結構感想への返信が大変になってきた。
偉大なる航路にある白土の島、バルティゴ。
世界政府と直接敵対する「革命軍」がこの島を本拠地としており、蛇王海賊団が引き起こした大事件がきっかけで、慌ただしく動き回っていた。
「ドラゴンさん、聞きましたか!? あのエニエス・ロビーが消滅したって話!!」
「……サボか。ああ、もちろん聞いている。蛇王海賊団……相変わらずとんでもない事をしでかすものだ」
風に当たっていた革命軍総司令官ドラゴンの元に、組織のNo.2である記憶喪失の青年、サボが現れた。
若くしてその地位にあるサボは、世界政府が突然受けた大ダメージの影響で混乱する各地の仲間たちから、それはもう凄まじい数の報告を受けており、眠る暇もないほど忙しいらしい。
なのに肝心の総司令官がこんなにのんびりしていては、少しイラッと来るのも無理はない。
「呑気にしてないで、指示を出してくださいよ! 蛇王海賊団がこれで止まるとは思えないし、絶対近いうちにまた何かやらかしますよ!? おれたちが世界をひっくり返す前に、世界政府が無くなってしまう!」
「落ち着け。確かに、お前の言う通り蛇王龍はまだまだ暴れるだろう。恐らく、インペルダウンと海軍本部も消し飛ばしに行くはずだ」
「だったら!」
「……だが、今は時期が悪い。分かっているだろう? 世界を動かすには、“
「……二年後の……それは、そうですけど……。でも、このままじゃその前に世界政府が……」
「心配はいらんさ。“奴”が世界を破壊する前に、おれが直接話をつけてくる」
「え!?」
革命軍の目的は、世界政府を……いや、世界政府を支配する“天竜人”を倒し、この世界に“革命”を起こす事。しかし、それを起こす前に肝心の世界政府が蛇王龍に倒されてしまっては、革命軍はただの犯罪者集団で終わってしまう。
よって、サボが慌てるのも無理はないのだが、ドラゴン曰くなんと総司令官たる彼自身が直接交渉しに行くというではないか。
これには色んな意味でびっくりである。
「ダメですよ!! 危険すぎます! 蛇王龍の強さは、はっきり言って次元が違う!! いくらドラゴンさんでも、死にに行くようなものだ! 革命軍の参謀総長として、そんなの認められない!!」
「……ふう。気持ちは痛いほど分かるがな。落ち着けと言っただろう? それぐらいおれも分かっているさ。奴は、この世界そのものを敵に回しても笑って全てを蹂躙できるだけの力を持っている。おれが、無策でそんな怪物と交渉しに行くような馬鹿に見えるか?」
「それじゃあ……?」
ドラゴンから紅茶を差し出され、言われた通り気持ちを落ち着かせるためにグイッと飲むサボ。
それを見て獰猛に笑い、“覇気”を滾らせるドラゴン。
「──おれは、蛇王龍が絶対に興味を示すとっておきの切り札を持っている。それを出せば、奴は必ず食いつくだろう。そう、必ずな……」
「そ、それはいったい……?」
「ククッ、秘密だ。今は獄中にいるイワや、“向こう”にいるくまにさえも話した事がない程のモノだからな」
「ええ!? 尚更気になりますよ!」
「上手くいけば、蛇王龍をこちら側に引き入れる事すらできるかもしれん。そこはおれ次第と言ったところだが。はあ、責任重大だな……」
「う、嘘でしょう!? 蛇王龍が我々の仲間に!? それが実現したら……もうおれたちの勝ちじゃないですか!?」
「だろうな。奴はそれぐらい強い」
「…………時期が来たら教えてくれますか?」
「ああ。時期が来たらな」
「……分かりました。だったらこの事はおれの胸の内に秘めておきます」
「すまん。ありがとう」
「いえ」
ドラゴンが言い放ったとんでもない言葉に飛び上がるサボ。
なんと、あの蛇王龍を革命軍の仲間に引き入れる可能性が出てくる程の“切り札”とやらを持っているとのことだ。
いつの間にそんなものを……? と訝しむが、ドラゴンという男はこの状況で嘘を言うような人物ではない。
本当に、蛇王龍が仲間になったら……!! と、ワクワクするサボ。
しかし、ドラゴンがそんな彼に水を差す。
「ニヤついているところを悪いが、本当に上手くいけばの話だぞ? 可能性としては限りなく低い。お前も知っての通り、蛇王龍は誰かの下に付くような女じゃあないからな」
「ちょ、期待させるだけさせておいて!」
強気なのか、弱気なのか。
無駄に人を振り回すのはやめて欲しい。
まるで〇〇ィの──。
「あ、あれ……? 今、何か……」
「ん? どうした?」
「いえ。今、とても大切な事を──!」
その瞬間。
サボの頭を、かけがえのない“きょうだい”と過ごしたかつての日々が過ぎる。
(──これで、おれたちは今日から“兄弟”だ!!)
東の海。
故郷。
貴族。
クソ親父。
天竜人。
ダダン。
ガープ。
マキノ。
そして……。
「…………エース……ルフィ……!」
「……何? 思い出したのか!? おい、サボ!!」
「そうだ、おれたちは……きょう……だ……」
しかし、サボは糸が切れたかのように倒れてしまう。
突然失った記憶を取り戻したために、熱を出したのだ。
慌てて、部下を呼ぶドラゴン。
そして倒れたサボを抱き上げ、ベッドまで運んでいく。
「ド、ドラゴンさん! サボ君にいったい何が!?」
「コアラか。きっかけはよくわからんが、記憶を取り戻したらしい。とにかく、今はゆっくり休ませてやれ」
「記憶が!?」
突然運び込まれたサボを心配し、大勢の革命軍メンバーたちが集まってくる。
その中でも、サボと親交の深い女性、コアラが大慌てでドラゴンに聞いてきた。
そして、「サボが記憶を取り戻した」と知ると、その場の全員がざわついていく。
「……悪いが、おれはすぐにここを出なければならない。コアラ、ハック。サボをよろしく頼む」
「え!? どこに行くんですか!?」
「蛇王龍と話をつけにいく。このままでは我々が世界を変える前に、肝心の世界政府が滅びてしまうからな」
「な……!? 危険です、総司令!! 我々も──」
「ダメだ。下手に大勢で行くと蛇王龍を刺激してしまう。そう心配せずとも、殺されるつもりはない。安心しろ。詳しくは話せんが、とっておきも用意してある」
「し、しかし……そうだ! サボが起きてから、彼と一緒に行けば──」
「いや。サボにはやってもらいたい事が山ほどある。それでなくても、すぐに出発しないと間に合わない可能性があるからな」
革命軍のトップであり、決して替えがきかない存在であるドラゴンが、“世界最悪の海賊”と恐れられる蛇王龍の元へと単騎で出向く。
そう聞かされ、はいそうですか、となるわけがない。当然、反対の嵐である。
彼らから見た蛇王龍マデュラは、一言で表すと“世界を破壊しかねない怪物”である。
世界政府を目の敵にしているという点では革命軍に通じるものがあるのだが、とにかく彼女は破壊の規模が大きすぎる。
度々“世界政府を倒した後、蛇王龍をどうするか”と議論されている程に注目しており、結局いつも「世界政府を倒して満足してくれる事を祈る」という果てしなくネガティブな結論に至ってしまう程、アレは人間にはどうしようもない存在なのだ。
「だいたい、蛇王龍がどこに居るのかわかっているんですか!? それが分からない事にはどうしようも──」
「分かっている。つい先程、くまから情報を受け取ったからな」
「え!? ……しかし、やはり危険すぎます!」
「……理解してくれ。今回ばかりは絶対におれが行かねばならないんだ。お前たちも分かっているだろう? 遅かれ早かれ、蛇王龍に対して何らかの対策を講じる必要があると」
「ぐぅ、それは……! 何も、あなたが行く必要は!」
「重要な話をするというのに、部下を派遣されて納得すると思うか? 少なくとも、おれが蛇王龍なら納得などしない」
「ぐぐぅ……!」
うめく部下たち。
悠然と諭すドラゴン。
残念ながら、分はドラゴンにあった。
そもそも、ドラゴンは事実しか言っていないのだ。
このまま蛇王龍を放置して無事に世界政府を倒せたとして、新たな統治機構を樹立する前に蛇王龍に潰されない保証など無い。
今のうちに彼女と盟約を結ぶなりなんなりしておかないと、革命軍は動きようが無いのである。
そして遂にメンバーたちが折れ、「絶対に生還する事」を条件に、ドラゴンがその身一つで蛇王龍との交渉に出向く事が許された。
英雄ガープの息子にして、海賊麦わらのルフィの父親、モンキー・D・ドラゴン。
王下七武海の一人、ゲッコー・モリアが支配する“世界最大の海賊船”スリラーバークへの参戦、決定──。
尚、息子がその蛇王龍に酷い目に遭わされたという事を、ドラゴンは知らない……。
というわけで。
サボが早々に記憶を取り戻し、ドラゴンがマデュラと交渉しに行く流れとなりました。
果たして、「世界最悪の犯罪者」ことドラゴンが持つ切り札とは……。