機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再 作:グランクラン
逆襲のダーブラ
トドは頭を抱えていた。
先日の戦闘ではっきりとギャラルホルンを敵に回してしまった鉄華団。そんなトドの恐怖とは裏腹にオルガたちはあくまでもクーデリアを地球に送る為の算段を立てる。
そんな中、トドはオルガたちを売り飛ばすためオルクス商会という会社を使って計画を企てていた。しかし、少しだけ時は遅く先手を打つ為、サブレ達は先にオルクス商会を襲撃していた。
サブレからすればオルクス商会はある疑いがかけられていたからだ。
ダーブラと呼ばれる宇宙海賊との密接なつながりが指摘され、サブレはその証拠を押さえる為に襲撃を計画したという話だった。
まずは其処から語るべきだろう。
オルクス商会を襲撃したのはこの商会の一部の部署でヒューマンデブリの販売を行っているためである。オルクス商会はダーブラが隠れ蓑にしている子会社の可能性があったが、実際は取引をしてはいるがそこまでの関係ではないというのが実情だった。
「ハズレだったかな?」
まあ、子供を商品にして地球圏内の工業系の会社やコロニーに売り飛ばしているので同情の余地など無いだろう。
目の前には最後まで抵抗して拳銃自殺した社長のオルクスの遺体が転がっているが、俺はそれを踏み越えながら歩いていく。
金庫の中や書類データをしつこく調べてもダーブラの本拠地に関する情報はまるで見つからなかった。
すると、出入り口から誰かが上がってくるのが感じ取れ、俺と明楽とジョシュアは警戒心を最大値まで高めながら上ってくる人物を前に拳銃を手にする。
「アンタたちかい………って、おいおい。子供じゃねぇか」
白い服を着た伊達男が入ってきた。
いや、言い換えると『名瀬・タービン』が単身この部屋の中に張り込んでくる。
警戒心を高めて損した気分で調査に戻る俺達に呆れ顔で接するのは俺達が盗み目的の子供ぐらいの認識だからなのかもしれない。
「お前達。こいつらを殺してどうするんだ?」
「別に………ダーブラとの接点を洗っているだけだ。近々あいつらが小さな組織相手に喧嘩を吹っ掛けそうだって聞いてね。俺達が取引を邪魔したのが原因だし、それに民間人に被害が出る前に阻止したい」
俺の言葉を聞いて驚きと共に強く俺の肩を掴む伊達男を俺は睨みつける。
「そいつは本当か!?」
「本当だよ。これでも俺はフォートレスのエージェントだぞ?本部からの正確な情報だ。それに、今回の一件にはノブリスが関わっていると言ったらあんたも情報に信憑性が出来るんじゃない?」
ノブリス・ゴルドン。
クリュセを中心に知れ渡る武器商人で通用『死の商人』と裏社会では呼ばれている。特に関わるとめんどくさい相手でも知られており、ギャラルホルンとも取引をしているとは有名な話だ。
さすがにタービンズという『テイワズ』と呼ばれるマフィアの輸送部門を受け持っている組織のトップを張っているだけはある。
ノブリスの名前を出しただけで顔色を変えてきた。
「そうか………どうやら俺は当たりを引いたらしい」
どうやら取引をするべき相手であるようだ。
「名瀬・タービンだ。取引をしようじゃねぇか」
「サブレ………姓は名乗れない。それでもいいなら俺と取引をしよう」
俺達が手を結ぶ頃ダーブラは次の動きを見せようとしていた。
ガエリオが紅茶を嗜みながら仕事をしているマクギリスの後ろで壁を背に立っている。
「さすがに部下達もみんな死にそうな顔をしていたぞ。お前のペースで働かされては体がもたないだろうな。優秀過ぎる上官を持つと苦労するというやつだ」
マクギリスは仕事をしながら「気を付けよう」とだけ答え、聞いているのか聞いていないのか分からないような返事をする。
「時間稼ぎのつもりだったんだろうが……コーラルの奴、驚くだろうな」
すると、近づいてくる足音を前にマクギリスとガエリオはドアの方に視線を移す。
部屋の中にコーラルと呼ばれる火星支部代表が入室してきた。
「朝からご苦労だなファリド特務三佐。ボードウィン特務三佐」
申し訳なさそうな表情を作りつつどこか表情が笑っているコーラル。
「作業の方はどうかね?いや~すまんねぇこちらの不手際でデータの整理がまるで間に合わず。あれでは目を通すのも一苦労だろう?」
マクギリスはそんなコーラルからの言葉に「いえ」と返した。
「お預かりしていた資料の精査はほぼ終わりました」
マクギリスの強めの視線を前にコーラルは内心焦りを滲ませる。
「監査の結果ももうじきご報告できるでしょう。ところで一個中隊が出動したまま帰投していないようなのですが」
コーラルは「ああ~」っと言いよどみ、どういったらいいのかと探りを入れる。
「それなら暴動の鎮圧に出ていてな」
「暴動?独立運動ですか?」
ガエリオの質問に作り笑顔で返すコーラルは内心面白くなかった。
「所詮は市民のガス抜きにすぎんがね。このところ多くて難儀している」
「地球でも噂は聞いていましたが鎮圧に中隊規模の戦力が必要とは……ご苦労お察しします」
しかし、マクギリスの中ではある程度の予想ぐらいできていた。
コーラルが逃げるように立ち去ろうとする際、ワイロに走ろうとポケットに手を突っ込む。
「ところで何か不便は無いかな?滞在中入用なものがあればまあ些少だが何かの足しにでも……」
「それを出せばあなたを拘束しなければならなくなります。ご自重くださいコーラル・コンラッド本部長」
きつめの言葉に視線に怯んでしまうコーラルは焦ったようにその場をあとにした。
薄暗い廊下の中、コーラルは額が赤くはれてしまうほど頭を壁に叩きつけていた。
「若造共がなめおって!これも全てクランクの所為だ!あいつが勝手な事をしてしくじるから……ちっ…あの役立たずの愚か者が!」
同じ時、アインは失意の中をさまよっていた。
全身が筋肉の鎧でできているような体つきをしている昭弘は会計のデクスターと共にクリュセ中央宇宙港のロビーで元CGSの宇宙艦の名義変更を行う為に来ていた。
昭弘達はヒューマンデブリと呼ばれる道具扱いされてきた者達だったが、オルガはそんな昭弘達を自由にする権利を与えた。最初こそ戸惑った昭弘だったが、オルガの言葉を前に一緒に仕事をする道を選んだ。
また仕事が出来る喜びとこんな自分を仲間だと言ってくれたオルガへの恩を仕事で返す為一段と気合入れる。
「おい!気合い入れていくぞ!」
そんな昭弘を前にデクスターは「事務手続きするだけですけどね」と呟きながら立ち去っていった。
結論だけ言えばオルクスとは連絡が取れなかった。
それ故に手が打てない状況が続く中、三日月は難しそうな表情をするクーデリアを連れて行こうとする。
また、クーデリアもノブリスとの連絡が取れない状況が続き、同時に自分が鉄華団の子供達を犠牲にしている状況が嫌だった。
時を同じくしてサブレも名瀬・タービンと取引をしている最中だった。
名瀬と呼ばれている人物との取引はすんなりと進み、近くの個室付きの酒場を選び、盗聴されていない事を確認しつつ、なるべく音量を押さえながら話し出す。
「要するに、ノブリスの狙いはクーデリアってお嬢さんを殺すことで、お前さん達のボスはクーデリアを地球に連れていくべきだという解釈でいいのか?」
「ああ。うちのボスは蒔苗という老人からクーデリアの護衛の仕事を受けているんだが、このまま鉄華団に任せてもいいかもしれないという意見でね。しかし、クーデリアはギャラルホルンに狙われている。俺達もできるなら今はギャラルホルンと構えたくない。そこで丁度良く話しに関わって来たあんた達の出番というわけだ」
「うちとしては良い条件だが、鉄華団ってのはそのお嬢さんを護衛する上で任せるに値する組織なのか?」
「それはあんた達が直接確認するればいいさ。あんた達が認めないというならその後は任せるし」
「まあいいさ。で?お前さん達は?」
「仲間と他のエージェントと合流次第ダーブラの中継地を襲撃する。できれば民間人が襲われる前が好ましいが、そうはいない場合はもっと早めに攻める」
名瀬は口に手を置き小声で「まあいいさ」とか言いながら立ち上がりこちらに手を伸ばす。
「取引成立だな」
俺は黙って立ち上がり手を握る。
さて、時は既に遅かった。
鉄華団の三日月とかいう奴と兄さんであるビスケットがギャラホルンの監査官二名と争っている場面と遭遇してしまったからだ。
その原因は俺のおばあちゃんが経営している農場で作業しているはずのおばあちゃんが倒れ、妹達二名が居ないことを考えると検討できる。
派手な戦闘痕こそ見えないが、どうやら既にダーブラはここを襲撃したようだ。
され、どうしたものか。
ここは静観するべきかどうかで悩むが、兄さんは三日月を止められずにおり、紫の髪をした監査官事ガエリオ・ボードウィンは今にも気を失いそうになっている。
その後ろではマクギリス・ファリドがどうするべきかで悩んでいて直ぐには動けそうにない。
これは俺が動かないと手遅れになりそうだ。
しかし、今日はカツラなどの変装道具を持ち合わせておらず、このままいけば兄さんに正体がバレるのは必至。
考えている時間は無い。それに早めにこの喧嘩を止めてダーブラを追いかけた方が賢明という結論がでた。
大きなため息を隠しながら俺は身を出す。
三日月と言う少年の後ろ髪を強めに掴んで引っ張ると案の定、少年は驚いて首を絞めていた手を緩めてこちらを向く。
驚いたのはその場にいる全員である。
しかし、激昂ガエリオ・ボードウィンはそれに気付かず、三日月と呼ばれる少年に殴りかかろうとする。
それを三日月は回避すると同時に謝ろうと頭を下げる。
すると、ガエリオは三日月の背中の阿頼耶識に気付く。
「おい。貴様その背中のはなんだ?」
マクギリスも同じものを見た。背中についている突起物が三つ。なら兄さんも同じものが付いているというわけか。
「『阿頼耶識システム』。人体に埋め込むタイプの有機デバイスシステムだったか。いまだに使われていると聞いたことはあったが」
地球出身であるガエリオは吐きそうになりながら身を車に隠し、マクギリスはガエリオの身を案じている。
「しかし、この状況はあまりよろしくないようだね」
マクギリスは周囲を見回しながらふとつぶやいた。
それについては俺も同感だが、できればギャラルホルンに介入してほしくない。
「我々ギャラルホルンが解決してもいいのだが?」
「断る。迷惑」
「のようだな………しかし、何かあれば私に話を……私の名前は」
「マクギリス・ファリドだろ?言わなくても分かるよ」
マクギリスは肩透かしを受ながら車に向かって行く。すると、再びこちらを向く。
「そうだ。最近この辺りで戦闘があったようなのだが何か気付いたことはないか?」
兄さんが余計な事を口に出しそうにしそうな感覚を覚え、俺はそれを最大限まで邪魔をすることにした。
「あったらしいね。コーラルが何かを隠したがっているんじゃない?」
兄さんの表情が暗く落ち込んでいくのが見て取れる。
マクギリスは「そうか………参考にするよ」とだけ告げて車で去っていく。
俺がもう一度三日月と兄さんの方を見つめ、同時に奥のトウモロコシの畑の方を見る。うっすらとだがクーデリアが隠れている。
「サ、サブレ……なの?」
「それ以外の誰かに見える?」
俺はツンとした態度で返す中、三日月はどういう態度で返すべきかどうかを悩むそぶりを見せている。
すると、三日月は座ったような目つきで立つ去ろうとする。それを俺は右手で阻止する。俺の方を睨むように見上げる。
「誰がこんな事をしたのか分かっているのか?今、君達は余計な事をしている場合じゃないんじゃないのか?」
その言葉に兄さんが反発する。
「クッキーとクラッカが誘拐されたんだよ!?」
「分かっている。だから取り返す算段を経てている。それに今回の相手は兄さん達では太刀打ちできない」
「でも!」
「何を言っても俺は引かないぞ。それに仕事も大事なはずだ。クーデリアの事はどうするんだ?」
兄さんと三日月は驚きの表情を作り、クーデリアが畑から身を出す。
「私がその人達と取引します。きっとその人達の目的は私の可能性があります」
「駄目だ。それでは意味がない。彼らと一緒に宇宙に上がってもらう」
「私の所為でこんなことになって桜さんも………なのに」
この人の所為?違う。これは……俺の所為だ!
「これは俺の所為だ!!」
俺の咄嗟の怒鳴り声に怯むクーデリアと兄さん。三日月は目を細めながら俺を見ることを止めない。
「この前彼らの取引の部隊を上の指示で阻止したのは俺だ。その腹いせも混じっているんだろ。だから……俺が取り返す」
俺は兄さん達を無視して立ち去ろうとする。
「ねえ、ビスケット。オルガに言っておいて、バルバトスを貸してって。俺、この人と一緒に三人を取り戻すよ」
三日月の一言に俺が反応する番だった。
「あのな………お前が付いてくれば仕事はどうなるんだ?」
「オルガ達が火星から完全に離れる前に合流すればいいんでしょ?それに俺があんたについて行けばビスケットも安心でしょ?」
「まあ、三日月がついて行ってくれるなら」
「それに………あんたは信用できる」
此奴は梃子でも引かないような目をしている。見れば分かる。
こいつはこの状況で三日月やクーデリアを説得しつつ、自分が得する状況を見つけ出したのか?しかも本能で。
説得する術をいくつか考えたが、その全てでこいつが引かないことが分かってしまった。
「分かった。今から告げる場所に機体を持ってこい。それが条件だ」
「分かった」
三日月は端的にうなずく。
俺は地面に落ちているブレスレットを拾って握りしめる。
覚えていろよ………逆襲してやるよ。宇宙海賊ダーブラ!!
宇宙海賊ターブラの火星での本拠地への攻撃を仕掛けることを決めたサブレと三日月。同時にオルガたちは宇宙に出る為の準備に入る。その間にソニアはノリノリでバルバトスの改造を行おうとしていた。名瀬・タービンが見守る中、二つの戦いが起ころうとしていた。
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再第五話『死神と呼ばれたガンダム』