機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再 作:グランクラン
アーブラウ政府がギャラルホルンから獲得したエイハブ・リアクターの製造権でフォートレスが活用し新開発した新型エイハブ・リアクター。
新型エイハブ・リアクターの最大の特徴はアーブラウ政府からの要請に答え都市部での使用が出来るようにと開発されたことだった。
その為エイハブ・リアクターの構造を素早く理解し、その原因を探り出して改良をしなくてはならず、その改造までを最短で一か月か二か月後には終えなくてはいけなかった。
フォートレスは開発した新型エイハブ・リアクターを従来機に搭載しようと考えたが、更に問題が浮上してしまう。
新型エイハブ・リアクターが従来のエイハブ・リアクターに比べて大型で、微かに入らないというデメリットが生じてしまった。
こればかりはフォートレスも想定しておらず、本来のスケジュールには無かった新型モビルスーツを開発しなくてはいけなくなり、その最終テストが現在金星のコロニー近辺で行われようとしていた。
窓の向こう側に広がる広大な宇宙空間、その宇宙空間に広がるデブリや小惑星のような小さな岩石体、それを物凄い勢いで通り過ぎデブリなどを足場に変えて近づいて行く新たなモビルスーツ。
濃い緑色の体色をしており、両腕を隠すように広がる両肩のアーマーと背中についている突起物、カメラはゴーグル型を採用している新型モビルスーツ。
「従来式のモビルスーツとは違い今回のモビルスーツは水素エンジンとエイハブ・リアクターから供給される高純度のエネルギーのハイブリットとなっており、従来のギャラルホルン製のモビルスーツと比べても四倍以上の稼働可能時間を獲得しています。旧型のエイハブ・リアクターにあったデメリットである電波障害などはこのエイハブ・リアクターは克服しておりますが、その分従来の物より大型になっており標準のモビルスーツには搭載できないというデメリットがございます」
多少早口で説明する開発者の言葉を聞きながらモビルスーツの動きを目で追うマハラジャとアルベルト。
「あのモビルスーツはそこから更に開発ルートを広げ、本人が専用機として開発したものでして、あのモビルスーツはシステムのカスタム具合で玄人向けから素人向けまで組み合わせることが可能です。アーブラウ政府に譲渡予定のモビルスーツに関してはモビルスーツを使った事の無い者達でも扱う事が出来るようシンプルなデザインをしております」
そう言いながら歩いていきそのモビルスーツの前に立って見上げる。
水色と白色の二色に分けられている角張ったデザインの同じくゴーグル型のカメラを持ったシンプルなモビルスーツ。
「こちらのモビルスーツは従来の兵器がそのまま活用でき、新規に武器開発をする必要はございません。しかし、このモビルスーツは念の為にと高電圧ナイフが仕込まれています」
「まあ……その程度は存在しないとな…」
そして次の場所に案内を受けるとそこには一丁のアサルトライフルのような形状の武器が飾られている。
「これは代表に頼まれて開発している最新型の遠距離武器です。例の兵器を調べて完全な形でのレールガンの小型化に成功しました。まだ完全な安定までは時間が掛かりますが、必ず計画実行までには完成させます。これらの機体と武器を我々開発陣は『ネクストステージ』と呼称しております」
「ネクスト……ステージね」
マハラジャは歩き出しながら「アルベルト」と呼ぶ。
「二週間後にエドモントン近郊で行われる予定の新型モビルスーツのお披露目会。どう転ぶと思う?」
「間違いなくギャラルホルンからのちょっかいはあるでしょうが……正直ラスタルが直接来るかどうかで言えば判断しきれませんね」
「予想だと?」
「無いと思いますよ。ラスタルは前の戦いで信頼を失っているでしょうし、発言権の無いラスタルが作戦の指揮をとれるとは思えないですし、今の所ルールを破っていないアーブラウ政府を攻撃する理由がありませんからね」
「そうだろうな。少なくとも奴自身がアーブラウ政府を攻撃するのなら念入りに下準備をするだろうしな……でも、ギャラルホルン自体がちょっかいをかけることはあるだろうな。それを利用すれば再びラスタルに発言権を取り戻させることは出来るか?」
「可能だ。我々としてもラスタルが直接動いてもらわなければ困るしな……防衛の要は誰がする?」
マハラジャが少しだけ考え込んで「サブレ」と小声を出す。
ネクストステージと名付けられた機体から息を吐き出しながら降り、そのまま無重力の状態で格納庫から出ていくとサブレはパイロットスーツのヘルメットを脱ぎ捨てる。
「この新型のヘルメット……着脱しやすいのは良いけど……もうちょっとこう視界を確保できないかね」
新型のパイロットスーツはフォートレスが開発した新型で、ヘルメット部分が着脱式に変更した代わり、装着する際に視界が多少塞がれてしまう。
サブレはこれを安全性を上昇させることが目的だといわれたが、イマイチ納得できない話だった。
「音声があるから最悪どこから攻撃が来るか分かるだって言うけどさ……俺としては視界がふさがれるのは困るんだよな」
サブレは緑色のジャケットの服に着替えて部屋から出ていくとビスケットが飲み物を持った状態で待っていた。
「兄さんはテストしないでいいのか?」
飲み物を受け取りながらそう尋ねるとビスケットは頷いた。
「俺は昨日のうちにやったからね。それよりさっき話を聞いたんだけど、今度行われるお披露目会にギャラルホルンからちょっかいがあるかもって」
「だろうな……そりゃあギャラルホルンからすれば面白くないだろうし、かといって自分達の不手際で起きた事態だから文句も言い難い。なら相手にミスを誘発させて「ギャルホルンが居ればいい」という認識を植え付けてモビルスーツも没収した方が楽だろ?」
「まあ………でもやりかねないかな」
ギャラルホルンがそういう雑な所があるとビスケットはよく知っているし、その辺の悪影響をある意味身をもって受けてきた人間でもある。
「地球に行けばクッキーとクラッカのお土産買わないと……何が良いかな」
「前に地球に言った時に大量購入しているだろうに……それにクッキーとクラッカにだけ購入すれば兄さんの分が無いって二人が文句言うぞ」
「勿論サヴァラン兄さんの分も買うよ………フフ」
サブレが笑うビスケットの方を見ながら気持ち悪いという。
「何なんだ? 気持ちが悪いなぁ……突然」
「だって! だって……こんな風に兄妹皆で暮らす事が出来るとは思わなかったし……マハラジャさんには感謝しているんだ。今回の仕事だってそれなりの報酬があるし、兄さんの仕事先の紹介や、クッキーとクラッカの学費代。勿論俺達の学費代だって出してもらったし……」
「好きでしている事なんだから無理に感謝する必要も無いだろうに……」
一緒の家で暮らす事が出来ることをビスケットは幸せに感じており、休学気味とはいえ学校に通えているという現実に嬉しさを感じるのはおかしなことではない。
「俺は時々親父がやってくることがめんどくさくて仕方がないけどな。まあいいや。全くテストだってこんな辺境の地にまでやってこなくても……この金星は俺にとってあまりいいイメージの無い場所だし」
「サブレが前に死にかけた場所何だっけ?」
「心外だな。明楽の尻拭いをさせられた場所と言って欲しいね。コロニー一つを犠牲にしてしまったけど………結果オーライだろうに」
「コロニー一つを犠牲にしてそれは無いと思うけど…」
「何か言いましたか?」
「いいえ何でもないです……それよりこの後どうする? 俺は金星土産を買おうかと思っているんだけどさぁ…」
サブレが顔で「良いけどさぁ」と言いながら買い物に付き合う事になったが、その前にアルベルトに引き留められた。
「待て。お前達はまだすることがある」
サブレとビスケットはそのままアルベルトにつれていかれる事三十分、再び訪れたのはある格納庫だった。
サブレは振り返り「何?」とアルベルトに尋ねるとアルベルトは小さく格納庫の端に隠れているハロを指さした。
「今度開発されるネクストステージの機体にはサポートシステムも付けたいとマハラジャの意見でな。特にモビルスーツの訓練を受けていない人間が実戦に出るにあたりサポートしてくれる存在が必要だ」
「それであのハロってわけだ」
「ああ、作業サポート用として提示して欲しいという訳だが、お前達が個人使用しているハロをくれというつもりも無い。だから…」
「設計して欲しいと? 設計図だったら提供するよ?」
「そうじゃない。あれが新しく作ったハロなんだ。だからお前達でOS面を見てやって欲しい」
サブレが表情で露骨に「めんどくさい」と告げ、アルベルトは最後に「任せたからな」と言って立ち去っていく。
「兄さん先に買い物に行ってもいいよ。俺はこいつのOS設計に入るから」
「俺も手伝うよ?」
「兄さんが手伝えることがあると?」
「まあ……無いけどさ」
サブレに後押しされるままに部屋から出ていくと、それとすれ違う形でマハラジャが部屋の中に煙草を吸いながら入ってきた。
サブレはハロの口にケーブルを差し込んでパソコンと接続し、そのままOSを入力していく。
「どうなの? 父さんの予想としてはギャラルホルンがどうでるのか」
「そうだな…」
そういいながらマハラジャは近くのコンテナに座って考えるそぶりを見せる。
「海賊が襲ってくるというのが一つのパターンだな。もう一つが海賊になりすましたギャラルホルンが襲ってくるパターン。どちらかだな……」
「海賊になりすますのはともかくとして……海賊が襲ってくるパターンは無いんじゃいか?」
マハラジャは笑いながら「やっぱりそう思うか?」と尋ねるとサブレは「まあね」と言ってキーボードを打つ速度を緩めない。
「海賊が失敗したパターンを考えれば直接手を下す事は止めるだろう。これ以上失態を重ねるわけにはいかないんだから」
「そうだろうな。彼等からすれば失敗できない所にまで来ているわけだしな……かなりの手練れが現れることになるな。海賊の方が正直気が楽なんだがな…」
「何で? セオリーを無駄に守るギャラルホルンの方が気が楽でしょ。海賊はセオリー守らないからむしろ面倒でしょ?」
「いやいや……セオリーを守るとかそういう話じゃない。海賊が相手だと相手にとって不利な状態だからな。地球での戦いに慣れていない彼らは地球でのやり方に慣れない。ギャラルホルンはその分重力下での訓練をしているからな。面倒で言えばそっちの方が面倒だ」
サブレが実際に想像してみても確かにそっちの方が面倒だなっと感じてしまった。
「まあいいさ。どっちが来てもいいように策を練る必要があるしな。実際の戦闘の場合お前にも出てもらうぞ」
キーボードを打つ手を一旦止めて「良いけど」と言いながら振り返る。
「でもさ。それって防衛力強化という点ではマイナスイメージじゃない? 部外者が多くて簡単じゃ」
「? それを公表しなければいいだけだろ」
サブレは内心「ズルい」と思ったがそれが正攻法でもあると思うと否定もできなかった。
「ネクストステージね………まあ次世代という意味では『ネクスト』になるのかも知れないけどさ……でも個人的にもうちょっと何か良いネーミングが無かったのかねとは思うけどさ」
「………そうか? 良いネーミングだと思うが。ギャラルホルンが停滞させてきた三百年を終わらせるという意味ではな。終わらせて次に投げるという意味を持って『ネクスト』だ」
終わらせて次に引き継がせる。
エンジンからシステムまで全てが全くの新規で、そういう意味ではギャラルホルンの疑似的な支配からの脱却を訴えるフォートレスからすれば『ネクスト』という言葉をつけたくなる気持ちをサブレとしても理解は出来る。
出資者から常に「金は出すから早く開発しろ」と急かされてきたマハラジャ。
「戦争ね………そういう時代を経験しないで済む時代はあるのかね…」
「無いだろうな。人間が人間である限り争いとは常に縁がある。それはお前もよく分かっている事だろ?」
支配をする者が居る限り、それを維持する者が居る限り争いとは無縁だ。
だからこそ、マハラジャはラスタルを殺したいと願っている。
ラスタルがどう支配をしてもラスタルが居る限り偽りの平和ですら難しいのだ。
ラスタルの思考は過激で、常に争いと共にある。
彼は意図的に争いを引き起こさせ、それを力で解決することで表面上の平和を維持してきたのだから。
サブレがOS入力を終えた時、アルベルトはネクストステージ機をシャトルへと積み込んでいった。
ネクストステージ機のお披露目式典がアーブラウで行われる中、ギャラルホルンの中で渦巻くいくつもの思惑が会場へと襲い掛かる。サブレ達はネクストステージ機で試練に挑め!
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再外伝最終話『次へ』