人が人を殺すとき、大抵は胸を一突き。それでおしまいだ。手っ取り早くて話が早い。
しかし竜の場合はそうもいかない。彼我の圧倒的な質量差。強大な生命力。火を吐き、空を飛ぶ生物たち。
よって人間にできるのは、少しずつ少しずつ傷を負わせて、竜の体力を削っていくという途方もない道のりだ。
そしてこの事実は、例え竜であろうとも、人間のように致命傷に至らずに、全身に空いた傷で弱って出血多量で死ぬ、ということでもあった。
「そう考えると、結構気が楽にならないか?」
「ばーか」
帰ってきたのは
片膝をついた体勢から、剣身を突き上げる。必要なのは膂力ではなく技術、それもちょっとした体の使い方だ。動く砦のような竜のふところに滑り込み、全身の力を使って突き立てる一連の動作。理屈としちゃ、腰を痛めない介護の方法とか、あの辺に近い。知ってりゃ誰でもできることだ。
何度目かの剣戟はとうとう実を結んだ。
これまでとは違い、弾かれることなく切っ先が「ぐぐっ」と甲殻の隙間に潜り込んでいく。
「アアァ――!!」
肩が外れるかと思うぐらいに強く押し込んだ。爪一枚ぐらいは深く埋まっただろうか? ちなみにこれはただの力技だ。
傷から噴き出る血が、刀身に、顔にはねる。まるでぐらぐらに沸いた熱湯のようだ。その熱と、手から伝わる竜の肉体のそのあんまりな「みっちり」具合にげんなりしてしまう。
レギンスで蹴りつけて無理やり埋まった刀身を抜き出した。
横から弾丸のような速度で影が飛び込んで来た。
アステは異様なまでに体を低く伏せ、振り子のように思い切り反動をつけて、大剣をカチ上げた。
刀身は三日月のように弧を描き、岩竜の首に突き立った――! 先ほどからひたすら傷つけていた、小さな小さな傷に。
「GGGHAAAA!!」
「おぁああ!!」
俺の時の倍以上もの返り血を浴びて、アステは熱に浮かされたように笑った。残酷できまぐれな狩猟の女神が殺戮に酔いしれていると言われたならば、それはきっと容易く信じられる光景だった。
女神の手が俺に差し出される。俺はその手をつかんだ。
間一髪、剣を振り切って崩れた姿勢から、相棒の手を引っ掴んで岩竜の腹から逃れた。遅れて岩竜がその場でうずくまる。あまりの重量に軽い地震が起きた。
「もっと早く引いてよ」
潰されるところだった。生意気な口を叩いて、相棒は獰猛に微笑む。乱暴に頬の血を拭った。
「悪い。見とれてた」
「は、はあ? ……バーカ!!」
脛を蹴られた。
そして、それが致命的になった。
「次っ、ブレスっ、撃ってくるよっ!」
言うが早いか、アステは駆けだした……んだろうと思う。よく見てられなかったからな。
俺はというと、相棒とは逆側に行ったんだが、不意に向こう脛に激痛が走ってその場で素っ転んでいた。それは岩竜が地中から飛び出して来た時の亀裂だ。
「……アッー!」
「ちょ、ちょっと! ジョーダンやってる、 場合、 じゃ」
音が聞き取れたのはそこまでだった。
岩竜が放った熱線は、寸前まで俺たちが立っていた場所に着弾した。どうもそこに含まれていたくさい火薬岩もろともに。
後から振り返ってみると、言いたいことが一つある。
火薬岩は全部砕けてしまえ。……ただし、俺が近くにいない場所で。