機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再 作:グランクラン
鉄華団のシャトルが宇宙に上がった事を確認すると、ギャラルホルンの火星支部本部長コーラルは自らモビルスーツに乗ってクーデリア確保の為に動いていた。
一機のモビルスーツが近づいてくると、ワイヤーを使って接触通信を仕掛ける。
「『クーデリア・藍那・バーンスタイン』の身柄を引き渡せ」とか言ってますけど~!?」
「さささ……差し出せ!そうすりゃあ俺達の命までは取らねぇだろ!」
トドが悲鳴のような声で差し出せと文句を言う。殴られながらも叫び続ける。
するとクーデリアが身を乗り出す。
「私を差し出してください」
「それはなしだ。俺らの筋が通らねぇ」
するとそのオルガの言葉に今度はトドが叫ぶ。
「じゃあどうするんだよぉ!!」
オルガは信じていた。すると砲撃のような攻撃がモビルスーツのワイヤーを断ち切り、同時に急接近、両手にそれぞれ構えた二本のメイスの内右腕のメイスの先端がモビルスーツのコックピットの深く突き刺さる。
「お待たせ。オルガ」
追加ブースターを切り離し、背中についた追加装備のブースターで素早くその場を離脱し、ギャラルホルンのモビルスーツ隊へと突っ込んでいく。
「目標の確保に失敗したようです」
「クーデリアがそこにいるのならそれでいい」
コーラル自ら戦いに赴こうとする姿にアイン自ら意見を出す。
「コーラル司令!ファリド特務三佐より殺すなという指示が……」
「貴様の上官はいつからあの青二才になった!船ごと撃ち落とせ!」
その言葉にアインは自らの胸の奥から湧き出る復讐心に逆らう事は出来なかった。
(今は確実にあの角の付いたモビルスーツを倒し、クランク二尉の敵を取る事だけを考えろ!)
しかし、コーラルもまた別の事を考えていた。
(監査官自らが参加している作戦中の事故ならば、いくらでも言い訳は立つ。あとはノブリスとの契約だ。華々しく散ってもらうぞクーデリア!)
未だにコーラルはノブリスから期待されていないという事に気が付いていない。
船に近づくモビルスーツを的確に落としながら三日月は高速で戦場を移動していた。
「アトラ。大丈夫?」
「大丈夫だよ。三日月は戦いに集中して」
「分かった。きつかったら言ってね」
左のメイスを一旦戻し、同時に砲撃用の遠距離武装を腰から取り出す。
モビルスーツ隊がおびき寄せられる間に鉄華団の船であるイサリビが迎えに来てくれた。
「おい!なんでこの船がここにいる?静止軌道上で合流だったはずだ!」
「これまでお前が信用に足る仕事をしたことがあったか?倉庫にでもぶち込んどけ!」
トドは大きな声で文句を言いながら去っていくと、クーデリアはビスケットの操作する画面を覗き込みながら三日月の様子が気になっていた。
「遠距離で撃ち合っているうちは大丈夫。モビルスーツのナノラミネートアーマーは撃ち抜けない」
そうしているとオルガが大きな声で指示をだした。
「ヤマギにあれの準備をさせろ」
「パイロットはどうするんだよ」
シノが素早く食いつき、ユージンが何の話だよという表情を浮かべながら周囲を見る。
「昭弘頼めるか?ビスケットも準備しておいてくれ。お前は最終手段だ」
昭弘とビスケットはそろってブリッジから移動して行く。ユージンは二人の行動に違和感を覚えている。
「ユージンは船の操縦を任せられるか?」
「いいけどよ。さっきから何の話をしているんだよ!?」
オルガが艦長席をユージンに譲り、ユージンは背中に付けている阿頼耶識を艦長席に取り付けて尋ねる。すると、オルガはユージンの後ろで戦場をまっすぐ眺める。
「昭弘とビスケットにはモビルスーツを任せることになってる」
「はぁ!?シノじゃねぇのかよ!?」
「いや~阿頼耶識を使えるなら俺も志願するんだけどよぉ。あのモビルスーツ使えねぇんだよな。ああいうマニュアル操作にはビスケットがなんだかんだ向いているからな」
シノは先ほどまでビスケットが座っていた席に座りながら答える。
どこか納得のいかないユージンだったが、そう言う事を言っている場合ではないと自らを律し、戦場を見る。
「で?オルガ。何か作戦があるんだろ?」
オルガは小さな声で「まあな……」と答えた。
パイロットルームで昭弘とビスケットはパイロットスーツに着替えていた。ビスケットは自分の背中についている装着物が邪魔にならない様な特別なパイロットスーツを着ながら、自分の帽子が邪魔になっていると気が付いた。
自分のロッカーにそれを入れて振り返ると昭弘が真剣な眼差しをして待機していた。
「それじゃあ俺は艦で待機しているから、安心して戦って来て」
「ああ、いざとなったら艦を頼む」
昭弘と一緒にパイロットルームから出ていき、それぞれのグレイズに乗り込む。
サブレが最初の戦いの際に壊したグレイズはサブレが回収せずに去ったためにその場に残っていた。それを鉄華団が回収し、使えるように再調整を施した。
ビスケットと昭弘がコックピットに入っていくと、昭弘の機体が沈んでいく。ビスケットはその間にブリッジに連絡を取っていた。
「くっそ!ちょこまかと……援護しろ接近戦をする!」
中々致命的な一撃を打てずにいる事に業を煮やし、苛立ちながらバルバトスに接近していく。
「私の邪魔をするな!」
攻撃を防いだ直後の隙を突く形で目の前まで接近したコーラルだが、その妨害の為に行われた昭弘の援護射撃に意識がそれてしまう。
三日月を呼ぶ声に三日月は右手に構えているメイスを構えなおす。
「まさかあのグレイズは……」
「コーラル三佐!」
コーラルはグレイズに意識を向け過ぎ、後ろでメイスを構えなおしている三日月に気が付かなかった。メイスのパイルランカーが深々とコックピットに突き刺さる。
「またあいつに……このリアクターの反応は……クランク二尉の機体か~!」
アインは隊列を乱しながら一人突っ込んでいく。
「足の止まった奴からやろう。援護頼む」
「待てよ!ビスケットじゃねぇんだぞ!俺はまだこれに慣れてねぇのに……」
アインはショートアックスを振り下ろす。
「角突き!!」
三日月は流れるように回避する。三日月の予想できない動きを前にギャラルホルンのパイロットたちは混乱の最中にあった。
「その動きはなんだ!!」
阿頼耶識を使った生身同然の動き方は現代のモビルスーツの動かし方では出来ないものばかり。
グレイズを一機づつ確実に落としているが、それを妨害する様に紫の機体が射撃で邪魔をする。
「コーラルめ。我々を出し抜こうとしてこのザマか」
シュバルベグレイズのコックピットの中でガエリオは戦場の状況を分析した。
「グレイズを既に四機……見てくれよりは出来るようだな!」
ガエリオと三日月が交戦しているとマクギリスはバルバトスの解析を部下にさせていた。
「見ない機体だな。照合できるか?」
「距離はありますがエイハブ・リアクターの固有周波数は拾えています」
目の前の画面には『ガンダム・フレーム』と書かれていた。
「ガンダム・フレームだと?」
「マッチングエラーでしょうか?厄祭戦時の古い機体ですよ?」
「いや、必然かもしれんな。その名を冠する機体は幾度となく歴史の節目に姿を現し、人類史に多大な影響を与えてきた。火星の独立を謳うクーデリア・藍那・バーンスタインがそれを従えているのだ。船を任せるぞ。私も出る」
そして、マクギリスも戦場へと出ていく。
戦場に出たマクギリスは持ち前の洞察能力を駆使して三日月の戦い方を分析していた。
「ああもおかしな避け方をされてはむきになるのも分かるが、こちらの照準システムに異常はない。やはり奴の問題か。姿勢制御プログラム特有の回避パターンは出ない。まるで生身のような重心制御が回避動作を最小限にとどめている。空間認識能力の拡大を謳ったものだったか、阿頼耶識システムとは……、外部スラスターのナノラミネートアーマーだけ消耗が激しい………そうか」
スラスター目掛けての攻撃が見事に着弾する。
「生身の体にスラスターはあるまい。分かればあっけないものだな」
しかし、三日月もマクギリスの戦い方に気が付き、素早く対応して見せる。
「もう気が付いたか。ならば……」
後方からギャラルホルンの船が追いかけており、オルガ達はそれから逃げている状況だった。
「資源小惑星を利用する。アンカーを小惑星に打ち込み、ビスケットがそれを砲撃で撃ち抜く。問題はアンカーを打ち込むタイミングだが……」
『俺がしようか?』
「いや駄目だ。ビスケットは杭を撃ち抜くタイミングに集中しろ。そっちが重要だ」
オルガが悩んでいると船の操縦をしているユージンが名乗りを上げた。
「俺が撃ち抜く。俺にも仕事させろ」
「出来るのか?」
ユージンは黙って頷く、オルガはシノの方へと顔を向ける。
「シノはタイミング頼む」
「おうよ!」
時は一刻一刻と過ぎていき、ユージンはアンカーの照準を目の前の小惑星へと向ける、このアンカーのタイミングがずれれば目標通りの軌道で動きが取れない。
ユージンは速度を高めながら息を吐き出すタイミングでアンカーを小惑星に打ち込んだ。
艦全体に大きな揺れが起きており、誰もが自分の持ち場で必死にしがみついている。
「こんな揺れで撃てるのかよ!?」
「ビスケット!!」
ビスケットはカタパルトから身を乗り出し、スナイパーライフルを杭の方へと向ける。
イサリビが大きく半円の軌道へと入っていく。
小惑星にぶつかりそうになるような速度、目の前には小惑星が見えてきた。
「ぶつかる!」
オルガはビスケット信じていた。
ビスケットは息を大きく吐き出し、こんな状況でも冷静になれている自分に驚いてしまいそうになる。
スナイパーライフルの引き金を引く準備をしながら移動速度などを頭の中で計算し、杭へと照準を向けて引き金を引く。
ライフルの弾丸は杭の端を強く撃ち抜いていき、杭は衝突の衝撃から遠くへと吹き飛んでいく。
イサリビは杭を回収しながらギャラルホルンの船の真正面に位置を付ける。
ギャラルホルンの船とイサリビの船の距離がほぼゼロ距離に位置すると、お互いにほぼ同時に主砲が火を噴いた。
同時に閃光弾を放ちながら視界と照準補正を狂わしながらイサリビは遠くに去っていく。
昭弘の機体を補足しながら三日月の機体を確認しているとクーデリアが気が付いた。
三日月はマクギリス相手に苦戦を強いられていた。
左腕の装甲をパージして致命傷は回避したが、今度はガエリオがワイヤーで動きを拘束する。
「大人しく投降すればしかるべき手段で貴様を処罰してやるぞ」
「投降はしない。する理由がない」
聞こえてくる言葉にガエリオは首を絞められたことを思い出した。
「そのクソ生意気な声……あの時のガキか!」
「そういうあんたは………誰だっけ?」
「ガエリオ・ボードウィンだ!火星人は火星に帰れ!」
三日月はワイヤー解くため一旦ガエリオとの距離を多少詰め、同時にメイスを投げ飛ばす。
マクギリスがガエリオを回収するが、時は既に遅く三日月はブースターで一気に離脱していた。
アインは悔しさに打ちひしがれている間、オルガはトドをギャラルホルンへと送っていた。
ビスケットと昭弘はアトラが入っているシャトルのコックピットをまずは取り外し、中へと入れていく。中に入ろうとする三日月が何かに反応したように身動きを止める。
すると昭弘とビスケットもモビルスーツのアラートが激しく反応した。
「オルガ!回避!」
ユージンが素早く反応すると、イサリビ右側面に強い衝撃と強い揺れが起きる。
ビスケットと昭弘のグレイズがイサリビにしがみつくが、三日月は素早く襲撃者へと向かって機体を走らせる。
襲撃者は大きなシールドを装備して姿を現し、大きなキャノンを右腕に装備している。
三日月は右腕のメイスでシールドを打ち上げ、でき隙をビスケットがスナイパーライフルでコックピットを撃ち抜く。
するとイサリビの目の前にはおびただしい数のモビルスーツがたった一機の黒いモビルスーツを囲んで戦っている。
驚くべきことはその一機が少しずつ戦力を減らしながらイサリビの進路を開けようとしていた。
その姿を見ればあれが誰なのかなんて三日月とビスケットには分かってしまう。
アガレスはたった一機で戦っていた。
死神の鎌を振り回しながら、孤独に戦っていた。
「どうするよオルガ!」
ユージンからの一言にオルガは考え込んでしまう。この戦いを回避すること自体は非常に難しいが、大きく迂回すれば出来ないことは無い。しかし、下手に迂回すればギャラルホルンにまた見つかる可能性が高い。かといって先ほどのギャラルホルンより三倍以上ある戦力を前に勝てる可能性も低い。
オルガが悩んでいる間にビスケットの視界に写るアガレスの姿が、昔のサブレの姿に見えた。
たった一人、孤独に不良と戦うサブレ。
ビスケットはそれがどうしても怖く、どうしてもサブレを助けに行くことが出来なかった。
(それでいいの?また俺は………僕はサブレに押し付けて助かるの?)
自分への自問自答。
逃げるのか、戦うのか。
(決めたじゃないか。オルガ達と戦うと、その為にモビルスーツのマニュアルまで暗記して、昭弘と確かめて、ああして戦えた)
サブレの獰猛な戦い方を前にどうしても怯んでしまうビスケット。そんな自分の心に鞭を打つ。
すると、サブレの戦いを見ているとどうしてあそこまでこだわるのだろうとふと疑問に思ってしまう。
サブレにはこの戦いに何かを感じたに違いない。
(サブレにとってこれは宿命の戦いなんだ。逃げるつもりも、避けるつもりも無いのだろう。なら………俺は)
そう思うとビスケットは自らのグレイズを走らせる。
ほぼ同時に三日月も機体を走らせる姿を目撃する昭弘は「ビスケット!?三日月!?」と叫びながら内心「クソ!知らねぇからな!」なんて思いながらも機体を走らせる。
オルガやユージンも驚きを隠せないが、今更隠しても仕方がない。そういう想いと共に艦を敵主力へと向けて移動させていく。
「ユージン!頼めるか!?」
「やるしかねぇだろ!!ビスケットと三日月の野郎!帰ってきたら一発殴ってやる!」
イサリビもまた宿命へと巻き込まれていく。
ダーブラとのまだ見ぬ決着へと向かって進んで行った。
ダーブラと戦う事を選んだ鉄華団。混戦状態へと移行していく。サブレはたった一人でも敵に挑もうとする。それを追いつくためビスケットも戦いへと挑んでいく。苦しみと憎しみはサブレを苦しめる。アガレスが生まれた意味を紐解こうとする者が現れた。
次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再第八話『死神の正体へ』