モンスターハンターHM   作:ピュゼロ

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VSバサルモス その②

 ラティオ活火山。大地の息吹が今も盛んな大自然の偉大さを象徴する場所の一つだ。

 力強く脈動する自然の中では、人間なんて大した大きさじゃない。先ほど蹴散らしたイーオスたちに、もしもそのまま殺されていたとするならば、きっと骨までしゃぶりつくされておしまいだ。それで終わり。何が残るわけでもない。蜂が花に集い、鳥が種を運ぶように、自然の中に組み込まれて食われるだけだ。

 ギルドで発行される依頼が最も多い場所の一つでもある。常に求められる素材などの需要に対し、ハンター側の数が追いつかないのは、生半な実力ではむざむざ死にに来るだけだから。

 ここは既に竜の生きる場所だ。荒々しい熱気は、この場がいかに人間にとって過酷かを雄弁に物語っている。

 

 すでに相当奥地まで足を運んでいた。

 だが、そんな事よりも、何よりも重要な、隠しきれない事実がある。

 ここでなら、その過酷な環境に見合う数々の貴重な資源が採取できるのだ。

 誰でもない、俺が、だ。

 俺だって地道に実績を積み、やりたくもない狩猟に命を賭してきた。時には合同での狩りに潜り込んで無理矢理ギルドカードに結果を載せた事もあった。村の受付嬢の難題や執拗ないびりにも文句ひとつ言わずに耐えてきた。近頃はさらに、アステの腕前に物を言わせて下駄を履き、ようやくこうしてクエスト受注ができたのだ。

 まったく、相棒さまさまである。

 当の本人はさきほどから、憮然とした表情を隠そうともしていないが。

 

「どうしたんだ? さっきのクーラードリンクの中に、まだでかい欠片でも残ってたか?」

 

 手は動かしたままだが、できるだけ気遣うような声を出してみる。

 返ってきたのはぞくぞくするような氷点下の視線だ。

 どうでもいいが、俺も相棒も調合はさほど得手というわけではない。そのため、クエストに必要な物資を自前で調合したはいいが、いざ現地で蓋を開けてみれば、材料が完全に混ざり切っていないなんて事もままある。全自動剣振り下ろしマシーンに戦闘以外の事を期待するのが間違っているんだろう。俺だって似たようなものだが、少なくともにが虫の頭を噛み潰してきゃあきゃあ騒いだ事はない。調合作業は交代制なので、半分は自業自得で納得してもらいたい。上位の狩人のように、金で全ての準備を終えられるほど、下位ハンターの懐は温かくないのだ。

 カツン、という小さい金属質の音。

 手の中で割れた鉱石の破片から、目当ての護石のかけらが小さく見えてきた。満足感もあり何度か頷く。金槌の先でさらに二度三度感触を確かめ、敷いていた採取用の厚布の端に転がした。

 やはり火山地帯の鉱脈はものが違う。金屑や岩埃にまみれた指先でそっと握りしめると、未鑑定でもじわりと沁みる力を感じる。雪のかけらを手で受け止めるみたいに、すぐに溶けて見えなくなってしまうけれど、感触は確かにそこにある。沼地や森林の中の洞窟から、細々と集めていた今までがカスみたいに思えるほどだった。

 くらくらするね。

 ふー……っと大きく息をついて、額の汗をぬぐった。

 比喩ではなく、実際にもの凄い熱と湿度で、ふと気が付けば頭がぼうっとしてくる。ここまで深いと風もほとんど吹かない。新鮮な空気が恋しいよ、ほんと。

 せめてもの気分転換に、手を止めて腕をもみほぐした。

 

「と……と、と」

 

 脇に除けていた屑石の一つが微妙に勢いづいて転がり、敷き布を飛び出しまった。首を後ろに回していくと、やがて相棒の脚に当たって止まる。

 アステの剣に砥石をかけていた手が止まり、大仰に嘆息。

 

「ねえー……」

「おっと。すまん、すまん」

「我らがアグリオ……その一族に伝わる教え、『眼前に竜がいるのに、他の竜を考える愚か者』ってのが、今まさにぴったりだよ」

 

 口調と表情から、おそらく何かを非難しているんだろうが、よくわからない。

 アグリオ族とは、ハンターとギルドという枠組みが生まれるよりも遥かに古くより竜を狩り続けてきた一族であるらしい。俺は詳しく知らないし、他に見た事もないが。いうなれば古来の屠竜の専門家、偉大なる先駆者集団、はじまりの英雄の一族……そんなところだろうか。

 時折相棒の口から聞かされる氏族の言葉は、ちょっと血の気が多すぎて常人には理解しがたい部分がある。竜を殺せば偉大な英雄、狩りで命を落とすのが本望、というような感じだ。ハンターなんて稼業につけば大なり小なりそのような傾向はあるのだが、いくらなんでもこいつらは行き過ぎている。そりゃそんな物騒なところで生まれれば、こうもなるだろう、という感じだ。

 しかし、それでも一応は共に手を組んでいる者同士だ。円滑にとはいかなくても、意思疎通をおろそかにするのはよくないだろう。俺も組み始めてからまだ日が浅いことだし、思わぬすれ違いがあったのかもしれない。

 理解はできないなりに、もしかしたらと思い、右手の金槌を差し出してみた。

 

「……自分でやってみたかったのか?」

「うるさい。バーカ」

「ぐぇっ……!」

「我が一族は、竜と戦うのが使命だ。そんな石ころ弄りなんて、しないもん」

 

 相棒が腹に据えかねて投げた石ころが、肺を鋭く抉った。視界が黒く明滅する。鎧越しに金槌でぶっ叩かれたような衝撃が走り、強制的に呼気が絞り出された。

 

「お、おま……!」

「……思ったより硬い音だった。……ふーん、一丁前に、竜の素材なんだ」

 

 まったく、黙っていればもう少し可愛げがあるだろうに。

 もちろんそんな事、本人の前ではとても言えやしないのだが。

 

 遠くに響く、低い轟き。

 その時、相棒は俺を背中から抑えつけ幾度も荒っぽく鎧を小突いていたのだが、急に手を止め雰囲気を一変させた。相棒の全身が、落雷に撃たれたように緊張するのを感じた。背負った獲物に手をかけながら、相棒が四方を警戒する。俺も慌てて片手剣と盾を手元に引き寄せた。

 

「……なにか聞こえる」

「あ?」

 

 言われたように耳を澄ませれば、確かに聞こえる。相当な重量のものを地面に引きずるような、どこまでも不安を煽るくぐもった不吉な音が……。

 黙っていれば絶世の美貌なのだが、中身は生粋の竜殺しの末裔。生意気や傲慢や自信家といった言葉を縄でくくって束にして、反対に謙虚さとか協調性だとかを日干しにしてカラカラにしてしまったようなヤツ。おまけに引く事をしない単細胞。冷静に冷酷に、並大抵のモンスターでは数があろうが叩きのめす、その相棒が、こうも警戒をする存在。

 同時に、俺自身の本能が警鐘を鳴らす、腹の底に響くようなこの音。ナイフの腹で首筋を撫でられている感覚。

 明らかにそれは、大型の飛竜の存在を示していた。

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