機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再 作:グランクラン
「アーブラウの防衛軍も鉄華団のおかげで何かと形になってきてな。発足式を行う段取りになった」
蒔苗は通信機を通じてクーデリアと話しておりその後ろではフミタンが立ち尽くしていた。
「ええ。アレジさんから案内状頂きました。ですが……」
「まあ……難しいだろうな。いろいろと噂は届いておるよ。焦ることはあるまい。目標へ到達するためには順序が必要だ。最短を選ぼうとすれば必ずしっぺ返しが来る」
クーデリアはその言葉を忘れないでいた。
きっとその言葉はこれからを占う意味を持っているのだから。
「あれ? 今日はアーブラウの人達は? あっ例の発足式典の打ち合わせか」
タカキ達は鉄華団の地球支部のメンバーと話し合いをしていた。
「アーブラウ防衛軍のな」
「だからしばらく訓練は休み」
「あんな使えねぇじじいどもが防衛軍かよ」
「なあタカキ。これから俺らどうなるんだ?」
「あいつらに教える必要なくなったら俺ら火星にもどんのか?」
団員からそんな話が入ってくると、タカキは戸惑う。
「いやそんな話はビスケットさんからは……」
「俺好きだな地球」
タカキはそんなアストンの言葉に一瞬言葉を失ってしまう。
「俺も同意。飯はうまいし街に出りゃ鉄華団は優遇されっし」
「あのむかつくおっさんはいらねぇけど」
「ほんとだぜ。なぁ。ラディーチェの野郎いつまでいんの?」
団員からくるそんな不満にタカキはなんとか諫めようとする。
「いつまでって……ラディーチェさんはもう鉄華団の一員……」
「鉄華団なんかじゃねぇよ。テイワズが俺達の見張りによこしたんだろ?」
チャドが部屋の一室でスーツを着ていると、廊下から部屋へとタカキが入ってくる。
「チャドさんすっごく似合ってますよ」
「本当に俺でいいのかな? それこそラディーチェさんとか……」
「チャドさんが地球支部の責任者ですよ?蒔苗先先が指名してくれてるんだし、堂々としてくださいよ」
タカキとアストンがチャドに近づいていくと後ろからラディーチェが現れる。
「あっ……やっぱ似合わねぇか」
「いや……そうじゃなくて……」
「失礼。今度執り行われるアーブラウ防衛軍発足式について最終確認を……。あくまでサポートに徹し余計な動きは謹んでください。アーブラウ防衛軍とこれ以上余計な亀裂が生まれないよう慎重にお願いします。そちらに式典の詳細が入っているので目を通しておいてください。では」
そういうとラディーチェは部屋から出ていく。
「あいつ……」
「まああの人もいろいろ考えてくれてるんだよ」
「確かに。前はなんでも頭ごなしに否定されてたけど最近はだいぶ俺達の意見ものんでくれてますよね」
「まっ俺達がアホすぎるってんで諦めただけかもしれないけどな」
そんな会話を聞いていたラディーチェは小さくつぶやく。
「その通りですよ」
タカキとアストンは二人で仕事帰りに街中を歩いていた。
「チャドさんって……俺と同じ元々はヒューマン・デブリなんだよな?」
「そうだよ。ねぇ……今日も寄ってくだろ?フウカも喜ぶし」
「フウカ学校のテストがあんだろ? こないだ勉強してた」
「えっ? うん。でもごはんぐらい……」
「俺が行くといろいろ気を遣ってくれるから今日はいい」
アストンはそこで別れるのだが少し寂しい気持ちになったタカキ、タカキは玄関のドアをそっと開けて中へと入っていく。
「フウカただい………」
フウカはソファで寝ており、起こさないように近づくとフウカはそのままタカキの存在に気が付く。
「あっ……おかえりお兄ちゃん。勉強に夢中になってて。すぐご飯の支度をするから……」
フウカがご飯を作ろうと立ち上がろうとするが、タカキがキッチンに立つ。
「いいよ、俺作るから。フウカは勉強続けて」
フウカはアストンが来ていないかどうかをタカキに聞きながら周りを見渡す。
「アストンさんは?」
「今日はいいって」
「ほんと?じゃあお兄ちゃんだけなら甘えちゃおうかな」
そういうとフウカはそのまま勉強に戻る。
「フウカがこんなに勉強好きだなんておもわなかったな」
「うん。すごく楽しいよ。勉強だけじゃなくて、地球に来てから毎日がすごく楽しい。施設の子達と別れるのはちょっと寂しかったけど、でも地球でも友達いっぱいできたしそれにアストンさん達も優しくしてくれる。お兄ちゃんとずっと一緒にいられるし、私ここ大好きだよ」
「ああ。俺も大好きだ」
するとフウカは雨が降っていることに気が付く。
「ああっ! 洗濯物取り込んでなかったんだ!」
急いで洗濯物を取り込もうとベランダに出ていく。
それを見てタカキは地球にきて良かったという気持ちになっていた。
オルガとビスケットは片付けをしていたアトラのもとで遅めの食事をしようとしていた。
「悪いなアトラ。もう店じまいするとこだったろ」
「ごめんね。アトラ」
「大丈夫だよ。それよりこのままでいいんですか? あっため直さなくて」
「ああ」
「じゃあ、俺は温め直してもらおうかな」
オルガが席に座ろうとするとそういったビスケットの方を見る。
ビスケットはオルガの視線に気が付き疑問顔をしながら首をかしげた。
「何? どうしたの?」
「……何でもない」
オルガは何とも言えないような顔になるが、そのまま席に座ると飯に手を付けるが、食堂に三日月とサブレが入ってきた。
サブレはここ数日鉄華団へと顔をだしており、その理由をオルガやビスケットはあえて尋ねていない。
三日月はオルガの食事を見た後、温め直しているビスケットの方を見てもう一度オルガを見る。
「温め直せばいいのに」
「いや、いいんだこのままで。飯も仕事も厄介ごとも一緒だ。目の前のもんをひたすら片づけていく。そうしねぇと先にすすめねぇからな」
「でも、兄さんは飯を温めてもらってるけど……」
ちょうど温め直してもらったビスケットがオルガの隣に座り食べ始める。
サブレの台詞に食べ始めていたビスケットはどこか物怖じしながらも「だって…」と言いよどむ。
「え?いや……だって温めないとおいしくないし……」
三日月はまっすぐオルガを見ると、オルガは食べずらそうにする。
「ん? なんだよ? そんなに見られてたら食えねぇだろ」
「痩せた?」
自分では痩せたとハッキリ分からなかったオルガだが、サブレはビスケットの方をジッと見る。
「じゃあ、兄さんは太った?」
「じゃあって何!?」
二人が言い争いをしていると、三日月は火星ヤシをオルガのご飯に入れる。
。
「お前……」
「栄養。オルガがみみっちくなるのはなんかやだ」
オルガはそのまま火星ヤシを口にするが、そのとたん表情を変えた。
外れを引いたという顔をしたとビスケットとサブレはハッキリと分かったが敢えて指摘しない。
「あれ? はずれ?」
「ん……いや……ありがとなミカ」
ジュリエッタはラスタルが先ほど頼んだという男の情報を素早く父マハラジャにリークした。
これは同時にフォートレスが近々『ある人物』への捕獲作戦を立案すると言うことであり、その作戦指揮をするのは間違い無くサブレだった。
サブレのことを思い出すと少し不機嫌になるジュリエッタ。
幼い頃にサブレを紹介された以降何かに付けて比較されがちな関係、何かと自分の一歩先にいるような彼に少しだけ不機嫌になってしまう反面、それがどこか誇らしい。
そんな、彼らに黙っている人間が直ぐ近くに。
直ぐに自分の気持ちを切り替え彼の本心を探り出そうと試みる。
仮面を付けた男へと歩んでいく。
「私には理解不能です。ギャラルホルンには多くの人間がいるというのにそれを差し置いて……どこの馬の骨かもわからないあなたを側近にするなど。これは由々しき問題です」
「由々しき?」
「端的に言えばラスタル様によるえこひいきです」
「ふっ」
仮面をつけた男はジュリエッタの言葉に軽く笑う。
内心では「こんな人でも笑うんですね」と驚くが、ここで言葉を乱せば間違い無くバレる可能性が高い。
あくまでもラスタルに従順な兵士を偽る。
「なっ! 今笑いましたか?」
「ああ。君の事もこの艦隊の人間が噂していたから」
ジュリエッタはジト目で仮面の男を見る。
イマイチ内心が覗ききれないと踏み、このまま踏み込んでいくべきかもう少し距離をあるべきかと悩む。
「確かに私は階級も後ろ盾もありません。けれどモビルスーツの操縦の腕一つでラスタル様は私を認めてくださったのです」
「ラスタルを信用してるんだな」
「当たり前です。ラスタル様は私の誇り。尊敬すべき上官です」
「そうか。誇り……か」
その言葉が意味する事を探ろうとしていた。
これは少し前の話。
オルガたちはマクギリスに会いに火星支部に来ていた。
「素顔のあんたと会うのは初めてだな」
「火星で会ったのは君と帽子の彼だけだったか。彼はここにいないようだが……。活躍は石動から聞いた。元気そうで何よりだ」
「そっちはなんか疲れてるね」
「三日月!」
「旅の疲れだろう。明日にはまた地球に立たなければならないのだから気が重たい」
「まずは礼を言わせてもらう。テラ・リベリオニスの後始末助かったよ」
「サンドバルを捕らえた君たちへの返礼としては安いくらいだ。他に何かあれば遠慮なくいってくれ」
「仕事の分の報酬はもらってんだ。それよりも、アンタが仮面なしで俺らを呼びつけた要件を聞こうか」
オルガは疑いの視線をマクギリスに向ける。
「言葉にすれば大した話でもないのだがな……鉄華団とは今後もいい関係でいたいのだよ……そう身構えないでもらいたいな」
「ギャラルホルンが一枚岩じゃねぇってことは今回の件で分かってる」
「アリアンロッド艦隊の事か?」
「あんたは何がしたいんだ?」
「前に話したとおりだよ。腐敗したギャラルホルンを変革したい。その為にはより強い立場を手に入れる必要がある。当面の目的としてはラスタル・エリオンよりも上に行くことだ」
「アリアンロッド艦隊の総司令ですね。あなたと同じセブンスターズの一員でもある」
「今の所私一人の力で太刀打ちするのは難しい相手でね。協力してくれる味方が必要だと感じている」
「あんた正気か? 俺らみたいなチンケな組織にする話じゃねぇな」
「私は君たちを過小評価する気はない。君たちとしても、私と組むことに十分な利益はあると思うが」
「時間をくれ………。俺一人で決めるわけにはいかねぇ」
「時間が必要だと?」
「ああ、相棒とちゃんと話さないといけないからな」
するとマクギリスは少し考え込むと、黙ってうなずく。
「分かった。そういうことならいいだろう。どのみち私もすぐに動く気もない」
マクギリスとオルガの結論は出ることなく終わった。
しかし、オルガには実際の所結論なんて決まっていた。
そんな事を思い出し、その後ビスケットに安堵の息を漏らされていたことを思い出すオルガ、しかし、オルガに取ってもう一人話したい人間がいたのだ。
先の戦いの最中に乱入した真っ赤な機体。
それが意味する事を…そして、最近サブレを自分たちの周りに置いている本当の理由。
今日…ここにマハラジャが来ると分かっていた。
「いいや…ここは相も変わらず男臭い。もう少し換気や匂いに気を使ったらどうだ?」
そんな軽口を言いながら団長室に入ってきたマハラジャはタバコの息を吹き出しながらソファに座り込む。
オルガはその対面に座りながらも警戒心をほんの少しだけ上げていく。
「分かってんだろ? この真っ赤な機体は何だ? 何で俺達の周りにサブレをいつも置いていたのか?」
「お前達を信頼しているからだって思わないかな? 思わないんだろうな…サブレをお前達の周りに置いていたのはお前達の実力を探らせるためと信頼できる組織かどうかを今一度探らせるためだ」
「で? 俺達はあんたの目にかなったのか?」
「ああ…まだ危うさはあるがその辺りはこっちで調整できるレベルだしな…」
「で? この真っ赤な機体は?」
オルガの取り出した写真に写っている真っ赤なガンダム。
「詳しくは避けるがガンダム・フレームを狙って現れる人物で、サブレ達は何度か立ち塞がったことがある。ここ数ヶ月再活動を始めたようでな。近々動くのではとこちらでも警戒しておく。動きがあればこっちからリークしよう」
「頼む。で? 俺達にギャラルホルンもテイワズも…誰も居ない事を確認させたのは何故だ?」
マハラジャはポケットの中から一枚の写真を撮りだして差し出す。
その写真にはマハラジャと近い歳の男性が写されており、見た感じどこかの傭兵という風貌の男。
「こいつは?」
「私の…友人だ。こいつを捕まえたい。最悪口がきける状態なら構わん。作戦の詳細はサブレに任せているから共闘して欲しい」
「俺達に探らせると?」
オルガは内心「どこにいるかも分からないのに」と思ったが、マハラジャは高笑いを浮かべながらテレビを付ける。
そこにはアーブラウ防衛軍発足式典の会場で爆発が起きたというニュースが写っていた。
「な!?」
「ここでお前達の仲間を騙しながら仕事をして居るはずだ…これで引き受けるしか無いな? 最低限の目標は捕獲…だ」
「あんた……この状況を読んで?」
「まあ……読みやすいバカな奴だからな。不満ならテイワズに言えよ。テイワズが監視要員に連れて行った奴が裏切ったんだからな」
マハラジャはタバコを吸い始めた。
アーブラウ防衛軍発足式典で起きた爆発はAEU間で紛争という形へと向かって進んでいく、鉄華団とフォートレスのエージェント達は紛争終息と『とある男』の捕獲という任務のために地球へと向かっていく。
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンス 別再第二部第七話『無音の戦場』