機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再 作:グランクラン
家族のカタチ
ビスケットが団長室に入ってくると、後悔に襲われたオルガは机に顔をぶつけ、そのまま悩んでいた。
ビスケットはオルガのそばまで寄りそう。
「三日月……右半身が動かなくなったんだって? 俺も後悔してる。あれはオルガの所為じゃ……」
「わぁってる。でも……俺があいつを追い詰めてるんじゃねぇかって思ってしまうんだ。だってそうだろ? ミカはいつだって俺の為に進んできた……」
三日月は何時だってオルガの命令を聞くわけじゃ無い事はビスケットだってずっと見てきたことでもあるのだ。
時にオルガの為なら彼の命令を聞かない事だってある。
ビスケットはオルガに尋ねる。
「なら、オルガは三日月にどうなってほしいの?」
ビスケットがずっとオルガに聞いてみたかったことであるが、同時に今まで聞けなかったこと。
結局の所でオルガは三日月にどうしていて欲しいのか。
「俺は……あいつに家族を作ってほしいって思うんだ。俺たちは家族なんて知らなかった。だからほしかった。あいつも家族を作れば……きっと。そうだ、サブレはどうだ?」
「怪我は無いよ。俺と一緒。でもソニアさんにはコテンパンに怒られちゃって…俺もだけど」
そんなビスケットの言葉にオルガは「そうか…」とだけしか答え無かった。
「俺達の作戦で壊したモノだからな。弁償ぐらいなら…」
「大丈夫だよ。そこまでじゃないし…」
「そうか…でもさ。良いよな家族ってさ。俺やミカには家族って無かったからさ。俺はそこまで気にならないから。俺には鉄華団の奴らが俺には家族みたいなものだ。だけど…」
「うん。三日月にとってはオルガだけなんだろうね。俺達との関係だって仲間って感じだし」
「ああ。だからあいつに好きな奴を作ってそうやって生きてくれれば…これも無理な注文なのかな? ビスケット」
「俺は…良いことだと思うけど?」
オルガはビスケットと共に微笑む。
「そうだよな…」
「お見舞い遅くなってしまってごめんなさい」
クーデリアからのお見舞いのお菓子をアトラからもらう三日月。
「三日月全然じっとしてくれなくて、ハッシュ君に運ばせてもずっとどこか行っちゃうんです」
「だからバルバトスの近くに置いといてよ。あれに繋いでくれたら動けるから。桜ちゃんとこはどう?」
三日月はクーデリアにそう問う。
「順調ですよ。来月にはまた次の収穫です」
「そっか。でもこれじゃあもう手伝えないな」
三日月がどこか残念そうにしているとそれを励まそうとするクーデリア。
「そんなことありません! 畑仕事なら私も手伝いますし!」
しかし、三日月はそんなクーデリアの言葉を否定する。
「駄目でしょ。クーデリアにはクーデリアの仕事があるでしょ」
「はい……そう……ですよね……」
クーデリアとアトラは部屋を出ると、クーデリアは自分の気持ちを吐き出す。
「私は卑怯者です。三日月に会うのが怖かった。不安だったんです。だからずっと会いに来ることができなかった」
そんなクーデリアの言葉にアトラは同じ気持ちを抱きながらも答える。
「で……でも三日月何も変わらなかったでしょ?」
「はい。変わりませんでした。それをずっと恐れていたんです。こんなことになっても変わらなかったら……またどこかへ行ってしまったら……」
アトラは同じような不安を抱く。
「私同じようなこと考えてた……。三日月変わらなくて体……腕がなくてもバルバトスがあれば大丈夫とか言って……「団長が言ったらいつでも動ける」って……それ変わらないのうれしいはずなのに……次にどこかに行ったらもう三日月戻ってこないような気がして……私クーデリアさんにお願いしたいことがあるんです! 私がビスケットと子供作るから、クーデリアさんは三日月と子供作ってほしいんです!」
そんなアトラの突拍子の無い言葉にクーデリアは驚く。
「えっ!?」
マクギリスの興味はガエリオより三日月の方に向いていた。マクギリスは石動に尋ねる。
「石動……お前はあれをどう見た?」
「あれ……といいますと?」
「バルバトスとアガレスの戦いだ」
「バルバトスは理性なくひたすら破滅へと突き進む己の身までも食いつぶすかのような… 方やアガレスは逆に己の身を傷つけながらも他人を守ろうと必死になっているように思えました」
「しかし、あの強さは本物だ……あの男が生きていたとして、ラスタルがそれを飼っていたとして、それを純粋で正当なカードとして強さを保有するのは腐った理想が蔓延する曖昧な世界でだけ。バルバトスが……三日月・オーガスが再認識させてくれたよ。真の革命とは腐臭を一掃する強烈な風だ。本物の強さだけが世の理を正しい方向へと導く」
ヴィダールは一人の女性と話をしていた。
「ざ~んねん。全然データが取れてないじゃない。何しに火星くんだりまで行ってきたの?」
「それでも収穫はあったさ」
「あらジュリー」
ジュリエッタはその女性の前に姿を現した。
「技術部長。あの機体のテスト私がお引き受けします」
「あら本当に!? かなりピーキーな機体だから任せられる子がなかなかいなかったのよ」
二人が話しているとヴィダールが口をはさむ。
「ラスタルの許可は?」
「もちろん取りました。私を疑うのですか?」
「いや、ラスタルがそれを指示したとは思えないだけだ」
「余計なお世話です」
「そうか?」
ジュリエッタは自らの胸に手を当てる。
(このままではいけないのです。このままサブレに守られているだけの自分では)
「イオク様!クジャン家の当主ともあろうお方がこれ以上怪しげな輩と接触を持つのは……」
イオクの部下はジャスレイと接触するのを止めようとするが、それでもイオクは繋ぐように告げる。
「いいから繋げ! 私の命を輝かすためだ。部下の尊い犠牲により繋がれたわが命。この命がラスタル様に侮蔑されるようなことがあれば部下達に顔向けができないではないか! だから早く繋ぐのだ。ジャスレイ・ドノミコルスに」
現在謹慎を命じられているイオクは、更に動き出そうとしていた。
ビスケットが廊下を歩いていると、後ろからアトラが歩いてきていることに気が付く。
「あ、アトラ。少し待っててね……あと少しで終わるから」
「ね、ねえ! ビスケット……私と子供作ろう!!」
アトラの言葉にビスケットの思考が追いつくのに数秒かかると、ビスケットはとてつもなく驚く。
「え、ええ~!? どうしたの!? アトラ!」
「私、本気だよ!」
ビスケットはまっすぐアトラの目を見つめると、決してその言葉が嘘ではないとわかる。ビスケットも優しく微笑む。
「……分かった。作ろうか……」
「うん!」
そして偶々鉄華団の施設まで来ていた明楽はしっかりと聞いていた。
クーデリアは再び三日月の部屋を尋ねると、三日月はクーデリアが現れたことに気が付いた。
「どうしたの? なにか忘れ物?」
「いえ……三日月は子供は好きですか?」
クーデリアのそんな突拍子の無い言葉に一瞬驚くと、逆に三日月が訪ねる。
「クーデリアは子供がほしいの?」
「え?そ、そうですね」
三日月はふと考えると、今度は三日月が突拍子の無い言葉を放つ。
「じゃあ、俺と作る?」
クーデリアは一瞬驚くが、すぐに落ち着きチャンスとばかりに条件を提示する。
「なら……三日月はお父さんになるということですよ? 約束できますか?」
「………俺……どうすればいいんだろ?」
「三日月の夢は私が預かっています。ですので一緒にかなえましょう? 今度は私があなたを支えます。それが家族でしょ?」
「……じゃあよろしく」
新しい家族が生まれようとしていた。
それを聞いていたオルガはふと嬉しい気持ちになって三日月から遠ざかっていく。
翌日三日月はビスケットにお願いして、自分の畑に連れてきてもらっていた。
「どうしたの? いきなり畑に連れて行ってほしいって」
「ねえ……ビスケット……お父さんってどんな感じ?」
三日月の突然の質問に目を白黒させると、優しく微笑み隣に座る。
「……俺も考えてるんだ。どういうのがお父さん何だろうって」
笑うビスケットを見て三日月もなんとなく気が付いた。二人は畑をジッと見つめると、それぞれの家族のカタチを思い浮かべる。
誰もきっと教えてくれることでは無いと二人は思い浮かべていた。
いつか生まれてくるかもしれない子供に何が出来るのか、今まで考えてこなかった未来を考えるときが来ようとしていたのかもしれなかった。
アジー達は鉄華団での仕事を終え、今日帰ろうとしていた。
オルガがアジーとエーコに別れを告げる。
「長い間世話になったな。兄貴にもよろしく伝えてくれ」
その間ラフタだけは昭弘と二人で別れを惜しんでいた。
「ほ~んとさ。あの時はどうなることかと思ったよ。昭弘ボロボロなのに後先考えずに突っ込んでいくし」
ラフタがぐちぐち文句を言っていると昭弘は視線をそらす。
「しかし実際なんとかなった」
「そういう問題じゃないの! もう部下もいるんだし無茶しすぎないでよね!」
「まあお前もいなくなるしな。今まで本気で俺の背中を任せられると思えたのは三日月とサブレとお前だけだった。確かに少し考えないとな」
ラフタの気持ちにまるで気が付かない昭弘にラフタは諦めながら握手するために手を出す。
「そっか……じゃあそれでいいや。ねえ握手しよ」
昭弘は手をズボンで拭き握手するために右手を出す。
「ありがとよ。元気でな」
「うん。昭弘もね」
そういってラフタが去っていくとすれ違いに昭弘の後ろから昌弘が姿を現す。
「良いの? 何も言わなくて」
そんなことを聞く昌弘に全く理解できていない昭弘が首をかしげる。
「なんでだ?」
昌弘は大きくため息を吐き、小さくつぶやく。
「……鈍感」
「無理……だと?」
イオクは自宅でジャスレイと通信していると、ジャスレイからの返答に驚きを隠せない。
「今、鉄華団と正面からぶつかるのは得策ではないと……」
ジャスレイのそんな言葉にイオクは怒鳴り声をあげる。
「もういい! 頼りにした私がバカだった! 私はなんとしても鉄華団に復讐せなばならんのだ。倒れた部下達の忠義に報いるためにも……」
暴走するイオクを止める者などいるはずもなく、ジャスレイもそんなイオクを利用しようとしていた。
「勘違いなさらないでください。私はより効果的な方法があると申し上げただけですよ。鉄華団は所詮実行部隊。本当の敵は彼らではなくその背後にいる奴なのです」
ジャスレイの提示するその敵を知りたくて立ち上がる。
「誰だそいつは!?」
「タービンズですよ。鉄華団の兄貴分、名瀬・タービンが率いるテイワズの下部組織の一つです」
ジャスレイに乗せられたイオクは標的を鉄華団からタービンズに変えた。
「タービンズ……そうかタービンズか!」
その話を盗聴器で聞いていたイラクは悪魔なような微笑みを浮かべていた。
「ホント…分かりやすい」
イラクは通信端末を取り出してとある人物に情報をリークし始めた。
『イオク・クジャンが独断行動を取る気配あり』
その情報が向かう先が何処なのかはイラクしか知らない。
「イオク様。あんなものをどうなさるのですか?禁止条約で使用は制限されているのですよ?」
イオクの船には持ち出された兵器が固定されている。
「無論分かっている。だからこそ我が作戦の要となるのだ」
「ですがラスタル様に一度ご裁可を仰いだ方が……」
部下がイオクにラスタルへの判断を仰がせようとするが、イオクはまるで話を聞かず、独自の判断で動く。
「問題はない。これはラスタル様のご利益にもかなうことなのだ。一石二鳥……いや三鳥とはまさにこの事」
部下が不安を募らせる。
「は……果たしてそうなのでしょうか?」
「お前らにはわからないだろうな。だがそれが政治というものだ」
イオクは自信満々に乗り出す。すると、ジュリエッタがそばまでやってくる。
「私も参ります。今テストしている試作機はベンチテストも終わりあとは実戦を試すのみ。是非ともその力を試す機会がほしいのです。どうかチャンスを。私は早く強くならねばならぬのです」
「分かった……ジュリエッタ。共にタービンズを倒そう! 全ての責任は私が取る! お前達は黙って私の言葉に従ってほしい!」
部下も何も言えない中、ジュリエッタはイオクをじっと見つめる。
(どうすればここまで調子に乗ることができるんでしょうか? あんなものまで持ち出して……お父様も面倒な仕事を私に任せたものですね。最悪逃げ出す事も考えろっと言っていましたが…)
「イオクにも困ったものだ。人には適材適所というものがある。奴には力など求めていないのだが……。クジャン家には主のためなら命を投げ出す。それは当主への忠誠というだけではない。奴の率直さと熱意には人を動かす力があるのだ。君が仮面さえ脱いでくれればイオクもこのような真似をせずともすむのだが」
ラスタルはイオクの行動に頭を悩ませていると、後ろに立っているヴィダールをふと見る。
「あなたには救ってもらった恩義がある。しかし真意を確かめるまでは……」
ヴィダールは仮面を脱ぐこともできず、それを断った。
「ああ。それは承知の上だ。しかし人が人を理解することはそう簡単ではない。まして相手が相手だ」
そんなラスタルの言葉にヴィダールはそれでも理解しようとしていた。
「彼を理解する権利が私にはあると思っている。私は彼に殺されたのだから」
暴走を始めるイオク・クジャンにタービンズは追い詰められていく、その状況を利用しようとするイラク・イシューの目的とは?
次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再第二部第十九話『燃ゆる太陽に照らされて』