機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再 作:グランクラン
アーブラウ防衛式典の最中トップである蒔苗を襲った爆発テロ、このテロをアーブラウはAEUの犯行だと断言し一触即発の雰囲気になろうとしていた。
時を同じくし鉄華団の団員チャドも意識不明の重症になっており、鉄華団も混乱とした状態が続く中、それを必死で纏めようとタカキも必死だった。
「今日でもう三日たつぞ! チャドさんどうなっちゃったんだ!」
「ラディーチェさんが言うにはまだ意識が戻らない状態だって……」
「そんな! 団長はなんて?」
「本部との連絡はラディーチェさんが取ってるから……」
「なんだよラディーチェさんラディーチェさんって!」
「こうなったらチャドさんの敵俺らで取りに行こうぜ!」
「ダメだ! そんな勝手なこと」
「なんでだよ!? オルガ団長だったらそう指示してくれるはずだ!」
「だからその団長の指示がまだないんだ。俺達が勝手に動くことはできないよ!」
全てがラディーチェに任されているという現状が更に他のメンバーの不満を高まらせ、それが更に彼らを興奮に追いやっている。
タカキは何とか団員を押さえ込もうとするが、そんな事で止まれるほど彼らの状態は収まらないと判断したタカキは、ラディーチェと話し合いなんとか現状を打破しようと試みていた。
「蒔苗氏の意識もまだ戻らないようですね。捜査の手がかりもなかなかつかめないようで、警備の不備が問われています。こちらに矛先が向いてくることもあるかもしれません」
「あの! 俺からも一度団長に直接聞きたいことが……」
「前に伝えました通りチャドさん不在の間は、本部との連絡は私に一任すると仰せられています」
「でも、それじゃあ団員達の収まりがつかないんです!」
「それをなんとかするのはあなたの役目でしょう」
「私はまとめなければいけない書類がありますので」
「……わかりました」
タカキは渋々引き下がるが内心では納得できない部分が多くタカキ自身も不満を内に秘めている。
すると廊下ではアストンが待っており、一緒に歩いて廊下を歩く。
「チャドさんが言ってたんだ。指揮はお前に任せるって。だからこそみんなは納得できないかもしれないけど、勝手なことはできないんだ。俺の考えでみんなを危険な目に遭わせるなんてことは……」
「俺もみんなと同じだ。チャドさんの仇を取りに行きたい。だけど、それより前に俺はお前の味方だ」
「うん……ありがとうアストン」
タカキにはその言葉だけで良かった。
オルガ達鉄華団の本部メンバーは団長室で話し合っていた。
オルガ、ユージン、ビスケットなど重要人物が集まっている状況、マハラジャからの情報で色々な裏の事情が見えていたが、その説明をすると言っていたサブレ自身がここに集まらない。
そんな中オルガはユージンに訪ねた。
「地球支部はなんて言ってる?」
「状況は変わんねぇよ。「チャドと蒔苗さんが負傷した。現場の判断はこちらに預けてくれ」ってそれ以上さっぱり分かんねぇ」
オルガのため息が団長室全体に広がる中、ビスケットがユージンに訪ねた。
「タカキに話は聞けなかったの?」
「チャドの代わりにあちこち飛び回ってそれどころじゃねってよ」
「どうも気になるな」
その報告を聞いて少し考え込むオルガとビスケット。
「それって本当の情報?」
どうも嘘っぽい情報にビスケットが顔をしかめるのだが、その情報をさらっと「嘘だな」と言って部屋に入室してきたのはサブレだった。
全員が驚いてサブレの方をジッと見つめる。
するとジョシュアはニヤニヤ顔で胸元を大きく開けてユージンを後ろから襲う。
ドギマギして会話に入っていけないユージンを放置してビスケットがサブレに噛みつく。
「どういう意味?」
「考えても見ろよ。タカキってあの子供だろ? そんな人間がチャドっていう人間の代わりにって飛び回る事態を想像できるか? それにお前達はあくまでも防衛の協力者的な立場だったろ? 技術を教える立場でしか無いお前達がどうして代わりに移動するんだ?」
「それもそうだな」
「ラディーチェっていう男が裏切り、ガランという男と結託した。その裏にはアリアンロッド艦隊のトップであるラスタル・エリオンが関わっている。このラスタルという男結構腹黒い男でも有名で、言ってしまえばギャラルホルンという組織の闇を一身に集めたような男だ」
そう言って写真を二つ取り出す。
ガラン・モッサと名乗る男とラスタル・エリオンがそれぞれ写っている。
「このガランって男が今回の事件の主犯で良いのか? 俺達はこの男を捕まえてアーブラウに差し出せばいいわけだ」
「ユージン。そのドギマギした顔で言われても説得力無いよ」
「う、うるせい!」
「いや…あくまでも引き渡すのは俺達の方、この男はラスタルとの繋がりがある。この際全て吐かせてラスタル逮捕に向けての証人にしたいんだ。最悪廃人になっても良いとの事だからあくまでも捕獲が絶対だ」
「それよりあいつらは無事なんだよな?」
「保証は出来ない。いつ戦争状態に移行するかは予想は出来ないからな。ただ言えることは…戦争は絶対だ」
「やばいぞ! さっきアーブラウ防衛軍の奴らが噂してるのを聞いちまったんだ。このままだと戦争になっちまうかもしれねぇって……」
鉄華団の団員が興奮しながら入ってくるのをタカキは驚いて聞き、急いで部屋から出て行く。
タカキが急いでラディーチェに話を聞きに行くため走り出した。
「ラディーチェさん! 式典の事件にSAUが関係してるって……経済圏同士の戦争になるかもしれないって本当ですか!?」
「その可能性は否定できませんね」
「あの……団長はなんていってるんですか?」
「もちろん連絡はいれています」
「だったら!」
「地球にいる我々にわからないことが、火星の彼らに分かると思いますか? チャドさん不在の今現場を任せられるのはあなたしかいないんです。タカキ・ウノ。あなたにかかってるんですよ。鉄華団地球支部のこれからあなた達の地球での生活も」
あくまでも本部と交信させないラディーチェはタカキをうまく唆す。
「あいつを信頼しているのか?」
「鉄華団は家族だろ? ラディーチェさんは鉄華団の一員なんだから。家族を信用できなきゃおしまいじゃないか。フウカの為にも俺は地球で頑張っていきたいんだ」
タカキとアストンはタカキの家で話し合っていた。
「俺はお前らの幸せを守るためだったらなんだってする。まあ俺にできるのは殺したり、お前を守って死ぬくらいだ」
そんな発言にタカキが過剰に反応する。
「やめてくれ! 死ぬとか殺すとかそんな簡単に言っちゃ駄目だろ!」
タカキの叫びにフウカが反応して起き上がる。
マクギリスは石動と自室で話し合っていた。
「正式にSAUからギャラルホルンに調停の要請が来た」
「本気で開戦するつもりでしょうか?」
「ここまで事態が進んでしまっては避けられないかもしれないな」
「ではお引き受けに?」
「要請が来たからには当然だろう」
「しかし、万が一調停が長引けば……」
「分かってる。そこにつけ込み、こちらの足を引っ張ろうとする勢力がいることもな」
それが誰なのか石動には分かっていた。
「待っていましたよタカキ君。こちら今回の件に関してアーブラウ防衛軍の方を指揮する予定の……」
すると、ラディーチェが髭を生やした男を紹介する。
「ガラン・モッサだ。よろしく頼むぞ少年」
ビスケットとクーデリアはオルガと出発前の確認をしていた。
「じゃあ、俺たちはそろそろ行くね。到着まで約三週間だけど……その間任せることになるけどいい?」
「ああ、もちろんだ。それより本当にあんたも行くんだな?まあ、アンタがそばにいれば大丈夫だろ」
「ええ。このような状況だからこそ私に出来ることがあると思うのです」
サブレが大きく欠伸をしながら部屋から出て行くと、それに続くようにクーデリアとビスケットが出て行き、廊下ではジョシュアがユージンを揶揄っていた。
サブレが「そろそろ止めろ」と言い聞かせ出立する姿をオルガは黙って見守る。
鉄華団本部との連絡が取れないまま、SAUとアーブラウとの戦争に巻き込まれる地球支部。
アーブラウ・SAU両軍がにらみ合う国境地帯バルフォー平原。
戦闘は不幸な事故をきっかけに始まった。
威力偵察に出たSAUの偵察機がモビルスーツのエイハブ・リアクターの干渉を受けて墜落、SAUはモビルスーツが戦場に出るほどの事態だとは思わなかった。
SAU側の戦力は実戦経験のない防衛軍とギャラルホルン・SAU駐屯部隊、そして地球外縁軌道統制統合艦隊からの派遣部隊との混成軍だった。
対するアーブラウ側もやはり実戦経験がゼロの防衛軍と鉄華団。作戦参謀にガラン・モッサと呼ばれる人物が参加していた。
平原のあちこちで散発的な消耗戦が繰り広げられてもう半月余りが過ぎた。
モビルワーカーで戦闘に向かうタカキは不安を抑えきれずにいた。
(違う……何かが違う。俺たちはこれまで幾度となく戦ってきた。そのどれとも違う)
戦場ではランドマン・ロディがまた一機コックピットをつぶされてしまった。
また一人尊い命が失われていく中アストンが機体を走らせる。
一進一退の攻防が続くなか、マクギリス達はアーブラウ側の思いもよらない抵抗に焦りを感じ始めていた。
「落とし所が見えないな」
「はい。武力介入して一気に事態を収束させるつもりが……」
「予想だにしませんでした。まさかアーブラウ側がこれほどまでの抵抗を見せるとは」
ギャラルホルンからすればアーブラウがここまで抵抗するとは当初は予想すらしていなかった。鉄華団のおかげで戦いが平行線をたどっていくことに、少なくとも焦りが見え始めた。
マクギリスは今一度作戦基地に戻り、部下と共に解決策を図ろうとしていた。
「准将。正規の外交ルートでの解決を図った方がよいのでは?」
「それができるなら苦労はしないだろう。アーブラウの蒔苗代表が意識不明。外交チャンネルは何者かによって閉ざされギャラルホルンのアーブラウ駐屯部隊も動きようがない。だからSAUは我々に紛争の調停を求めてきたんだ」
「しかし、このままでは埒があきません。おかしいですこの戦い、いまだに決着がつかないなんて……」
「確かに見事な戦術だ。大規模衝突を避け、局地戦に終始、戦力の分散投入と撤退のタイミングにはある種の才能を感じる。特に、指揮能力はないが機動性に優れた鉄華団の特性をいかして手足のようにコントロールしている」
今だ正体のつかめない指揮官を褒めつつ、対策がいまだ出てはこなかった。
時を同じくしてタカキ達も戦場のおかしな空気に惑わされている真っ最中だった。
「アストン!敵の援軍だ。数は3!」
「撤退する。命令はここまでだ。あとで迎えに来る」
アストンは亡くなった仲間に迎えに来ると約束し、撤退していった。しかし、アーブラウ防衛軍との仲はうまくいってはおらず、一機のモビルワーカーが独断で動き出す。
「こっちも撤退するよ……戻れ! 深追いするなって命令だろ!」
「うるさいクソガキ! やらなきゃこっちがやられるんだ!」
そして一機のモビルワーカーがまた落ちる。
マクギリスは戦場をジッと見つめながら見えない敵の目的を考察する。
「そして不鮮明な開戦理由を逆手に取り、見事な膠着状態を成立させた。つまりそれが目的か」
マクギリスは敵の目的に気が付きつつあった。
「これで12人目……」
シートのチャックを閉め、タカキはそっと目を閉じた。すると、どこからとなくガランが姿を現した。
「俺にも別れを言わせてくれ。勇敢なる鉄華団の若き戦士に」
すると、ガランはエナジーバーのようなものをタカキに渡そうとする。
「食うか?」
「あっ……いえ」
「辛いな。だが、ここが踏ん張りどころだ。実働部隊の実質的な隊長はお前ら二人だ。素人のアーブラウ防衛軍を率いての戦いはきついだろうが、これからも頼むぞ」
しかし、そんなガランの言葉とは裏腹に兵士たちの疲労は確かに蓄積されていた。
「俺達もう何日戦ってるんだ?」
「みんなお疲れ」
タカキとアストンがテントに戻ると、みんなは不安そうな顔をする。
「なあタカキ、これっていつまで続くんだ? 俺達って勝ってんの? 負けてんの?」
勝っているのか、負けているのかがはっきりわからない戦争の状況は兵士たちの士気を著しく下げていた。
そんな事はタカキとて同じ気持ちだったが、ここで指揮を下げれば間違い無くズルズルと引きずるのは明白。
タカキは何とかみんなの士気を下げまいと努力する。
「ガランさんはこっちが優勢だって言ってたよ。ラディーチェさんも火星の団長が喜んでるって……」
「つかなんなんだ? この戦い。お互いに大隊規模、千人以上も兵士いんのにちょろちょろ小出しに攻撃して、いいところで退却。意味わかんねぇよ俺」
タカキは言葉が出なかったが、アストンが代わりに答える。
「余計なことを考えてんじゃねぇよ。今は食える時に食って、寝れるときに寝とけ」
「わ……わかってるよ」
「急にしゃべんじゃねぇよ。ビビったわ」
アストンとタカキはモビルスーツの前でご飯を食べながら話をしていた。
「みんなの思いはさ、俺の思いでもあるんだ。もう何年も戦ってるような気がするよ。ついこの前までフウカとアストンとあの部屋でご飯食べてたのか。夢みたいだ。ねぇアストンは何も感じない? この戦いは今までと何か違う。俺最近ずっとそれが頭から離れなくて。もちろん、理屈ではわかってる。けど、俺は今何をしてるんだろうって、時々見えなくなるんだ」
しかし、タカキ達に休息の暇は与えられず、すぐに出撃の命令が下った。
「伝令です! 出撃命令です! すぐに指令所まで来て……」
「無理だよ! 夕べから戦い詰めで、みんなまだ疲れ切ってて……」
「けど、ガラン隊長の命令で……」
その言葉にタカキが立ち上がり怒鳴りつける。
「隊長!? いつからガランさんが鉄華団の隊長になったんだ!!」
「いや……その………なんとなく、最近みんな作戦指揮してんのあの人だから……」
「分かった……ごめん、すぐ行く」
また戦いが始まろうとしていた。
音の鳴らない無音の戦場をまた掛けなくてはいけないという想いが脳裏を過り嫌気がさした頃、真上では鉄華団本隊とフォートレスのエージェント達がアーブラウ政府との交渉に難航していた。
ガランの言葉に唆されていくタカキ達、地球へと降下するため策を巡らせるビスケット達、ガランとマハラジャの見えざる攻防戦が始ろうとしていた。
次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンス 別再第二部第八話『舞い降りた悪魔』