いや、だって「海上①」とか微妙な気がして……。
あ、感想にはきちんと目を通してますよ。
いつもありがとうございます。
蛇王海賊団がウォーターセブンを出航する直前に起きた、麦わらの一味との戦いで得た“戦利品”として半ば無理やり蛇王海賊団に加入した剣士、ロロノア・ゾロ。
経緯が経緯なだけに、クルーとの雰囲気は険悪かと思いきや、そんな事も無く。
強いて言うなら、フランキー一家が蛇王海賊団の下部組織だ、というのがただの勘違いだったと知ったゾロが激しく取り乱した不幸な事故があったぐらいである。
「……嘘だろ。おれが負けたあの“斬竜”が、一味の中じゃ弱い方だってのか?」
「そだよー。えーとね、まず私の海賊団について説明するとね、船長……つまり私が頂点にいるでしょ」
「こう見えてぶっちぎりの最強よ、コイツ。なんとか戦いと呼べるものになるのは、層が厚いウチでもアタシと副船長……あとクック先生ぐらい。同じ最高幹部でも、ガロアとゾラじゃマデュラには歯が立たないわ」
「こ、この脳天気な奴がか……」
「む、酷いなー。ぶっ飛ばすぞお前」
「やめい。新人をいびるなバカ」
マデュラが認めたのなら、とクルーたちは非常に好意的にゾロと接しており、モンスターズあたりが苦言を呈しそうな言葉遣いに関しても、「あくまで捕虜であって正式なクルーではないから問題ない」との事だ。
まあ、万が一マデュラを怒らせたら当然死ぬが。
それは誰もが同じなので。
今も、マデュラ自らゾロに対して蛇王海賊団に関する説明をしてあげているぐらいだ。
尚、ラヴィは団内でも数少ないツッコミ役としてこの場にいる。
ついでに、場所が旗艦の甲板なので、周りに無数のクルーたちも普通にいたりする。そっちはそっちで賑やかに楽しんでいるようだが。
「で、私の下にラヴィやフィロアたち……最高幹部である“四龍王”がいるの。たぶんこの子たちだけでも四皇に勝てると思うよ」
「……その四皇ってのはなんだ?」
「あー……そうか、アンタもバカなのね……」
「んだとコラァ!?」
「そう言われても仕方がない一般常識だってーの。四皇は、偉大なる航路の後半……俗に“新世界”と呼ばれる海を支配する四人の大海賊たち。アンタの元船長が友達だっていう“赤髪のシャンクス”もその一人よ」
「へェ、そんなのがいるのか。じゃあよ。蛇王龍、お前もその四皇って奴なのか?」
「んーん。私は四皇とは別枠。四皇相手じゃ支配してるナワバリの広さで負けてるしねー。でも、戦えば負けないと思うけど。あ、シャンクスとは私も友達なんだ!」
「ふーん……そういうモンなのか。つまり、お前らと戦えるような奴が、最低でも四人は居ると。当たり前だが、世界は広いな……」
本来の仲間であるルフィたちを差し置いて“新世界”の情報を得るゾロ。
世界の広さを知り、彼は何を思うのだろうか。
「でね、その四龍王の下に更に色々な部隊があって、お前や麦わらたちをけちょんけちょんにしたバルドたちも所属しているのが、ウチの精鋭部隊である“モンスターズ”っていうの。そこの一番上がガロアね」
「ルフィを無傷で倒したアイツか」
「ええ、そうね。でも、あのバカは四龍王でもダントツで最弱だから。そこんところ勘違いしないでよね!」
「……アイツが、最弱……」
ゾロが認めた男である海賊、麦わらのルフィを歯牙にもかけない強さを見せたガロアが四龍王最弱と聞かされ、戦慄。
そして、ふとラヴィに視線を送る。
視線を受けた彼女は、とても大きくご立派な胸を、甲板の上に用意されたテーブルに乗せながら首を傾げた。
サンジあたりが見たらこれだけで鼻血を吹きそうである。
「何よ? アタシの顔に何かついてる?」
「……いや。お前、そんなに強そうに見えねェからよ。まあ、蛇王龍も同じなんだが」
「ああ。よく言われるわ」
「んふふ、ラヴィはかぁいいからねー。でも、ホントに強いんだよ。ゾロなんて指一本でぶっ殺されるよ」
「さすがにそれは堪えるな」
「や、やめなさいよマデュラ。照れるじゃない」
そう言いつつ満更でもなさそうなラヴィ。
ゾロもなんとなく分かってきたが、マデュラは基本的に嘘をつかない。
故に、彼女が「指一本で充分」と言うからには本当にそうなのだろう。
世界最強の剣士は、未だ遥か遠い。
ここで、ゾロの頭にふと疑問が湧いた。
「ラヴィって言ったな。お前と鷹の目じゃどっちの方が強いんだ?」
「ラヴィに決まってるだろ。バカかお前」
「アタシよ」
「……そ、そうか」
二人とも即答であった。
特に、マデュラはそれまで浮かべていた笑顔をふっと消し、完全に真顔になっていて怖い。
ゾロは聞いた事を後悔した。
「ラヴィもフィロアも、私の大切な親友だから。あんまり疑うようなら、ぶっ殺すぞお前」
「わ、悪かった。おれが悪かったよ!」
「……マデュラ、そんなに怒ることないでしょ。コイツや麦わら小僧の無知ぶりはよーく理解できてる事じゃない。でなきゃアタシたちに喧嘩なんて売ってこないわよ」
「……ふん。ラヴィがいいんなら別にいいけどさ」
どうやらマデュラの地雷だったらしい。
名前を挙げた二人は、彼女にとって特別な存在なのだろう。
気付けば、つい先程まで周囲でワイワイと盛り上がっていたはずのクルーたちまで、「マジかお前」と言わんばかりの目でゾロを見ている。
ついでに。
マデュラが「ぶっ殺すぞ」と言い放った場合、実は殺される一歩手前までキている。
そこからほんの少しでも前進すれば、最終的に首が胴体とお別れする事になるので、気をつけるべきだ。
ゾロ、学んだ。
「もう、私寝る。ゾロ、とにかくお前、今のままだったら弱すぎてウチじゃ役に立たないから、戦った縁でバルドにでも色々教わってこい。これ船長命令ね」
「……ああ、分かった」
「バルドならあっちの船に居るはずよ、ゾロ。せっかくだしアタシもついていってあげる」
「頼む」
すっかり気分が萎えた、とでも言わんばかりに去っていくマデュラ。本当に寝るらしい。
次の目的地であるスリラーバークが漂っているという“魔の三角地帯”まではそう時間もかからないのだが、ああなってしまっては、たとえラヴィであっても簡単には止められないし、放置しておく方が賢明である。
そんな感じで、ゾロはなんだかちょっと呆れ顔のラヴィに連れられてバルドを探しに移動していく。
「しかしすげェ数の船だな……全部デケェし……。こっちはあっちの旗艦とどう違うんだ?」
「ん、そうね……一言でいうなら、ここは鍛錬場といったところかしら。部屋が少なめでしょう?」
「言われてみれば……確かにそうだな」
「バルドやアタシ、それにマデュラもそうだけど。ウチは動物系の能力者が多いから、普通の船じゃトレーニングで色んな部屋を壊しちゃうのよ。だからこの船は障害物を少なくしてあるの」
「なるほどね……おっかねェ話だ」
「ふふっ、そう? 直に慣れるわよ」
ラヴィ曰く“鍛錬場”だというガレオン船を歩く事しばらく。
上半身裸というハレンチな姿で、気合の入った掛け声と共に“黒い刀”を振るバルドを発見した。
「アレは……黒刀か? おれとやった時は使ってなかったはずだが……」
「……ああ、そっか。アンタ、“覇気”を知らないのね」
「ハキ? なんだそりゃあ」
「後で教えるわ。おーい、バルドー!」
ここまでレベルが違うと無理もないと知りつつ、真剣勝負のはずが手を抜かれていたのかと内心で憤るゾロ。
それを一旦捨ておき、悪いと思いつつもバルドを呼び寄せるラヴィ。船長命令なので仕方がない。
すると、バルドは裂帛の気合と共に振っていた黒刀を鞘に戻し、すぐにやってきた。
そして、ゾロを一瞬見遣りつつ、正座。
「ラヴィ様、何か御用でも?」
「えっと、アタシじゃなくてコイツがね」
「左様か。ならばそう改まる必要も無い」
「…………よォ、そいつがお前の本来の得物かよ?」
「む? 何を言っている。コレの切れ味をもう忘れたのか?」
「あァ? お前こそ何言ってやがる。そんな黒刀、おれは知らねェぞ」
用があるのがラヴィではなくゾロだと知るや否や、即座に立ち上がり腕を組むバルド。
いっそ清々しい程に切り替えが早い。
「まぁまぁ待ちなさいアンタたち。マデュラじゃあるまいし、なんで一触即発になってんのよ。ゾロ、コイツは本当にこの刀だけしか持っていないわ。他にも何本かあったんだけど、勧誘した時にマデュラが全部食べちゃったから」
「…………は??」
徐々に険悪になっていく雰囲気を見かねて、ラヴィが割って入る。
それはいい。
それよりも、彼女がサラッと放った言葉に、ゾロは思わず停止した。
「……大業物21工が一振り、名を“燼滅”。おれが持っていた刀の中で唯一、マデュラ様に褒めていただいた逸品だ。貴様も剣士ならば分かるだろうが、コレこそ我が魂よ」
「いや、それは分かる。大業物だってのもなんとなく察した。だがそれより何より……蛇王龍が刀を食ったってどういう事だよッ!?」
「……あー。そうか、それが普通の反応だったわね……慣れすぎて忘れてたわ……」
「いや忘れるなよ!?」
「まあ……おれも当時は驚いたからな。無理もない」
バルドが誇る大業物、“燼滅”。
かなり身長が高いバルドを更に上回る程に長く、“斬竜”へと変身した時もこれを口に咥え、鋭利な尻尾との二刀流で戦うのが彼の戦闘スタイルだ。
我が魂というだけはある。
まあ、それはさておき。
蛇王龍が刀を食べた、という衝撃の言葉に突っ込まずにはいられないゾロ。
さすがにそれは人間を辞めすぎだろう、と。
「言葉そのままよ。マデュラの奴、おやつ代わりとか言って刀をぱくぱく食べちゃったの」
「バケモンかアイツは!?」
「今更だな。マデュラ様は人を超越した存在だぞ」
「もっと疑問を持てよてめェ!! 普通に考えて口が切れるだろ!? で! 仮に飲み込んだとしても胃に刺さるだろ!」
「消化しちゃったんだから仕方ないでしょ。あの子はもう人間じゃなくて、マデュラっていう新種の生物なのよ。アンタもさっさと開き直りなさい。ビックリしすぎて体がもたなくなるわ」
「んなアホな……」
この後、ゾロはバルドとラヴィから三種類の“覇気”という概念がこの世に存在する事を教えられた。
特に、“覇王色の覇気”というものはそれなりに貴重らしく、バルドは使えないらしい。
ラヴィは当然のように使用でき、それどころか彼女が放った“覇王色の覇気”で気絶させられた程には強い。
ゾロの脳内に、そんな流れで苦い記憶として深く刻まれた、とだけ言っておこう。
「武装色は使えるようになれば自然系相手でも戦えるし、何かと便利だから絶対に習得した方がいいわよ。というかこれを使えないようじゃアンタ、うちの雑兵にしかなれないわ」
「……雑兵だと……このおれが……。ふん、絶対に習得してやるよ」
「己の魂を黒刀にもできない小童が、よく吠える。もっと腕を磨いて、精々マデュラ様の役に立つがいい」
「言われなくても分かってる。おれは、大剣豪になる男だからな」
「ふん」
バルドからの発破にそう応え、ゾロにとっての“己の魂”と言える刀、和道一文字を眺める。
武装色の覇気を習得し、これを必ず黒刀にしてみせる──。
そんなこんなでゾロが頑張り、マデュラが爆睡する中、蛇王海賊団の艦隊はいよいよ“魔の三角地帯”へと突入する……。
果たして、モリアは生き残れるのか。
そんな感じで、今回はゾロがどんな扱いを受けているかを書いてみました。
割と待遇は良いようです。
なんか、気付いたらラヴィがゾロのお姉ちゃんみたいになってんな……。
ゾロってやたら美女と縁があるんですよね……。
ちなみに、覇気を使えないクルーは漏れなく雑兵扱いされ、マデュラに名前も顔も覚えて貰えません。
ハンター擬きたちがソレですね。
ただ、非能力者の高額賞金首も一名ほど在籍していますので、そいつはもちろん覚えられています。