機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再 作:グランクラン
地球圏のヨーロッパの小高い丘の上、花畑に囲まれる壊れた一軒家。天井は突き抜けて壊れ、机や壁にはヒビが割れている。
そんな部屋にフードとサングラスを付けた男が立っていた。
その男の右手には赤いバンダナが握られており、左腕にはギャラルホルンが使っているハンドガンが握られている。
「やっとだ。あれから三百年。ここまで来た。あと少しでみんなでそっちにいけるな」
バンダナを机の上に置き、ハンドガンの弾丸を確認した後胸の内側のポケットの中へとしまう。
そして、腰に付けたポーチの中からギャラルホルンの文様が描かれている両手で持てるサイズの箱が出てきた。箱の中には七つの穴と蓋の裏にはセブンスターズの家門が描かれている。
「リブルド計画。死神の半身は目覚めた。狩人も目覚めた。あとは死神の半身のみだ。大丈夫。ちょっと刺激を与えてやれば必ず目覚める。もう少し時間はかかるけど待っていてくれ。そしたら……みんなで旅立とう」
彼は最後に一枚の写真を机の引き出しの中へとしまう。
その写真には赤いバンダナを腕に巻き付けた男性が三人、巻き付けていない男性が一人、その後ろにだが謎の腕が映っていた。
男は家から出ていくと小高い丘を降りていく、小さな森の中へと進んで行き、倒れている看板を付け直して立ち入りを禁止しているかのような鎖を乗り越える。
付け直した看板には『ここから先の立ち入りを禁止する。ギャラルホルン セブンスターズ イシュー家所有地』と書かれていた。
「まずは死神の試練だ。乗り越えて見せてくれよ。お前がガンダムのパイロットならな」
男は空を眺めるように視線を上へと向ける。
同じとき、サブレは試練の時を迎えていた。
死神の鎌が空を切り、多くのモビルスーツに囲まれながらも善戦を繰り返しているように見えるが、実際は突破口が見いだせずさらなる混戦へと向かっていた。
肝心のダーブラのモビルスーツ隊もアガレスを打つ手立てを打てずにいた。
しかし、それは半分はわざとだった。
ダーブラのボス『デリカーン』は顎下に手を当ててふと思考していた。
「あの少年が現れてからフォートレスの本格的な活動が始まったのは事実。問題はあの少年がいつからか業界内で死神の名前で呼ばれるようになった。これは偶然か?まるであの少年の本名を隠すためのフェイクのように見える。いや、そもそも今回の依頼からしておかしい所があった」
今回ダーブラは第三者を仲介する形で別の依頼を受けていた。それはフォートレスの火星進出を防いでほしいと言う物だった。依頼主を辿って調べたところどうやらアフリカン・ユニオンの資本家であることが分かった。
問題はこの資本家自信がどうもフォートレスの活動を支援しているという点だ。
そして、その資本家が謎の失踪を遂げている。
「そこからしておかしい、前金と依頼が完了すれば残りの依頼金を払うとずっと連絡があったので依頼を受けたが、そもそもフォートレス内部に裏切り者が発生する可能性が高いと組織で三百年裏切り者を発生させなかったという事がおかしいのだ。誰かが外部からコントロールをしているという事か?誰だ?」
その行動に呼応するようにクーデリア・藍那・バーンスタインが活動を本格化させた。
その連鎖が偶然なのだとどうしても断言できないデリカーンである。もしと考えてしまう。
クーデリアが活動を始めたのはアーブラウの議長である蒔苗が交渉に応じるとクーデリアに告げたのがきっかけだったはず。
「いや、もしかしたらフォートレスが活動する為に誰かが動き出す理由をフォートレスが用意したのか?となると、蒔苗は当初フォートレスに護衛の依頼を出したに違いない。なら……」
そこまで言えばデリカーンにはサブレの本当の依頼が分かった。周囲に嘘をつき、決して本心を離そうとしないこの少年はあくまでもエージェント。仕事を遂行する上で時に冷酷さは発揮することが出来るように最低限の特訓を受けている。
目の前で戦っている少年に冷たい声を放つ。
「君の仕事の本来の依頼は『クーデリア・藍那・バーンスタインの護衛組織を見出し、安全に送り出せるように手伝う事。そして、最悪の場合はこちら側に連れてくること』じゃないのか?」
その推測は決して間違いじゃない。しかし、この時サブレが戦うもう一つの理由に自分が関わっている事にまだそこまで気が付いていない。
サブレがデリカーンにどうして固執するのか、それはサブレにとっての苦い過去。救えるはずだった命、気が付かないうちに見殺しにしてしまったツケをここで払ってしまいたいという願い。
妹達を傷つけられたという怒りがサブレを突き動かそうとする。
サブレとてまだ十六の少年である。感情で動いてしまいたくなる時とてある。
しかし、この時デリカーンはあと少しでその奥にある真実のドアを開けれる所まで来ていた。しかし、それを妨害する様に三機のモビルスーツが割って入ってきた。
サブレが鎌で敵を切り裂いていると、後ろからスナイパーライフルの鋭い弾丸がサブレに攻撃を加えようとする敵モビルスーツ『量産型ユーゴ』を切り裂く。簡易素材で完成されたユーゴの右腕を吹き飛ばし、サブレはその敵に容赦の無い攻撃を加える。
コックピットに突き刺さった鎌を引き抜こうとするが、別の敵がサブレに攻撃を仕掛けようと斧を振り上げる。
サブレは鎌の回収を諦め、背中に隠していたレンチメイスに切り替える。
ビスケットはようやく冷静さを失って前に出過ぎたことに気が付いたが、周囲を取り囲む機体を相手に出来るほど技術が高いわけでも無く、囲まれた敵相手に殺されそうになっている間に三日月がビスケットの回収に現れた。
「落ち着いて。この数に突っ込んでいくのは危険だとおもう」
「ごめん三日月。でも……僕」
「分かってる。でも、すごいね。あの数相手に一歩も引いてない」
そうなのだ。数えるのが億劫に感じるほどの数相手にサブレは一歩も引かず、互角の戦いをしている。
「でも、今だけだよ。あの奥にいる機体が多分リーダー機だと思う。あれが参加したらさすがのサブレでも」
「なら俺と昭弘で残りの敵をひきつけるから、ビスケットはあいつと一緒に敵を倒してよ」
「でも!昭弘と三日月だけじゃ」
すると昭弘が後ろから現れ声をかけてくる。
「イサリビもひきつけてくれるってよ。その隙なら大丈夫だろ?」
「でも、それじゃ………イサリビが」
イサリビまで前に出たら敵の思うつぼなのではないかと考えてしまう。しかし、ビスケットが悩んでいる間に三日月が強めの声をかけてきた。
「ビスケットはさ助けたくないの?」
「助けたいよ……」
「なら助けに行けばいいじゃん。それに、ここで引いても同じことだと思う。なら前に進んだ方が良い。でしょ?」
(確かに今更引くことなんてできない)
そう思うと目の前で戦っているサブレの背中が遠くに見える。
手を伸ばしても届きそうに見えない距離、それはビスケット自身が作り出す偽りの距離感だ。実際は機体を走らせれば届くはずなのだ。
「行って。ビスケット。後ろは俺達が守る」
ビスケットは機体をサブレの方へと走らせ、三日月と昭弘はイサリビを守りながら敵モビルスーツを引き付けようとしていた。
サブレは敵勢力がクーデリアを狙おうとしていると気が付いたが、今目の前で自分が出来ることは目の前に存在している。
デリカーンとの戦いに集中する為機体を一気に走らせる。
ビスケットが敵からの攻撃を受けそうになるが三日月や昭弘が援護に入り、ビスケットの目の前でサブレとデリカーンがついにぶつかった。
レンチメイスと刀がぶつかり合い、至近距離で視線と視線と言葉がぶつかっていた。
「君のような子供にこんな重大な事件を託すのは失敗だったな」
「アンタみたいな悪党相手なら俺一人でも十分だ」
火花を散らし合い、サブレが機体を半歩後ろに引き、レンチメイスをイーガの頭上目掛けて振り下ろそうとする。しかし、イーガはそれをシールドで攻撃を弾きながらガンダムの腰目掛けて刀を振り回す。
サブレはそれをレンチメイスの端で受け止めながら攻撃を回避することに成功した。
腰を思いっきり蹴りつけるサブレはイーガが震えながらも攻撃を耐え、シールドをアガレスの胴体へと叩きつける。
「何故あの時裏切ったんだ!?」
「ああいう計画だったからだ!あれは我々にとって偉大なる組織結成の日だった」
「そんな事の為に!!」
衝撃がお互いのコックピットを振動し、イーガはその隙に周囲に漂う小惑星の陰に隠れてしまう。
サブレはそれが罠だとわかっていてもそれでも突っ込んでいこうとする中、たった一機の機体の手がその行動を一度止めた。
「駄目だよ。罠だ」
「邪魔だから後ろに下がっていろ!」
「駄目だ!一人で戦わないでよ!僕を……俺を頼りにしてよ!俺だって戦えるんだ!!」
その言葉はサブレの心にブレーキをかけようとしていた。
目の前に存在している敵に対し、どこか盲目になっていて冷静さをかけていた。
サブレはいつでも『俺がしっかりしなければ』『俺が倒せばいいんだ』という感情がサブレを異常なまでに追い詰めていた。
それも全てはあの頃の失敗からくる行動だった。
『助けてください!先輩!』
助けを求める声とそこに駆け付けた時、コックピットの中に広がる肉体の残骸を見たとき、サブレは初めて戦う事の結果を目撃した。
助けてくれという言葉をサブレは救う事は出来なかった。
サブレの視線の先にいる兄はもう弱弱しい兄では無かった。
いつの間にかサブレなんかよりよっぽど成長した兄の姿を見たとき、ぶっきら棒に答えるだけだった。
「援護は任せる」
そう言ってサブレは小惑星の裏へと回り込んだ。
デリカーンはサブレが追いかけてこないことへの疑問が生まれた。デリカーンはサブレが自分と同じように回り込んでくると判断していた。
しかし、冷静を取り戻したサブレはあえてイーガの上を陣取った。上を陣取られたと察したイーガは回避行動を取ろうとするが、それを今度はビスケットが妨害した。回り込んできたビスケットはスナイパーライフルの弾丸をイーガの右足のスラスターへと見事に当てて見せた。
「二人がかりだと!?しかし!」
イーガはバランスを崩してしまう機体を素早く立て直し、サブレからの攻撃を左腕を犠牲にする形で致命傷を回避した。
しかし、右足に続き左手を犠牲にしてしまったデリカーンは勝機が無くなったと判断できた。
「各機撤退。二時間後に撤退ポイントにて集結、来なかった機体は考えるな」
それを最後の言葉にすることにした。
刀を一本。しかし、せめて今回の不可解な事件を紐解き、なんとしても同じ失敗をさせまいとサブレと直接対決へと挑んでいった。
(今回の事件の裏に別の誰かがいることは確かだ。その『誰か』は我々と依頼主を貶めようとしている。恐らく依頼主は既に死んでいるのだろう。目的はどうしてそんなことをしたのかだ。依頼主が裏切っているとわかったのならフォートレスはこんなに回りくどい手を使うとは思えない。なら、フォートレス所属では無い者が行ったという事か?)
考えられるだろうか?
(もう一つ不可解なのはやはりこの少年とこの機体だろう。この機体、もしくはこの少年はおそらくフォートレスの中でも相当重要な存在に違いない。出なければクーデリア・藍那・バーンスタインの依頼を極秘裏に受けるとは思えない。やはり、この少年はキーマンだ)
サブレからの攻撃を驚愕の集中力で回避するが、ビスケットの弾丸が適度に機体の端に当たってしまう。
ちょっとずつ機体の速度に追いつきつつある。
(この少年。この機体がもし………フォートレスにとって重要な立場にあったのなら。もし、私がその『誰か』だったのならこの少年の登場以降どういう風に事を起こすか。決まっている目的がギャラルホルンの撲滅ならこの少年を切り札として使えるように鍛えるはずだ。ああ、そうか……)
そこまで来て画面いっぱいに広がるレンチメイスを見た瞬間、デリカーンはようやく『誰か』の目的の一つに限りなく近づいた。
気が付けば左半身の感覚が無い事に気が付いた。
なんてことだ。私は『誰か』の策略の中で礎にされたようだな。失態だ。こんな作戦に気が付かないなんて。
その上、敵の思惑通りにここまで来てしまった。
ここで私が取るべきこの『誰か』への対抗策は生き残る事だ。しかし、それだけは私の心が許さなかった。
こんな所で恥をさらすつもりは無い。
私はハンドガンを取る為に右腕を動かした。血が流れ出る左半身の痛みなどとっくに感じない。
自らのこめかみにハンドガンの銃口を当て、最後に目の前にいるアガレスに私は睨みつけた。
精々足掻くといい。その先に何があるのか地獄から見ている事にしよう。
私は銃の引き金を引いた。
銃の引き金が引かれる音が聞えてきた。
機体同士が接触している所為だろう。俺は急いでコックピットから出ていくと俺は急いでイーガのコックピットの中へと入ろうとこじ開けた。
中には左半身を失った男が右手でハンドガンを握りしめ、頭部から血が大量に流れている映像だった。
俺の隣に兄さんがやってきて遺体を前に少しだけ吐きそうになる気持ちを抑える。
「ビスケット!奴らが撤退する。今のうちに離脱するぞ」
兄さんの機体からそんな声が聞えて来た時には俺はアガレスのコックピットへと帰っていた。兄さんもグレイズへと帰っていく。
俺は兄さんがコックピットの中へと帰る前に一冊のマニュアル本を渡した。
「死なないように必死で生きる事だ」
俺はそれだけを言うとそのまま帰路に就いた。
後ろで兄さんの機体を他の二機が回収しながら艦が離脱していくのが見えた。
俺は資源衛星コロニーへと進路を取り、その間に本部へと今回の経緯と結果を報告した。
資源衛星コロニーはフォートレスの手によって既に管理されており、俺は一番奥へと機体を止めつつ視界の端の方で見たくない人の一人を見てしまった。
生真面目さを決して隠そうとしないその顔立ちはサブレは何度見ても背筋に嫌な汗をかいてしまう。
コックピットから出ていくと彼の近くへと降り立つ。
「随分早いおつきですね?終了時刻を事前に予想しておられたと?」
「まあな。新しい依頼だ」
「はぁ。密命を周囲に隠しての依頼の後でまた依頼ですか?いいですけど。また密命とか止めてくださいね。これ以上はジョシュアには隠せませんよ」
「安心したまえ。今回は密命ではない。当分はテイワズに預けることで決着した。勿論彼らが裏のルールを破るようなら話は完全に別になるが」
「そこは彼らを信じるしかありませんね。まあ、あんなできたばかりの組織が裏のルールを知っているとは思えませんが?」
「そこはテイワズの教育に期待するしかない。さて……これが次の指令書だ」
俺はその指令書という名の薄い本を取る。本と言ってもいいのかどうかというほどの薄さ。多分ページは存在しないだろう。俺が中を開くとそこには『指令書』という簡潔な文字と下に依頼内容と依頼主が羅列されている。
「今度の依頼は『オセアニア連邦』ですか?」
「ああ、いくつかの我が傘下の商会がある宇宙海賊の被害を訴えている。その宇宙海賊の撲滅がお前の次の依頼だ」
「こういう仕事は別の人間の仕事でしょうに」
「君にしかできない理由がある」
俺は依頼内容を確認するが、宇宙海賊名が『ブルワーズ』という名前しか書かれていない。またしても意図して書かれていないわけか。
「またこういう内容ですか?嫌ですよ。ちゃんと依頼内容は正確に書いてくださいよ」
「善処しよう。今回の宇宙海賊が『ガンダム』を所有しているそうだ。実際に襲われた商会がデータの提供をしてくれた。お前の目的はブルワーズを撲滅し、ガンダムの回収を並行して行う事。事前の情報はこちらから伝える」
まあいいか。そう思い俺はあの機体はどうするのかと尋ねた。
イーガとかいう機体だったか?
「あれはこちらの商会で回収させる。残党はアリアンロッド艦隊を利用することにしている。こういうことは彼らの仕事だろうからな。安心しろお前の目撃者は皆殺しにしておくようにと伝えてある」
「あまりジュリエッタに無理をさせるとばれますよ」
俺は釘を刺した。
あまり派手な行動はラスタルにジュリエッタへの不信に繋がるだけだ。
「気にするな。実際に進言するのは別だ。ジュリエッタの目的はあくまでもラスタルの行動を逐一私達に伝える事だ。お前が気にする事じゃない。そもそもお前は我々フォートレスにとって旗頭なのだ。危険な所への任務何てさせられないだろう」
「だったら任務内容も少しぐらい安全な奴を求めますね。一年前の金星付近での取り締まりなんて下手をしたらアガレスを失っていましたよ。少しぐらい情報に正確さが欲しいです。だいたいこの報告書にした所で……」
なんて愚痴をこぼしているアルベルトさんは踵を返してその場から立ち去ってしまう。
「ではな。仕事はきちんとこなせ」
「あ!逃げる気だ!」
俺の目の前で逃げていったアルベルトさんへの睨みを俺は忘れずに行い。その片手間でスマフォを使って『親父』へと嫌がらせを行う。
この時の俺は気が付かなかった。この依頼が俺達と鉄華団の初対決へと向かって行くとは………誰も気が付かなかった。そう思っていた。
そう。一人だけいたんだ。この展開を予想していた人物が。
三日月達はひと時の安息を楽しんでいた。サブレがくれた案内役へと目指す中、一行の前にタービンズが現れる。彼らを認めさせなければ以来の達成は難しい。それぞれが覚悟を持って戦う中、三日月は今まで感じた事の無い気持ちに気づきつつあった。
次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別再第九話『成長の証』