの腕をつかんでいた。
そして現在に至る。
ビスケットは表情で「助けて」とサブレの方を見るが、完全無視を決め込んでいる。
「後になって私と付き合っておけばよかったって言っても遅いからね!」
「う、うん」
特に何とも思っていない様な表情を浮かべる三日月に怒りを見せるアトラはそのままビスケットを連れて食堂から出ていった。
ビスケットとアトラは食堂から離れた廊下の突き当りで一旦止まる。
「アトラ? 三日月も決して本気だったわけじゃないんだよ? 周囲からああ言われちゃったからああいっただけで」
「分かってる。でも……嘘でも言って欲しくなかった」
アトラの気持ちが最低限でもよく分かる。
好きな人にたとえ嘘でもあんな風に言って欲しくなかったし、そういう鈍感な所があるとアトラ自身知っていた所だった。
「お、俺から言っておこうか? 多分三日月も俺かオルガが言えば反省すると思うし、シノ達にも俺達から叱っておくよ」
「ねえ、ビスケットは私の事が嫌いなの!?」
「ええ!? いきなり何の話?」
「良いから答えてよ」
「す、好きだよ」
アトラはビスケットの右手を恋人繋ぎで手を握りしめ、「じゃあこれでいいの」とビスケットに語り掛ける。
「で、でも………」
「ビスケットは私の事が好きなんでしょ? 私もビスケットの事好きだし。これでいいの………ねえ、ビスケットと私が初めて会った時の事覚えてる?」
「うん。確か女将さんのお手伝いでCGSに配達に来たんだよね?」
「その時私女将さんに止めておけって言われたのに三日月を探しに行って………一軍の人達に囲まれていた所をビスケットに助けられた。でも、その次の日会いに行ったとき、ビスケットは顔に殴られた跡があったとね? あれ……私を庇ったせいなんだよね? 団長さんから聞いた」
「そっか………アトラ気にするかなって」
「気にするよ! でも教えて欲しかった。じゃないと………今になってこんな気持ちになることだって無かったもん」
アトラがこの話を知ったのはここ最近の話だった。
オルガからその話を聞き始めて知ったアトラの中にビスケットへの恋心が目覚めた。
それは明らかに遅い恋心で、三日月への想いに比べたら小さいのかもしれなかったが、確かに存在する思い。
サブレの家に泊まった時アトラはその気持ちを確かめたかった。
自分の中に存在する恋心。
三日月の事を今でも好きだし、ビスケットの事も好きになってしまった。
だからビスケットの裸を思い出しては赤面するし、一緒に寝たと思うと興奮してしまって眠れない。
三日月が優しくすると熱くなるし、手伝ってくれると嬉しいという感情が生まれる。
大小なんて無いのだとようやく気が付いた。
でも、どっちかをはっきり決めることなんてアトラにはできなかった。
だって、どっちに好きだから。
だから自分から言い出す事が出来なかったが、三日月とビスケットに違いがあるとすればそういう機微が分かるかどうかだと思った。
ビスケットはずっと知っていた。
アトラは三日月が好きなのだと、だから自分が告白するわけにはいかないと思い踏みとどまった。
「私………」
アトラが顔を真っ赤にしている姿を見てビスケットはようやくアトラの本心に気が付いた。
『嫌いな奴と一緒にお風呂入ったり、一緒のベットに入って寝たりできないと思うけどね』
(そうだね。サブレの言う通りだった)
サブレと一緒に地球に行くシャトルに乗り込むとき、サブレから言われた通りだった。
ビスケットは「ここは男らしく俺から」なんて思いながらアトラの方に顔を向ける。
「俺………アトラの事が好きです! 付き合ってください」
「! …………うん!」
サブレは頼まれていたうな重を父親であるマハラジャに渡し、その足でソニアから頼まれていた戦闘シュミレーションをこなしした後、コックピットをでた所でモビルワーカーを見上げるタカキの姿を見かけた。
特にどう思ったわけでもないが、右手に握りしめられた元々ビスケットが被っていた帽子や、哀愁を感じさせる背中を見ていると放っておけなくなった。
「どうした? 訓練なら勝手にしても怒られないと思うぞ」
「え? そういう訳じゃ………ただこの先やって聞けるのかって不安で、皆ドンドンうまくなっていくし、俺なんかがこの先団長を乗せて守り切れるのかって」
かつての失敗を気にしていて、ビスケットから託された帽子を被る覚悟もやってこないタカキ、不安はいつだって彼を襲い掛かってくる。
「不安を払拭したいのなら努力するしかない。どれだけ努力しても足りないんだ。不安や周囲からくる期待、目的に向かう為には努力するしかない。必死になって勉強し、必死になって訓練する。そうすることでしか払拭できないんだ」
「あなたにもありますか?」
「あるさ。俺が戦う目的、俺が周囲から感じる期待に答える為にも努力するしかないんだ。生きていればいくらでも挑戦することは出来るはずだ。お前は生きている。それ以上に必要な事があるのか?」
「努力するしかない………三日月さんみたいになれますか?」
「無理だな。あれはあれで特別な人間だ。でも、お前がああなる必要はないだろ? お前にしかない才能を見付けて伸ばせばいいんだよ。何もお前が三日月になる必要はない」
「でも………皆三日月さんに憧れていて、みんながあんな風になりたいって」
「それこそ幻想だな。俺はなりたいと思わないけどな。言っておくが、そんな三日月は俺に負けたんだぞ? それこそ三日月だって万能や完全からは程遠いという意味じゃないのか? だからこそ人間ていうのはお互いに弱点を補い合い、補完し合う事が出来るんだ。お前が成りたいのは三日月のように戦える人間なのか、それとも誰かを支える人間になるのか? どっちだ?」
タカキは俯きながら少しだけ考え込む。
「俺になれますか?」
「成れるさ。人を支える人間になりたいと真剣に思い、その為に努力を重ねる事が出来るのなら成れる。少なくとも三日月になるよりは確実になれるさ」
「俺………頑張ってみます!」
そう言ってタカキはサブレの元から立ち去っていき、サブレは格納庫へと戻っていく道すがらオルガを見かけた。
「悪かったな…うちの団員が迷惑をかけた」
「あの程度の迷惑なら可愛い物だな。でも、良くも悪くもこの鉄華団は三日月が中心に居るな。ある意味危うい状況だ」
「その辺はうちの今後の課題だな。それより、意外だったな、お前にも目標があるだな。なんか誰よりも大人びて見えるけどな」
「そう見えるなら俺の目的が後ろめたい気持ちからくる目的だからだな。オルガ達のように前向きじゃないからじゃないか?」
「お前の目的って?」
サブレは立ち止まりオルガの方を振り返り、オルガもそれに合わせるように立ち止まる。
「ギャラルホルンを壊滅させて、裏切り者を粛正する事。俺達の一族や、かつての仲間達を裏切り世界の覇権を握りしめ、多くの人を犠牲にしてでも自分達の私腹を肥やそうとする奴らに裏切りの代償を支払わせる。それが俺とアガレスの戦う理由だ」
「それって………セブンスターズに戦いを挑むって事か?」
「殺すって意味さ。一人残らずぶち殺す」
「それが幼い子供でもか?」
「それがはるか昔に交わされた契約でもある。それを果たす為にもアガレスとグリフォン家が存在しているんだ。俺達がこの世界で唯一ギャラルホルンを裁くことができる人間でもある。それにこれはセブンスターズやギャラルホルンの貴族たちの祖先が一度認めた内容だ。これを破る事が許されない」
「なんかわかった気がするぜ。お前達が戦う理由っていうのが………まっすぐな理由が。お前達はある意味真直ぐなんだな」
オルガのまっすぐな問いに対してサブレある数字『七十五』と揚げて見せた。
「この数字が何を指すのか分かるか?」
「いいや、何なんだ?」
「俺達フォートレスを支えている財政界や政治家や企業の数だ。これでも数は完全に信頼できる人間に限っている。大半は企業だから実際の数はかなり多い。地球圏にいる人間の半分以上は俺達フォートレスに投資をしている。その目的は……」
「ギャラルホルンの壊滅……か。そいつら皆が望んでいるんだな」
「そういう人たちというのは厄祭戦の際に亡くなったガンダムのパイロットたちの遺族や親戚の血縁者だ。父さんはああいっているが、最近はアガレスが見つかったこともあり、今の経済圏でもギャラルホルンを裁けるとあってほぼ皆が「ギャラルホルンとの戦争」を望んでいるんだ」
抑えきれないほどの怒りの渦。
それはフォートレスに「早く戦え」や「早く一族の悲願を!」と願う者達の声として襲い掛かってくる。
「だからこそ戦力になりそうな組織は積極的に勧誘するし、自分達の意にそぐわない組織は情報を漏らす前に滅ぼすようにしている。これの意味がオルガなら分かるだろ?」
「俺達は試されているってわけだ」
「そう言う事さ。もう戦争は避けられないんだよ」
オルガの目の前にいるサブレ、オルガには目の前にいる少年の背中に大きすぎる物を背負っているように見えた。
それは一人の少年が背負うにはあまりにも重たすぎる宿命。
それでもそれから決して逃げず、自らの一族の宿命にたった一人で果たそうとする。
「嫌になったろ? 面倒に感じたろ? なら今からでも避ければいいさ。父さんだってオルガ達が裏切るわけじゃないと知れば本気で粛清しようとは思わないさ。それでも……兄さんだけは引き抜くとは思うけどな。あの人がいないとアガレスの真価アガレスの真価は発揮できないわけだしな」
「俺達は一度信じた人間から今更逃げるつもりはないぜ。それに………俺はお前がそんなに悪い人間には見えないしな」
サブレは大きなため息を吐き出しながら「好きにすれば」と言いながら立ち去っていく。
「それに………お前達のお陰で俺達がいるんだ。今更裏切れねぇし、義理を返せたとも思えてねぇしな。少しだけ分かった気がする。お前達の戦う本当の理由ってやつが」
オルガは立ち去っていくその後姿を見ながら肌寒さを感じていた。
極寒地に辿り着いたオルガ達鉄華団はフォートレスからの補給を受ける事に。一方その頃カルタを殺されたガエリオは鉄華団への復讐に燃え始める。その裏で暗躍するマクギリスの思考を読むフォートレスはマクギリスの計画を利用して自らの目的を達しようとしていた。お互いの思惑を交えたまま列車は静かにエドモントンへと向かって行った。
次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再第二十六話『暗躍と復讐』