そろそろ終わらせないと。
今回かなりギャグ風味です。
エニエス・ロビーにて発動されたバスターコール。
これに対応するため、十隻の軍艦と選りすぐりの海兵たちを率いて五人の中将が本部を発った。
が、彼らは今。
凄まじい混乱の最中にあった。
「本部、応答願う!! 相手があの蛇王龍というのは間違いないのか!?」
『……間違いない。シャボンディ諸島で放映されている映像電伝虫を見た者からの報告では、正義の門も蛇王龍によって破壊されたらしい』
「んなァ!? そ、そんな馬鹿な!!」
「ちゅ、中将殿!! 正義の門があるはずの場所に大量の瓦礫が散乱しています!!」
「……て、撤退だ!! 本部、撤退の許可を!!」
『それは……あっ、赤犬さん!?』
「えっ」
ご覧の有様である。
バスターコールが発令されたからには、心を鬼にして攻撃目標を砲撃しまくり、全てを灰と化すのが本部中将であるモモンガの役目。
しかし、相手が蛇王龍となると話は別だ。
アレに砲撃なんぞ効きやしないし、むしろ彼女の怒りを買う恐れがある。
そうなれば間違いなく生きては帰れない。
正直に言うと……命がも゛ったいだい!!
十隻の軍艦に乗っている海兵一人一人に彼らの帰りを待つ家族がおり、海兵たちはそんな家族を養うために日々の任務に励んでいるのだ。
蛇王龍が相手では確実に死んでしまう上、たった十隻の軍艦ごときでは焼け石に水でしかない。
無駄死にという言葉がこれ以上似合う状況は、そうそう無いだろう。
そんなモモンガに迫る、電伝虫越しの大将“赤犬”。
もう嫌な予感しかしない。
『おどれェ……海賊相手に尻尾巻いて逃げるっちゅうんか!! あァ!? それでも中将か貴様ァ!!』
「し、しかしサカズキ大将!! たった十隻の軍艦と、私を含めても僅か五人の中将では、とても……!」
『おいおい待ちなさいよバカズキ。中将の言う通りだ。今更エニエス・ロビーに行ったって何ができる?』
『横から割り込んでくるな、クザン!! だぁれがバカズキじゃァ!!』
「クザン大将まで!?」
案の定、大将“赤犬”ことサカズキに怒鳴られてしまったモモンガだが、割り込んできた大将“青キジ”ことクザンのおかげで何とか無茶振りを回避できた……かもしれない。
しかし、元はと言えばクザンがスパンダムにゴールデン電伝虫を貸し与えてしまったのが元凶である。
『大体、偉そうに言うちょるが……貴様が役人なんぞに権限を与えた結果がこの有様じゃろうが!!』
『いやー、それに関してはホント悪い事したわ。でも、まさか蛇王龍が来るなんて思わないでしょ』
『開き直るなァ!!』
『お~~……こんなところで喧嘩をしても仕方がないでしょうに。まあ、わっしはクザンの言う通りだとは思うがねェ。相手が悪すぎるよォ~』
『ぬ……ボルサリーノ、貴様まで!!』
「あの……申し上げにくいのですが、三大将勢揃いで口喧嘩しないで頂けませんか……」
『『『…………』』』
向こうも混乱しているのだろうか。
サカズキとクザンだけでなく、遂に三大将最後の一人である“黄猿”ことボルサリーノまで話に加わってきた。
彼らが集まって電伝虫を取り合っている様を想像すると、なんだか少し笑える。
「ところで、センゴク元帥は……? やはり、最終的な判断は元帥に──」
『あー……センゴクさんな、心労で倒れたんだわ』
「え!?」
『……蛇が、蛇が来る……とうなされちょる』
「えェー……それでは、私たちはどうすれば……」
『そうだねェ~。とりあえず、現場で判断するしかないでしょう。時に中将。正義の門が破壊されたと聞いているけどォ~、通れるのかい~?』
「あ……それが……」
なんだかんだ言ってやはり三大将は頼りになる。
というか、こういう時はボルサリーノの冷静な判断がとても助かる。
ちょっと何を考えているのか分からないのが難点だが、彼は私情を持ち込まないのでどんな時でも大体正しい判断を下してくれるのだ。
言われた通り、正義の門の残骸を見るモモンガ。
先程部下も報告してきたが、大量の瓦礫で道が塞がってしまっており、巨大な軍艦が通れる程のスペースは無い。
……思わずガッツポーズ。
「瓦礫が邪魔で、通れません!」
『……貴様、心なしか元気になっちょらんか?』
「い、いえ!! まさか!!」
『まー、そういう事なら引き返す他ないでしょ。大丈夫、政府にはうまーく報告しておく』
「は……ハッ!!」
やったぜ。
蛇王龍との戦闘を回避できる事になり、笑顔をこぼすモモンガ。
しかし、頼りになるはずのボルサリーノが、いらん事を言い出す。
『蛇王龍が怒りそうだねェ~。あの子の事だ、軍艦と戦えると思って、今頃ワクワクして待ってるんじゃないのかい~?』
「……へ」
『そいつは……有り得るな』
『しかもエニエス・ロビーはこっち……海軍本部にかなり近い。怒った勢いで攻めてくる、なんて事は──』
「え、え?」
『……ありそうじゃのォ』
サー……と、顔を青くするモモンガ。
鮮明に想像できてしまったからだ。
何を隠そう、“蛇王龍”マデュラは元賞金稼ぎ。
何度も換金をしに本部を訪れていた彼女とは、三大将もモモンガも、他の中将たちも、全員面識がある。
蛇王龍の暴走列車っぷりは、彼らもよく知っている。
あの勢いで本部に攻めてこられたら……。
『……中将。健闘を祈るッ!!』
「えーッ!?」
『悪いけどねぇ~。そういう事だよォ~』
「そ、そんな!? 待ってください黄猿さん!」
『安心せい。骨は拾ってやる』
「見捨てる気満々じゃないですか赤犬さん!!」
全力で抗議するモモンガ。
しかし、三大将はバスターコールに参加してしまった不運な中将全員を見捨てる気満々である。
無論、モモンガ自身も例外ではない。
「大体、軍艦が通れな──」
『ガチャ。ツー……ツー……』
「切られたッ!?」
悲しいけれど、そういう事になった。
もうこうなったら、絶対に生き延びて大将たち全員ぶん殴ってやる!!
モモンガは誓った。
……ヤケになったとも言う。
その後、彼らはせこせこと正義の門だった瓦礫を撤去し、充分なスペースを確保してから航行を再開。
殺される前に避難するため、予め救命ボートをしこたま用意してから、エニエス・ロビーへ向けて砲撃を開始した。
──が。
オオォオオォッ!!
「えーッ!?」
軍艦からでも普通に見えてしまっている蛇王龍の巨体が何やら仰け反ったかと思えば、すぐさま放たれた爆音の咆哮によって、撃った砲弾が全て落とされた。
まさかの声だけで砲撃無力化。
──化け物すぎる。
五人の中将たちを含めた、全ての海兵たちの心が一つになった瞬間である。
そして……。
「あっ、しぬ。た、たたた……退避ーーッ!!」
蛇王龍の巨大な尻尾でなぎ払われ、木の葉のようにすっぱり斬れる軍艦。
どうやらあのバカでかい胴体……胴体? で、六式の“嵐脚”を放ったらしい。
(どこまでが胴体でどこからが尻尾だ……)
哀れ、軍艦は玩具のように爆発四散。
小人のように吹き飛ばされ、ザブーンと頭から海にダイブするモモンガは、そんな果てしなくどうでもいい事を考えながら、沈んでいく……。
息を必死に止めながら、彼は見た。
蛇王龍っぽいシルエットが縮んでいき、人型になってどこかへ歩き去っていく姿を。水が目に入って痛い。
「ぶはぁ!? やばい死ぬ!!」
「ちゅ、中将殿!? ご無事で!」
「ああ!! 総員、急いで逃げろ!! 泳いでとにかく遠くへッ!! エニエス・ロビーが、吹き飛ぶぞ!! 能力者には手を貸してやれ!」
燃え盛るエニエス・ロビーの向こうで、無数の何かがキラリと光る。
蛇王海賊団と言えば、龍の軍団。
即ち、あの光は奴らのブレス攻撃の前兆に違いない。
モモンガたち海兵は、必死の思いで泳いで逃げる。
こんなところで無駄死になんてしてたまるか、と。
「「ぬおおおおおッ!!」」
カッ、と光る背後。
振り向きません、死ぬまでは。
「「ぬわーーーー!!」」
蛇王海賊団の一斉ブレスにより、島ごと吹き飛ぶエニエス・ロビー。
人型に戻っていると思われる蛇王龍と、蛇王龍に匹敵する巨体を誇る大巌竜、そして熔山龍が変身していない事だけは幸いだった……。
だって変身してたら遠くからでも見えるし。
こうして、世界政府が誇る三大機関の一つ。
エニエス・ロビーは、蛇王海賊団によって、島ごと消滅するという結末を迎えたのである──。
尚、スパンダムのペットである“象剣ファンクフリード”は、珍獣好きなマデュラに玩具兼非常食として気に入られ、蛇王海賊団の旗艦たる巨大ガレオン船で震えている。
果たして、彼は幸か不幸か……。
まあ、蛇王海賊団にも剣士は居るので、マデュラがその人物にファンクフリードを贈与する可能性はある。
普通にオヤツ代わりに食われる可能性もあるが。
そんなに書くことが無いので、エニエス・ロビーの最後はかなりあっさりになりました。
次話からウォーターセブンに戻り、麦わらとか麦わらとか麦わらとかと一悶着起こしつつウォーターセブン編も終わる予定です。