こいつらまだ結成一年なんで……。
ラヴィは元天竜人だから前科あってもノーカン、フィロアは孤島に住んでただけなので懸賞金無かった……
ってな感じなわけです。
あと、マデュラがいいとこ持ってくので彼ら彼女らはなかなか活躍の場がない、という事情も。
世界最大の海賊船、スリラーバーク。
王下七武海の一人、ゲッコー・モリアが支配するというその船が漂う“魔の三角地帯”。
この海をおよそ50年間も漂流し続けた、一人の男がいた。
名を、ブルック。
ヨミヨミの実を食べ、その能力によって一度死んでから再びこの世に蘇ったアフロ骸骨という珍生物である。
かつては今は亡き同志たちと共に“ルンバー海賊団”で活躍していた音楽家兼剣士で、蛇王龍と比べればミジンコのようなものだが、賞金首として指名手配されている身でもある。
そんな彼は、今──。
「こら、ジーヴァ!! ダメでしょ、人骨なんて食べちゃ! ぺっしなさい、ぺっ!」
「あっ、ラヴィちゃま。うん~……ぺっ」
(し、死んだかと思ったァァァ!!? なんなんですかこの人たち! ドラゴンに変身するとか超コワイ!! 助けてください海兵さーん!! ……あ、私も海賊なので捕まっちゃいますね。ヨホホホホー!!)
──幼くも巨大な“龍”に食べられてしまい、危うく二度目の死を迎えそうになっていた。
ブルックが悲劇に見舞われた理由。
それは単純に、幼くして賞金首として指名手配されている少女、“冥灯龍”ジーヴァが霧の向こうにボロボロの海賊船を見つけ、たまたま目と目が合った船上のブルックに興味を示してしまったから、である。
そしてぴょんと跳んでブルックの幽霊船にジーヴァが侵入し、会話をする間もなく食われたと、そういう訳だ。
“冥灯龍”ジーヴァ、懸賞金8000万ベリー。
能力者が幼いので、政府側からは戦力としてカウントされておらず、額はかなり低い。
今彼らがいるのも幽霊船の上であり、ジーヴァがいない事に気が付いたラヴィが大慌てで追いかけてきたのである。
まぁそれはそれとして。
「ヨホホホー!! そこのお嬢さん、実にンビューティフォー!! ……パンツ、見せて貰ってもよろしいですか?」
「あ、しゃべった」
「きゃああああ!? じ、人骨……しゃべッ……!? いやぁぁぁぁぁ!!」
「ヨホホホー! 驚かせてしまい申し訳……エェェェェェ!?」
死んでいるとばかり思っていた人骨……ブルックが、普通に立って喋り始めた事に驚き、悲鳴を上げるラヴィ。
陽気に謝りかけるも、みるみるうちに“人獣化”していくラヴィを見て驚愕するブルック。
相変わらずブルックに興味津々な幼女、ジーヴァ。
場が、混沌に包まれた。
ついでに。
ブルックの思い出がたくさん詰まった幽霊船は、人獣化したラヴィが放った尾の一撃で粉砕された。
「……私の……私たちの、船が……」
「ラヴィちゃま、あやまって」
「う……わ、悪かったわよ……」
「…………いいえ、いいのです。元より、私たちの航海はとうの昔に終わったのですから……」
「がいこつしゃんも、昔かいぞくだった?」
「ヨホホホ、そうですよ。やはり、あなた方も海賊でしたか。先程の変身は驚きましたよ。私、目は……無いんですけどーーッ!! ヨホホホー!」
「うっさいわ!!」
「マデュラちゃまが気に入りそう、このひと」
「えー……いや、たしかに……えぇ、マジかぁ……」
木片となって散乱する元幽霊船。
その中でも何とか人が数人は乗れるだけのスペースがある物を足場にする事で、ブルックたちは溺れずに済んだ。
さすがに罪悪感を覚えたラヴィは、彼を自分たちの旗艦に招待する事に。
ブルックもまたそれを快諾し、変身したジーヴァに乗ってラヴィと共に移動していく。
「これは、すごい……!! あなた方、本来はもっと先の海を根城にしている大海賊なのでは!?」
「あら、分かる?」
「がいこつしゃん、おめがたかい」
「こら、余所見しちゃダメよジーヴァ。あなたはまだ飛ぶのがヘタクソなんだから」
「むー……はぁい」
霧のせいで幽霊船(故)からは全容が見えなかったのだが、近付いてみれば凄まじい数のガレオン船からなる大艦隊だという事がハッキリと分かった。
これを見て、ラヴィたちを「そこらにいるザコ海賊」と一緒にする程、ブルックは無知ではない。
そんなブルックを見て気を良くしたのか、ラヴィがドヤ顔になって説明を始めた。
「私たちは“蛇王龍”と呼ばれる35億5000万ベリーの賞金首、大海賊マデュラを船長とする“蛇王海賊団”の者よ。アタシはそこの最高幹部の一人で、ラヴィって言うの」
「さんっ……!?」
「わたしはいちクルーのジーヴァ。いちおう賞金首。よろしく、がいこつしゃん」
「こんな小さい子まで賞金首なんですか……! いや、今はおっきい龍になってますけど」
「ついでにアタシは11億……あ、違うわ。最近上がって14億の首よ」
「じゅっ……!? 何やらかしたんですか!!」
霧の海に浮かぶ幽霊船には、世界の情報は届かない。
自分たちの事を知らない相手というのは、なかなか新鮮である。
当たり前だが、自分たちの実力を過信し、情報収集を怠っていた麦わらの一味とは違い、こんなところでは情報を仕入れようがないので、自分たちの事を知らないからと怒ったりはしない。
おまけに。
サラッと言ったが、蛇王海賊団の面々は元々懸賞金がかけられていたメンバーに限り、全員ググッと上がった。エニエス・ロビーの件の影響だろう。
幼女だからか、ジーヴァは上がらなかったのだが、その他は一律で3億アップである。
ゾロはまだ加入が政府に知られていないので6000万ベリーのままだ。
幼女に負ける未来の大剣豪。
そんなわけで、旗艦に到着。
ジーヴァはテクテクとマデュラの私室まで歩いていった。一緒に寝るらしい。
そして、化け物揃いな蛇王海賊団のメンバーたちに囲まれつつ、事情を話していくブルック。
そこで明らかとなるモリアの能力。
なんと、彼は他者の“影”を奪って自分の戦力とする事ができるとのこと。
それを聞いたラヴィは──。
「……へェ、面白いじゃない。決めたわ」
「どうした、ラヴィ……ああ、そういえば今日はお前が“船長代理”の日だったか……」
ニヤリと悪戯に笑うラヴィを見て、眉を顰めるフィロア。
蛇王海賊団では、航海中は寝てばかりなマデュラの代わりに、副船長であるフィロアと、彼に次ぐ額の賞金首であるラヴィが交互に“船長代理”を務めており、余程の事が無い限りは遵守される「船長命令」を発する事ができるのだ。
クック先生は先生なので除外。
「ブルック、だったわね」
「……はい、そうですが?」
「アンタ、影を奪い返したいんでしょう? だったらアタシたちが手を貸してあげるわ。ちょうどこっちもモリアの……“スリラーバーク”っていう世界最大の海賊船とやらが欲しくて来たのよ」
「!? 本当ですか!!」
「ついでに──」
「はい?」
ニィィッと口角を上げるラヴィ。
ため息を吐くフィロア。
珍しく起きているゾラ。
旗艦から近い“鍛錬場の船”にて、全力のゾロを片手で軽くいなしている姿が見えるバルド。
マデュラの私室の前を警備するガロア。
その周囲を囲むモンスターズの面々。
モリアにとっての“悪夢”が、幕を開ける──。
「奪うわよ。モリアの、“カゲカゲの実”。幸い、うちにもまだ能力者になっていない賞金首がいるし」
「へ?」
「やはり、そう来たか……。む、先生」
「ま、モリアが降伏するっていうならうちに入れてあげるだけで済む話なんだけどね。っと、先生じゃない」
「うん? ああ、話を続けてくれて構わないよ。モリアと言えば、かつては四皇のカイドウと戦った事もあるという程の男だ。舐めてかかってはいけない」
「らしいわね。たしかに、まだマデュラもしばらく起きないだろうし……皆、とりあえずパーティーの開催は待ちなさい。まずは何人かで先行偵察よ」
「「了解、船長代理!!」」
え? え?? と右往左往するブルック。
彼をスルーして盛り上がる蛇王海賊団。
そんな彼らを、油断大敵だと諌めるクック。
頷くラヴィ船長代理と四龍王。
……なんだか、本来の船長であるマデュラが起きている時よりもまともな集団になっているような……。
「そうだ。ラヴィ、いい機会ではないか? 例の新入りを行かせてみよう」
「ゾロね。うん、いいんじゃない? 他は……クック先生──」
「ぼくはダメだよ。マデュラちゃんが怒る。それにぼく自身、こういう事は若人に譲りたいしね」
「──ですよねー。冗談よ、冗談。そうなると、監視役としてアタシと……」
「船長代理。おれも……行きたい……“涼しいニオイ”がする……」
「……マジ? そういう系かぁ……」
ここで自ら手を挙げたのは、“屍套龍”ハザク。
非常にえげつない能力の持ち主であり、墓場が大好きという変わった男だ。
“屍套龍”ハザク、懸賞金7億4000万ベリー。
もちろん彼もエニエス・ロビーの件で懸賞金が上がったので、この金額である。
そして──。
「ガハハ!! モリアの拠点とあらば、破壊が必要であろう!? ワガハイも行ってやろう!」
「……この蟹野郎が行くのであれば、私も行こう。破壊が必要という点にだけは同意するしな」
「……ガオレンにシャンロンまで? アンタら、島ごと踏み砕いたりしないでよ? マデュラに殺されるわ」
「「君にだけは言われたくない」のである」
「なにおう!?」
「落ち着けラヴィ。お前が暴れるとシャレにならん」
“砦蟹”ガオレンと、“老山龍”シャンロンまで参戦し、早くもモリアの冥福を祈ってしまうフィロアとクック。
なんと言っても、ラヴィ、ゾロ、ハザク、ガオレン、シャンロンと、僅か5人しかいないというのにこれだけで総合懸賞金が40億ベリーである。
金額だけならばマデュラ一人を超えている。
その後、一行は変身したファルクに乗ってモリアの海賊船……スリラーバークを空から捜索し、やがて発見してしまい飛び降りていった。
モリア逃げて。超逃げて。
「……あ、あのー。私も連れて行って頂けませんか?」
「む? お前はマデュラが……うちの船長が気に入りそうだからな。奴が起きるまでここで待て」
「あっはい」
「紅茶でもどうだい、ブルックくん」
「あっ、頂きます」
明らかに献上品扱いされ、フィロアたちと一緒に旗艦でお留守番する事になったブルック。
果たして彼は自分の影を取り戻せるのか。
何かの間違いで、スリラーバークにいるあのゾンビが影ごと消滅、とかしてしまわないといいね。
蛇王海賊団、遂にスリラーバークへ上陸。
モリア終了のお知らせ。
実際カゲカゲの能力はモリアには勿体ない……。