飛行船ヤハタ
現在ヤハタの飛行甲板では95式艦戦が並べられて整備を行なわれている。
その中の1機の操縦席を点検しようと整備士が覗き込み、声を掛けた。
「ナエジマさん、点検するんで降りてください」
操縦席で眠りこけていた青年を揺り起こす。
「・・う〜ん、わかった、わかったから・・・」
ナエジマと呼ばれた青年は、機体から降りると、よたよたとした足どりで休憩スペースへ向かう。
◆◇
こじんまりとした部屋の真ん中に置いてあるテーブルを囲いながら、4人の男達が飲みながら話していた。
「お、起きてきたか」
「すんませんが、飲みモンをお願いします。」
ナエジマはそういいながら席に着く、それと同時にサイダーが目の前に滑り込む。
テーブルの真ん中に置いてある黒パンを頬張りながらサイダーで流し込む。
それなりにデカイ飛行船であれば調理スペースがあり豪華な食事にもありつけるだろうが、生憎このポンコツ飛行船を飛ばすだけで精一杯の貧乏運送会社にそんなものを入れる余裕は無い。
◇◆◇◆
突然だか、ここで我ら『蚊蜻蛉飛行隊』のメンバーを紹介しよう。
1番の若手で飛行隊1番のホープ。
ナエジマ
戦果はイマイチ。しかし回避は上手。
ショウキ
酒好き、被撃墜数ではエース。
コロタ
又の名をイジツ1の平凡男
ドラフ
隊長で1番のエース。通算撃墜数11
ガレド
『蚊』の様にしつこく敵を攻撃し、『蜻蛉』の様に一直線に進んでいく。
それが、蚊蜻蛉飛行隊の名前の由来である。
まぁ、辺鄙な所で何とかやっている雇われ飛行隊である。
◆◇◆◇◆
ジリリリ!ジン!ジリリリンリン!
今にも死にそうなベルの音が休憩スペースに鳴り、電球が切れかかっているランプが点滅をう不規則に繰り返していた。
『空賊の接近を確認!飛行隊出撃準備!
対空戦闘用意!』
しわがれた声が古いスピーカーによってこれでもかというほどの大音量で撒き散らされる。
「そら!エンジン回せ!」
1番にガレドが95式艦戦に乗り込むと、作業員達を急かす。
「発艦!」
ガレド機は、誘導員が出口に向けて指をビシィッ!!と指すのを確認すると、フルスロットルで飛行船から飛び出す。
それに続く様に、ショウキ、ナエジマ、コロタ、ドレフが発艦する。
◇◆◇◆
「見えた、敵は95式が3機、97式が1機」
この近辺の空賊のオーソドックスな組み合わせだ。
(散開)
ガレドのハンドサインを見て各自散る。
3機の95式には、95艦戦をそれぞれ1機受け持つ。97式にはガレドとナエジマが攻撃を行う。
「やっぱ単翼機は速いな。」
100キロ以上最高速度が離れている97式と95艦戦では直線では勝てない。
巴戦に持ち込めば勝機はあるのだが。
「あっ、煙噴いてる。」
向こうで戦っている95式のうちの1機が昇降舵をやられたのか、ゆっくりと降下している。
そのうち機体から少し離れたところで落下傘が広がる。
◆◇◆
「よし、そのまま・・・そのまま・・・」
ナエジマは照準を97式に合わせ引き金を引くが、命中せず。
97式はさらに高度を上げたので、それに張り着くように後を追う。
「あのバカ、あれじゃ敵の思うツボだぞ。」
その様子を見ていたガレドは溜息をつく。
ナエジマは再度、照準に97式を捉える。
「よし、捉えた!」
舌で唇を舐めながら、引き金を引こうとしたその時だった。
目の前から97式がフッと消えたのだ。
「!?!!!??!」
すると背後から急に97式が現れ、右翼を撃ち抜く。
複葉機だった為、弾は貫通し墜落は免れた。
わたわたしている内に97式がぐっと、ヤハタの方に向かっていく。
ヤハタから雀の涙ほどの対空砲が撃ち出される。
それを余裕綽々といった様子で交わし、下に回り込む。
そこで2、3回旋回すると、気が済んだ様子で95式と95艦戦の戦いの中に向けて閃光弾を撃つ。
「あ、敵が離れてく。」
残りの95式と97式がヤハタから離れていく。
向こうが離れていったら、こちらもわざわざ追いかける理由も無いのでヤハタへ帰還する。
◆◇◆◇◆
「バカやろ」
ガレドは呆れ顔でナエジマの頭を小突く。
「あれはどう見ても木の葉落としの動きだったろ」
「すんません、つい落とす事に集中しちゃって・・・」
「・・・はぁ、ともかくだ。2機を相手にしているのに木の葉落としを仕掛けてきた理由はわかるか?」
「そりゃ、期待性能差があったから・・・」
「それもあるが、奴が背後に回ったとき奴は確実にお前を仕留める事も出来た、それをしなかったという理由はわかるか?」
「・・・はぁ、なんでしょう」
「おちょくられてんだよ!」
ガレドはテーブルを手で叩きながら叫ぶ。
「お前は一つの事に集中して周りが見えなくなることがある!そこ気を付けろ!」
「うぃっす」
ナエジマはすっかり小さくなってしまった。
◆◇◆◇◆
ヤハタ艦橋
「やれやれ、命拾いしましたね。」
八の字眉に細長い顔、鋭い目、出っ歯気味の歯。
パーツから見れば絶対に敵サイドの見た目の30代男性が、白紙の被害報告書を見ていた。
この飛行船は既に前の町で荷を降ろしていた為、荷が空と分かった空賊は、さっさと退散したのだった。
因みにこの男は飛行船ヤハタの艦長、タデムであった。
先代から引き継いだこの飛行船、イジツの辺境にとってポンコツでも大事な大型輸送手段である、落とすわけにはいかない。
「しかし、空賊にあそこまで接近されるのも面白くありませんねぇ、96艦戦でいいのがないか探してみましょうかねぇ・・・」
辺境の地でもイケスカの出来事の影響がこちらにまで及んでおり、空賊風情が流れた隼を保有しているとの情報が流れていた。
そんな時、艦橋に1人の年寄りが入ってきた。
「おぉう、今回も何とか撃退できたな」
「えぇ、何とか・・ねぇ」
この爺さんの名はヨネゾウ
(自称永遠の75歳)
曰くユーハングの生き残りという謎の爺さん。
どう見ても90は越してるだろうに、先程の様に出撃の合図をだしたり、電探技師をやっていたらしく、電探員もしている。
「まぁ仕事も無事終わったんだ、これでも一杯」
そういうとヨネゾウは湯呑みに入ったどぶろくを渡す。
「はぁ・・・、早く街に帰ってウイスキーを買って飲みたいですねぇ・・・」
そういうと、タデムはどぶろくをちびりと飲んだ。