機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再 作:グランクラン
鉄華団とギャラルホルンが交戦を初めてはや三日、エドモントンへの侵入を防ぐギャラルホルンと侵入を果たしたい鉄華団の戦いは平行線を描いていた。
エドモントン郊外の平原での戦い、鉄華団の犠牲は次第に募っていき、決定打を打てずにいる中、メリビットなどの一部の者達には不安が高まっているような状況だった。
モビルスーツ部隊はビスケットとサブレの指揮の元、疲弊が少なく済んでいるが問題はモビルワーカー隊である。
ギャラルホルンは基地からの補充が効くが、補充のきかない鉄華団は適度に撤退に追い込まれている状況。
問題なのはエドモントンへと侵入する唯一の道である橋を完全に抑えられている事だが、ギャラホルンも選挙の終了までは下手に進撃できない状況が続いていた。
もどかしい時間が過ぎ去り、モビルスーツ部隊にも多少だが疲弊が高まりつつあるような状況が続いていた。
「ああもう! また逃げた!」
ラフタの悲鳴のように聞こえる声にアジーが感心したように呟く。
「乱戦になったら不利だって学習したんだね。向こうもよくやってる」
「敵を褒めんな!」
「私達もよくやっているよ。もう三日もここで耐えている。これもあの兄弟の采配のお陰だね。でも……」
「うん……モビルワーカーは限界に近いかもね」
サブレとタブレットを片手に操作をし、ビスケットはその後ろで大きく息を吐き出す。
首に巻いたタオルで汗を拭うビスケット、そんな中ビスケットはサブレが覗いているタブレットが気になってしまった。
「どうしたの?」
「川の水位が下がってきている。この調子でいけばモビルワーカー……いや、車ぐらいなら通れそうだな」
「そうだけど。モビルワーカー隊を犠牲にする必要が……」
「犠牲の無い勝利はありえないと思うけどね。でも、そろそろ決めたいのは事実なんだ。向こうからだとガエリオが次の戦いの準備をしているらしいし」
ビスケットが黙り込んでしまう。
ビスケットとしてはこれ以上犠牲が出るような戦いはしたくないが、このままでは勝ち目がないのも事実。
予想以上にモビルワーカー隊が疲弊してしまった。
ビスケットはサブレに「オルガに会ってくる」とアガレスから飛び降る。
サブレにもビスケットの言いたいことも分かるが、しかし、ここで犠牲を出す以外に勝利の方法がないのも事実。
躊躇していたら勝てない。
同じ時、マハラジャは一人煙草を吸いながら格納庫に隠している青いハンマーを背負ったガンダムフェイスのモビルスーツを見上げる。
「そろそろ俺も出るか………これに乗るのも久しぶりだな」
ガンダムフェイスには『ガンダムパイモン』と書かれていた。
慌ただしく整備の時間が過ぎる中、ビスケットはオルガの元へと駆け寄っていく。
「オルガ時間は?」
「もうあまり時間はねぇ。次が最後のチャンスだ」
「川の水位が下がってきている。今なら……」
「俺もそれしかねぇと思ったが、モビルワーカー隊を犠牲にするしかねぇ」
こればかりはビスケットもこれ以上意見を押し通すわけにはいかないし、二人で黙り込んでいると三日月からの連絡が入った。
「オルガもビスケットも俺達に賭けてみなよ。俺もみんなも賭けてるよ。最初っからね」
サブレは笑いながら操縦桿を優しく触れる。
これが最後の戦い、どれだけ悔やんでも最後になる。
「ありがとなミカ」
「聞いてくれ。もう時間がねぇ。うまくいこうがいくまいが次が最後の作戦だ。メリビットさん。あんたは負傷した奴らを連れてここから離脱してくれ」
「え? それは…」
「そして、お前達には囮としてギャラルホルンを全力で引き付けてもらう。正直無茶苦茶な作戦だ。だが目的を達成するために今俺達が考えられる唯一の手だ。もしこの作戦に乗れねぇんなら、負傷した奴らと一緒に引いてくれて構わねぇ。乗ってくれるなら……お前らの命って名前のチップをこの作戦に賭けてくれ!」
メリビットが何か言おうと前に進み出るが、それをビスケットが首を横に振って拒否する。
もう作戦が無い。
ここで引けば今までの犠牲が無駄になる。
何より更に多くの犠牲者を出す事になる。
「俺達が前に進む為に………鉄華団が未来に大きな花を咲かせるために今ここでお前らの命をくれ!」
その様子をマハラジャが遠くから見守っていた。
「その命俺達で拾ってやるか………なあサブレ」
「そうだね」
「全く……手のかかる子供を持つと苦労する」
マハラジャは煙草を吸いながら通信機越しに喋っているサブレに対して「ククク」とどこか楽しそうに笑う。
しかし、それでいた本当に仕方なさそうな表情をする。
「そう思うんなら今からでも手を切る?」
「まさか……やっと来た悪魔を狩るチャンスだぞ。ここを逃せば作戦が十年以上長引く。俺達は希望と恨まれた者達なのさ。悪魔を狩るまでは……止まれない」
クーデリアが車の助手席に乗り込むと、隣の運転席にアトラが乗り込んだ。
ビスケットがアトラの足元にあるアクセルやハンドルをアトラ用に調整し、クーデリアはその様子を驚きながら見ていた。
「アトラさん!? なんで…?」
「戦う人の手が足りないんで運転は私がします」
「アトラは危険な事はしないでね? クーデリアさん多分大丈夫ですからアトラをよろしくお願いします」
「もう! 私がクーデリアさんを守るの!」
「彼氏としてはアトラが心配というか……」
急に訪れる二人だけの時間に戸惑うクーデリア、そんな中フミタンが助手席の窓から顔を覗かせる。
「フミタンは来ないの?」
「申し訳ありませんお嬢様。作戦が成功した時の為に私もしておきたいことがあるので」
「……分かったわ。でも」
そう言ってクーデリアはフミタンのポケットからフミタンが付けようとしなかったペンダントを首につける。
「いつでも一緒よ」
「ええ。行ってらっしゃいませ」
アトラがアクセルを勢い良く踏み、後部座席に座っていた蒔苗がニコニコと笑い、クーデリアは真剣な面持ちで立ち去っていく。
「フミタンさん。例の件お願いします」
「分かりました。では…」
立ち去っていくフミタンを見送り、ビスケットはアガレスへと急ぐ。
敵陣地に奇襲をかけるという作戦はサブレが立案した。
その理由としては混乱中の敵なら撤退が出来ないという理由と、これ以上モビルワーカー隊の補充をさせるわけにもいかなかったからだ。
一つでも数を減らそうと三日月が突っ込んでいこうとしたところでガエリオのキマリストルーパーが進路の妨害に現れた。
「カルタ。任せてくれ。お前の無念は俺が晴らして見せる。そして、ギャラルホルンの未来を俺達の手に!」
「間違った未来を手に入れてどうなる? お前達の存在が間違いだというのに」
ガエリオの前にサブレとビスケットが乗るアガレスが立ちふさがった。
レンチメイスを両手で装備し、背中には念の為にと刀も装備しておく。
「我々が間違っていると!?」
「そうだよ。お前達ギャラルホルンは悪魔と呼ばれた者達さ。お前は子供ゆえにそれを知らない」
「悪魔はお前達だ!」
「お前の乗っている機体もまた悪魔なのにか? それを何故否定する? 悪魔を否定するならお前達の行いを否定している事と同じだ!」
アガレスとキマリスがぶつかり合う中、エドモントン前の橋での戦闘は苛烈を見せており、橋の下を降りて進もうとするオルガ達が見えても戦いがまともに終われないだろうことは分かっていた。
タカキは橋の方が先に終るのではと懸念するが、ここで停まって引けば全てが無駄になるとあえて突き進もうとする。
ノイズが掛かったような音声の周波数にオルガにとって懐かしい声が聞こえてきた。
「ようオルガ! ヒーローのお出ましだ!」
「その声は……ユージン!? どうしてここに!」
「ビスケットがおおよその進路を告げてくれたからな。作戦のタイミングもあいつが教えてくれたぜ! 最も、通信できるようになったのはフミタンさんがドローンを打ち上げてくれたからだけどな」
ビスケットとフミタンが予め手を打ってくれていたことに感謝しかなかった。
「敵は俺達で引き受ける! 行けよオルガ!」
「よし! ……行くぞ!」
時を同じくしてモビルスーツ隊は混戦の状況になりつつある中、見たことの無いグレイズタイプが奇襲を仕掛けてきた。
アジーがあっという間にやられてしまい、そのままラフタとシノがやられてしまう。
戦場にはガンダムタイプだけが残っていた。
「ユーリス・ステンジャ。お前達はモビルワーカー隊の援護に向かえ!」
「昭弘と明楽は敵モビルスーツをこれ以上先に行かせるな。それと………ジョシュア! お前は……」
サブレは意図的にガエリオに聞こえるように命令を下す。
「施設内にいる人間を……皆殺しにしろ!」
「き、貴様!! 卑怯だぞ!」
「何が卑怯なんだ? ここは戦場で、お前達は皆兵士だ。いつまで子供っぽい正義感で戦うつもりなんだ! 勝つつもりなら俺を見ていればいい。三日月はその気持ち悪いモビルスーツを!」
しかし、内心あのモビルスーツの気持ち悪さに吐き気を覚えているのは事実、何か違和感を覚えながら取っ組み合いになっていると、ガエリオの声がかすかに聞こえてきた。
「お前達はここで終わりだ! あれこそ阿頼耶識の本来の姿! モビルスーツと一体化を果たしたアインの覚悟はまがい物のお前達を凌駕する!」
その声を聴いたサブレの心からどす黒い感情がアガレスと共に溢れ出ていく。
「ふざけるな!!! 貴様はあの禁忌に手を触れたのか!? お前達はいくつ罪を重ねれば気がすむ!?」
ガエリオはその憤怒のような怒りに怯えを見せた。
「もう止まらないぞ! 完全な阿頼耶識を生半可な知識で再生させればどうなるのか!?」
実際アインは敵を失った状態から真直ぐにシノ機の通信機からモビルワーカー隊のからクーデリアの状況を聞いていた。
「モビルスーツ隊聞こえるか!? オルガとクーデリア達は市街地に入ったぞ!」
「ク…ク…クーデリア・藍那・バーンスタイン!」
アインはクーデリアを追いかける為にエドモントンへと急ぐ。
「待て! アイン!」
「もう聞こえやしない! 完全な阿頼耶識は完全な戦闘能力を再現する代償に生半可な知識で使えば思考能力を大幅に削られる! これが阿頼耶識が時代と共に封印された理由だ! お前はお前の判断で民間人に被害を出そうとしているんだぞ!」
「ア、アインがそんな事をするわけが!」
「己のした行いから逃げるな! お前がしたんだ! これはお前の罪だ!」
「マクギリスとよく話し合って決めたことだ!!」
「………今なんて言った? マクギリスだと?」
腹の底から怒りが溢れ出ていき、同時に目の前にいるガエリオがどうしようもなく哀れに見えた。
「要するにお前は操り人形だったわけだ」
「何を!? なんだ?」
サブレとガエリオの間に赤いモビルスーツが立ちふさがった。
会議が始まるか始まらないかの瀬戸際、信号が停止しているのを市街地に侵入した全員が目撃していた。
「団長! LCSを除く全ての通信が切断、レーダーも消えました!これって……!」
「正気か!? 奴等こんな街中にモビルスーツだと!?」
アイングレイズが立ちふさがるが、明らかな命令違反行為に何よりも動揺したのはギャラルホルンだった。
しかし、アインは記憶と意識が混雑とした状況の中暴走状態に移行している。
「そうだ…思い出しました。俺はあなたの命令に従いクーデリア・藍那・バーンスタインを捕獲しなければならなかった!」
「私がクーデリア・藍那・バーンスタインです! 私に御用がおありですか!」
「ああこんな所にいたのですね。CGSまでお迎えに上がったのですが……こちらについてくださればクランク二尉が死ぬことも無かった! そもそもあなたが独立運動などと…ああ、そうかあなたの所為でクランク二尉は…」
「私の行動の所為で多くの犠牲が生まれました! しかし、だからこそ私はもう立ち止まれない!」
「その思い上がり……この私が正す!」
剣を振り下ろそうとするアインの目の前に三日月のバルバトスが立ちふさがった。
「オルガ無事!?」
「ビスケットか?」
「フミタンさんがあちらこちらでドローンを上げてくれてる。今のうちに議会に!」
オルガは立ち上がって三人をモビルワーカーの上に乗り込ませる。
「助かった!爺さんのことはこっちに任せろ!ミカ、ビスケット、サブレ、昭弘、ユージン!そっちは全部お前らに任せるぞ!」
「「「ああ!任された!!」」
エドモント攻防戦は激しさを増してき、新たなアイングレイズが襲い掛かろうするなか戦いは周辺へと向かう。物語は誰も知らぬ未来へと向かって突き進む。
次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再大二十八話『鉄華団』