「本日の仕事は、次の空の駅で待っている客人を別の街に送る事だ」
ガレドは壁に貼り付けた作戦の描いてある紙を指し示した。
「使用機体は白菊、操縦はショウキ、後方機銃はドラフ。他3人は白菊を三角形の形で護衛する。」
「「「「「了解」」」」」
◆◇◆◇◆◇
空の駅
白菊の最終点検をショウキとドラフが行なっていた。
「しかし、今回の客はどんな人なんですかね?」
「何でもここいらでも名のある人らしくてな、なんでも自宅にプールがあるそうだ」
「はぁ?!そりゃまた何つー・・・、金持ち・・・」
海のないイジツでは、水源は雨か地下水から確保するしかなく、バケツ一杯の水の方が同じ重さの純金よりも価値があったりする地域すらあるのだ。
その為、水を湛える事の出来るプールを自家用で持っていることは富の象徴であったりする。
「燃料も向こう持ちだしな」
そう言いショウキは白菊をトントンと叩く。
「コイツが前に純粋なガソリンを満タンに入れたのっていつでしたっけ?」
「さぁな、だけどいつもよりかはマトモに飛ぶだろう」
いつもは安物のアルコール燃料、酷い時は松根油を入れて飛んでいるのだ。
◆◇◆◇◆◇
予定時刻ピッタリに飛行場に高級車が入って来た。
「皆さん、彼が今回護衛を依頼された、
テッパチ産業の代表取締役社長の、ショーシャさんです。」
「皆さん宜しく」
タデムの説明と共に、
髪はオールバック、黒いスーツにエナメルの靴。全体的に黒い感じの、だがそんなに悪い感じのしない男が現れた。
「ほぉー、立派なもんだのぉ」
ヨネゾウも思わず感嘆の声を漏らす。
「では、ショーシャさん、お乗りください」
「うん、失礼するよ」
ショーシャはタラップで白菊に乗り込む。
この白菊は改造されており、客席はキャノピーから胴体付近まで防弾仕様にしており、席もパイロット様のものとは比べ物にならないほどフカフカだ。
オマケに防音仕様でもある。
過去に別の飛行隊が用心護衛任務を行なっていた時、空賊の襲撃を受け不時着しパイロットと後方銃者は無事だったが、用心だけ胸を撃ち抜かれた即死だった事があった。
そんな事があった場合シャレにならない為、防弾には力を入れているのだ。
◆◇◆◇◆◇
200㎞と鈍足ながら渓谷を抜け、広い荒野を飛ぶ。
〈ここら辺はマンドリン空団の空域に近い、注意しろ〉
〈了解〉
「空賊か、人の物を奪う事でしか生きる事の出来ない哀れな集団・・・」
通信を聞き、ショーシャが呟く。
「・・まぁ、空賊として飛んでいるのを誇りとしている奴らもいるんですがねぇ」
「飛ぶなら好きに飛べばいい、しかし人に迷惑をかける『賊』とついている時点で罪人だ。とやかく言える立場では無い。」
まぁたしかにそうだが。
ショウキは頭を掻く様に飛行機に手を擦り付ける。
「・・・そうだ、ショーシャさんはなんで俺達の飛行隊に依頼したんですか?」
いくらここが辺境の地といっても、蚊蜻蛉飛行隊よりも良い機体を持っているところはごまんとある。
「なぁに、金持ちの気まぐれだよ。あまり気にしないでくれたまえ」
そう言ってはぐらかされてしまった。
◇◆◇◆◇
今回は幸い空賊の襲撃を受ける事は無かった。
「これが今回の特別報酬ですこれからも宜しく頼みますますよぉ」
タデムが完全に悪者の笑みを浮かべながら、各隊員にそれなりの厚みのある給料袋を渡す。
ナエジマは中を覗き、タデムと同じ笑みを浮かべる。
その後彼らは夜の街へ出向き、翌朝には給料を使い切ってしまい後悔することとなるのであるのだが・・・。