機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再 作:グランクラン
アーブラウとSAU間の紛争から既に一か月が過ぎ去ろうとしており、SAUとアーブラウは鉄華団の仲介を得る形で紛争を終結へと導いた。
ギャラルホルンのセブンスターズの会議ではイオクがマクギリスの失態を追求しようとしていたが、マクギリスは周囲を巻き込み押さえ込んでいる。
「今回のSAUとアーブラウ防衛軍の戦闘について、全ての責任は地球外縁軌道統制統合艦隊にあることは明白! 今回の件で水面下で行われていた、経済圏同士の争いは表に噴出するでしょう。そうなれば現在のギャラルホルンにどれほどの抑止力があるか……」
「クジャン公落ち着きたまえ。この騒動はファリド公だからこそ最小限に被害を抑えられたとの考え方もある」
「気になるのはアーブラウ防衛軍を指揮したという男だが……」
「調査の結果地球上のすべてのデータに該当する人物はありませんでした」
「本当にそんな男がいたのか疑問だ」
ラスタルのそんな一言でガランの一件は打ち切りになってしまった。
ラスタルとマクギリスは会議が終わったころ、廊下で鉢合わせになってしまった。
お互いに営業スマイルを見せながらもうわべだけの会話を繰り広げる。
「今回は大変な目に遭ったな。いや、ボードウィン公の言う通りだ。君でなくては今回の騒動は収められなかっただろう」
「いえ。そもそも騒動が起こったこと自体が私の失態ですので」
「君も大人になったものだな」
ラスタルとマクギリスは昔出会っていた。ラスタルはその時のマクギリスの欲していた物を今でも覚えていた。「バエル」とそういった彼の事を。
「まさか子供の口からそんなものの名前を聞くとはな。まあ君には今でも驚かされるが。イズナリオ・ファリドの失脚劇の手際も実に見事だった」
「なんのことを仰られているのか計りかねます」
「私怨が君の原動力なのかと思っていたが、イズナリオ・ファリドが亡くなった今、君はギャラルホルンで何を成し遂げたいのか……、しかしそれが分かる時はお互いに状況が今とは大きく変わっているだろうな」
そういうとラスタルはマクギリスの前から姿を消した。
そして石動へと向ってマクギリスはふと訪ねる。
「ガラン・モッサについての独自調査の結果は?」
「やはり正体を追いきれませんでした」
「一人の人間の素性を完全に闇に隠す。それはエリオン家であれば十分に可能だ」
「ラスタル・エリオンはあとどれだけの手駒を隠し持っているのでしょうか……」
マクギリスはまっすぐとラスタルの消えた方を見つめていたが、そこにラスタルはいなかった。
蒔苗は何とか一命をとりとめ、クーデリアと病室で話をしていた。
浮かない顔をしている蒔苗と紛争解決のために動き回ったクーデリア、お互いに状況が変化した事へのいたたまれなさを感じていた。
「まるで狐につままれた気分だ、目覚めたら一つの戦争が始まり、そして終わっていた」
「SAUとアーブラウ防衛軍は和平調停を受け入れました。鉄華団は地球から撤退するそうです。手続きの為、オルガ・イツカも今し方……」
「チャド・チャダーンはすでに退院したと聞いたが?」
「はい、今はもう現場に復帰したと」
「そうか。おいぼれを助けるために若い命を散らせてはあの世で悔やみきれんからな」
蒔苗は微笑みながらチャドの無事を喜んだが、同時にそんな彼にクーデリアは驚きの顔を見せた。
「蒔苗先生はもっと冷酷……あっいえ、情に流されず冷静に物事を判断する方かと思っていました」
「年を取って変わったのかもしれんな」
「素晴らしきことです」
「いや。この年での変化はもはや退化にすぎんよ。今回は運よく命拾いをしたが、すでに限りは見えている。しかし、この年までわしが得てきた人脈を未来ある誰かに譲ることができれば……クーデリア・藍那・バーンスタイン。どうだ?このまま地球に残らないか?」
「そのお話なのですが……」
クーデリアがそう切り出すと、病室をオルガとビスケットが訪ねてきた。
話を切り出したのはオルガだった。
「鉄華団か……何ようかな?」
「爺さん……話があるんだ」
チャドは端末に記載されていた今回の戦死者リストを見ながら階段で一人落ち込んでいた。すると、そこに昭弘とラフタがやって来た。
「今回の戦死者か」
「ああ。俺がふがいないせいで、こんだけの仲間を失っちまった……」
「お前のせいじゃない」
「団長やビスケットはいつもこんな気持ちなのか……一分一秒が耐えきれねぇ、やり切れねぇ。自分が前に出て傷ついた方がずっとましだ」
「そういえばアストンって昭弘と同じ苗字だよね。アストン・アルトランドって」
「ああ。ブルワーズにいたヒューマンデブリの生き残りには苗字のない奴が多くてな、助かってよかった。サブレには感謝しねぇとな。失ってからじゃ遅すぎるからな」
「……そうだね」
明弘の言葉にラフタは微笑みながら返してくれた。
タカキとユージン、オルガ、ビスケット達は帳簿などの情報整理をしていたが、その殆どをラディーチェが管理していたと言うこともあり難航を見せていた。
「おいタカキ、こっちの帳簿はどうなってる?」
「それは……すいません……ラディーチェさんが管理していて」
「こっちは?」
「すいません……それもラディーチェさんしかわからないんです」
オルガたちは事務所で撤退の為の準備を行っていたのだが、予想外の苦難にユージンがため息を吐き出していた。
「結局の所、戦争なんて起こる前から地球支部は実質ラディーチェに牛耳られてたってわけか」
「文句言っても仕方ないよ……基本的にみんなは実戦ばかりで、事務的な仕事は俺がやってたし……」
「だな……こればかりは俺たちの責任だ」
「どうすんだ? ラディーチェの奴を連れ戻すか?」
「止めておこう、ややこしい状況になるだけだし……俺はあの人が嫌いだ」
ユージンがそっとオルガの方に近づきながら訪ねる。
「なあ……ビスケットの奴、なんであんなに機嫌が悪いんだ?」
「自分の責任だって感じてんだろ? 自分が地球支部にいれば良かったってな……」
「はぁ? そんなの仕方ねぇだろ。サブレ達が協力してくれたって言ってもビスケットは本部勤務だって決まったちまったんだから」
「元々裏方はあいつが一手に引き受けていた。それが今回の結果につながっちまったし、元々あいつはラディーチェには反対だったんだ。頭を使うやつをいきなり入団させると、トラブルになるってな。まああいつの予想通りになっちまったがな。これは俺の責任でもある」
ユージンは肩をすくめ自分の席に戻っていくと、ビスケットがタカキに声を掛けた。
「タカキ、ラディーチェさんが管理していたデータをすべて俺に回してくれ、俺が何とかするから」
「だったら、ビスケットお前が今してる整理の仕事を俺に回せ、俺とユージンでなんとかすっからよ」
少しずつではあるが仕事が片付きつつある状況の中タカキは自分の不甲斐無さと無力さを噛み締めていた。
悔しいという気持ちでそっと握りこぶしを造っていた。
それを外からそっと眺めていたサブレだった。
タカキは暗い中、座り込んでいると唐突に後ろから三日月が声を掛けた。
「どうしたの?しけた顔してんね」
「俺は鉄華団失格です。ラディーチェさんの嘘に乗せられて訳の分からない人間の命令に従った。鉄華団にとって団長の命令こそが絶対なのに、俺は……」
「タカキは自分に与えられた仕事を果たしただけだ。オルガの命令だと思って従ったんでしょ?」
「それはそうですけど……」
「だったらいいじゃん」
三日月はそういうとそのまま外に出ていった。
入れ違うようにクーデリアが近づいてくる。
「タカキ……」
「三日月さんやビスケットさん、それにサブレさんはすごいです。あの時、サブレさんが割って入らなかったら俺かアストンは死んでました。それにラディーチェさんが勝手にしていた仕事をビスケットさんはあっさり解決してくれて、俺……今でもビスケットさんに甘えてる。あの時の帽子をかぶる覚悟もなくて……俺……ビスケットさんに合わせる顔がありません」
「私がこんなことを言うのは出しゃばりかもしれないけれど、あなた達はもっと学ぶ必要があると思う。解釈の仕方は一つじゃない。選択肢は無限にあるの本当はね。だけど、その中で自分が選べるのは一つだけ」
「自分でなんて……俺なんかには選べないです」
「一つを選び取るのは誰にだって難しいわ。でもね。多くのものを見て知識を深めれば物事をきちんと判断し、選択する力が生まれる。誰かの指示に頼らずとも。ビスケットさんだってあの日自分で判断し、選択した。だから彼は今、まっすぐに歩いている。タカキはそんなビスケットさんから帽子を託されたのでしょ?」
タカキの手をそっと重ねてくれるクーデリアの優しさ、改めて突きつけられてきたのは幸せの選択肢だったのだろう。
鉄華団の地球支部前に一台の高級車が止まったのを団員の一人がしっかりと確認していた。
中からトドと呼ばれている男が顔をだす。
「ようよう元気か?お前ら。な~んかまた盛大におっ死んだらしいなぁ。おめぇらの兄貴分として励ましに来てやったぞ」
「兄貴って……」
「あんた、じじいじゃねぇかよ」
そんなトドの後ろには変装したマクギリスが乗り込んでおり、マクギリスを部屋まで案内し、マクギリスはたどり着くとオルガと話を始めた。
「ガラン・モッサはラスタル・エリオンの息がかかっているとみて間違いない」
「またラスタルってやつか」
「彼らを討たずしてギャラルホルンの改革はありえない。相手側が仕掛けてきたということはもはや全面対決も近いだろう。これからも君達には力を貸してもらわねば」
「手を組むだけならいい。だが……俺達にも目的がある。もし、アンタと俺たちの意見が食い違ったらどうする?」
「その時は手を切ることを約束しよう。それに私は確信しているんだ。君達の力を借りることができれば、私は必ずやギャラルホルンのトップに立つことができる。その暁にはギャラルホルン火星支部の権限をすべて鉄華団に移譲しよう」
「はぁ?」
オルガは突拍子のないそんな条件にいまいち話を飲み込めずにいた。
「火星は各経済圏の植民地だが、それを束ね実際に管理しているのは我らがギャラルホルンだ。その権利を君達が持つとなればそれは鉄華団が火星を支配するということだ」
「火星を支配?」
「ああそうだ。君達は火星の王になる」
しかし、この時のオルガはすでに組むべき相手を見極めていた。
そんな会話をじっと聞いていたサブレ。
タカキは廊下をため息を吐きながら歩いていると、曲がり角で大量の荷物を抱えているビスケットにぶつかりそうになる。
「あっ……ごめん。タカキ、大丈夫だった?」
「え、あ、はい。持ちましょうか?」
タカキはビスケットの荷物を抱えて一緒に歩いていると、抱えていた荷物が死んだ仲間の遺品であると気が付いてしまう。
タカキは思い悩んでいると、ビスケットが話を切り出した。
「そういえば……フウカちゃんは元気? 学校に通っているって聞いたけど」
「はい。元気ですよ。アストンともすっかり仲良くなって……」
「悩みがあるなら聞くよ」
そんなビスケットの優しい言葉にタカキは一瞬驚いてしまう。
そして、本心を打ち明けた。
「俺……鉄華団をやめようと思ってるんです。でも、それが正しい判断なのかどうかが分からなくて……俺だけ逃げているようで……それに、アストンの事だって」
「だったらアストンと二人で話したらどうかな? 二人で決めたらいいよ。俺だっていつもサブレと決めてきたんだから。タカキとアストンは本当の兄弟じゃないけど、地球に来てからアストンと二人で歩いてきたんなら、タカキが相談する相手は俺じゃなくって、アストンなんじゃない? 大丈夫、どこにいても、どこで仕事をしていても俺たちは仲間で、家族だって言えるよ」
「び、ビスケットさん……」
しかし、そんな話をアストンが立ち聞きしていた。
アストンがそんな話を立ち聞きしていると、廊下の奥から昭弘が姿を現した。
「どうした? アストン」
「あ、昭弘さん。おれ……。タカキが鉄華団をやめるって……俺どうしたら」
アストンが思い悩んでいると昭弘はすれ違いざまに肩に手を置く。
「二人で話せばいい。お前がどこにいても俺たちは家族だ」
「………はい」
アストンは廊下を歩き、外に出るとばったりとタカキと遭遇してしまう。気まずい雰囲気が流れると、二人は同時に話を切り出した。
「「あのさ……俺………」」
二人は結論を出そうとしていた。
団長室に主要メンバーを集めるとマクギリスからの提案を飲むかどうかを話し合っていた。
「待ってくれよ。俺、脳みそが追っつかねぇ……」
ユージンが頭を抱えて悩んでいる。すると、三日月がいの一番に聞いた。
「オルガはどうしたいの?」
「断るつもりだ。手を組むだけならいいが、ここまで話が大きくなると別だ。それに俺たちが組む相手はすでに決めてある」
「どういうことだ?」
ユージンがふとオルガに聞くと、クーデリアとビスケットとアイコンタクトで合図を送りあう。そしてクーデリアが話を切り出した。
「私たちはマハラジャ達のフォートレスと手を組むことを決めました」
「「「ええ!?」」」
メリビットさんを含めて、団員のほとんどが驚きを隠せなかった。
「ごめん。いつかみんなには話そうと決めたんだけど、二年ぐらい前からその話を受けていたんだ。独立できるって話しだし、クーデリアさんの最終目標と同じ場所だからって。手を組むって決めたんだ」
「ちょっと待ってください。テイワズとの関係はどうするんですか?」
「親父にはすでに話が通ってる。すでに了承済みだ」
「いつの間に……」
「話が私たちに来た時点でマハラジャが独自に説得してくれたんです。どう転んでもメリットがあると了承してくれたので」
「マジかよ……。じゃあ、俺達鉄華団はフォートレスと組むってわけか?」
「いや、鉄華団が組むんじゃねぇ、俺たちとお嬢さんで火星の複合企業『ファミリア』を作り、ファミリアとフォートレスが手を組んでことを起こす」
「なんだ? ファミリアって……」
チャドや昭弘は首を傾げ聞きなれない名前に声を出して問う。
「俺とお嬢さんでテイワズのような組織を作るって話をだいぶ前からしてたんだ。その複合企業の名前が『ファミリア』だ。火星の経済をファミリアが独自に握る」
そんな話に昭弘たちは関心の声をあげるが、すぐにメリビットさんが反論する。
「ちょっと待って下さい! そんな話、経済圏が許すわけが……」
「いえ、アーブラウとSAUにはすでに話が通っています。他の二つの経済圏に関しても蒔苗さんが説得してくれる手筈になっています」
「いつの間に……どうやって」
「今回鉄華団はギャラルホルンの代わりに戦争の仲介役をかって出ました、その際に成功の暁にはファミリアの立ち上げを許してもらえるように働きかけたんです」
「よく経済圏が許したよな」
「それは……経済圏にもメリットがあるからなんだ。前に名瀬さんが言ってたよね。経済圏は今のギャラルホルンを重荷に感じ始めているって……、マハラジャさんの目的はギャラルホルンを変えること、そしてそれができる唯一の人物がマハラジャさんなんだ。その為の最低条件はラスタル・エリオンを討つこと、これはマクギリスさんと変わらない、でもそれができるのはあの人だけだと今のところは思っている」
「待てよ、なんで一組織がそんなことができるんだ? たかが組織だろ? 戦力だってたかが知れてるだろ?」
ユージンの疑問は最もであり、ほかの団員も同じ意見だった。
「それについてはサブレから教えて貰うことにしている。入ってくれ」
部屋の中へと入ってくるサブレがゆっくりと口を開いた。
「俺達フォートレスは元々隠した戦力が多く、結成された歴史もギャラルホルンと同等の歴史がある。俺達の最終目標はギャラルホルンが握っている自治権を経済圏へと返却し、独自の統一防衛軍へと変えること。そして…かつて裏切った裏切り者に制裁を与える事。これは気にしなくて言い。これは鉄血のオルフェンズ達だけの血の盟約だから」
全員が言葉を失っていると、最後にオルガが全員に確認を取る。
「そういうわけで、俺達ファミリアはフォートレスと組む。この話に乗れねぇってやつがいたら遠慮なく出てきてくれ。別に止めやしねぇ」
ユージン達はやめようとしない中、タカキとアストンが黙って前に出てきた。
「団長、俺とアストンは鉄華団をやめます! 団長が俺たちの未来の為に悩んでいろいろと考えてくれてるのはわかっているんです。だけど……俺とアストンは今の幸せを手放したくないんです」
「俺たちは今の幸せを守るために地球に残ります」
「分かった。俺にはお前を止める権利はねぇよ。今まで長いこと鉄華団の為に尽くしてくれてありがとな。タカキ、アストン」
「「お世話になりました」」
それぞれが選んだ幸せの道、それは求めたからこそ選んだ未来だった。
三日月、ビスケット、サブレはフォートレスの出資者が行う極秘裏のパーティーに参加していた。窮屈な服に身を包みその場に居る物が三日月達に願う事、それは「セブンスターズへの制裁」だった。そこから語られるフォートレスの真実とは?
次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再第二部第十一話『誠の願い』