久しぶりにチャリ乗ったら足がパンパンになってやばかったです。運動不足すぎた。
水の都ウォーターセブンに現れた蛇王海賊団。
この街が誇る造船会社、ガレーラカンパニーになかなか無茶な依頼をした彼女たちは、当初こそ街の人々に恐れられていたものの……。
「おっ! マデュラさん、今日もどうだい? 当店自慢の水水肉は! お安くしとくよ!」
「ん。ラヴィ、あれ買って」
「はいはい。まったくアンタは、人に任せっきりにしないでたまには自分で買いなさいよね。お使いとかできないんじゃないの?」
「う……そ、そんなことないよ?」
「どうだか。おばさま、水水肉をお二つくださる?」
「あいよー!」
──このように、ものすごく馴染んでいた。
ちなみに、今マデュラと共に“ヤガラブル”に乗って街を回っている少女は、蛇王海賊団の最高幹部“四龍王”の一人である。
“大巌竜”ラヴィ、懸賞金11億ベリー。
とんでもない額の懸賞金とは裏腹に可憐な容姿を誇る彼女は、なんと一年前まで天竜人であったという過去を持つ。
しかし、だえだのアマスだのと鳴いて暴虐の限りを尽くす家族の事は蛇蝎のごとく嫌っており、マデュラが起こした天竜人大虐殺事件の際も万歳三唱して喜んだ程であった。そして仲間に加わったのである。
マデュラにとってもラヴィは貴重な同年代の(マデュラの実年齢は不明なので恐らく、が付くが)友人であるため、海賊団の中でも特に仲良しだ。
加えて、能力によって変身する形態の巨大さも二人はほぼ互角であり、その意味でも気が合うのだろう。暇さえあればこうして街を回る事は日常茶飯事である。
「そういえば、アイスバーグ氏には納期を指定したりは?」
「してない。どれぐらい時間かかるかなんて私わかんないもん」
「威張るなアホ。まあ、島サイズの船なんてそうそうないものね」
「ん? 全く無いってわけじゃないの?」
「……アンタ、そんな事も知らずに注文したわけ? ほんっと世間知らずよね」
「元お嬢様のラヴィには言われたくない」
「アタシはきちんと下々民……じゃなかった。世界の人達について学んでいるもの。アンタとは違うわ」
「家族を嫌ってる割には、ちょいちょい天竜人らしい言葉が飛び出すよね、ラヴィって」
「し、仕方ないでしょ! まだ慣れないのよ!」
「骨の髄まで天竜人……哀れな」
「ぶん殴るぞお前ェ!!」
「なはは」
一旦ヤガラブルを止めて水水肉を二人仲良く食べた後、再び街を回りながらそんな事を話す。
ラヴィをからかいつつもしっかりと彼女の話を聞いているマデュラは、気になるワードについて改めて質問してみる事にした。
「で、島サイズの船って他にあるの?」
「……ある、らしいわ。昔お付きのCP0から聞いたんだけど、王下七武海に“ゲッコー・モリア”っていう海賊がいるのね。で、そいつの船が世界最大の海賊船って言われているらしくて。島ぐらいの大きさなんだそうよ」
「へー。それ奪えばいいんじゃない? そのゲッコーなんとかはどこにいるの?」
「知らないわよそんなこと。当時は王下七武海に興味なんて無かったもの」
「なんだ、使えないなぁ」
「うるさいわねっ!!」
王下七武海の一人、ゲッコー・モリア。
巨大船を求めている時に、都合よく“世界最大の海賊船”なんてものを所有している人物の情報を知る事ができたというのは、もうそういう運命なんじゃね? とワルイ顔で企むマデュラ。
幸い、目の前の友人兼仲間は元天竜人とあって様々な世界の情報を深く知っている。彼女のアドバイスを元にすれば、モリアの場所を探し当てるのは、そう難しい事ではない。
「そいつはどんな海賊なの?」
「モリアのこと? そうねえ……なんでも、昔は四皇のカイドウと争っていた程の男で、彼に敗北して仲間を失ってから王下七武海に加わったそうよ。恐らく、復讐の機会を窺っているんじゃないかしらね」
「ふーん、そうなんだ。となると、カイドウに目をつけられない場所で戦力を増やしているのかな」
「有り得るわね。案外この近くにいるんじゃないかしら。新世界にいたら四皇にはすぐ嗅ぎつけられるでしょうし」
「だよね。よっし、影を走らせようか」
「ああ、またあの過労死部隊を使うのね……」
「し、仕方ないじゃん。便利なんだもん」
「まあそうだけど。あんまりこき使って愛想を尽かされないように気をつけなさいよ。海賊なんだから、裏切りなんて十二分に有り得るわ」
「うー、わかってるよ……」
ラヴィからのお小言に縮こまりつつ、指笛で“影”を呼ぶ。
すると、どこからともなく黒装束に身を包んだ人間が目の前に現れた。
「お呼びで、マデュラ様」
「ん。王下七武海の一人、ゲッコー……ゲッコー……なんだっけ?」
「モリアよ。ゲッコー・モリア」
「そうそれ。そのモリヤとかいう海賊がどこにいるか探してきて」
「承知」
「モリアだっつってんだろこの鳥頭」
地味に名前を間違えているにも関わらず、黒装束の人物……諜報部隊隊長、ナルガは頷いてまたどこかへと去っていった。
“迅竜”ナルガ、懸賞金9000万ベリー。
あまり人目につかないため懸賞金は低めである。
「……ナルガの奴も大変ね。こんなおバカの無茶な我儘に振り回されて」
「もー!! さっきからネチネチネチネチうるさいなぁ!! ぶっ飛ばすぞお前!」
「正論しか言っていないと思うのだけど? 今回だって大変だったんだから。わざわざ新世界からこんなところまで来るハメになったアタシたちの身にもなってみなさいよ」
「う……ごめんなさい」
「“冥王”やシャッキーにも叱られていたでしょ。たまには船長らしくどっしりと奥で構えていなさいよね。フットワークが軽すぎるのよアンタは」
「うぅ……誰か助けてェ……」
「な、泣き真似したってダメなんだからね!」
じわり、と目の端に涙を浮かべるマデュラ。
それを見て、内心であわあわと大慌てなラヴィ。
まるで妹を叱る姉のように説教をしていた彼女だが、何もマデュラをいじめたくてネチっているわけではない。
むしろ、船長としてもっと立派になって欲しくて、心を鬼にして言っているのだ。
そして……。
「わ、悪かったわよ。言いすぎたわ」
「……ニヤリ」
「今笑ったな!? 笑ったよなお前!!」
「えーん、ラヴィがいじめるぅ! フィロアー!!」
「ちょ!? 副船長を呼ぶのはシャレにならな──」
「呼んだ、か……!? どうしたマデュラ!!」
「げげっ! アンタどっから!?」
「またお前か!! ラヴィ!」
計画通り、とばかりに悪い笑みを浮かべるマデュラに気付き、騙したなお前!? と憤慨するラヴィだったが、さいごのきりふだ「副船長召喚」を切ったマデュラの前に屈し、どこからともなく現れた副船長のフィロアに延々と説教されるハメに。
凍りつくウォーターセブン。
無事に生き残っていたマデュラが乗るヤガラブルを脱出し、ガチで逃走するラヴィ。
鬼の形相でそれを追うフィロア。
「待てェ!! 今日という今日は逃がさんぞ!!」
「話を聞きなさいよこのマデュラオタク!! アンタがそんなんだからあの子がダメなままなのよ!!」
「なんだと貴様ー!!」
「ヤガラちゃん、これ食べる?」
「ニー!」
ラヴィが残していった食べかけの水水肉を、さらっとヤガラブルに与えるマデュラ。
もちろん自分は笑顔で水水肉を食べる。
退屈しのぎに嘘泣きしただけであり、実際は別に怒っても悲しんでもいない。
ラヴィの言う通り、船長として締めるところは締めるつもりだが、今のところそんな機会は無いのだ。
そして、ニコニコと笑うマデュラの視線の先で……。
「あ、炎が落ちてきた。さすがにやりすぎ」
とうとうフィロアが龍に変身したらしく、凍りついたウォーターセブンに炎が隕石のごとく落ちてきた。
あまりやりすぎるとアイスバーグに船を作って貰えなくなるため、止めに行くことに。
というか、ラヴィがキレて変身したら、普通に街が潰れてしまう。
ヤガラブルをひとまず止めておき、ガチで激突しているフィロアとラヴィの間に割って入る。
「おーい、フィロアー。もういいよー」
「……なんだ、いいのか」
「はー……はー……マデュラ!! アンタ、いくら暇だからって嘘泣きして副船長をアタシにぶつけるな! 街が消滅したら船作って貰えなくなるじゃない!! それじゃアタシも困るのよ! 今の船だと窮屈だし!」
「う、嘘泣きだと……?」
「……てへっ」
ガーンと背後に雷が走ったかのごとくショックを受けるフィロア。
よろよろとよためき、彼はまずラヴィに詫びる。
そしてマデュラは……。
呆れたフィロアと、ぷんぷんモードなラヴィの二人がかりで説教される事となった。
「そのうち、皆で決闘大会とか開くのも面白そうだなぁ。最強決定戦、みたいな?」
「ちょっと副船長! こいつ反省してないわよ!」
「ああ……。ちょっと来い、マデュラ。クック先生に事情を話して説教をしてもらおう」
「うえっ!? せ、先生からの説教はやだぁ!!」
じたばたと暴れるマデュラは、抵抗も虚しく本船へと連行され、話を聞いて呆れ返ったクックに一日中説教されるハメに。
「……ニー?」
「マデュラなら帰ってこないわ。ヤガラちゃん、迷惑かけてごめんなさいね。アイスバーグ氏にも謝りに行かなくちゃ」
ラヴィもラヴィで、「ンマー。街がえらい騒ぎになったんだが、どうしてくれるんだ?」と静かに怒るアイスバーグにひたすら謝り倒す事に。とばっちりもいいところである。
そして、後日。
諜報部隊がモリアの情報を引っさげて帰還した。
これで最高幹部の中で出てないのはゾラだけに。
たぶん次話で出るかな?