機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再 作:グランクラン
新たな装いとなったバルバトスと単身用に改造を受けているアガレスが地に落ち立つのだが、バルバトスは派手に降り立ったのに対しアガレスは静かに落ち着いて着地を決めていた。
二機のモビルスーツが現れた衝撃は計り知れず、結果として敵モビルスーツ群はあっという間に戦場から離れていくのだが、シノが追いかけようとしたときサブレがそれを制止する。
「バルバトスが壊れたらしい。全く動かなくなったよ」
「あれ? おかしいな……」
「おかしいわけねぇだろ! さっさと降りて来い三日月!」
同じ時下の方でハッシュという新人がボソリと呟いていた。
「あれが……バルバトス」
夜明けの地平線団の主力艦隊に一人の人物からの連絡が入った。
「なんてザマだ! 子供相手にいいように遊ばれて。これではますますあの小娘をつけあがらせるだけじゃないか!」
「鉄華団との件はすでに貴様とは関係がない。夜明けの地平線団の名誉と誇りに懸けて奴らは必ず始末する」
「こちらは大金を払ってるわけだし、もう少し情報を共有しあっても……」
「活動家風情が誰に物ぬかしてやがる!」
苛立っているのだろうことは誰の目にも明らかだったが、そんな夜明けの地平線団の行方を追っていたのはフォートレスだった。
マハラジャは一人部屋で煙草を吸い、目の前に広げている地図相手に睨めっこである。
その地図にはこの周辺の詳細な情報が記されており、それはここ一か月ほどサブレ達が調べた結果。
そして、確信を持ったのはこの辺りに夜明けの地平線団の根城があるという話だった。
「さてさて……どこに隠れているのやら? サブレ達はそろそろ到着した頃かな?」
「恐らくはな……それより…いるまでそこでコーヒーを飲みながら煙草を吸っているつもりなんだ? いい加減支度をしてくれないか?」
「良いじゃないか。お前こそもう少しゆっくりした方がいいんじゃないのか?」
隣で仕事をしているアルベルトが苛立ったような目で静かに睨みつけ、その目を見たマハラジャは誤魔化すようにタバコの火を消した。
クーデリアとオルガ、ビスケットとユージンは団長室で話し合っていた。
「しばらくあんたには桜農場に避難してもらう」
クーデリアは仕方なさそうな顔をしていたが、これだけはオルガは譲るつもり何て存在しなかった。
そんなオルガに対してユージンが食って掛かる。
「でどうすんだよ? 夜明けの地平線団相手にやらかすか?」
「可能だと思うか?」
オルガはビスケットの方を見るが、肩をすくめながら呟いた。
「無理だろうね。夜明けの地平線団っていえば艦隊十隻の巨大集団だよ。無謀にもほどがある」
「だよな。けどどうすんだ?」
「だがそいつらに鉄華団が目を付けられた事実は変わらねぇ。遠くない未来に一戦交えるのは避けられねぇだろう」
「それまでになんとかしないと……」
もはや他人事では済まされないところにまで問題は差し掛かっていた。
「死んだっていいから戦ってみてぇって思ってたけど、まさか本当に死んじまうなんて……」
落ち込む仲間達に昭弘の言葉が突き刺さる。
「辞めるんなら今のうちだぞ。鉄華団は辞めるのも辞めないのも自由だ。生きるも死ぬも自分で選んでいいんだ」
昭弘がそう言っているころダンテはエーコに頼みごとをしていた。
「なあなあいいだろ? こいつでプシューっとスプレーするだけ!」
「はぁ? 何それ?」
「撃墜マークだよ! 俺の獅電にさ……」
ダンテが星形のマークを付けてもらおうとすると、後ろからラフタとアジーの声が聞こえてくる。
「ダンテ! あんた一人で倒してないでしょ!?」
「ちゃんとレコーダーに残ってんだよ」
「ったく何を言い出すのかと思えば……」
「いやでも……」
ダンテがつけてほしそうにしていると、上の方からライドの声が聞こえてくる。
「そうだぞ! 調子乗ってんじゃねぇよダンテ! 大体三日月さんがバルバトスと一緒に持ってきた追加の獅電が来るまではお前の専用ってわけじゃねぇんだからな」
「そりゃもう昭弘のグシオンは衛星軌道上に来てんだろ? 地球支部に送る分と一緒に!」
「あーあ。もう一日早く着いてりゃ俺ら二番隊も実戦に出れたのに」
ライドは悔しそうにしているとアジーが声をかける。
「んじゃあいつ実戦に出てもいいようにまたしごいてあげるよ。ダンテあんたもね」
「お……俺もう実戦やったんすけど!」
「うるさい」
「いいから手ぇ動かして!」
バルバトスがその間修理が行われており、雪之丞はさっそく壊したバルバトスをため息を吐きながら見上げた。
そして、その後ろでは三日月がソニアからマジな説教を受けており、多少俯いている姿は中々見れるモノではない。
そんな時、三日月の後ろからクーデリアが歩いて現れるとソニアと雪之丞が三日月をそっと促す。
三日月は逃げられると判断したのかそのまま逃げていった。
「何度かここにも足を運びましたが三日月はいつもいないので」
「ああ~……うん」
エレベーターから外に出る二人は外を歩きながら話し始めた。
「団長が言っていました。戦闘の必要があるときはいつもバルバトスとアガレスが一番前にいると」
「まあ他の奴と違って俺にできる仕事はそれくらいだから」
すると、奥の施設からアトラが駆け足で駆け寄ってきた。
「クーデリアさん! 来てたの? ちょうどよかった!」
そういってアトラはクーデリアにミサンガを手渡す。
「あのね。クーデリアさんに渡したいものあったの! これ! それと……ビスケット知らない?」
「いいえ見てませんが……三日月は見ましたか?」
「ううん……でも、確かオルガと話してるんじゃなかったかな?」
「そっか……渡したいものがあったんだけどな」
少しだけ残念そうにしているアトラ。
アトラがポケットから緑色のミサンガを取り出しため息を吐くと、後ろからビスケットの声が聞こえてきた。
驚き心臓が飛び出るのではと思われるほどの衝撃を受けながら振り返るアトラ。
「何してるの?アトラ」
「きゃ!ビスケット?」
「アトラさんがビスケットさんを探していましたよ?」
アトラはゆっくりとビスケットにミサンガを手渡し、ビスケットはそれを照れながら受け取ると周囲が照れくさくなっていく。
「これ……ビスケットへのプレゼント。前に渡すって約束したでしょ?」
「あ……ありがと」
ビスケットは照れながらミサンガを左手につけると、アトラと二人で顔を赤くさせる。
するとアトラとビスケットの間にサブレとクッキーとクラッカとサヴァランが現れた。
人数分のお弁当を持って現れた四人、照れくさい空気を造るビスケットとアトラ、その空気に鈍感な三日月と照れくさくて顔を真っ赤にさせるクーデリア。
「どうしたのアトラ? 顔赤いよ」
「うん! 真っ赤だ!」
「な、なんでもない!」
「こら! そう言う事は言うんじゃない」
サヴァランから怒られることで揶揄う事を止める二人、しかしそんな事でやめるサブレではない。
ここからが揶揄いの本番なのだと訴えるかのように目を獰猛なライオンを思わせる目つきへと変えて口を開く。
「そう言う子供に悪い影響を与えるような事は止めて欲しいね。全く…ビスケット兄さんの頭の中では常に十八禁的な事を想像しているんだろうな」
「してない! 勝手な事を言わないで!」
「頭の中はピンク色なんだろうな…」
「そろそろ見えてこない? ストップのライン」
「いいや? 兄さんは自分を過小評価しているよ。まだ揶揄える」
「いいや。俺は限界だよ!」
「実際兄さんが怒っても怖くないしね…」
サブレの耳にビスケットの堪忍袋の緒が切れる音が聞こえた気がして身を翻して逃げ出し、そんなサブレを追うビスケット。
「何なんだよこのくそ忙しい時に!」
ユージンは不機嫌そうな面持ちで団員のそばに行くと、団員が申し訳なさそうな表情をする。
「すみません。なんか変なおっさんが……」
そういうとユージンの目の前にトドが姿を現した。
「よう!ユージン副団長。こいつら新入りか?取引先の顔と名前ぐらいお前ちゃんと教え込んどかなきゃだめだよチミ」
「偉い人なんですか?」
「あえて言うならえらい面倒な人だな」
「さすが副団長。いうことがウイットに富んでるねぇ。俺が目を掛けてやっただけのことはある」
「ああ~殺してぇ」
「まあまあそうカリカリすんなって。栄養足りねぇんだろう。あっそうだガキ。飴ちゃんあげようか?」
「マジっすか!」
「んなもんで喜ぶな!」
「まあまあ。おめぇにも喜ぶ知らせがちゃ~んとあるんだぜ。うちのボスからな」
少しだけ進んでオルガの前にモンタークの名を名乗って現れたマクギリス。
「仕事をいただけるのはありがたいんですがねぇ、こっちは今立て込んでるんですよ。えぇ~……」
「モンタークで構わないさ。私が君たちの力を借りているのはすでに公然の秘密になっているからな」
「で要件は?」
素直に尋ねるオルガ。
「夜明けの地平線団の討伐だ」
「なっ!?……こっちの動きは全部お見通しってか」
「夜明けの地平線団は地球圏にまで手を伸ばす神出鬼没の大海賊だ。その補足には我々も手を焼いていてね。できる限りのことはしよう。石動という部下をそちらへ向かわせた。彼は夜明けの地平線団の内情に詳しく腕も確かだ」
「俺らは餌ってわけか」
「信用してもらえないかな?」
「元々あんたを信用なんてしちゃいない。だが引き受けさせてもらいますよ」
「ほう。疑いながらなぜ?」
「別に……俺たちは夜明けの地平線団に目を付けられてる。俺たちが勝つために必要なことだからですよ」
マクマードのところにオルガが話を付けていた。
「お前らが夜明けの地平線団を?」
「テイワズにとっても航路を荒らす奴らは目障りかと」
「まあな。だが……」
「獅電の実力を見せるテイワズの新型フレームを売り込むチャンスでもあります」
「なるほどな。分かった好きにやれ」
「はい。親父に恥はかかせません」
そういうとオルガとの通信が切れる。途端にジャスレイが食って掛かる。
「親父。何あいつらを好き勝手やらせんのよ。ガキら相手に好々爺気取っても意味ないでしょ!」
「ならお前がいくか?」
「いや~御冗談でしょ。海賊なんてゴリゴリした奴らを相手にすんのは下の奴らで十分です」
「なら文句はねぇだろ。面白い育ち方してるじゃないか名瀬。あの坊主どもは」
エドモントン近郊に位置する鉄華団の地球支部では獅電が月末までに届かない問題が発生していた。
「話が違うでしょ。月末までには獅電を地球支部に送ってくれる手筈になっていたじゃないですか。今あるランドマン・ロディだけじゃ限界だってご存じでしょう?」
「けど本部は夜明けの地平線団を相手にするんだ。頭数が必要なのはわかるだろ?」
「それは本部の問題でしょう?地球支部はその戦闘には関与しないので関係は……」
「本来ならこっちから増援を送るべきところだ。それを団長はこっちの現状を考えてそれは言ってこない」
「現状……ね。備品の不足にアーブラウ正規兵との関係性。こちらの現状は問題が山積みです。しかし本部は改善策を出すどころか足を引っ張るばかり……」
「ラディーチェさん地球支部も本部も同じ鉄華団だ。俺たちはオルガの……団長の言葉を信じてついていく。それが鉄華団だ」
「……話にならない」
雪之丞たちが食事をしながら話しているとハッシュが真剣な面持ちで話しかけてきた。
「雪之丞さん。俺をモビルスーツに乗せてもらえませんか? マニュアルなら全部読みました」
「モビルスーツを操縦するにはそれだけじゃ……」
「必要なら阿頼耶識の手術も受けます」
「ダメだよ」
「あっビスケット」
アトラが気が付きそっちの方へと顔を向けた。
ハッシュが振り向くとそこには真剣な面持ちでハッシュを見つめるビスケットの姿が有った。
「ダメだよ。阿頼耶識の手術は俺たちはもうしないって決めてるんだ。これは俺が決めたルールだよ」
「失敗なんて恐れません! 阿頼耶識の手術を受けることで戦えるようになるんなら何だってします。俺は……」
ビスケットは思いっきりハッシュのほっぺを叩く。
「阿頼耶識の手術をするとか簡単に言わないで。君が考えていることより数割増しで危険なんだ。俺は君たちにそんな手術を受けてまで戦ってほしいとは思わない。……とにかく、阿頼耶識の手術の話はなしだから」
そういうとビスケットは食堂から出ていった。ハッシュは唖然とした表情で通路を見つめると、後ろから雪之丞が話しかけてくる。
「おめぇ年はいくつだ?」
「17です」
「その年じゃ阿頼耶識の適合手術はもう受けらんねぇ。おめぇの年じゃもうナノマシンが定着しねぇんだよ」
「とりあえず試してくださいよ。いいっすよ別に失敗したって……」
「ダメだよ! 阿頼耶識の手術ってとっても危険なんだよ!? 下手したら死んじゃうんだから!」
「分かってますよ……」
「ビスケットはみんなの為を思って手術を禁止したんだから!」
「あんたに何が分かんだよ。いいからどけ……」
アトラを強引にどかそうとするとそこに三日月が現れた。三日月はハッシュの手首をがっちりつかんだ。
「何これ? これは何?」
三日月は握る力を強めていく。
「ほんとにただおしゃべりしてただけだから」
「そう? いじめられてなかった?」
「私いじめられっ子じゃないよ!」
「なんで……なんであんたはよくってあいつは……。くっ……!もういいです。すいませんした」
一人出ていったハッシュの目の前にデインが姿を現した。
「死ぬのは怖くないのか?」
「怖くねぇ奴いんのか?」
「だな」
ハッシュの近くに座ると、ハッシュは語り始め。
「でももっと怖ぇもんがある。俺はスラムの出でさ。親のいないガキ同士で集まって暮らしてたんだ。ビルスは俺らの兄貴分だった。俺たちの生活を楽にしてやるって兵士になるってスラムを出てった。なのに戻ってきたビルスは腰から下が動かなくなってた。俺達みんな思ってたんだ。ビルスについていきゃあなんとかなるって。なのに……。だから俺が次のビルスにならなきゃなんねぇんだ。俺は絶対にモビルスーツに乗ってみせる。そして三日月・オーガスを超えてみせる。俺についてきゃこんなクソみてぇな世界でもなんとかなるって。お……おい」
デインは話の途中で去っていった。
「がんばれ」
「よう。ここにいたのかミカ」
「オルガどうしたの?」
「なあに。まあ、さっき勝手にモンタークと取引をしちまったことをビスケットに説教されちまってな。反省がてらにな……頼むぜミカ」
「うん」
夜明けの地平線団との戦いが始まろうとしていた。フォートレスの戦力を入れて最大戦力を向ける中、夜明けの地平線団の罠にはまってしまう。
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再第二部第三話『夜明け前の戦い』