機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再 作:グランクラン
新型モビルスーツの開発セレモニーがエドモントンで行われるという話はあっという間に各メディアを通じて報道され、当日になるとセレモニーの会場一帯では異様な賑わいを見せており、それをギャラルホルンのエドモントン支部では苦々しい表情で見守っていた。
いや、忌々しい表情と言った方が良いかもしれない。
彼等からすれば今までギャラルホルンが独占していた技術が遂に流出を許し、最短で開発された新型モビルスーツの開発セレモニーを黙って見ていなくてはいけないのだから。
それがどれだけ忌々しい事なのかはギャラルホルンであれば誰でもわかる話だし、その原因が誰にあるのかなんてそれこそ子供でも分かる話。
内部ではセブンスターズの一族が権利の奪い合い、疑似的な貴族制度のようなやり方に対する不満が徐々に表れていた。
実際今日行われる開発セレモニーにセブンスターズが裏で妨害しようとしていると事前にフォートレスへと漏れていたのだから。
「結局の所はどういう事? セブンスターズが直接来るわけじゃないの?」
ビスケットはアーブラウ政府の軍服に着替えてあくまでも自分達がアーブラウ防衛軍だと思わせる作戦だといわれて違和感なく着替えている最中目の前では既に着替え終わっているサブレにそう尋ねた。
サブレは「ああ」と言いながらタブレット越しに情報を整理しながら語りだす。
「セブンスターズが裏で造った海賊モドキ…要するに偽者だ。元ギャラルホルンの人間をいなかった事にするなんて言うのは今更の手段さ。セブンスターズクラスの権力者なら出来るよ」
「でも……そこまでするかな? 海賊を雇えばいいだけの話じゃ」
「宇宙海賊は地球での戦いになれていないし、負けたときにいざとなったら情報を漏らす可能性も高い。何より欲深い連中に余計な戦力を与えたくないんだよ」
「処理するのが面倒だから?」
「それもあるな。もう一つの理由は現在セブンスターズのトップは『イシュー家』だ。しかし、イシュー家は跡取りを失い今の代で終わるだろう。そうなれば初めてセブンスターズのトップの座が空白になる。今セブンスターズはその奪い合いだ」
ビスケットは小さく「奪い合い」と呟くが、サブレの瞳はその奪い合いにまるで興味を抱いていなかった。
それもそのはず。
サブレ達にとってその奪い合いは自分たちの計画を進める為に利用する為であって、その理由にまるで興味を持てなかった。
だって……本来そのトップにいるべき人間達を騙して上に登った裏切り者。
それこそがギャラルホルンという組織の基盤であり、どこまで遡ってもその起源は「裏切り」なのだから。
裏切った理由なんて三百年後の現在においてまるで意味のない事でしかなく、今更その問いに答えてもらうつもりはなかった。
ただ、当時の盟約上裏切り者には『死』という制約を果た果たさねばならない。
「新型モビルスーツに搭載されている新型リアクターは都市部での使用が出来るという点でギャラルホルンからすれば喉から手が出る存在だ。しかし、前の事件の時にファリド家とエリオン家とボードウィン家とイシュー家とクジャン家は現在エイハブ・リアクターの製造権利を失っている」
「という事は今回の事態は……」
「そう残りの二家による仕業という事になるな」
サブレにとってこれはギャラルホルン内で『ある人物』が自由に動けるようにするための行為でしかない。
「でもさ……俺達が戦ったら意味がない?」
外部の人間が戦っては意味がないのではと尋ねるビスケットにサブレは呆れかえる様な顔をしながら言って見せた。
「何を言っているんだ? それを明かさなければいいだけだろ。俺達は今だけは防衛軍なんだよ」
堂々と告げるサブレにビスケットは口を開けたまま間抜け面をする事しかできなかった。
歩いて部屋から出ていくサブレは防衛軍の帽子を深々と被り顔を見られないように廊下を歩いて行き、ビスケットもその真似事をしながら歩いて行く。
しかし、真似事をするのならと思ったビスケットは自分の疑問を素直にサブレに告げてみた。
「だったもっと人員を連れてきた方が良いんじゃない? ほら、昭弘とかシノとか」
「シノや昭弘に芝居が打てると?」
そうハッキリと尋ねられると答えずらいものがあり、正直に言えば無理だろうことは簡単に想像できた。
しかし、黙っているぐらいなら出来そうだと告げると大きなため息が帰って来た。
「どこかでボロが出る。それに防衛軍にいる人間もこっちの人間で構成されているから安心しろ」
「………一から十まで全部自作自演の匂いを感じるよ」
「一は俺達じゃないから完全な自作自演じゃないな」
「待って! さっきの発言なら二から十までは自作自演だって自白したようなものじゃない!?」
サブレは黙り込んだまま前をひたすら歩いて行き、その沈黙こそがサブレの答えのような気がしてならなかった。
ビスケットから受ける疑惑の目にサブレはため息で答える。
「兄さんは分からないようだから言っておくが、相手がいつ仕掛けるか、そんな不安を抱えておくより誘導してある程度こっちの思惑通りにしておいた方が楽だろ?」
「サブレ達が楽したいだけじゃ…」
「まさかだよ。俺達の掌の上に転がしておくことで今後の作戦を行いやすくるだけで、それ以上の他意はない。強いて言うなら『ある人物を動きやすくする』という名目はある」
はっきりと人名を出さない理由はそれを教えるレベルに無いという事でもあり、そう言う時に秘密にされるとビスケットは面白くない。
しかし、結局の所でどれだけ信用されても自分達が部外者であるという点は変わりはない。
それに対してサブレはフォートレスの中核に組まれている重要人物。
それこそビスケットではどうしようもない差でもある。
小さな頃からマハラジャからの英才教育を受け、同時に計画の重要人物として育てられたサブレは同時に秘密ごとが多い。
仕方がないのだと自分に言い聞かせてサブレの跡をついて行く。
サブレの元に一人の男性が歩いてきて小声で話しかけてくると人一倍大きなため息を吐き出して男について行く。
ある個室の中に置かれている通信端末の前で座り込み受話器を耳に当てながら相手と話し始めるサブレ。
『こちらギャラルホルンのアーブラウ支部。そちらに宇宙海賊が向かっていると報告を得た。こちらで迎撃をしたい』
「お断りする。今回の式典の防衛はこちらに任されているはず。迎撃したいのなら会場より遥か外で願い出る」
『もうそちらに到着まで三十分も無い』
「三十分もあれば外での排除は可能であると考えるが?」
サブレが真顔で話をしているが、話をしている相手の声が震えているのが声質からよく分かる。
思った通りに会話が進まない事への苛立ちか、それとも何かをこらえているのか。
『最悪の事態を想定して動くべきだ』
「だったら自分の首が飛ばないように考えて動けばよろしいのでは?」
サブレがそう告げると通信が強引に切れてしまう。
「さっきの話し方。よっぽど上からせっつかれていたみたいだな。まあ、お陰でギャラルホルンの背後関係がよく分かったよ」
「どういう事?」
「今回の一件はセブンスターズクラスの人間が動いた一件だ。それを事前に阻止しようと動いた」
「どうしてそう思うの? ただ単純に責務を全うしようと思っただけじゃない?」
「いやいや。だったら今回の一件に介入しようとしないだろうに。元々今回はギャラルホルンが介入する余地が無いわけだし」
「じゃあ……」
「さっきの人苛立ちと同時に感じたのは焦りと動揺。最悪の事態を想定して動くべきという言葉はセブンスターズクラスに挟まれている自分の状況にも言えるんだと思うぞ。だからこそ俺の最後の言葉に反応して切ったんだよ。恐らくでしか語れないが、今回の一件は現在発言力を持っているセブンスターズが動いて海賊を意図的に作り出して自作自演をしようとした。それをギャラルホルンが動いて相手を追い払えば経済圏の信頼を失う事が出来るうえ、自分たちの信用を取り戻す事が出来る一石二鳥の作戦だからな」
「でも、それって欲張り過ぎじゃない? 策として不十分に見えるし」
「不十分だと思うよ。長年こういう事態に陥ったことが無い彼等だからこそこれで大丈夫だろうという思い込みが存在しているんだ。しかし、全部のセブンスターズがそう考えているわけじゃない。だから『阻止しろ』と言われた。多分『エリオン家』だな。だからこの状況だろうな…」
「どうしてそう思うの?」
「? クジャン家はそんな事を考える程大人じゃないし、現在のファリド家は………まあ置いておこうか。これは語るだけ無駄だし。ボードウィン家はそんな事を考えるだけの度胸はない。それに、こういう状況で裏でこそこそ動くのはエリオン家ぐらいだ。さあ……さっさと迎撃しに行こうか…」
結果だけを言えば苦戦する事すら存在しなくアッサリ終えた戦いは既に戦いと呼べないほどに一方的だった。
モビルスーツ自体の性能差だけじゃない圧倒的な戦力差。
サブレの予想通り敵は海賊になりすましたギャラルホルンで、モビルスーツも中古品を持ち込んで戦っているうえに、慣れないモビルスーツ相手にうまく立ち回ったサブレ達に勝ち目など存在しなかった。
むしろ蒔苗氏はその闘いぶりを世界中に中継することで自分達が委託開発したモビルスーツの有効性を証明する結果に終った。
それこそサブレが言う「ラスタル・エリオンが阻止したかった未来」らしく、結果からすればセブンスターズ間の戦力バランスを統一する結果に終った。
それがフォートレスの目的であり、その結果を望んでいた理由はラスタルの影の腹心を表に引きずり出す為であり、サブレ曰く「目的はおおよそ達した」と言ったいた。
それこそ先ほどの通信でギャラルホルンの裏事情を察したらしく、サブレは「これで『あの男』を引きずり出す事が出来る」と言っていたが、その男については全く教えてくれなかった。
「いずれ父さんが教えてくれるさ……、これだけは知っておけばいい。今回の戦いは新型モビルスーツの性能を探り出し、現存するモビルスーツとの性能差を図る事と前の戦いの時に生じたセブンスターズ間の戦力バランスを元に戻す」
「何で?」
「詳しくは次だが、ギャラルホルンをある程度こっちの都合のいいように動かす為には考えを読みやすい人間を自由にする必要がある。その上で相手の行動パターンを絞り込む」
「要するに読みやすくしたい?」
「そう言う事だな。その為に必要な計画だった」
「だったモビルスーツの性能差も完璧だったし……上々?」
そう聞いたのだが、サブレは渋顔を造って固まる。
「いや……はっきりいうが今回のモビルスーツの性能差は様々な要因を経ていてまるでいい結果を取れなかったが、はっきり言えば兄さんが感じたほどの性能差を現しているほど優秀じゃない。でも、今はそれだけでいいんだよ」
サブレは前を歩きながらはっきりと告げる。
「これは基礎モデル。ここからなんだから。だから兄さん達にも期待しているんだよ。これから色んな人が戦いに使い、その度に得られる戦闘データを反映して作られる完成型を目指しているんだから」
「俺達にもくれるの?」
正直に言って嬉しく思っていると悪魔のような微笑みを浮かべる。
「………有料ですが何か?」
「金……取るの?」
「当たり前でしょ………次世代機の為にも貴重な投資を」
そう言って歩き出すサブレ。
どこまでが本心なのかまるで分からないが、そろそろ帰らないといけない時間を迎えようとしていると気が付いて俺も歩き出す。
「俺は一旦フォートレス本部に帰るけど兄さんは?」
「俺は火星に帰るよ。そろそろ帰ってテイワズ本部に行かなくちゃね。俺達も名瀬さん達と肩を並べる組織になるし…」
「……調子に乗らないようにね。そういう時こそ気を引き締めて。次があるんだから…」
「分かってるって。皆にはちゃんと釘を刺しておくよ」
「そう言えば前みたいにオルガは一人で抱え込んでいないみたいだな」
「うん……俺と相談しながらだよ。サブレのお陰だね」
「俺は何もしていないけどな」
「サブレがいなかったら俺達どうなっていたか……色々あったけど感謝しているんだ」
「そうか………だったら次の作戦はこき使ってもいいわけだ」
「て、手加減をしてくれると……」
ニヤニヤと笑うサブレをしり目に苦笑いを浮かべるしかなったが、サブレの言う『次』という言葉が何故か嬉しく感じてしまった。
それが何故なのかまるで理解できない。
次へと向かう俺達の戦いがどこに向かうのか誰にも分からないのだろう。
命を狙われ始めたクーデリアは鉄華団に護衛の依頼を出し始める。鉄華団は地球に支部を抱える組織へと昇り詰めようとしていた。様々な事が変わり始めようとしていた。
次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再二章第一話『新しい血』