機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再 作:グランクラン
グリフォン家の受難
クッキーとクラッカは現在困り果てていた。
ビスケット達鉄華団が帰ってきてからはて一か月が経過しており、宴をしたいという気持ちを抑えてオルガ達鉄華団は仕事に勤しんできた。
というのもサブレ達フォートレスが帰ってきてから焼肉パーティーをすると楽しみにしていたからだ。
名瀬達も参加するという事もあり、本人達はそれまで仕事をしようという話になったが、ビスケット達のように家族がいる人達は家族の元に帰省するよう命令が下り、結果ビスケットは帰ってきたわけだが、先に帰ってきていたサヴァランとの間に微妙な距離感が生まれてしまった。
というのもビスケット自身ゴタゴタがあったせいで忘れかけていた事だが、サヴァランがドルトでアトラやクーデリアにしようとしたことを決して忘れたわけではない。
しかし、それはサヴァランとて同じことだった。
結果から見ればビスケットがしたことはドルトのスラムに生きる人達を見殺しにしたこと、その上生きろと勝手に決めつけたことは未だにサヴァランの心に深く残っている。
お互いに納得が出来ない状態だが、それは逆に言えば二人に取って起きてしまった出来事は決して無視できない範囲の事であったが、それを口実に殴り合いの喧嘩なんて出来なかった。
というか殴り合いの喧嘩になればサヴァランが勝てない事なんてサヴァラン自身がよく知っている事だし、兄を殴りたくないというのはビスケット自身の本音である。
だからこそ異様なほど静まり返った黙する喧嘩というべき状態になったわけだが、それを本気で困った状態だと思っていたのは二人の妹である。
一緒に過ごす事は楽しいし、兄が増えたこと素直に嬉しかったが、それ以上にこの二人の異様な空気が二人の妹には耐えがたい事だった。
何があったのか聞きたかったが、それを聞いても二人はまともに答えてくれなかった。
結果二人の妹でもどうしようもない状況に祖母に期待をかけたが、祖母は二人の問題だからとあまり手を出そうとしなかった。
そんな中やってきたサブレと父代わりであるマハラジャが帰ってくるという話にクッキーとクラッカは仄かな期待をかけていた。
マハラジャは非常にご機嫌だった。
サブレと共に両手一杯に買ってきたお土産をクッキーとクラッカに渡す際の二人の笑顔を想像するだけでウキウキしてしまう。
ジュリエッタもサブレもある程度大きくなると直ぐにツンツンするようになり、そういう意味ではクッキーとクラッカの幼いデレは今まで感じたことも無いほどに快感であった。
だからこそ二人になんでも買ってあげたいという感情の高まりはサブレに最大値の呆れを与えていた。
そんな時家の前に車を止め、家の中に入ろとすると家の中からクッキーとクラッカが家から出てくるのが見えた。
マハラジャが寄って行こうとすると気が付いて二人の妹は父親目掛けて走り出していく。
そのまま抱きしめるマハラジャは心の中で「これだよ」と快感に満ちていた。
基本デレない二人の子供達と比べての思いにサブレは多少の苛立ちを覚えている。
しかし、その先二人の妹から出てきた言葉は二人にとって予想外の言葉だった。
「「お兄ちゃん達を何とかして!」」
「任せて置け!」
「軽く受けるな! ちゃんと聞いてから受けろよ!」
サブレがきちんとツッコんでから二人の妹から詳しい事情を聴いた。
「要するにあの二人が水面下で喧嘩していると……ガキじゃあるまいに」
サブレが面倒なと思いながらそう呆れていると、マハラジャは少しだけ考え込む。
「あの二人の喧嘩の切っ掛けは……」
「ドルトコロニーで起きたあの事件でしょ? 引きずっているんだよ。いい加減忘れてしまえばいいのに」
「お兄ちゃん達は何で喧嘩しているの?」
「………価値観の違いかな。お互いに守りたいと思う者が違ったって話。それで喧嘩して」
内心くだらないと本気で思うサブレ。
サブレはそういう事を引きずらないようにしている。
「お前だけだろ。仲直り……私やお前達の祖母が言えばすぐだろうが、表面的な仲直りなんて意味が無いだろうしな」
「そうだね。それで良いのならお祖母ちゃんが手を打つはずだし。それをしなかったというのはしたくなかったのが理由だろうしね」
「そうだな。今日は焼肉パーティーだ、できればそれまでに仲直りしてほしいが………む」
サブレはマハラジャの目が怪しく輝いたのが見て取れ、本能が逃げた方が良いと告げるとそのまま回れ右して逃げようとするが、それより早くマハラジャがサブレの右腕を強めに掴んだ。
「サブレ………逃げるな」
焼肉パーティーが午後から桜の家の前で行われると分かっていても、それでもビスケットとサヴァランの気持ちはまるで晴れなかった。
これじゃいけないと分かっていても、それでもまるで行動として起きないのは自分がいつまでも幼いからなんじゃないかと思ってしまうビスケット。
結局の所で午前中はパジャマ姿でうろうろしてしまい、二人の妹がどこかに出かけていることにも気が付かなったほど。
これじゃいけないとずっと悩んでいたが、それでも兄に何を言えばいいのかまるで分からなかった。
だって、ビスケットは自分が悪い事をしたという気持ちはあまり感じていなかったし、むしろ兄には自分達を大事にしてほしいと感じていた。
サヴァランからすれば自分が過ごしてきたドルトのスラム街を大切にしたかったという気持ちは非常に大きく、それをある意味踏みにじったビスケットを多少形許せなかった。
しかし、同時にサヴァランにはビスケットが大切にしているものを踏みにじったという気持ちは多少形は存在しており、結果動けない。
分かっているのだ。
自分達はお互いに譲れない物の為に対立してしまったという事でしか無い。
サブレのように多少なり切り替えが出来ればいいのだが、ビスケットとサヴァランはずっと引きずっている。
そんな時だった。夕方になっているのだと気が付いたころにはアトラの元気のいい声がビスケットの耳もとにも聞えてきた。
「ビスケット! もう焼肉パーティー始まっているよ」
その声に誘われて外に出ていくと三日月やヤマギたちが野菜だけを食べようとして、それをアトラやシノたちが肉も食うようにと諭している現場だった。
皆がはしゃぎ回っており、中には肉の取り合いをしている者達まで居る始末。
しかし、そんな中ビスケットは端っこの方で一人座っている兄サヴァランを見つけ出した。
近くに寄っていくべきなのかと悩んでいると、足元にハロが近づいてくる。
「勇気出セ! 勇気出セ!」
「そうだね………仲直りしないとね」
ビスケットのハロは仲直りをしろと足元で五月蠅く叫んでおり、ビスケットは兄サヴァランへと近づいていく。
近づいても何を話していいモノかどうかがどうしても分からなかった。
ビスケットもサヴァランも何を話していいのかと少し間が開いてしまうとクッキーとクラッカが自分のハロを連れながら大きなケーキを持って現れた。
その後ろからサブレが自分のハロを引き連れているが、サブレの腕の中には人一倍大きなハロが抱えられていた。
「お兄ちゃん! はいプレゼント!」
そう言ってクッキーとクラッカが代表してサブレを前に連れ出し、サブレは代表してハロをサヴァランにあげた。
「サブレお兄に頼んで作ってもらったの! これで私達兄妹お揃いだね!」
サヴァランのハロは控えめに見上げるだけだが、そのハロにサブレのハロが追い打ちをかけるように追いかける。
それから逃げるように追いかけっこが始まるグリフォン家のハロ達。
「これはクッキーとクラッカからのプレゼント! アトラと一緒に作ったんだよ。食べよ」
差し出されるケーキを受け取ったビスケットとサヴァランは自分達が兄妹にどれだけ心配をかけていたのかを思い知った。
それこそがマハラジャの狙いでもある。
サブレやクッキーとクラッカがお手製の『何か』をプレゼントすればあの二人は考えを改めるのでは?と進言したのだ。
「兄さん……ごめんなさい。でも、俺にとってアトラもクーデリアも大切な人なんだ! それを差し出すのは」
サヴァランだって本当は分かっていた。
でも、認めたくなかっただけ。
「認めたくなかったんだ。故郷だったスラム街をお前達を見捨てて私は上にのし上がった。ここで見捨てれば……」
サブレが近づいていく。
「考えすぎだ。スラム街の人達は自分の為に戦っただけだろ? 兄さんを一方的にさ。俺達を優先して欲しいね。家族だろ? 俺や兄さんはいいよ。でも……クッキーやクラッカぐらいには償いをしてほしいね。あの二人は俺達を知らないわけだし。それとも新しい父さんに全ても持っていかれてもいいの?」
マハラジャは持ってきた新しい洋服を両手に持ち、二人に似合うかと試している現場を目の当たりにしてしまった。
サブレはずっと気が付いていた事だが、マハラジャがどうにもクッキーとクラッカをお気に入りにしてしまっている事に。
過保護な二人の兄は急いでマハラジャの元へと歩いて行く。
サブレはその後姿を微笑みながら見守っていた。
結局の所で喧嘩なんて些細な事で簡単に終わるもので、まだ休暇が続ているビスケット兄さんの方はゆっくりと過ごしている。
サヴァラン兄さんの方はクリュセの方で新しい仕事先を探しているらしく、クッキーとクラッカが学校に通っている間に一緒に暮らせる家を探すのだと躍起になっている。
そんな時だった。
父さんがビスケット兄さんにふとした事を言い始めた。
「最低で良いから学校で卒業した方が良いな。勿論鉄華団の仕事を優先してもいい。だがせめて学校ぐらいは卒業しておけ」
そこにサヴァラン兄さんまでもが追い打ちをかける。
「サブレでも学校に通っているんだ。ビスケットもせめて学校に通って卒業しておくべきだろう」
「俺を引き合いに出さないでよ。まあ俺と一緒の学校でいいんじゃない? フォートレスの下部組織の火星支部が完成したし当面はこっちの防衛要員になるから学校もこっちになるしね」
「そうだな。そうだ。鉄華団のガキたちにも告げておけ。学校に通いたいのならフォートレスが学費を出してやる。まあ、働いて返してもらうがな」
コーヒーを飲みながら言う父さんの言葉にビスケット兄さんは本当は嬉しい癖に我慢している。
鉄華団の中には学校に行きたい人間だっているだろうし、しかし、その為の学費も時間も存在しないのが現状だろう。
「仕事も当面は俺の方から回してやる。うちも火星で事業を拡大していくのにどうしても必要な事だ」
素直ではない父さんの言葉なので俺は黙ってスルーすることにした。
火星で事業を拡大する程度ならその辺の戦力を頼ればいいのにと思うが、そこにあえて鉄華団を使うあたりまだまだ甘い。
「………はい」
兄さんを丸め込もうとする父と兄の策略にやられたビスケット兄さんは黙って学校への編入を決めた。
そして数か月が経過し、俺達はクリュセの方に仮の拠点を設け、改めてマンションの一角に部屋を借りられることになった。
今日はクッキーとクラッカの入学式が行われるはずで、俺達は仕事を休んでまで入学式に参加してくれるサヴァラン兄さんと一緒にクッキーとクラッカの学校へと向かった。
結構なお嬢様学校だと思うので俺個人の感想を言えばいけ好かない学校だと思うだけだが、それを顔や口にだせば二人の兄から間違いなく説教を受けるので止めて置き、今日の日の為にと仕事を片づけた父さんを出入り口で待つことに。
車でやってきた父さんと一緒に入学式に向かうビスケット兄さんと俺は新しいクリュセにある高校の黒い学ランに身を包んでいた。
鉄華団の制服は目立つからやめなさいとサヴァラン兄さんや父さんからしつこく言われた結果である。
「変じゃないかな?」
ビスケット兄さんが物凄く気にしているがクッキーとクラッカの方は「似合っているよ!」とべた褒めする。
俺個人から言われたその辺にいる普通の高校生というイメージでしかない。
「帽子なんて被らなくていいのに」
俺がボソッと呟くと黒い帽子を触って確かめる。
どうも帽子が気に入ったらしく、明日から本格的に始まる授業に多少形心がウキウキしているようだ。
といっても俺と違ってあくまでも鉄華団の仕事を優先する兄さんはいくつかの授業の代わりに課題が出されるはずだ。
家族で歩いていると学校の前で写真を撮っている家族を見付けてしまったクッキーとクラッカは「写真を撮りたい」とおねだりをし始めた。
「クーデリアさん達が来るまで時間があるから取ろうか」
そんな風に言う兄さんに言われるがまま俺達兄妹は一か所に集まって写真を撮ってもらおうとカメラを預ける。
預けられた男性がカメラをこちらに構えて「取りますよ」といいながらレンズを覗き込む。
合図と同時に取った写真にグリフォン家の受難などもう見受けられなかった。
火星に帰って来たクーデリアの前に変わった多くのモノが迫ってくる。一つ一つを対処するクーデリアには見えない負担が積み重なってきていた。そんな折アトラたちから温泉旅行に誘われたクーデリアはフミタンと共に温泉旅行に出かけるが?
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再外伝第二話『温泉旅行記』