原作で言うとくまとドフラミンゴが初登場する話です。
センゴクさんもだっけ?
世界で最も尊い場所、聖地マリージョア(修復中)。
一年前に起きた“蛇王龍”による襲撃事件の傷痕が未だ深く残るこの地にて、海軍のトップであるセンゴク元帥をはじめとする数多の“正義の勢力”が集結し、世界政府に認められた海賊である“王下七武海”の面々までが集まっていた──。
「フッフッフ……! おーおー、あの“聖地”がこうも無残に破壊されたまんまとはなァ。“正義”が聞いて泣くぞ、センゴク元帥!」
「黙れドフラミンゴ。これでもかなりマシになった方だ。一年前は本当に何もかも無くなっていたからな」
「……だが、的を射ている。蛇王龍、か。今回も彼女に関連する議題だと聞いたが」
「おれは蛇王龍よりもこの麦わらという海賊に興味があって来たんだ。さっさと本題に入らんのなら帰って寝るぞ」
「待てぃ鷹の目。一度来たからには最後まで居るのがスジっちゅうもんじゃ」
「……蛇王龍……か。わらわも今回ばかりは最後まで居てやろうと思うておる。ありがたく思え」
ドンキホーテ・ドフラミンゴ。
バーソロミュー・くま。
ジュラキュール・ミホーク。
ジンベエ。
ボア・ハンコック。
アラバスタ王国での一件により地位を剥奪されたクロコダイルと、ウォーターセブンにほど近いとある海域にこもっているゲッコー・モリアを除き、自分勝手な連中ばかりで召集になどほとんど応じない王下七武海が、まさかのほぼ全員揃っているというこの状況。
明日は槍でも降るのか、と思うかもしれないが、これは今回の議題が蛇王海賊団に関するものだからである。
ミホークだけはおまけとして触れられる“麦わらの一味”に興味があるから来たのだが、まあ置いておこう。
個性派揃いの王下七武海をまとめて相手にする事になったセンゴク元帥には、強く生きて欲しい。
「では、貴様らが勝手に消え失せないうちに始めよう。まず、アラバスタでの一件で王下七武海の地位を剥奪されたクロコダイルの後任についてだが──」
と、ここでエースが追っている“黒ひげ海賊団”の一員であるラフィットという男が侵入し、自身の船長を王下七武海の後任として推す、という事があったのだがとりあえず省略させて頂く。
尚、ラフィットは言いたい事だけを言い切るとすぐに消え失せた。
王下七武海がほぼ揃っているという予想外の状況に少しビビったのかもしれない。
「……なんじゃったんじゃ、あやつは」
「ふふ、麦わらの一味か……」
「待て鷹の目。勝手に帰ろうとするな。ここからが本題なのだから」
「ちっ」
急に現れてさっさと消えていったラフィットをジンベエが訝しむ一方で、用は済んだとばかりに退散しようとするミホーク。
しかし、センゴクが素早く彼の肩をがっしりと掴んだ事によりこの場に留まる事となった。
無論、振りほどいて帰る事もできたのだが、そうなると本気のセンゴク元帥と一戦交える事になりかねない。その方が面倒だ、とミホークなりに判断したのだろう。
──そして。
センゴク元帥の言う通り、ここからが本題であり、大半の七武海がわざわざ聖地に足を運んだ理由でもある。
「次は蛇王海賊団について、だ」
「フッフッフ!! 待ちかねたぞ! さあ、今回は何をやらかしてくれたんだ?」
「随分と楽しそうじゃな、ドフラミンゴ。わらわの記憶では一時期は蛇王海賊団に大事な取引先を潰されて荒れていたと思うたが?」
「うるせえぞ、“女帝”。そんな昔の事はもう忘れたのさ」
「センゴク元帥。さっさと話を進めろ。おれは蛇王龍の話など聞き飽きているのでな」
「また国の一つや二つでも消えたか? この聖地といい、あやつはやりすぎおる」
「……だが、極力民間人には危害を加えないように配慮しているようには見える。恐らくな」
それまで退屈そうに話を聞いていた王下七武海の面々が、わっと賑やかになった。
ミホークだけは別だが、彼は親交があるシャンクスから飽きるほど話を聞かされているので無理もない。
さて、そんな海賊たちを前に、センゴク元帥が返した言葉は……。
「蛇王龍がアラバスタ王国に出現した事は貴様らも既に承知だろうと思うが、今度は“水の都”ウォーターセブンの近海に向けて新世界から蛇王海賊団の艦隊が集結しつつある、という報せを受けた。あそこは海軍本部に近い……。考えたくはないが、今度は海軍に戦争を仕掛けてくる可能性がある」
「「!!」」
実質的に四皇と同格か、あるいはそれ以上の戦力を誇るとされる蛇王海賊団の艦隊が、海軍本部の近くに集まってきている。
なるほど、とんでもない大ニュースである。
「おいおいおい、センゴク元帥。まさかおれたちを蛇王海賊団とぶつけようってんじゃないだろうな。フッフッフ……!」
「ふん。貴様らにも協力はしてもらうが、主戦力はもちろん我々海軍だ。既に、全世界の精鋭海兵を招集するよう命令もしてある」
「なるほどのう。つまり、海軍とわしらを合わせた総力で蛇王海賊団に対抗しようという事か」
「ああ、その通りだジンベエ。ハンコック、鷹の目。当然貴様らもだぞ」
「ふん、わらわは却下じゃ。マデュラには多大な恩がある。何なら七武海を脱退してもかまわぬぞ」
「……ちぃ」
「あいつにおれの剣が通じるか試すのは面白そうだが、はっきり言って勝ち目が無い戦いに参加するほど暇ではないな。四皇とも手を結ばない限り蛇王海賊団は止められんぞ」
「鷹の目、貴様まで……!!」
ミホークが弱気な事を意外に思うかもしれないが、彼はシャンクスのライバル兼友人であり、その伝手でマデュラとも実は親交がある。
それをさておいても、蛇王海賊団はこと戦闘力だけを見るならば世界最強とも言われており、「海軍本部、王下七武海、四皇からなる“三大勢力”」という均衡に単独で加わるほどにデタラメな強さを誇る。
つまり、今は“三大勢力”ではなく「海軍本部、王下七武海、四皇、蛇王海賊団からなる四大勢力」なのである。
特に、蛇王海賊団の船長であるマデュラは一度本気で暴れ出すと止められる者はこの世に存在しないとまで噂される程の強さなのだ。
そして、“海賊女帝”ボア・ハンコック。
王下七武海にまで成り上がった彼女は、その実、天竜人の奴隷だったという過去を持っている。
ここで、一年前にマデュラが起こした事件を思い出して欲しい。
そう。
この聖地マリージョアが未だに修復中である原因、マデュラによる天竜人大虐殺事件だ。
かつてのハンコックを奴隷としていた天竜人を磔にして殺していったマデュラは、ハンコックにとっての英雄であり、友人であり、憧れなのである。
そんな存在と戦えるわけがない。
というかそもそも戦いになんかなったら確実に死ぬ。
蛇王龍は敵対者に容赦しない。
子供でも知っているこの世の真理である。
まあそんな感じで、海軍大将に次ぐ重要な戦力である王下七武海の二人……特に世界最強の剣士でもあるミホークの協力を得られないというのはセンゴク元帥にとって大いなる誤算であった。
「フフ……フッフッフ!! さあどうするセンゴク元帥!! 頼みの“鷹の目”がまさかの離脱ときたぞ!」
「ええい、黙れドフラミンゴ!! 鷹の目、ハンコック!! どうしても参加しないつもりか!?」
「くどい。おれは自殺しにいく趣味など無い」
「わらわもじゃ。マデュラは敵対者に一切の容赦をしない。そんなもの常識であろう? それに、政府の庇護なんぞ無くなったところでそれこそマデュラに“アマゾン・リリー”を縄張りにしてもらえばよいだけの話。もはやわらわに王下七武海の地位は必要ない」
「ちい、貴様ら……!!」
センゴク元帥の胃が、限界を迎えそうである。
三大将を全員集め、英雄ガープやセンゴク元帥自身も戦闘に参加したとしても、恐らく蛇王海賊団には敵わないだろう。
というか戦闘が始まった瞬間、蛇王海賊団の総攻撃……あるいは蛇王龍の一撃で海軍本部が潰される可能性が非常に高い。
そう考えると、戦場を本部から離れたところにする必要があるのだが、それはそれで四皇に狙われると対応できなくなってしまう。
「ああ、胃が痛い……」
「フフ、フッフッフ!! わかるぞセンゴク元帥! おれも取引先を根こそぎ潰された時は今のあんたのようになった!」
「う、うるさい!! 貴様なんぞに共感されたくはないわ!!」
センゴク元帥、ドフラミンゴとまさかの共鳴。
それを見て、くまが一言。
「……混沌としている」
「……うむ。さて、わしはどうしたものか。勝ち目がないというのは同意せざるを得んが」
こっくりと静かに頷くジンベエ。
尚、何も蛇王海賊団が海軍本部に襲来すると確定したわけではない。無いのだが、確かに可能性は高い。ものすごく高い。
理由? そこに海軍がいるから、で充分である。マデュラはちょろちょろと鬱陶しく自身を追ってくる海軍や世界政府の事が大嫌いなので。
「では、おれは帰って寝る。後はそちらでどうにかしろ。蛇王海賊団とは戦うつもりはない」
「わらわも帰るとしよう。いや、せっかくだしマデュラに会いに行こうか? うむ、それがいいな!」
胃を抑えて呻くセンゴク元帥と、それを面白がるドフラミンゴ。更にそれを見守るくまとジンベエを放置し、ミホークとハンコックはマジで帰っていった。
おかしい。
いつの間にかドフラミンゴがギャグキャラに……!
……あれ、元からか?