機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再 作:グランクラン
あけおめです!
三日月は着ているスーツを鬱陶しいような目で見つめつつ窮屈そうな顔をして首元を弄っていたが、それを隣に座るオルガが止めさせた。
真っ正面に座るユージンは冷や汗を掻きながら緊張で身動き一つしておらず、その隣ではビスケットがソワソワしてこちらも少し落ち着かない様子だった。
オルガは人一倍大きなため息を吐き出し夜の街へと顔毎視線を向ける。
事の始まりは経済圏同士で起きた内紛を終えた鉄華団の協力を得たフォートレスからパーティーへの参加を促された。
フォートレスの決起集会も兼ねたパーティーであり、お金持ちなどが集まって仰々しい催しであることを事前に忠告を受けていただけに全員の緊張はピークに達していた。
「なあ…昭弘は!? あいつは来ないのかよ」
「昭弘が参加できるわけ無いだろ。あいつらは全員撤退の準備だよ」
「なら三日月はどうなんだよ! 同じじゃねぇか!!」
「三日月はマハラジャさんからの指示なんだよ…俺と三日月は強制参加だって…今回の話し合いにどうしても必要だから連れてこいって」
ユージンはイマイチ納得が出来なかったが、迫っていく四階建ての建物が見えてくると青ざめて行くユージンの表情が面白かったビスケット。
洋風の建物前で止まり中へとドンドン入って行くドレスを身に纏ったセレブ風の女性を見るだけでこのパーティーがどれだけ大掛かりなのかが良く分かる。
流石にタキシードを用意までは出来なかったオルガ達はなんとか手に入れたスーツを身に纏って現れたが、周囲にいるタキシードをしっかり着こなしている人達を見るとユージンは恥ずかしくて仕方が無かった。
「俺達滅茶苦茶浮いてんじゃんよ…クソ…俺は参加予定じゃ無かったのに」
「しゃあねぇだろ…俺とお前も是非来いって言われたら無為にするわけにも行かないし、何より三日月の面倒をビスケットに押しつけるわけにもいかねぇだろ。それにここで重要な話があるって言われた断るわけにも行かねぇよ」
中へと入って行こうとする一行の前にタキシード姿をしたサブレが姿を現し、そんな彼に対して表情を曇らせるユージン。
何故そんな顔をするのか全く分からないサブレはそれを無視して中へと一行を入れていく。
そんな中ビスケットと三日月にだけ赤いハンカチを手渡し左胸のポケットへと見えるように入れる。
「何だよ…これ」
「後で分かるさ。今日ここに来ているのは全員がフォートレスに出資している人間達だ。お前達の仕事の依頼主という事でもある。ここで変なことを言えば何を言われるか分かるよな?」
サブレからの脅しに三日月やオルガやビスケットの目がそっとユージンの方へと向き、ユージンはそんなメンバーに「何もしねぇよ!」と叫んでツッコム。
「大体決起集会って何する気だよ」
「フォートレスの結成時よりの誓いを果たす準備が整いつつあるという証明と、その決意表明でもある。ここに集まっている人達は皆『ギャラルホルン』を打倒して欲しいと願って集まっているんだ」
「ようするに現体制を崩壊させたいと? でもどうして…俺達が言うのもなんだけどさ…ギャラルホルンに従った方がマシだと思うけど」
「…ここに集まっているのは皆鉄血のオルフェンズに参加したパイロット達の遺族の一族だ」
聞き慣れない言葉に首を傾げる四人。
「俺達グリフォン家もそうだし、オーガス家そうなんだが…最初のオルフェンズと言われたメンバー達はその殆どが死んでしまったが、遺族は残った。その遺族はギャラルホルンの現在のやり方や過去の裏切りを許していない」
「何だよ…裏切りって」
「彼らはな…当時のリーダーのやり方に反発し裏切って金に目が眩んでしまったんだ。とある目的の為に一緒に戦っていたメンバーを裏切った。しかし、それは鉄血のオルフェンズ結成時に『絶対にしてはならない』というルールに反してしまう」
「でもよ…そんなの今更どうしようもねぇだろ?」
「それが出来てしまうんだよ。その証明の品をフォートレスはずっと持って居た。いや…発見してしまったと言っても良い」
そこまで黙って聞いていたビスケットがふと気になった事をそのまま訪ねた。
「だったらどうしてそれをギャラルホルンは探さなかったの? だって…それが有ると困るんでしょ?」
「探していたはずだ。でも…見つからなかった。最も見つけたのがセブンスターズの息が掛かった人間以外ならむしろ裏切りの対象になりかねない。なにせ、それは発見しただけで断罪できる証拠の品でもあるんだからな。それが大分前に見つかって以降、父さんの所にひっきりなしに作戦決行は何時だって声が届いていたんだ。準備不足を理由に逃げていたが…オルガ達のお陰で色々な人達の協力を得られたし、今回の一件で一番厄介な奴への切り札を複数個造ることが出来た」
「それってあの男の事か? あれってそんな重要な奴だったのか…て言うか生きてのか? 火傷だらけでヤバかったぞ」
「今は生きた屍状態だけどな…喋らせるだけ喋らせたから今は厳重監視状態で匿っているから…」
「…殺せば良いんじゃねぇか?」
ビスケットはユージンの言葉に肘をぶつけつつ不満をぶつける。
「あれでも父さんの元友人。殺したくないんだろ。いざとなったら首の爆弾を起爆させると言っていたから例え元の状態に戻っても平和な生き方は出来ないよ。ここの人達に俺達鉄血のオルフェンズの遺児が居ること、ガンダムが存在することを理解して貰い。作戦実行が近いことを伝えるんだよ」
「ねえ…サブレ。もしかして…その証拠ってアガレスのこと?」
サブレは何も言わない。
パーティー会場でたらい回しにされた三日月の表情は疲れ切っており、オルガはそんな三日月を連れて全員と一緒にサブレの案内の元マハラジャの元へと向っていた。
サブレが部屋のドアをノックして中へと入って行くと、濃いタバコの煙が充満しており、それを三日月は物凄く嫌そうな顔をしている。
「おお…入れ入れ。ったく…やってられん。文句を言うだけの奴は楽で良いよなぁ…何も考えていないんだからな。こっちは作戦成功率が上がるようにと悪戦苦闘しているにもかかわらず」
「それを言い出したらきりが無いって皆で決めたでしょ。それよりオルガ達に詳細の説明をするんじゃ?」
「おおそうだ…サブレ、ジュースを用意してやれ」
サブレは「はいはい」と言いながら換気扇を動かしてからジュースを人数分集めて全員の前に置く。
マハラジャはタバコの火を消してから真面目な顔をしてオルガ達へと顔を向けた。
「ある程度の詳細はサブレから聞いたと思うが…我々フォートレスの最終目的はギャラルホルンを壊滅させることだ。その後の新しい治安維持組織を作り出す事も含めてな。お前達のお陰で経済圏を纏めることも出来そうだし…改めて謝礼の品が依頼主からきている」
そう言いながらマハラジャは大きなアタッシュケースをドスンという音と共におき、オルガは恐る恐るケースを開けるとそこには大量の金塊が並んでいた。
ユージンは喉を鳴らし、三日月は常に無表情、ビスケットですら動揺してしまっていた。
「現金は勘弁してくれ。現金は足が付きかねないしな…この金塊を売れば今回の依頼金としては十分だろう」
「いやいや…! こんな…」
「受け取れ。危うい所で経済圏同士の殺し合いからラスタルが介入する可能性があった。そうなれば最悪こっちの作戦に支障がでる所だった。依頼主も安全が保証できたと安堵の息を漏らしていたよ」
「なら良いけどよ…」
「でだ…お前達これからどうするつもりだ? さっきも言ったが、フォートレスは最終目標としてギャラルホルンを壊滅させる。これは前身組織である鉄血のオルフェンズからの目標でもある。その為にはリーダーの遺児の一人であるグリフォン家の末裔であるサブレとビスケットが必要だ。お前達には協力して貰わなければ成らない。無論その分の報酬も用意する。あのお嬢さんとお前達がしようとしていることを思えば…俺達に協力することが最短の道になると思うが?」
オルガの目が大きく開きその後そっと細くなっていく。
「あんた…どこまで俺達のことを…」
「どうする? 鉄華団…お前達と私たちの最終目標は同じだ…それに協力することが出来れば同時に世話になっているテイワズへの恩返しになると思うが?」
唸るオルガをマハラジャは笑いながら答えを待っていた。
そしてマクギリスとの取引に関する一連の会話を終えた一行、チャドと一緒にタカキとアストンは三人で歩いていた。
「地球でいい仕事がないかビスケットが走り回りながら探してくれてる。じきに見つかるさ」
「すいません俺達……」
二人が頭を下げ謝っていると、チャドは気にしておらずタカキとアストンに優しく声をかける。
「いいんだ。地球支部はお前たちのおかげで本当に助かったよ。離れていても俺達はずっと家族だよ」
しかし、三日月はそんなタカキ達に別の言葉を掛ける。
「いや違うでしょ。タカキとアストンの家族はフウカだけでしょ?俺たちの事は気にしなくていいから」
そういいながら三日月はすれ違っていく。昭弘がそんな三日月の発言にフォロー入れてくれる。
「気にするな。あれはきっと三日月なりの優しさだ。アストンの事をよろしくな。アストンもこれからは新しい家族と仲良くしろ」
「は、はい」
これからの幸せを誰もが願っていた。
「しかし、面白い話になってきたの……」
蒔苗は病室での話を思い出していた。
オルガ達の提案とマハラジャからの今後のスケジュールの話を。
「火星複合企業の立ち上げじゃと?」
「ああ、それを認めてほしい。もちろん、SAUとアーブラウには事前に説得した。あとはオセアニア連邦とアフリカンユニオンだけだ。あんたにはそっちの説得をしてほしい」
「もちろん構わんが、そんなものを作ってどうするんじゃ?」
「火星が独立するというのは少々危ないことだと今は考えています。しかし、今のままでは火星の貧困などの問題は解決できません。ですから……」
「それをある程度解決出来る方法として俺たちはファミリアを作りたいんです」
「もちろん、勝つための算段はある。あんたたちにとっても悪くない条件だ」
蒔苗はひげをいじりながら少々悩むと、ゆっくり目を開ける。
しかし、蒔苗はそんなオルガ達がそんなことが出来るのかどうかが疑わしい目で見ていたのだが、それを証明するようにマハラジャが部屋に黙って入ってきた。
決して喋らないマハラジャの行動に真意を掴んだ蒔苗。
「たしかに、わしらにもおぬしらにもメリットのある条件のようじゃな。わしらはギャラルホルンへの発言権を獲得し、おぬしらは火星の経済面での権利を獲得する。そして、テイワズもまた木星での経済の権利を正式に獲得する。だが、それはおぬしらが勝てればの話じゃ。できるのか?」
「できなきゃこんな話はあんたにはしない」
オルガと蒔苗が軽くにらみ合うと、蒔苗は微笑み了承する。
「よかろう……この話に乗ろう。他の経済圏はわしの方から説得しよう」
そんな話を思い出すと、蒔苗は目の前にある一つの写真を手を取る。そこには蒔苗のほかにもう一人ギャラルホルンの士官が移っていた。
「種はもう蒔かれたということか……のう、マハラジャよ」
すでに種は蒔かれ、世界はすでに引き返せないところにまで進もうとしていた。
「ビスケットさん」
タカキはビスケットを呼び出すと、ビスケットの帽子を差し出す。
「これ……返します。俺はもう鉄華団じゃないから」
ビスケットは帽子を受け取ると、もう一度タカキの頭にかぶせる。
タカキは驚いた顔をしながらビスケットの方を見つめると、ビスケットは優しい微笑みを見せた。
「!? ビ、ビスケットさん?」
「あげるよ、タカキに。今度会うときはその帽子が似合う男になってるって信じてるよ」
タカキは頭をあげることができず、必死に涙を我慢しようとするが、それでも涙は止まらなかった。
何度も、何度も腕で涙を拭いて涙で真っ赤になった顔をビスケットに見せながらハッキリとした声を発した。
「お、俺! ビスケットさんのおかげでここまで来れました……だから………今まで本当にありがとうございました! この帽子は一生大切にします!!」
ビスケットの帽子はタカキへと受け継がれた。
昭弘達の会話をそっと物陰から見つめて居たラフタ。
「これで全部か?」
「ああ。死んだ地球支部の奴らの私物はこんなもんだ。残りはタカキとアストンに任せた。俺らにとってはもう地球も第二の故郷みたいなもんだからな。不思議だな。ヒューマンデブリだった頃は自分の居場所なんてどこにもないと思ってたのに」
「ああ。そうだな」
そんな会話を複雑な表情でラフタが見つめていた。そうしているとラフタのそばにアジーが近づいてきた。
「昭弘は? 大丈夫?」
「弟分が死んだわけじゃないからね。大丈夫だよ」
「じゃなくてあんた」
「えっ?」
アジーの言葉に一瞬言葉を失ってしまう。
一瞬だけ何を言っているのか分からなかったラフタ、すぐに顔を真っ赤にして反論しようとするがイマイチ行動に移せなかった。
「名瀬には黙っといてあげるよ」
「うっ! だからそういうんじゃ……ああ~……でもまあ……とりあえずダーリンには内緒で……」
そんな話を昌弘が立ち聞きしていることにはラフタ達は気が付かなった。
「火星に戻りゃまた似合わねぇお偉いさん周りの日々だ」
オルガは黙って三日月の為に袋を破って渡してやる。
すると、悲鳴を上げながらビスケットが階段から降ってくるのをオルガが間一髪で受け止める。
「大丈夫か?」
「う、うん。サブレ! 何すんのさ!」
「兄さんが出入り口でうろうろしてるからだろ?」
ビスケットとサブレがオルガたちの隣に座ると、オルガが切り出した。
「これで良かったのかって思っちまうんだ。あの時、ほとんど選択肢がなかったとはいえ、マハラジャの選択を受け入れちまった。あいつらが反対するんじゃないかって」
「反対しなかったろ? まあ、基本的にみんな俺達に考えることを預けてるだけだと思うけどね」
「信頼してるって思ってなよ。それにその選択肢が間違っていたかなんてこれからわかるさ」
「だね。少なくとも俺たちは選択した。オルガとビスケットについていくって」
「まあ、俺の場合オルガが断ったらそこまでの関係になっていたけどな」
三日月は「だね」といいながら菓子をかじると、ふとした疑問を尋ねた。
「そういえば、なんで『ファミリア』なの?」
「え? なんでって……それは………」
オルガが少しだけ笑うと、ビスケットが代わりに答えた。
「俺が考えたんだけど、『ファミリア』って家族って意味があるんだ。それと仲間。家族みたいな仲間って意味で『ファミリア』なんだ」
「ふ~ん……いい名前だね」
「だな。俺もそう思う」
「ビスケットらしい名前だな」
彼らもまた前に進み始めていた。
「あっ。おかえりなさいお兄ちゃんアストンさん」
「そろそろ二人とも帰ってくる頃かなって待ってたの。お仕事どうだった?」
「うん。まあ……帰ろう、俺たちの家へ。ね、アストン」
「ああ、帰ろう俺たちの家へ」
三人で仲良く帰っていく。笑顔になれる家へ。
火星に戻ってきた鉄華団にめでたい報告があがる、同時にヴィダールを名乗る者が動き出し始め、いよいよ事態は取り返しの付かない方向へと進もうとしていた。
次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再第二部第十二話『ヴィダール立つ』