モンスターハンターHM   作:ピュゼロ

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VSバサルモス その③

 そもそもの違和感は、こちらが「探していること」だった。

 擬態と呼ばれる生態を持つ生物がおり、それは捕食者の目をあざむくためのもの、弱い生物がとる戦略だというのには、一定の真実味がある。

 寝枕にそんなことをつらつらと話していた時、アステはあまり興味なさそうに、

「ふーん」

 と返しただけだった。俺の言い方のせいか、相棒がその時岩竜に、大したことのない獲物、という印象を抱いたのはなんとなくわかっていたし、特別訂正はしなかった。まあ間違ってるわけでもないしな。

 ハンターズギルドで発行されるクエストには、目安として難易度がふられている。そして火山地帯でのキノコ採取と、岩竜の脅威度というのはさほど変わらない。

 つまり、岩竜はキノコで出来ているってわけ。

 ここ笑うとこだぞ。

 

 

「な――なにごとっ!」

「岩竜――バサルモスだ」

 もうもうと舞い上がる土埃の奥に向かって叫び返した。物凄いスケールで掘り返された土砂は宙にばらまかれ、元からの視界の悪さも手伝って見通しは最悪になった。

 なんとか煙の外へ飛び出すと、一足早くアステが態勢を整え、じっと睨みつけていた。

 汗ばんだ肌に土くれがべったりとこびりつく。火山の土砂は皮膚に浸み込んで、じりじりと焼け付くようだった。右手で一度顔全体を拭って、必死に目を凝らす。

 それは“岩竜”、岩石のような質感と強度を持つ甲殻に身を包んだ、擬態を生態に持つことが特徴の「見えざる飛竜」だ。

 地中から飛び出してきた竜は、真っ赤な瞳でこちらを捉えた。

 岩竜は怒りのままに、“獰猛”に吠えたけった。

 

「岩竜――!!」

「おい! いいか、正面から挑むのは無理だ、わかったか?」

「うん!」

 言うが早いかアステは叫び、そして飛び出した。深く体を倒し、大剣を横に構えて。

 つまり、あいつは馬鹿だってことだ。

「うぅぅぅるおあああ!!」

 たったの二歩で距離を詰め、アステは逆袈裟に切り上げた。岩竜の動作ひとつひとつはかなり鈍い。竜の反応するその前に、相棒は機先を制したのだ。踏み込み良し、タイミング良し。俺が試験官なら評価は文句なしに「実技:◎」をつけるだろう。ついでに「知能:×」だ。

 未知の巨竜を前にして、あいつは非情に興奮しているのがわかる。放たれた斬撃は、あれならば丸太のふたつみっつはたやすく両断してしまえるだろう。

 しかし、

 ――がいん!

 低く、鈍い大きな音が響いた。アステが驚愕に顔をゆがめる。その手の大剣は、前足の堅牢な外殻に阻まれ、大きく弾かれた。

「このっ……!!」

 無双の狩人は素早く思考を切り替えると、前に出した右足を軸に、ぐるりと身を回して刃で円のような太刀筋を描いた。体を引き締めて限界まで力を溜め、絞り、次の瞬間最高速に達した獲物を振り下ろす。閃く剣勢、それが三度。弾かれた反動さえも、うまく宙へ逃がし、より深い一撃のためのエネルギーへ変換する。どうやら早くも、うまい弾かれ方というのを学習しつつあるらしい。おっそろしいやつ。

「UGGGGlll……!!」

 ほとんど傷にはならなくとも、こちらの戦意は十分に伝わったようだ。

 岩竜は苛立たしげに吠え、大きく翼を広げた――。

「と、飛ばせるか――!」

「違う、こいつは“飛べない”!」

 

 通常飛竜は、名前の通り空を飛ぶ習性のためか、あまり地面を転がったりはしない。咄嗟に空中へ飛び立てないような状態を嫌がり、特に背中を地に絶対触れさせない(これについては、比較的柔らかい腹を敵に晒さない、という部分もあるのだろうが)。

 しかし、岩竜バサルモスは地中を掘って移動するぐらいだ。他の飛竜とは異なり、背を地面に預ける、という行為を忌諱しない。

 アステは飛翔を阻止するため、猛烈な速度で突っ込んだが、それはまったく逆だったのだ。

 岩竜は大きく両翼を広げた、いわば“バンザイ”の恰好で――勢いよく地面を転がり始めたのだ。

 それは単純にして明快な、自分の硬い殻と体重とで敵を踏みつぶしてしまおうという原初の暴力だった。

「お――おいっ!」

「へーき!」

 俺は二の句を失ってしまった。相棒の声が、あんまりに軽い調子だったからだ。浮かれている(、、、、、、 )そんな感じに近かった。

 一瞬だった。

 アステは叩きつけられる翼にさっと手を伸ばして――それは丁度、岩竜とハイタッチでもするかのように見えた――、

 ぐるん、

 と回転した。

 どこに? 縦にだ。武器を手に抱えたまま、鎧姿のままで。あいつは鉱石から作られる金属鎧の重量を嫌っているためレザーとはいえ、だ。樹上の猿なみだ。やはりアステは既に下級ハンターの域には収まっていないのがまざまざと理解できた。

 跳び箱でも遊んでいるかのような気軽さで岩竜を飛び越しながら、アステはさらにおまけとばかりに左手を二度三度と振るった。

「すごい外殻だっ。やっぱり竜は手強い……っ!」

 アステが興奮して叫ぶ声が聞こえる。勝手にやってろと言ってやりたくなったが、一蓮托生である以上はそうも言ってられないんだな、これが。

「退却するぞ。なにせあの殻に打つ手がないんだ。今のでわかっただろ!」

「はー!? なんでさぁ!!」

「理由は……みっつある。まず一に、急すぎる。装備がまるで整っていない」

「あんだけ準備させたんじゃん!!」

「クーラードリンクだけはな」

 未知の狩猟場に露骨に期待して、不意の遭遇戦(恐らくは大型の飛竜)を熱烈に願った相棒のせいで、まァ、竜を一頭追い回す時間ぐらいには。

 ただし通常、人間が竜を狩るという場合、それはトラップや爆薬をしこたま投入しての短期決戦が目標になる。人数だってもっともっと必要だ。竜と人間では、まともにスタミナ比べなんて出来やしないのだ。

 実は人間はかなり持久力のある生物ではある。短距離では猫にだって敵わないが、一方で、一時間でも二時間でも走り続けられるのが人間の特徴だ。だから太古の狩りというのは、獲物を群れで取り囲んで何時間でも追い続け、石を投げつけたり近づいたら棒で殴ったりして、じわじわと弱らせて殺すようなものだったんだろう。単にそんなことをしていたら竜に食われるってだけで。

 本来は食われるだけの絶対的な存在へ、力と知恵と、ありったけをもって相対して初めて、これは生存競争となるのだ。

「理由その二。岩竜は特に入念な準備がいる。大量の爆薬で吹っ飛ばすなりなんなりな。現状、打つ手なし。見ての通り」

「どういうこと?」

「突破口が必要だ。小さくていいから、どこか一つ。……んで、理由の最後。これが一番でかい」

「最後ってなによ?」

「俺の相棒はバカでマヌケ」

「はあ? そりゃストラのほーじゃん!!」

 幸い、岩竜はその防御力と引き換えに動きは鈍重だ。きっちりと竜の一挙手一投足に警戒しながらも、俺たちは互いに軽口を叩き合う。

 軽口は大事だ。命がけの場面では特に余裕に繋がるからだ。少なくとも、俺たちには。

「突破口、つくれば、いいんでしょっ?」

「いや、まあ、そうなんだけど。俺もう膝から下がガタガタきてて、これ以上無理っていうか――」

「――それなら!」再び駆けだす。「首の下、浅いけど――っ!」

 首の下? ほくろでも見つけたのか? まさか傷をつけたなんて言わないだろうな。やっぱりアイツはどっかおかしい。

 しかし、突破口があるというのなら――。

 俺が考えあぐねている間にも、アステは果敢に切りかかっていった。

 

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