機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再   作:グランクラン

6 / 56
第五話目です。ダーブラ戦の前にあたります。


死神と呼ばれたガンダム

 俺は弟であるサブレと出会いたいかと言えば正直あまりで会いたくない。俺は両親の死後サブレの提案を断ってしまった。

「俺達も知り合いを作ろう!」

 サヴァラン兄さんが言った「お祖母ちゃんの所に行け」という言葉を俺は鵜呑みにした。結果ら見れば失敗だったし、俺はおばあちゃんを困らせる結果になった。

 今となっては後悔しているし、かといってサブレの言う事が正しいとも思わない。

 それでもあんな再開になるとは思わなかった。

 だって、クッキーとクラッカがアトラと一緒に誘拐されて俺だって正直冷静にはいられない上に、三日月は頭に血が上ってギャラルホルンに喧嘩を売る。クーデリアさんを隠さないといけないという状況でまるで救世主のように姿を現したのがサブレだったのだから。

 しかし、嬉しさと複雑な感情が行き来してどう声を掛けたらいいのか分からなかった。

 あの目を見るまでは。

 きっとあの場にいたほぼ全員が恐怖したかもしれない。

 サブレ自身は平静を装っていたのかもしれないが、目だけは真実を語るものでサブレの瞳の奥が怒りの炎が燃えていたからだ。

 あの目を見れば誰だって怯んでしまうだろう。

 サブレは誰にも厳しく、自分にも厳しい。それ自体は別におかしい事ではない。しかし、この場合はサブレが己の過失だと己を責めている点である。

 サブレの怒りの理由は二つ。妹達をさらった連中への怒りと、それを阻止できなかった自分自身への怒りだ。

 同時にサブレは己を厳しく律することも欠かさない性格をしており、いつもと変わらないように思いながらもサブレは激怒していた。

 あの三日月がサブレの怒りをを感じ取り怒りを鎮めたのだろう。正確には冷静になってしまったのだろう。

 そんな理由があり俺とサブレとの再会は最悪と言ってもいいほどに悪かった。

 俺はその後三日月と共に話すサブレの後ろ姿をクーデリアさんと共に見つめていた。フミタンさんも同時にその後姿を複雑な視線を送るのが印象的だった。

 二人がサブレとどこかで話をしていたのなら、サブレはクリュセに居たという事になる。しかし、クリュセに住んでいたのなら俺が目撃している。

 実際クリュセに何度も言ったことがあるが一度だっても目撃しなかったという事は、サブレは別にクリュセに住んでいるわけじゃないという結論になる。

 しかし、同時に不思議に思う。

 ならサブレはどうしてこの地に来ているのだろうか?

 これは推測をするだけなら可能だ。

「仕事………だよね」

 何か仕事をしているから……そこでサブレが俺に渡した一枚の紙きれだった。そこには宇宙におけるあるポイントが書かれている。

 サブレは「そこに行けば案内人がいる」と言っていたし、その案内人が「テイワズの幹部」という事は聞いている。

 テイワズ―――――木星における複合企業とも言われており、この世界においてギャラルホルンが直接手が出しにくい相手の一つでもある。そんな組織と連絡が取れるか、もしくは相談事を聞いてくれるような組織。ならサブレは相当地位のある組織。しかも組織の中でもかなりトップにいるような人間なのだろう。

 そう考えたとき、俺は自分の立場とサブレの立場を比べて精神的なショックから中々立ち直れなかった。

 サブレからもらった『阿頼耶識システム治療用装置』なる道具を断れないぐらいに……

 

 オルガ・イルカは特徴的な前髪を視界に入れながら手元のタブレットとビスケットからもらった一切れの紙を見比べながら思考を繰り返していた。

 正直に言えばビスケットの妹達とアトラを助けに行きたい。それをすることは出来ない。ビスケットが我慢しているのなら自分も我慢するべきだ。

 それにビスケットのあの表情もあまり気持ちのいいものではない。

 あれは我慢している以外にも正直辛い事があったのだろうことは想像に難くない。

「聞けねぇよな………今更家族について教えてくれなんてよぉ」

 紙とタブレットを団長室の机の上に一旦置きながら大きなため息を吐き出す。

「明日の13時にシャトルを打ち上げ、同時にイサリビで回収して離脱する………」

 イサリビ―――――鉄華団がCGSから権利を引き継いだ戦艦での離脱作戦。この作戦に問題があるとすれば今三人を救出に向かっている三日月が抜けているという点だ。

 三日月が言うにはオルガが宇宙に行く頃には自分も上がるらしいが、こればかりは向こうの作戦次第になってしまう。

 しかし、オルガは信じるしかなかった。

 ビスケットが信じると決めた相手を自分が信じるしかない。

「今頃向こうも作戦の準備に入っている頃かもな。こっちの作戦時間は伝えたし、あとは神のみぞ知るって奴かもな」

 オルガは開いてしまった両手でビスケットから渡された『阿頼耶識システム治療装置』なる道具を転がす。

 呆けていたビスケットからの言葉を要約するなら、背骨に神経と共にくっついているナノマシンを綺麗に時間を掛けながら丁寧に吸収し、完全に除去できた段階で最後にピアスと呼ばれる部分を装置ごと抜くだけらしい。が、治療の段階で手先が痺れる事があるなど様々な問題があるらしいが、私生活や仕事ができないほどではないらしい。

 実際の問題としては阿頼耶識システムが使えなくなるという点だった。

 そう考えたときだった。

 オルガは妙なというべき嫌な感覚が脳裏をよぎった。

「くそ………!この前に奇妙な悪夢を見て以来どうも………いやな感覚が脳裏をよぎりやがる」

 オルガは悪夢を覚えていない。

 しかし、悪夢を見たという感覚に近い感情が奇妙なタイミングで恐れになっている。

 このまま宇宙に上がれば取り返しのつかない事態になるのではないか………という想像がどうしてもオルガの行動にブレーキを掛けようとしている。

 今回はその別である。

 オルガの中でビスケットにこれを付けろという指令が降りている。

「悩むなんて俺らしくねぇ………よな」

 そう言う想いと共に立ち上がりビスケットの部屋へと移動する。

 明日は早くに行動する為ほとんどのメンバーが就寝していて、ビスケットも今日は速めに寝ているはずだ。

 そう思いながらオルガはビスケットの寝室へと急ぐ。

 なるべく音をたてないように目的の部屋の前に辿り着くとゆっくりと自らの手でドアを開ける。ポケットの中へと入れてある道具の存在を確認しつつ部屋の中に入っていく。薄暗く足元も確認できない部屋にオルガが入ってきた際に廊下の明かりだけだった。

 しかし、ビスケットのベットには誰もおらず鉄華団のジャケットとツナギがかけられているだけだった。

 オルガは内心驚きながら周囲を見回すとシノが薄っすらと目を開けながら小声で呟いた。

「ビスケット…………飲み物飲んできたのか?……………けっこう早かったけど……さ」

 オルガは寝ぼけているシノが起きる前に部屋から出ていく。

「そうだよな。チビ達があんな目にあって安心して眠れるわけねぇ……か」

 そんなことを呟きながらオルガは一人食堂の方まで行くが、窓から覗き込む限り食堂にビスケットはいない。

「?あいつどこに行ったんだ?」

 そう思いながら廊下から外を軽く見回すと、施設の端っこの方でビスケットはタンクトップ姿で黄昏ている。

 オルガは足音をたてないような速度で近づいていき、背中にそっと道具を取り付ける。

 慌てたような勢いで振り返り視線があう両者。驚きの表情を浮かべるビスケットに、シニカルに笑って返すオルガ。

「何!?何つけたの?」

「お前がくれた道具」

 そう言いながらもオルガはビスケットの隣座った。ビスケットは背中に付いた半球型の道具を取れないかどうかと模索するが、五分ほど経過して諦めた。

「なんで……?」

「ん?………お前にそれは似合わないからかな。それでお前から阿頼耶識が取り除けるならそれでもいいかもなってな。まあ、お前は阿頼耶識いらねぇだろ?」

「そりゃ……三日月や昭弘達なんかと比べたら俺の操縦技術何て全然しただろうけど……でもいざとなったら俺が戦ったほうが」

 などと呟くような声質で喋っているが、オルガはその言葉に唖然とした表情になっていた。

 しかし、その理由を喉の奥に頭の奥にしまい込み、オルガは立ち上がりながらビスケットの肩を軽く叩く。

「まあ、そうならねぇようにするのが俺達の戦いだろ?だから………」

 オルガは息を思いっきり吸い込み肺の中に空気を取り入れながらビスケットの方へと視線を移す。

「今はミカを信じようぜ。それが俺達が今できる最大の仕事だろ?」

「………そうだね」

 肌寒さを体中でかみしめながら少し遠くの空で戦おうとする者達を信じる二人がそこにはいた。

 

 荒野の奥にそれはある。

 小さくさびれたような工場跡。そここそ三人の少女達が連れ込まれてしまった場所だった。しかし、その場所からさほど離れていない場所を拠点に俺達フォートレスの部隊は作戦の為に待機状態だった。

 先ほど三日月も到着しいよいよ作戦は引き返しようもない状態が続いている。先ほどからフォートレスの上層部はダーブラに対し交渉を続けているが、これと言った進展も無いというのが現実だった。

 実際俺は真夜中にもかかわらずフォートレスが用意した長距離通信用の個室の中にいた。

 人一人が入るだけのスペースが容姿されている場所で周囲のモニターには『sound only』の文字が描かれているだけ。

「では、やはり交渉は……?」

 向こう側から「失敗」という言葉を受け止めながらもおおよその状況を把握できた。

 とりあえず人質にはまだ手を出していないという事、あちらの目的は『クーデリア・藍那・バーンスタイン』を引き渡すという事だった。

『おおよそ情報と依頼の出所はノブリスと言った所……だな』

 モニター越しに聞こえてくるオヤジ『マハラジャ・ダースリン』の声を聴きながら俺は静かに怒りの闘志を燃やしていた。

『それで?サブレはお前が所持していた戦力だけで何とかなるのか?』

「これ以上引き延ばせば人質が酷い目に遭う可能性が高い。それに………これ以上は俺が耐えられない」

 もう無理だ。全てを破壊してしまいたくなる。

 モニターの奥から『フム』と複数人の声が聞えて来る。

 どうせ他の下部組織や企業のトップもいるのだろう。フォートレスとはそういう組織だ。

 いくつかの資金主や企業、組織をまとめて『フォートレス』と呼ばれる秘密組織という形で纏めており、俺はその中に存在する『エージェント』と呼ばれるフォートレスの為に行動するメンバーだ。

『しかし………な。その辺の三流海賊を相手にするのとはわけが違うぞ。近くに『彼女』が居るのなら差し出す方が被害が少なくて済むのでは?』

『なら蒔苗の一件はどうする?彼はクーデリア・藍那・バーンスタインを求めているのだろう?なら彼女は安全に送り届けるべきだ。誰が送り届けようと我々は儲けることが出来るはずだ』

『ならどうやって勝つというのだ?相手はダーブラだぞ?戦力だけを言えば夜明けの地平線団に次ぐ勢いがある』

『そうは言うが、あそこと比べると戦力差がありすぎるだろう。『死神』ならやれる。想定の範囲内だ』

『彼はエージェントの中でも最も優秀なエージェントだぞ。ガンダムを三機も所有している。失敗のリスクが高い。予備の戦力が届くまで待つべきだ』

『蒔苗が待てないだろう。クーデリアは直ぐにでも上にあげて逃がすべきだ。最悪人質は無視をして……』

『それではフォートレスの志に反することになるぞ。民間人を救出しないとあれば』

 イライラしながら話の経過を聞いている俺は靴で地面をコツコツと音を鳴らせる。

「確かにダーブラの戦力は多い。情報が正確なら敵の主力が降りてきていることになる。『あの男』の機体も。だが、今回は追加の戦力も存在する。これに分と地の利があるのはこちら。十分やれる。それに………これ以上は俺が耐えられない」

 今すぐにでもあの男を殺すべきだ。

 三年前の雪辱を。

 俺は腕に巻き付けたドッグタグを握りしめる。

『………追加戦力無し。現状の戦力だけで戦う。お前にできるか?お前に先ほど話した通り三年前のあの男を相手にすることになるぞ』

 三年前。俺は当時まだダーブラが完成する前にフリーの傭兵時代だったある男の部隊からの裏切りを経て大事な後輩を失った。

『助けてください!先輩!』

 あの声が何度も脳内を響く思いを抱えてきた。

 それも今日で終わりだ。

「ちょうどいい。あの男がダーブラの首領を務めているのなら………俺が潰してやる。死神に関わって無事でいられないという事を」

 俺は今更隠すこともしない。

「証明してやる。俺とアガレスがどう呼ばれているのかを………」

『いいだろう。サブレ。妹を取り戻し、クーデリアの安全を無事保証して見せろ。『死神』の通り名を証明したいのならな』

 オヤジからの無理難題も今はただ心地よい。

 証明してやるよ。

 

 明楽は夜空を眺めながら栄養ドリンクと牛乳を半々で割った飲み物をストローで飲む。視線を今度は正面で整備されているバルバトスへと向ける。

 肩は角ばったデザインとブースターが装着された独特な形をしており、左腕にはシールドとクローアームが一体になった装甲を取りつけ、全身の装甲も新しい物に変更されている。

 改造を施したソニア自身は特にまだまだこだわりたいらしく、先ほどからあと数時間で何が出来るのかと呟いている。

 最終調整にテストをしなければいけないのでこれ以上改造の余地が明楽にはあるとは思えなかった。

「後………あそこを」

 なんて言いながらソニアはバルバトスの周りをグルグル回っている。アガレスはアガレスで新武装のチェックを行っている。

「黒い外見に鎌の組み合わせ」

 外見だけを言ったら本当に死神に見えなくもない。

 バルバトスの調整をしているはずのパイロットである三日月はアガレスを足元から見上げていた。

「似てる……顔以外」

 そう思うのも無理はない。三日月が初めて遭遇したときは顔にマスクをつけた状態だったのだから。

「なんか皆殺気立ってて嫌だな………暇だな~早く始まらないかな~」

 そんなことを言いながら休憩用のテントの中でゴロゴロと転がりながら時間を潰す明楽。そんな彼の目の前で通信室のドアが開き中からサブレが出てきた。

 明楽は声を上げそうになる口を堅く閉ざす。

 あのジョシュアですら恐怖で体を震わせて小走りで逃げていく歳相応の姿を見ながら、明楽もまた恐怖していた。

「今までで一番の怒りだよね」

 確かに妹を攫われたとあってはサブレと言えど怒るとは思うが、どうもうそれ以上の何かがあると明楽は読んだ。

 明楽は聞き耳を立てながらサブレがつぶやくその一言を聞き逃さなかった。

 

「ぶっ殺してやる」

 

 

 太陽が空へと昇っていく中、俺はガンダムの起動シークエンスを進行しているアガレスのコックピット内で待機していた。

 ドッグタグを握りしめる力をどうしても強くしてしまう。

「敵を取るつもりは無い。何かが変わるとも思えない。ただ、倒して前に進むだけだ。あの男は俺にとって乗り越えるべき………壁だ」

 操縦桿を握りしめる。

 視線はまっすぐと正面を捉え、大きく吐き出す息と同時にアガレスが全身から排熱を行っているのがよく分かる。

「証明するぞ………アガレス!」




因縁の戦いに燃えるサブレ達フォートレスの前にダーブラの主力隊が襲撃を仕掛ける。オルガ達鉄華団もまたギャラルホルンからの襲撃を受けようとしていた。二転三転する状況の中サブレはたった一人で活路を見出そうとする。同じときオルガも又試練の時を迎えようとしていた。
次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再第六話『暁の空の向こう側へ』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。