それいけ、蚊蜻蛉飛行隊!   作:イブ_ib

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その3

 

 

「95式なんてのもオススメですよ、ミスタータデム」

 

「最近じゃ空賊でも隼2型を使ってるというのに、すこし古いんじゃないですかねぇ」

 

「しかし、離着陸の距離も短く、最終型であれば隼を追っかけるのも楽だと思うのですが」

 

「イケスカの出来事で此方にも性能の良い機体が流れているのではないんですかねぇ・・・?」

 

 

商人が悩みながら商品の載っているページをめくる。

 

「これなんか如何ですか?」

 

 

「ほぅ、96艦戦ですか」

 

 

◆◇◆◇◆

 

「おらぁ、お前ら!もっと腰入れて働け!」

 

現在、蚊蜻蛉飛行隊はヤハタの積込作業を手伝っていた。

 

小麦粉の袋を肩に担いでナエジマは小言を漏らす。

 

「なんだってパイロットの俺がこんな日雇い労働者紛いのことを・・・」

 

 

「ごちゃごちゃ吐かすな!昼になったら飯が出るんだ!文句言わずに働け!」

 

積み込みのリーダーの怒鳴り声に疲れ切った体に鞭を打って働く。

 

ウウ〜・・・・

 

ウウ〜・・・・

 

 

 

遠くからサイレンの音が鳴る。

昼だ。

 

「飯だ飯だ」

 

「ほら一列に並べ」

 

沢山の労働者が弁当の配給に並ぶ。

 

 

紙で出来た弁当箱を太腿に乗せ、そこらの丁度いい岩に座る。

 

「さて、弁当の中を拝見と行きますかね。」

 

ナエジマは手を擦りながら蓋をあける。

 

 

「おっ!寿司だ!」

 

ナエジマが喜んで食べ始めた寿司のネタは、河童巻き、干瓢巻き、納豆巻きそして、稲荷というものであった。

 

海の無いイジツにとって、寿司といえばこのネタという一般的な認識になっている。

(勿論金持ちは魚のネタも食べる時がある)

 

◆◇◆◇◆

 

『ヤハタ浮上致します、乗務員は着座、及び手摺にお掴まりください』

 

ヨネゾウのしわがれた声と共に飛行船が浮上する。

 

渓谷を通り抜け隣町まで向かうヤハタから空を見ながら、ナエジマとコロタが話していた。

 

「ここからデンコウ閃団の空域にギリギリ入るんでしたっけ?」

 

「そうだな」

 

デンコウ閃団、イジツの辺境では1番勢力の強い空賊だ。なんでもイケスカの動乱後流れて来た戦闘機を買い集めて戦力を増強しているそうだ。

 

「最近でも他所の飛行船が落とされた様ですしね、怖いですよ」

 

「んん、まぁあれはマンドリン空団の仕業らしいがな、なんでもあいつらはただ落とすだけで荷物を奪取しようとしないからな」

 

「空賊の考えていることはわからん」

 

「ほんと」

 

◆◇◆◇◆◇

 

目的地

シューテル

 

「んんんー何事もなくでよかった」

 

「何を笑ってるんだ、お前も荷下ろしを手伝うんだよ。」

 

ナエジマは再度荷下ろしを手伝う事となった。

 

◆◇夜

 

荷下ろしが終わり、下蜻蛉飛行隊には飛行船から降りて遊ぶ事が許可された。

 

「おい、ナエジマ飲みに行かねぇのかよ?」

 

「ドラフさんすみません、この街の知り合いに顔見せてくるんです」

 

「おぉ、そうか。気を付けてな」

 

 

シューテル自警団基地

 

倉庫に97式が並んでいる中、奥の倉庫から光が漏れている。

 

「ここか、こんな時間までやってんのか」

 

扉を開けるとそこにはみょうちきりんな機体が置いてあった。

 

機体はごく普通の雷電だが、機体の至る所がモザイクがかかったかの様になっている。恐らく墜落している雷電からヒッペ剥がしたか、自分で叩き出したのだろう。

 

「なんつーカオスな・・・」

 

その機体の雷電も剥ぎ付きだらけでプロペラも少々歪んだ三枚となっている、恐らく落ちた一式陸攻のエンジンをくすねてきたのだろう。

 

「おい、来たぞ!ミサキ!」

 

怒鳴る様にして呼ぶと、奥の方からミサキと呼ばれた女性が現れた。

 

「待っていたよ、そちらのお仕事大変そうだね、聞いたよ?テッパチ産業の社長さんを運んだんだって?」

 

「わざわざこんな飛行隊を選ぶなんてな、変わった社長もいるもんだよ」

 

「それを君がいうのか」

 

2人して笑った後、いよいよこの奇妙な雷電について切り出す。

 

「ところでこの雷電はどうしたんだ?」

 

「これはね!コイツは私が密かに組み立てて来た雷電だよ。そしてこれを見てご覧よ!」

 

言うや否や胴体側面のマークを指差す。

 

そこには緑の機体に白く縁取られた赤い丸が描いてあった。

 

「これがどうした?」

 

「わからないのかい?!コイツはユーハング人が持って来たオリジナルの機体の一部さ!見つけられたのが奇跡だね!」

 

他にもオリジナルの部分があるぞ!と興奮して捲し立てる様に説明していく。

 

「わかったわかった、わかった。凄いと言うことは十分にわかった。それでこれは飛べるのかよ?」

 

「勿論!この前自警団の皆んなと飛んでみたんだけど、ぶっちぎりの性能だったよ」

 

 

「ミサキ、誰かいるのか?」

 

「あ、おやっさん」

 

「親父さんお邪魔してます。」

 

現れたのは60半ばになろうと思われる男性であった。名はカイネスでユーハング人とイジツ人のハーフらしい。

 

「そういえばおやっさん、今日の昼に何人か来てたけどなんかあったの?」

 

「いや、大したことはない。それよりも夜も遅いぞ。そろそろ帰った方がいいんじゃないか?」

 

時計は既に10時半を過ぎていた。

 

「それもそうっすね。それじゃ自分はこの辺で」

 

◆◇

ナエジマが飛行船に向かっている時、

ミサキが何故か追いかけて来た。

 

「ナエジマ、ちょっといいか?」

 

「え?どうしたの?」

 

「おやっさんの事なんだけど・・」

 

◆◇◆◇

 

何でも怪しい男達がおやっさんの元に訪れる様になったのはここ1年前からの事らしい。

 

男達が訪れる度におやっさんは追い払うも数週間もすればまた「心変わりしましたか?」なんて言ってまたやって来る。

 

「正直私は心配でたまらないんだよ、どうすればいいかわかる?」

 

「そんな事、急に言われたって・・・空賊みたいな奴らなのか?」

 

「いや、身なりは黒いスーツで立派だったな。空賊みたいに不法者みたいな感じでは無かった。おやっさんもお前は知らなくていいってだけしか言わないし・・・」

 

 

「わかった、兎に角その奴らについて他の街に行った時に聞いてみるよ。そっちも自警団に話して警戒してもらえよ」

 

「あぁ、それは既に手を打ってる。」

 

「なら安心だ」

 

その日は夜も遅いと言う事で、お開きという事となった。

 

◆◇◆◇◆

翌日

「おい!この街にいるカイネスっつう整備士を連れて来やがれ!」

 

管制塔を無視して強行着陸した99式双発軽爆撃機から降りて来た男は、空に向けて2、3発38式を撃って叫んだ。

 

「カイネスさんにどういう要件で来やがった!悪党め!」

 

銃を構えた自警団達と町長はトラックを盾に男に応じていたが、後ろから現れたおやっさんが肩を叩いた。

 

「町長、大丈夫だ。私がいこう」

 

「カイネスさん、駄目だ。奴の目的を聞くまでは貴方を奴に合わす事はできない。」

 

「そうだよおやっさん!殺されちゃうよ!」

 

「ミサキは黙ってろ!」

 

一喝すると男の前に出る。

 

「さぁ来たぞ!要件は何だ!まさか顔を見に来ただけではあるまい!」

 

「俺のはマンドリン空団三番隊隊長ガッツァー・モトマツだ、単刀直入に言う。

貴様の所にユーハング人の忘形見があるな?」

 

「ハハハ・・・突然やって来て何を言い出したと思えば・・。こんな辺鄙な街にそんな物があるわけ無いだろう!さぁ要件はそれだけか?さっさと帰るんだな」

 

「いいのかそんな事言って?素直に出さなきゃ俺達の仲間がシューテルを襲って灰塵と化すぜ?」

 

「ふん、脅すならもうちっとマシな脅しをするんだな!帰れ帰れ!帰っておっかさんの乳でも吸ってな!」

 

「ほぉーう、分かった。そっちがその気なら俺だってその気だからな。おい!野郎ども出るぞ!」

 

そう言うと99式軽爆撃機は飛び立ってしまった。

 

すぐさま町長とミサキがカイネスに駆け寄る。

 

「町長、交渉決裂だ。済まなかったな」

 

「いいんだ。ユーハング人の忘形見なんて無いものを出すなんて出来ないからな」

 

「どうするんだよおやっさん。マンドリン空団と事を構えるなんて!」

 

「なんの為の自警団だ!やって来たら返り討ちにすればいい!それだけの話だ!」

 

「「「オォーー!!空賊なんて怖くねぇ!」」」

 

自警団団長が声を張り上げ、団員もそれに続き大声を張り上げる。

 

「面白そうですねぇ我々蚊蜻蛉飛行隊も1枚噛ませてほしいですねぇ」

 

「勿論だ、手勢は多い方が良い。全町民に通達!これよりは街は第一級警戒体制に移る!」

 

街の中心にある蔵の武器庫から99式小銃や、11年式軽機関銃を持ち出し三脚を立てて敵機に備える。

 

蚊蜻蛉飛行隊や自警団の戦闘機も暖機運転を開始し、街は物々しい雰囲気に包まれていった。

 

 

 


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