機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再 作:グランクラン
エドモントンで行われていたギャラルホルンと鉄華団の戦いから翌日、鉄華団の多くのメンバーは病院へと搬送され怪我をしていない者は数日の間休暇を貰う事になった。
オルガはクーデリアやメリビットと共に蒔苗の元へ今回の仕事の料金の相談に向かうと朝早くに出ていったが、ビスケットも当初はついて行こうとしたが、オルガはビスケットにも休息を言い渡した。
昨日モビルスーツやモビルワーカーで戦ったメンバーの大半は病院送りになったが一部は未だに元気よく動き回っている。
しかし、ビスケットは今朝のニュースを見てどうしても内心納得できない気持ちを抱き、アトラと一緒にした食事にもイマイチテンションが上がらなかった。
そのニュースというのもアフリカン・ユニオンで反政府デモが行われ、議長が引退に追い込まれたそうで、その内容もドルトコロニーで行われた反政府運動に対するギャラルホルンの行動が問題視されていたからだ。
この反政府運動をギャラルホルンが政府と繋がっていたのではと疑われ、新議長は反ギャラルホルンを訴え掛け、先ほど蒔苗の元にコンタクトが来ていた。
ビスケットはあまりにもフォートレスにとっての都合のいい展開に悩みを抱いてしまっている。
この戦いを含めて実は全部がフォートレスが裏で仕組んでいる事なのでは、そう思ってしまうと素直に勝利を喜べなかったりする。
ホテルからフラフラと歩き出して大きな通りを歩いていると、真っ青な空と雲が空一杯に見えてきて、人のいない通りはまるでこの街がゴーストタウンなのではと思わせてくれる。
朝食を殆ど呆けながら食べていたのでお昼を前にしてビスケットのお腹がグゥ~と音を鳴らしている。
「お腹空いたなぁ~、何か食べようかなぁ」
昼食まであと少しだと思うとここで食べてしまうのもどうかと思ったし、クッキーやクラッカにお土産だって買わなければならない状態、なのにそれすら考えられ無いぐらいビスケットは考え込んでいた。
結局川岸までやってきて、上から川を覗き込んでいる時、近くの防衛軍相手に会話をしている弟のサブレを発見し、そっと近づいていく。
するとまるでビスケットが近づいていくのが分かっていたかのように会話を打ち切って振り返るサブレ。
「どうしたの?」
サブレのそんな言い方に少しだけムッとしており、ビスケットは明らかに不機嫌になってしまうが、サブレはそんな事とはお構いなしに川岸へと更に降りていく。
「どうしたのかはこっちのセリフだよ。ねえ……聞いてもいい?」
「俺の仕事の邪魔をしないって約束するならな」
ビスケットはサブレが仕事をしているという事を初めて聞いたのだが、サブレは川へと近づくと橋下を覗き込んだ。
何もない橋下、特に変わった様子もない橋下へと歩いて行くサブレは一本のローブを見つけ出した。
「これだな……」
「それなに? 何をしているの?」
サブレはビスケットの方をちらりと見て、「まあいいか」と呟く。
「昨日イズナリオが自殺した後の夜中に、一人の子供が行方不明になったんだ。誰かが連れ去ったらしくて、其の人物はどういう訳かイズナリオの血液を採取して消えたらしい」
「その人物がこの川を下っていった?」
「その可能性が高いだけだけどな。今この辺りでこの街から出ていく手段が他にない以上はここ以外に無いと感じていた所だ」
「そういえば明楽君とジョシュアちゃんはどうしたの?」
「あの二人は父さんからの指示でうちの証拠潰しをしているところだよ。何せ市街地で暴れ回った奴が二名ほどいるからな」
ビスケットはその内の一人が身内なので何も言えない気分になってしまった。
昨日三日月は市街地に侵入したアイン・ダルトンが駆るグレイズ・アイン相手に暴れ回り、その結果現在ニュースはどこもギャラルホルンの暴走の記事で一杯一杯になっている。
「そうだ! 聞きたいことがあるんだ! さっき…」
「さっきニュースで見ていたアフリカン・ユニオンのニュースにフォートレスは関わっているのか? だろ? 答えはイエス。あれはうちの仕業だ。と言ってもうちは唆しただけで、実際の実行役は別にいる。俺達や兄さん達はその作戦が上手くいくための陽動役だ」
「陽動?」
「ギャラルホルンは暴動の鎮圧さえもモビルスーツやモビルワーカーを使いかねなかったからな。でも、それ以外の所でモビルスーツを大量動員しなくてはいけない事態になれば目はそっちに行くだろ? 本来暴動っていうのは防衛軍が解決すべき問題だからな」
「そ、それで……僕たちを陽動役に!? 成功したからいいけど下手をすれば…!」
「成功すると感じたからこそ父さんは鉄華団に賭けると決めたんだ。勝てない見込みの無い勝負はしない人だよ」
勝てると分かったからこそマハラジャはこの作戦に乗ったとサブレは説明しながら川岸から離れていくと、ビスケットのお腹から「お腹が空きました」っという声が聞えてきた気がした。
「素直なお腹だな。全く……この近くにラーメン屋さんがあった気がするからそこで食べるか?」
「ら、らーめんやさん? 何?」
聞きなれないお店の名前に首を傾げていると、サブレの案内の元に進んで行くと路地裏にひっそりと構える露店を見付けた。
サブレについて入っていくと露店から漂う醤油ラーメンの匂いにビスケットのお腹が響きまくっている。
サブレが注文したラーメンが目の前に出てくるとビスケットは見慣れない食べ物に悪戦苦闘しながら食する。
お腹いっぱいになったわけでもないが、それでも妙に満たされた気持ちになったビスケットだが、この際キチンと聞いておきたい事が存在していた。
それはサブレ達フォートレスの今後の予定である。
「俺達は当分は大人しくしているつもりだよ。まあ、パーティーとかには参加するとは思うけど」
「パーティー?」
「俺達フォートレスは反ギャラルホルン運動を名目に動く組織だ。その運動の協賛する出資者が多くて出資者が開催するパーティーに参加する事があるんだ。何? 参加したいの?」
「べ、別に…」
そんな珍しいパーティーに参加したいとは思わなかったが、しかし少しだけ悔しいと感じているのは確か。
「まあ……教えてやる事なら少しだけ…蒔苗とアフリカン・ユニオンの新議長の会談が近日中に始まり、ギャラルホルンに対して軍備縮小と部隊の小規模化を訴え掛けるはずだ。手始めにギャラルホルンが独占しているエイハブ・リアクターの独占解除を訴えるはずだ」
「それに乗ると思う?」
「乗る。乗るというよりは乗らざる終えない。ギャラルホルン最強を訴えるアリアンロッド艦隊が問題を起こしたんだ。その上セブンスターズの一角が犯罪行為を行い、その上自殺をしたとなれば問題はギャラルホルン全体で解決しないと周囲へのけじめにもならない」
「だからって乗るかな」
「勿論セブンスターズの一部は嫌がるだろうが、それでもそれ以外に解決方法が存在しない上に、アーブラウ政府とアフリカン・ユニオン政府からすれば自分達の政治内容に入り込んだ罪を裁きたいはず。それでなくてはイシュー家の跡継ぎがいなくなり、ファリド家とエリオン家とクジャン家が問題行動を起こした以上は反対する事が出来なくなる。まあ、粘るだろうけどな。それでも半年から一年ほどで実行に移される」
「な、なるほど…」
「アリアンロッド艦隊は当信頼を得る為に意図的にコロニー中で問題を起こし、それを解決していくはずだ。うちはその裏で奴らの不正の証拠を少しずつ押さえていく。その陰で俺達はギャラルホルンから奪ったエイハブ・リアクターの製造権を使ってモビルスーツを大量配備する。そこで……兄さん達の出番だ。俺達は『ある男』を捕まえる」
「ラスタルの腹心?」
オルガは一人マハラジャの元へと赴いていた。
今回の任務を解決できた裏には間違いなくマハラジャたちの協力があってこそ、だが同時に今回フォートレスに作ってしまった借りをまとめて支払う為に、しかし、マハラジャは「いい」と言って金の受け入れを拒否した。
「そのラスタルの腹心が二年後に行動に移すから俺達に協力という事ですか?」
「そうだ……奴はここ最近俺の周りを探っていたからな、俺達フォートレスが動くわけにはいかないんだ。お前達は今回の一件で大きく目立っているうえ、ラスタルからすれば蒔苗は驚異のはずだ。必ず動く。それは今直ぐじゃない。二年後以降には動くから、その時お前達を使いたい」
「……要するに俺達を利用するってわけか」
「いやか? 嫌なら断ってもいい。その代り膨大な料金をせしめるというだけさ」
「嫌なんて言っていないさ。むしろ俺達を信頼してくれているって事だろ? 受けるさ。まあビスケットに相談してからだけどな」
マハラジャは「ならいい」と言って煙草に手を伸ばす。
「俺達は当面はここで事後処理をするが、お前達はどうする」
「怪我の治療が終わり次第出立します。もうここでの俺達の仕事は存在しないですから」
「そうか…なら見送りぐらいはしてやるか」
鉄華団が駅で待機状態が続いていると、ユージン達はボーと話していた。
「俺ら本当に帰るんだな」
ユージン達が話し込んでいると買い物を終えたビスケットが近づいてくる。
「お疲れ様? ユージン、何か問題あった? 俺がいない間」
「特にねぇよ。ビスケット、お前こそクッキーとクラッカへのお土産は買えたのか?」
「うん、おかげでね。シノはジッとしてなくていいの?」
「大丈夫だよ。それより、死んじまった奴らの事報告してやらねぇとな。泣く奴らだっているだろうし……がんばれよユージン」
「はぁ!? ざけんな!」
「俺がするよ。そういうのは俺の仕事だし」
「ダメだ! なんでもかんでも背負おうとするんじゃねぇよ!」
そこでライドが何でもなさそうな顔をしながら近づいてくる。
「じゃあ、俺が言っちゃおっか?」
「ダメだ! ダメだ! っていうかお前はおとなしくしてろ!」
「大丈夫だって……このぐら!」
なんでもなさそうな表情を浮かべるライドの後ろから気配を消して近づいていくサブレ。
サブレが後ろから傷口をつつく。
「何すんだよ!」
「怪我してんだからおとなしくしてろって。そういう報告はユージンの仕事なんだから」
「そうそう……ってちょっとまて! お前ら俺にやらせようとしてねぇか!?」
「そういえばオルガは?」
「向こうだよ」
ビスケットは持っていた買い物袋をサブレに預けてしまう。
ビスケットはオルガがいる方へと歩き出す。
オルガは降りてきていた名瀬と会っていた。
「兄貴。いろいろ迷惑をおかけしました」
「何言ってる。お前らはきっちり仕事をしたんだ。胸を張れよ。お前いつか俺に言った言葉は嘘だったのか? 『訳も分からねぇ命令で仲間が無駄死にさせられんのは御免だ。あいつらの死に場所は鉄華団の団長として』」
「俺が…作る……」
「あいつらはお前の作った場所で散っていった。胸を張れよ。今を生きている奴の為に」
「大丈夫ですよ。一緒に支えてくれる奴がいますから」
オルガが向けた視線の先を名瀬も見ると、そこには心配そうに歩いてくるビスケットの姿があった。名瀬はすべてを理解し、背中を強く叩く。
「だったら行ってやれ! 相棒が待ってるぜ」
オルガの元気のいい「はい!」という言葉に表情が緩む名瀬の前にマハラジャが現れた。
「色男。近々お前の所のボスに会いに行くからよろしく頼むな」
「………うちのボスもあんたに会いたがっていたよ」
二人はこそこそと話す姿を見ていたオルガとビスケットはその場から後にした。
「もう良いの?」
「いいんだ。それよりそろそろ行こうぜ」
オルガとビスケットは列車に乗り込む前に団員を集めた。
「みんなよく頑張ってくれた。鉄華団としての初仕事、お前らのおかげでやりきることができた。けどなここで終わりじゃねぇぞ。俺たちはもっともっとでっかくなる!」
「ゆっくりとね」
ビスケットがさりげなくフォローする。
「けどまあ次の仕事まで間がある。お前らの成功祝のボーナスは期待しとけよ! ビスケットが算出してくれてるからな!」
皆が話し込んでいるとアトラはビスケットにとお守りを手渡す。
「私達は家族ですから。三日月ももう無理をしてはいけませんよ」
「そっちももう泣くなよ。この腕じゃ抱けないから」
「そうですね……では」
クーデリアは三日月をそっと抱きしめた。
「なにこれ?」
「帰ったら一杯話をしましょう。三日月」
「うん…」
オルガとビスケットと三日月が話していると、サブレがタカキと一緒にやってきた。
「オルガ。タカキ達が写真を撮ってるんだけど。成功祝いで一枚どう?」
「いいんじゃねぇか? なぁ?」
「俺はいいや」
三日月がそばから離れようとするのをオルガが襟をつかんで引き寄せる。
「ダメだ! サブレ!」
「了解」
「さ、サブレ? 何を」
「兄さんが詰めないと俺が入れないだろ?」
サブレがビスケットを押すと、オルガはビスケットに腕をかけ、逃げないようにしていると、タカキが写真を撮った。
四人が一緒に笑った写真を———
帰って来たオルガ達鉄華団。打ち上げをする事に頭が向かっているオルガ達だが、ビスケット達グリフォン家は多少ギクシャクしてしまっていた。そんな中サブレも仕事を終えて帰還するが…? クッキーとクラッカは兄妹の中を取り持とうと奮闘することに。
次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再外伝一話『グリフォン家の受難』