機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再 作:グランクラン
ビスケットの追手を振り切ったサブレは物陰に隠れて通信機を耳に当てており、通信機の向こう側からマハラジャの声がハッキリと聞こえてくる。
「…というわけだ。そちらはおそらく本隊が相手をする事になるだろう。情報ではアリアンロッド艦隊が直接動いているという情報もある。うまく活用できれば素早く敵を制圧できるだろう。我々の本命は夜明けの地平線団の本拠地を潰して戦力増強だ」
「はぁ……また鉄華団の内情を探れっていう内容の命令な訳? いい加減信用してあげたら?」
「まだだ。彼等がこの火星という場所を任せるに値する存在かどうかはこれから決める。だからこそお前を送り込んでいるんだ。お前はその見極め役でもある。その為にわざわざ夜明けの地平線団を上手く送り込んだんだ」
フォートレスのエージェントであるサブレは本来マハラジャのように上層部から直接的な命令に従うのがモットーであり、その分重要な任務を任されることが多い。
この約二年間に及ぶ任務は鉄華団を見極めることで、いずれは火星圏など各惑星に代表組織を造る計画であり、サブレは鉄華団とクーデリアとテイワズの見極めを任されている。
その為にフォートレスが火星に作った仮面会社はいわゆる支部であり、そこの所属という事になっているサブレは監視要員。
それをハッキリ知っているのはごくわずか。
実際エージェント下に置かれているメンバーでも教えて貰える人間は少なく、それだけエージェントという仕事は本来大変な物である。
「ジュリエッタとうまく連携して立ち回れ。分かっているとは思うが…」
「分かっているさ。もしジュリエッタがバレたと判断すればその時は素早く回収だろ? 分かってる」
マハラジャは「ではな」と言って通信を切ってしまうとサブレは再び大きなため息を吐き出してからふと視界を泳がせる。
巨大海賊組織『夜明けの地平線団』に真っ向勝負を挑む鉄華団は、ギャラルホルンと共に参戦しようとしていた。
『夜明けの地平線団』討伐のために宇宙へ上がった鉄華団と違い、クーデリアは桜農場に避難していた。クッキーとクラッカと共に三日月が育てている農場に来ていた。
「トウモロコシ以外にも育てられるか三日月が試してるんだよ」
「農場だけで食べていくのに必要なんだって。ビスケットお兄ちゃんも手伝ってるんだよ。いつか農場の経営をしてみたいって二人で考えてるんだって」
三人が話している様子を後ろからククビータとデクスターが話し合っていた。
「私は事務所に戻りますが社長の事をお願いします。フミタンさんも社長の事よろしくお願いしますね」
「ええ。団長達が戻るまでこちらに匿うよう言われてますから」
「早く終わるといいんですがね」
夜明けの地平線団との戦いも始まろうとしていた。
「エイハブ・リアクターを補足。固有周波数を確認、合流予定のギャラルホルン艦艇と一致しました」
「聞いていたより早いな……」
「あれが……鉄華団か」
鉄華団とギャラルホルンが接触しようとしていた。
目の前にグレイズがブリッジ近くを通り過ぎている姿を皆がジッと見守っていた。
「ギャラルホルンから仕事を頼まれるなんてやっぱすげぇな鉄華団は。あっ! あれってグレイズ?」
「だな」
「少し前まで殺し合ってた相手だろ? よく仲良くできるよなぁ」
「早くモビルスーツに乗りてぇ」
ザックたちが廊下から外の様子を見ている間にオルガとビスケットとユージンとメリビットは石動たちとの話し合いに応じようとしていた。
「そっちは一隻だけか? 艦隊五隻が合流するって話だったはずだ」
ギャラルホルンが連れてきた艦隊は一隻のみであることだけは見ればなんとなく分かる。
オルガが不満げにしている理由もなんとなく分かってしまう。
「訳あって足の速い船だけで先行させてもらった」
「その訳っていうのは何でしょうか?」
ビスケットが一歩引いた立場から質問をした。
「こちらのデータを。現座標から12時間の宙域で夜明けの地平線団の船を補足した。数は三隻。火星から航路をたどっている船団だ」
「というとクリュセのプラントを襲った部隊を運んできた船の可能性が高いだろうね」
「おそらくは。この中には組織のトップ、サンドバル・ロイターが乗る旗艦も含まれている。奴らの戦力が結集する前にここで叩きたい」
「今なら分散している敵戦力を各個撃破できるってか。まっ戦いの基本だな」
そんなユージンの言葉やギャラルホルンの意見に考え込んでいるビスケットを前から軽く見つめるオルガ。そしてもう一度石動に向く。
「そっちは戦艦一隻。つまり俺らに命張れって言ってんだよな?」
「危険に見合う報酬は約束する。ファリド准将も承知の上だ」
そんな意見にビスケットが激しく反対した。
「待ってください。そちらの本隊と合流してからでもいいのでは? このまま戦って罠にでも嵌まったら……」
「サンドバルは狡猾な男だ。所在を掴んだ今を逃したくない」
「そ……それは」
ビスケットが黙るとオルガが口をはさむ。
「分かった。その話乗ってやる。ただし作戦の指揮権は俺達がもらうぞ」
「問題ない。我々が鉄華団の指揮下に入ろう。船に戻り次第データリンクの手筈を整える」
「ユージン。そのへんは任せるぞ。イサリビから艦隊をコントロールしてもらうことになるからな。それでいいなビスケット」
「……うん」
どこか納得いかないような表情をしながらも会談は終ったが、オルガとビスケットとメリビットが廊下で話し合っていた。
「あの男の話どう思いました?」
「嘘は言ってねぇ。だがなんか隠してるな。妙に急いでやがる」
「それが分かってるならどうして? あの急ぎ様は異様だよ。何か裏がある。それに……あのマクギリス・ファリドは信頼できない」
「それぐらいはわかってる。でも今なら俺たちが指揮権を獲得できると思ったのさ。ギャラルホルンの命令で戦って殺されるぐらいなら……」
「それを聞いて安心したよ……」
メリビットはあきれたような顔をする。
「言っても聞かないんでしょ? もう慣れました。作戦時間まで団員には交代で休息をとらせます」
「ああ。あんたに任せる」
「お願いします」
「では団長とビスケット君はこれより六時間の休息を言い渡します」
「「はぁ!?」」
オルガとビスケットは驚くがメリビットの意見はまるで変わらない。
「すでに団長は36時間、ビスケット君は40時間働き詰めですよ。特にビスケット君はいい加減休みを取りなさい」
「いちいち計ってんのか……」
「あはは………すいません」
「お嫌でしたらご自分の体くらいご自身で管理してくださいね」
メリビットはそのまま廊下の奥に消えていく。
ビスケットが何をしようと歩き出すと奥の部屋のドアが少しだけ開いており、そこからサブレの声がはっきりと聞えてきて少しだけ内容が気になってしまい聞き耳を立ててしまう。
サブレの部屋は他の人の部屋と違って少し広めに作られており、何をしているのかは普段から誰にも分からない。
だからこそ気になってしまったビスケット。
中は薄暗くいくつかの画面が周囲に張り巡らされており、何度考えてもこの部屋が寝泊まりをするためには作られていない。
サブレは部屋の中心に立っており、誰かと会話をしているように見えるが、他にも誰もいないように思える。
「では……イラクが夜明けの地平線団に紛れているのは間違い無いんですね? 確定情報として受け入れてもいいと?」
『その通りだ。スポンサーもいい加減あいつの目的を探るようにとしつこい』
『君の今回の役目は夜明けの地平線団を潰しつつイラクの目的を探る事だ。エージェントサブレ。地球での戦いもある長引かせるわけには行かない。不安要素は素早く潰す事。こえはスポンサーからの意向でもある。もう……分かっているとは思うが、本作戦が近づいているような状況だ』
「分かっています。例の作戦が実行段階までには確実に状況整えて見せます」
『さて……どうやらお客さんがいるようだしこの辺で。うまく立ち回るように…』
そう言って部屋が明るくなり普通の部屋が戻ってきたような感覚がやってくるとサブレがジッとビスケットの方を見つめる。
ビスケットはゆっくりと部屋の中へと入っていく。
「さ、さっきの何?」
「フォートレスの重役会議だと思っていればいいよ。あの人たちはマハラジャが認めた役目を与えられた人達。スポンサーから直接文句を言われてしまう人達だと思えばいいよ」
「そうなんだ……何か物々しい気配だったけど…イラクって誰?」
「ガンダムの乗り手。フォートレスが要注意ターゲットとして指定している人物だ。なんでも…逢う度に違う人間が乗っているのに、何故か記憶や人格を共有しているという化け物さ」
サブレが何を告げているのかこの時点ではまだビスケットは分かっていなかった。
「夜明けの地平線団の艦隊のエイハブ・ウェーブ周波数を確認しました」
しかし、目の前に映る映像には3隻どころか、艦隊数は10隻も存在していた。
「なんだこりゃ……3隻って話だったろ!」
「オルガ! 艦隊は10隻! 10隻いんぞ!」
「やっぱり罠だったんだ。俺たちははめられた!」
「偵察隊からの映像出ます!」
「3隻だけで他の船を牽引してエイハブ・ウェーブをごまかしたんだね」
オルガの目の前にある画面に夜明けの地平線団の団長が姿を現した。
「俺は夜明けの地平線団団長サンドバル・ロイターだ」
「鉄華団の団長、オルガ・イツカだ」
「せめてもの慈悲として降伏する機会を与えてやろう」
「あんたの方こそ俺らに手を出した詫びを入れんなら今のうちだぞ」
「ギャラルホルンの弱兵を引き従え気でも触れたか」
「海賊が! 言わせておけば!」
「そっちこそそれっぽっちの戦力で俺達をどうにかできると思ってんのか?」
ビスケットが後ろでため息を吐く。
「今はいきがることを許そう。目障りなハエほど叩き潰しがいがある」
そこで通信が切れ、一気に周りは忙しくなり始めた。
「ユージン! 艦隊の指揮はお前に任せる! ビスケット! お前はモビルスーツの指揮だ!」
「シノたちは一旦船まで下がらせろ。三日月とサブレを先に出せ。完全に包囲される前に正面を突破する。ビスケットも急いで準備しろよ。方法はビスケットに任せる」
「了解!」
バルバトスがカタパルトにそのまま移動する。
「モビルスーツをひきつければいいの? 三日月・オーガス。ガンダムバルバトス出るよ」
バルバトスが出撃するとホタルビのコントロールをイサリビに預ける。
「今すぐ離脱すれば最小限の被害で逃げられるのでは?」
「そうだな。だが逃げても被害は出る。こいつらに犬死にはさせられねぇ。命張る以上俺らは前に進むんだ」
「……そちらの状況は?」
メリビットからギャラルホルンに状況報告を受けていた。
「既に本隊をこちらに向かわせている。到着まで凌げれば奴らの不意を突けよう」
夜明けの地平線団でも艦隊を動かしつつあった。
「敵艦密集陣形で突っ込んできます」
「破れかぶれの中央突破か。先頭の船に砲撃を集中。戦力の差を思い知らせてやれ!」
バルバトスが両腕の滑腔砲を使い敵のモビルスーツに攻撃を与えていく。
「ぐっ! この距離で? 噂に聞く悪魔って奴か……一番隊は俺と来い! 残りは作戦通り船をやれ!」
「昭弘。そっちに行ったから。ビスケットどうする?」
「昭弘は船の護衛を、三日月はそのまま敵モビルスーツを叩いて、俺たちは昭弘の援護をしながらバルバトスと一緒に艦隊が突破する隙を作るよ。サブレ出よう。」
「サブレ・グリフォン、ビスケット・グリフォン。ガンダムアガレスイーター、出るぞ!」
アガレスがそのまま出撃すると、敵のモビルスーツを蹴散らしていく。
「くそ! 死神まで出てきやがった!」
「了解だ。昭弘・アルトランド。グシオンリベイクフルシティ、出るぞ!」
昭弘がイサリビの前に出ると立ちふさがる。
「船の護衛が俺たちの仕事だ。体張るぞ!」
シノもモビルスーツを一機一機倒していく。
「おお~おお~。新しいグシオンとアガレス調子よさそうじゃねぇか。俺も一度ガンダム・フレームに乗ってみた……」
シノの後ろから敵のモビルスーツが襲ってくるのをダンテが援護に入る。
「隊長が一人で突っ込むな!」
「背中を預けてんだよ」
遠くからグレイズが援護に入ってきた。
「なんだ? グレイズ?」
「おう助かったぜ~。しっかし変な気分だなぁ。あいつらと肩を並べて戦うなんてな」
その間バルバトスとアガレスが多数のモビルスーツを蹴散らしていく。
「機動力は奴が上だ!距離を取って包囲する!」
「砲撃の邪魔だ!たかがモビルスーツの2機さっさと片づけられんのか!」
バルバトスがコックピットを抜き手でえぐると、アガレスはそのままレンチメイス改でコックピットを容赦なく潰す。するとシュヴァルベ・グレイズが援護にはいった。
「あの機体前に……」
「援護する」
「そう、じゃあお願い」
「じゃあ俺は……!?」
サブレは急いで操縦桿を動かしながら赤い機体の攻撃を紙一重で回避し、そのままの動きでレンチソードを赤い機体目掛けて叩き込もうとするが、相手もその攻撃を受け止める。
至近距離で睨み合う両機体。
「久しぶりだな…イラク!」
「フフ……ようやく会えたな。あれからどれだけ成長したのか見せてもらおう! 死神!」
「来いよ! 赤い悪魔!」
赤い悪魔という名前こそイラクに付けられたフォートレスの名前だった。
真っ赤なガンダムと対峙するサブレとビスケット、三日月の目の前にジュリエッタ達アリアンロッドが立ちふさがり戦場では三つ巴の戦いへと向かっていく。
次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再第二部第四話『真っ赤な悪魔よ』