機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再 作:グランクラン
温かい温泉に身を委ねていると疲れが全て吹っ飛ぶような気持ちになっていき、ゆったりとした気持でいると自分はこんなことをしていていいのかと頭の中で考えてしまう。
火星に帰ってきてからクーデリアは事業立ち上げや、新しい仕事に精を出すようになったが、それは同時にクーデリアへの負担へとなっていった。
それを心配したフミタンとアトラはクーデリアを温泉旅行へと招待しようと考えたが、最初こそクーデリアはそれを断った。
忙しい時期に社長である自分がいなくなるわけにはいかないと、しかしある問題がクーデリア周辺で起きたことが新たな問題として浮上してしまう。
これはクーデリアが火星に帰ってきてから三か月が経過した頃の事だった。
バーンスタイン商会を立ち上げ忙しい毎日を送っていたクーデリア、近くにはフォートレスが隠れ蓑に使っていた傭兵商会企業『レストア』が本社を構え、火星の裏社会を牛耳っていたノブリスは急速にその勢力を衰えさせていった。
クリュセから撤退こそはしなかったノブリスだが、クーデリアが輸出入の一端をフォートレスとテイワズが管理したことで追い詰められていった。
その原因はクーデリアがエドモントン議会で行ったあの演説と、ギャラルホルンの失態によるツケだった。
ギャラルホルンは前の戦いの際、ドルトとエドモントンでの叱責によって、ファリド家とエリオン家、ボードウィン家は一連の責任を取る形で発言権の剥奪とエイハブ・リアクターの製造権をアーブラウ政府への譲渡を約束させられた。
それによってアーブラウ政府はエイハブ・リアクターの製造権を獲得、フォートレスに譲渡する形で新型のエイハブ・リアクターを製造するという話になったのまではよかったが、ハーフメタルの権利を獲得したクーデリアは、一連の事件の立役者として日夜噂されるようになった。
そんな時、クーデリアに向けて放たれた犯行予告状、出所が全く不明だったが故に、クーデリアは当面大人しくしておくことになったが、その問題はその翌日に起きた。
一台の車がバーンスタイン商会前で爆発した。
直ぐにレストアと鉄華団が調査に乗り出したところ、ノブリスと思われる痕跡を発見、マハラジャはこれをノブリスからクーデリアとフミタンへの見せしめであると判断、危険性が高い案件だという事で、いったんクーデリア達に退いてもらう事になった。
その際にクーデリアとフミタンの側にいる人間としてアトラとビスケットが選ばれたという経緯だった。
クーデリアは一人湯船につかりながら物思いにふけっていた。
(フミタンは今頃ホテルのチェックイン。アトラさんとビスケットさんは二人で周囲のチェックに……私だけ…)
ノブリスをクリュセから追い出そうというこの計画、クーデリアは一時表舞台から隠れ温泉郷で大人しくておくことになっていた。
しかし、どうしても一人でゆっくりしているこの状態が慣れず、この場所に来てからずっとソワソワしていた。
近くに言い温泉があるからと案内されたが、入っていても本当の意味で心から休めるわけではなかった。
こうしている間も皆が戦っており、自分だけがここに引きこもっているような感じがしてならない。
「フミタンはなんていうかしら…」
時を同じくしてフミタンはホテルのチェックインを済ませ、クーデリアと合流する為に移動していた。
周囲を断崖絶壁に囲まれたようなこの時は火星圏では密かな人気のある隠れ里、知る人ぞ知る名所である。
実際火星に住んで長いクーデリアやアトラたちですら知らなかったほどだ。
「フミタンさん! 今からクーデリアさんの所ですか?」
「はい。お二人は?」
「僕たちはさきほどようやくチェックが終わった所です。やっぱりこの場所までノブリスは手が届いていないようですね」
ノブリスはこの辺り一帯までは手が伸びていない事を確認したビスケット達が合流すると三人でクーデリアの元まで歩いて移動して行った。
「サブレは知っていたみたいですけどね。何度か連れてきてもらったと聞いています」
「そういえばこの辺りの店は基本フォートレスの手が入っているそうですね」
「ですね。昔っから火星圏の中でも隠れ蓑を探していたようですから」
美味しそうな匂いのする出店を通り過ぎ目的の場所までたどり着くと、温泉から出てきたクーデリアが憂鬱な表情をさせながら現れた。
フミタン達を見付けると笑顔を作りながら近づいて行く。
「クーデリアさんまだ気にしているの?」
「そ、そのように見えますか? そのようなつもりではなかったのですが……いいえ。多分気にしているのでしょうね。私の所為で皆さんに迷惑を掛けているのに、今この時何も出来ない自分が憂鬱なのです」
何かできるわけでもない事ぐらいはよく分かる。
前の戦いの時はクーデリア自身やるべきことがあったからそこまで感じなかったが、こういう状況になるとどうしてそう感じてしまう。
自分は無力だと。
「クーデリアさん……」
アトラは無力さを感じ取っているクーデリアに何ができるのか、何かしてやれるのかを考えていた。
それはフミタンもビスケットだって同じことを考えていた。
やりたい事や目標はハッキリしているのに、その過程で自分は何もできない状況があると思うとどうしてもやるせないと思ってしまう。
今頃オルガ達がクーデリアの為に動いていると思うとどうしてもと考える。
「何か自分にも何か出来ることがあるんじゃないかと考えてしまうんです。自分も何か戦えるんじゃないかって」
ビスケット達は内心「サブレ辺りに否定されそう」と思ってしまったが、口に出す事なんで出来ないし、何よりそういう意思で介入されることを嫌がるのがサブレだった。
今こうしている間も何かしらの作戦が建てられているだろうけれど、作戦内容を知らされていないビスケット達は何もできない。
「そう言えばビスケットは学校の宿題をしなくていいの?」
「うん。夜にこそっとしようかなって」
「だったらクーデリアさんに見てもらおうよ。クーデリアさんもそれでいいよね?」
アトラはクーデリアにそう尋ねると笑顔で答えた。
と言ったものの宿題をどこでやるのかと疑問を抱いてしまったビスケットだが、案内されるまま連れていかれた場所はクーデリア達の部屋だった。
「ダメダメ! 女性の部屋に男性が一人で入っていくって駄目だから!」
「でもビスケットは変な事をしないでしょ?」
ビスケットとしては信頼を寄せてくれている事に嬉しさを、男として女性に何もしないと思われる事への不満がせめぎ合ったが、素直に嬉しいとは思った。
が、それでもここで入る事はどうしても嫌だった。
頑固として拒否されたので、アトラたちは仕方なしにホテル一階にあるレストランで勉強を見ることになった。
アトラはパフェを注文し、ビスケットの学校の課題をクーデリアに見てもらうなか、アトラは興味津々で見守っていた。
「学校に行くようになってからビスケットは凄く生き生きしているよね。三日月なんてもう勉強はほとんどしてないもん」
「そうなのですか?」
「うん! 普段から寝てばっかりでたまに起きたかと思えば筋トレしてるし。折角クーデリアさんから勉強見てもらっているのに」
呆れたような表情を造るアトラにたいし苦笑いを浮かべるクーデリアだが、なんとなくそんな三日月の姿を想像できてしまった。
「他の皆はちゃんと勉強してるのに、三日月ぐらいだよ」
「でも、三日月最近野菜の勉強をするようになってね。うちの家の裏庭で家庭菜園みたいなのしているんだ。アトラとか時々面倒見てくれて」
ビスケットが勉強を見ている最中の出来事なのに、フミタンは旅の最中の事を思い出し苦笑してしまいそうになる。
今こうしてクーデリアが立派に成長し、一人前になっていく事は決して他人事ではなかったからだ。
あの旅の中でクーデリアが手に入れたものは大きく、同時にかけがえのないモノばかり。
だからこそフミタンは思ってしまう。
自分はその中に入っているのだろうか? と。
クーデリアは「少し」とトイレの方を指さして出ていってしまったが、この時三人はクーデリアを一人にするべきではなかったとそう思ってしまった。
この街がマハラジャの息のかかった街であると油断しきっていた事は否めないが、結果クーデリアを拉致されてしまう。
完全に油断していたとはいえ、フミタンですら拉致されたと悔やんでいたが、この時じつはずっとこの四人を尾行していたもうもう一人がクーデリアの方を追いかけていた。
それこそが本来の作戦だったのだと言えば、アトラやフミタンはともかくビスケットは猛烈に反発すると分かっていたので全会一致で告げないことになった。
しかし、その際にサブレが言ったのは、他の三人に言えば漏らす可能性が高いと告げた。
「兄さんらしいとは思うけどね。さてさて……追いかけてきたのは良いが、実家となると簡単にはいかないな」
などといいながら執事服に着替えながらサブレは静かにバーンスタイン邸へと入っていく。
ピッキングで裏口のドアを開け、中に音を立てないように入り込んでクーデリアが軟禁されている部屋へとまっすぐ迷うことなく進んで行くが、そんなサブレの前にクーデリアの母親を二階で発見した。
軟禁されている部屋へとまっすぐ迷うことなく進んで行くが、そんなサブレの前にクーデリアの母親を二階で発見した。
「あの部屋にクーデリアがいるわけだ。しかし、無駄に豪華な装飾だな。目がチカチカするねぇ。うちの家とどっちが大きいのかね」
クーデリアの母親がそっと一階にあるキッチンに入っていくのを物陰から見守り、その後執事のようにクーデリアの部屋へと入っていく。
クーデリアはションボリしたままベットに腰を落として大人しくしており、サブレは執事のふりをしながら窓をそっと覗き込む。
正面に大きな通りがあると視認し、裏口から出るかどうかをずっと考える。
クーデリアからすれば突然入ってきた執事が突然部屋中を見て回ったかと思えば、突然窓をずっと見ている執事を懐疑的な目で見ていた。
しかし、よく見ていくとその顔はどこか知っている人に見えてしまう。
「もしかして……サブレさんですか? 何故ここに?」
「温泉旅行中に拉致された人がいるからな、追いかけてきたんだけど? それよりさっさとここから去るぞ」
サブレはそっと右手を伸ばし、クーデリアはその手を躊躇なく受け取ると部屋の中にクーデリアの母親が現れた。
最初こそ驚いていたが、クーデリアの母親はまるで理解していたかのようにそっとクーデリアにお弁当を手渡した。
「辛いと感じたらいつでも帰ってきていいからね」
「お母様……やっぱり私納得できません。お父様がしようとしていたことも、今世界はギャラルホルンに反発する人が多くいます。今の状態が良いとは思えないし、私自身の道が決して最良と思えません」
一瞬だけ俯きながらもう一度顔を上げたクーデリアは決意をその瞳に宿らせる。
「でも、自分が信じたこの道を、信じた人達と一緒に歩いていきたいんです」
「……あの時の子がこんなにも大きくなっていたのね。好きにしなさい。たとえどんな状況でも私はあなたの味方だという事は分かってね」
「………はい!」
サブレは改めてクーデリアをお姫様抱っこしながら窓から外へと出ようとする中、クーデリアの父親が驚きながらやってきた。
「な、何をしている!? クーデリア! いい加減にしなさい! 何故こんなに私を困らせようとする!?」
クーデリアの父親はこれ以上クーデリアに自由に動かれたら困ると言わんばかりの表情を浮かべ、ソラはそんな父親らしくない人間に軽蔑の目を向ける。
「お父様こそ……どうして火星の人々の苦しむ目から逃げようとするんですか? 私はあの度で多くの事を知りました! 今いる仲間達と一緒に今一度立ち上がりたいのです!」
サブレはそのクーデリアの言葉を最後に部屋から飛び出ていく。
そのまま近くに止めておいたバイクに乗って元の温泉郷まで戻っていく過程でクーデリアはサブレの背中に「ありがとうございます」と告げておいた。
「礼を言われる事じゃない。今回の一件でノブリスと繋がっているのはあんたのお父さんだ。それに対する内からの牽制と、ノブリスを動かすきっかけを作る事だったからな。ウチが見張っている縄張り内で動けばノブリスの動きが分かると思っての行動だ。俺こそ直ぐに動けなくて悪かったな。兄さんに近づきすぎれば過ぎに勘づかれるからな」
「お父様はこれを切っ掛けに手を出さなくなるでしょうか?」
「多分な。俺達を敵に回して今後やりにくいだろうからな。いくら火星のアーブラウ領を任されているとはいってもな、今後は事実上傀儡となるだろう。名ばかりの人間だ。多分それを惨めに感じていたんだと思うけどな」
サブレの言葉に驚きながら顔を上げる。
「そりゃあ娘に立場を奪われたら父親としては顔が上がらないだろ? それに、ビビッて手が出せずノブリスやギャラルホルンに逆らうことも無く、本来なら政府の代理としてしっかりしなくてはいけないのにな」
「私は……お父様を」
「胸は張っていればいいさ。あんたのお母さんの言う通りで好きにすればいいだよ。本来親っていうのは子供を支えるものだし、何よりあんたの母親は味方でいてくれるんだから。それこそあんたの両親が職を失えば今度はあんたが支えてやればいいさ」
サブレの言葉にふと後ろを振り返り遠くなっていく自分の家を見つめる。
「いつか帰ってくる日が来る……」
「かもしれないな。俺は出入り口までは送っていくから、そこから別の人が兄さん達まで連れていってくれる。適当に言い訳しておいてくれ。バレたら鬱陶しいからな」
「……分かりました。本当に今回はありがとうございました」
サブレは最後に「別にいいさ」と気にしていなかった。
フォートレスがアーブラウ政府からの依頼で作った新型エイハブ・リアクターとそれを対応させた最新型のモビルスーツのお披露目会。それを見計らったかのようにギャラルホルンから脱走した者達がが襲撃を仕掛けてきた。様々な思惑が交差する戦いへ。
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再外伝第三話『ネクストステージ』