キャラ崩壊注意 と 原作キャラ死亡 です。
スパンダ……。
世界政府御用達の造船会社、ガレーラカンパニー。
その社長にして、“水の都”ウォーターセブンの市長でもある英雄アイスバーグ。
彼の部屋に、かつてないほど切羽詰まった表情の「大工職職長」、カクが訪れた。
彼曰く……。
「アイスバーグさん、大変じゃ!! あの“蛇王海賊団”の艦隊がこのウォーターセブンに突っ込んで来おった!!」
「……はい?」
朝っぱらから意味不明すぎる言葉をもらい、思わずアホのように聞き返すアイスバーグ。
蛇王海賊団と言えば一年前、当時“世界最強の賞金稼ぎ”と謳われた女性、マデュラが突然結成した問題児軍団であり、その戦力はこの世界に存在する全ての勢力を上回るとすら噂されている程だ。
実際のところは分からないが、とにかく間違ってもこんな所に現れるべき海賊団ではない。
しかもカクの言葉が正しければ“突っ込んで”来たというではないか。
そんな事になれば当然……。
「あのアホゥどもめ、二十隻ほどの艦隊で揃って街の入口に押し寄せてきおって……おかげで大変な有様じゃ! アイスバーグさん!!」
「ンマー……マジか。なんて無茶をしやがる」
まあ、そうなる。
動揺しすぎるあまり一周して冷静になったアイスバーグは、改めてカクを宥めてから話を聞いてみた。
どうやら、つい先刻突然蛇王海賊団の海賊旗を掲げた艦隊が海に現れ、スピードを一切緩めることなく街に突撃してきたらしい。
そのせいで街の入口は全壊し、艦隊は無数の建造物を破壊し続けた事で勢いが弱まり、やがて停止したとか。
「そんな事をすりゃ船の方もタダじゃ済まねえだろう。乗ってる奴らはどうなった?」
「いや、それが……。不思議なことに、全ての船がピンピンしておってのう……。ほら、今も空の上をドラゴンが飛んでおる」
「………………は?」
とんでもなく無謀な侵入を果たした事から、蛇王海賊団の艦隊にも被害が出ているだろうと予想していたアイスバーグだったが、信じ難い事に一切の被害が無いとのこと。
そんなわけあるか、とカクが開けた窓から外を眺めてみると……。
「……ンマー」
「どうします、社長?」
「いや、どうしますってお前」
カクさん冷静すぎじゃね? と首を傾げるアイスバーグだったが、人間驚きすぎると逆に冷静になってしまうものである。
かくいうアイスバーグ自身がまさにそれだ。
とにかく。
確かに、ドラゴンの群れがウォーターセブンの上空を我が物顔で飛び回っている。
噂が正しいのならば、これら全てが蛇王海賊団のクルーのはずである。
アイスバーグは無性に不貞寝したくなった。
ンマー。なんてひでぇ悪夢だ、と呟きながら。
しかし残念、これは現実である。
「あ。そういえばすぐそこに蛇王龍が来とります」
「はよ言えッ!!」
呆然としていたアイスバーグだったが、カクが突然心臓に悪すぎるボケをかました事で我に返る。
なんと、10億を超える賞金首であるあの蛇王龍が自ら訪問してきているというではないか。
蛇王龍と言えば、この世で絶対に怒らせてはいけない人物だ、というのがこの世界の共通認識である。
何しろ、圧倒的なカリスマで化け物軍団を率いているかの魔王の機嫌を損ねてしまうと、街の一つや二つどころか島が、あるいは国が、かなりの高確率で丸ごと消滅するというのだ。
そんなこんなで慌てて身嗜みを整え、秘書のカリファも連れて、カクの案内で蛇王龍が待つ場所まで移動してみると──。
「いや、だからそんな無理難題はさすがにそう簡単には請け負えないんですって! もうすぐ社長が来ますから!! 勘弁してくださいよ!!」
「ほんの少し、ほんの少し待つだけでいいんです。クルッポー」
「えー。さっきからずっとそればっかりじゃん。ねえ、フィロア?」
「……ああ。これ以上マデュラを待たせるならこの島ごと氷漬けにして帰るぞ」
「そ、そんな!? あ!? あ、アイスバーグさん! お、お待たせしましたお客様! 彼が社長にして最高の船大工、アイスバーグです!」
「「ん?」」
(うわ、すっごい帰りたい)
(パウリーとルッチの奴、今にもマジ泣きしそうじゃのう……。ジャンケンで勝ててよかったわい……)
何故かそこら中が凍りついている1番ドックで、艤装・マスト職職長のパウリーと、木びき・木釘職職長のロブ・ルッチが二人がかりで、真っ白い美女と威圧感が半端じゃない白と赤の髪が特徴的な巨漢のコンビを宥めていた。
あの美女こそが、かの“蛇王龍”であり、彼女が背を預けている巨漢は蛇王海賊団の副船長である“熾凍龍”フィロアで間違いない。
“熾凍龍”フィロア、懸賞金12億ベリー。
今にも爆発しそうな爆弾を幻視し、正直ものすごく近付きたくないアイスバーグ。
しかし、ここで逃げたところで待っているのはウォーターセブンが島ごと滅びるというバッドエンドである。
いくらガレーラカンパニーが世界政府御用達と言っても、そもそも蛇王海賊団は肝心の世界政府を一切恐れていない事から、躊躇する可能性は皆無だし。
何より、どんな無茶苦茶な奴らであろうと客は客である。
お客様は神様、なんてふざけた事は言わないが、応対しないわけにはいかない。
それが船大工というものだ。
「ンマー、待たせたな。おれがこのガレーラカンパニーの社長にしてこの街の市長。アイスバーグだ」
「秘書のカリファです」
「ここで船大工をやっとる、カクっちゅうもんじゃ。以後お見知りおきを、じゃな」
まずはご挨拶。
丁寧に頭を下げ、相手の出方を窺う。
尚、世界政府が相手だろうとここまで丁寧に対応する事は無い。
相手が世界最悪の海賊だからこそである。
「待ちくたびれたよ。私は蛇王海賊団の船長をやってる、マデュラっていうんだ。よろしくね」
「副船長のフィロアだ。さっさと商談に入ろうか。もうマデュラのおやつの時間が近い」
((子供かっ!!))
強面のフィロアが放った言葉に内心でツッコミを入れるアイスバーグたち。
間違っても口に出してはいけない。
限界ギリギリの勝負なのである。
絶対に笑ってはいけない造船会社。
……笑うと島が滅びる。ひでえ話だ。
「そこのパウリー曰く、なかなかの無理難題らしいな」
「んー、そうかなあ? あのね、準備ができたら四皇に喧嘩売ろうと思ってるんだ。だから、私たちが変身して暴れても壊れないようなおっきい船作って。最低でもこの島ぐらいの広さはほしいな」
「ンマー! 予想以上に無茶な事言うな!!」
「なんだと? 最高の船大工が聞いて呆れる」
とにもかくにも商談に入った。
入ったはいいが、いくらなんでも注文がふざけすぎである。
要は島サイズの船を作れというのだ。
しかも、上空を飛んでいるドラゴンたちを見るに、相当なデカさがないとダメなやつだ。
いやいやいや、無茶おっしゃる。
というかあっさり言ったが四皇に喧嘩売るとかマジかお前、と頭を抱えるアイスバーグ。
世界が大混乱に陥る事間違いなしである。
今でさえ蛇王海賊団の艦隊がこんなところに集結している事から海軍を刺激しているだろうに、それがバカでかい船を得て四皇の縄張りに向かうなんて事になれば、下手をすれば海軍、四皇、そして蛇王海賊団による世界大戦が勃発してしまう。
「……上に浮いてるガレオン船はお前のか?」
「そだよ。あ、ちょっと無理しちゃったからついでに修理してもらおうかな」
「ンマー、その程度ならおやすい御用だ」
「そう? ならウチの船全部お願いね」
「全部!?」
「おやすい御用なんだろう? せめてその程度の事はやってみせろ、最高の船大工よ」
ああ、無理をしたという自覚はあるんだな、と妙な安心感を覚えるガレーラカンパニー。
しかし、艦隊全てを修理しろという依頼に仰天。
船がどいつもこいつもデカいので、正直会社のドックが足りるかどうか怪しい。
まあ、他の客の分をよければ何とか……。
既に頭が猛烈に痛い。
アイスバーグはやっぱり不貞寝したくなった。
しかもさっきから副船長のフィロアが怖い。
船長を待たせたのがそんなに気に食わなかったのだろうか。
「で、どうなの? 巨大船」
「……ンマー、おれの誇りにかけて、何とかしてやる。だからこれ以上街を破壊するのはやめてくれ。それが約束できないのなら船は作らん」
「なんだと貴様」
「…………」
散々ビビり倒してきたアイスバーグだが、彼にも船大工としての意地がある。
人としての矜恃がある。
今日に至るまで、街の人々に危害を加えるような輩は客として扱わず追い払ってきた。
たとえ相手が蛇王海賊団だろうと、それは譲れない。
ギラリと睨むフィロアを余所に、じっと見つめ合うアイスバーグとマデュラ。
さりげなく遠くに避難していたカクやパウリーたちが固唾を飲んで見守る中、美女の答えは……。
「わかった。最高の船大工っていうのは間違いないみたいだね」
「む、いいのか。マデュラ」
「うん。こっちがお願いする立場だしね」
「……そうか。お前がそう言うのならば従おう」
「ん。じゃあよろしくね、アイスバーグ“さん”」
「ンマー、任せておけ。くれぐれも頼むぞ。お前たちが暴れたらこの島なんてひとたまりもない」
「わかったってば。みんなー! この島で暴れたら地の果てまでぶっ飛ばすからねー!!」
ニッコリと笑い、マデュラはそう答えた。
英雄アイスバーグは、暴虐の化身たる蛇王龍に認められたのだ。
尚、上空を好き放題に飛び回っていたドラゴンたちは、マデュラが大声で呼びかけた瞬間、器用に空中でピタリと静止し、嘘のようにゆっくりと降下していった。
それを少し不思議に思ったパウリーがこっそりとフィロアに問う。
「……なぁ、あのドラゴンたちは何で止まったんだ?」
「命令を破れば本当に言葉通り地の果てまで殴り飛ばされるからだ。即死するか、辛うじて生き延びるも二度と帰ってこられなくなるかのどちらかだな」
「…………そ、そうか……」
平然とした顔で宣う副船長に戦慄し、そっと隠れるように逃げていくパウリー。
何はともあれ、とりあえず平和は守られた。
尚、建物の一つや二つ吹き飛ぶ程度は「暴れた」うちに入らないらしい。
こうしてアイスバーグさんは島サイズという馬鹿げた規模の巨大船を作るべく設計図を描き始めましたとさ。
尚、蛇王海賊団は普通に騒動を巻き起こし続けます。