蛇王龍、海賊になる。   作:初音MkIII

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新型コロナが大暴れしている今日この頃。
皆さん、体調はいかがでしょうか?
私は元気です。


シャボンディ諸島⑤ 完

 

 

 

 シャボンディ諸島、13番GR(グローブ)

 出入口である扉が見事に吹き飛んでしまっている小さな店、シャッキー’S ぼったくりバーにて。

 

 

「──と、いうわけなんだよ!! ほんっと信じられないよね!! せっかく私がぶっ壊したってのに、また奴隷屋なんてのが建てられてるなんて!」

「……ああ、うん。そうだな。爆発寸前の爆弾を自分の体に括りつけるような真似をしたその天竜人は、一体何を考えていたのかねえ……」

「マデュちゃんに喧嘩を売るような真似をするその根性にだけは感心するわ。でも貴女の事だからもう殺したのでしょう? そんなにカリカリすることないじゃない」

「……むぅっ」

 

 

 伝説の男、シルバーズ・レイリーと、そのパートナーにして元海賊である淑女、シャッキー。

 二人は、マデュラがお怒りになるまでの経緯を聞き、ある意味勇者であるロズワード一家のアホっぷりに閉口した。

 

 尚、マデュラがサラッと殺人を犯している事に対しては特に何も言うつもりは無い。

 レイリーの相棒であったロジャーも、仲間の悪口を言われただけで一国を滅ぼすような過激な一面があったのだし。何より海賊だし。

 

 海賊のくせにヒーローじみた事をしている麦わらの一味がおかしいだけなのだ。

 

 

 

「……んん~~……!! やっぱり腹立つ!! ねえレイリー! この島沈めていい!?」

「やめなさい。いやほんとに」

「私からもお願いするわ。この店が無くなったらどう生活すればいいのよ?」

「……海賊に戻ればいいじゃんか」

「嫌よ。今更、また海軍に追いかけ回されるのは勘弁だわ。ガープとか、特にしつこいし」

「伝説の海兵だっけ?」

「ああ。もうかなりの歳だし、相当弱くなってはいるだろうがな」

「ふーん。全盛期のガープと戦ってみたかったなぁ」

「……それは決着が付く前に世界が終わる気がするぞ」

「そんな事ないよー」

 

 

 表面上は穏やかだが、内心必死でマデュラを宥めているレイリーとシャッキー。

 悠々と隠居生活ができているこのシャボンディ諸島を消されると、割と本気で困るのだ。

 

 

「それにしても、海兵……海兵かぁ……」

「うん? どうした?」

「ん。実はちょっと前に革命軍って奴らのリーダーと会ってさ。気に入ったから手を貸してやる事にしたんだよね」

 

 

 

 

「「は??」」

 

 

 

 軽い調子で告げられた衝撃の大ニュース。

 思わず固まる二人。

 

 

 

「? どうしたの?」

「…………マデュラ。革命軍だと? 本当にか?」

「うん。ドラゴンっていう名前のおじさん。そういえば、あの人とガープって名前似てるなぁ。親子なのかな?」

「それはまあ、置いといて。マデュちゃん、本当に革命軍と同盟を?」

「そうだってば。しつこいな」

「ごめんなさい。でも、信じられなくて。よくこの子と交渉なんてする気になったわね……」

「まったくだ……」

 

 

 “世界最悪”の蛇王海賊団と、革命軍が手を結んだ。

 海軍が……いや、世界政府が聞けば、珍妙な悲鳴を上げながらひっくり返るだろう程の大事件だ。

 

 色々と経験豊富なレイリーとシャッキーをして、驚愕を隠せない。

 今は昔、名だたるならず者たちが集結して誕生した、あの“ロックス海賊団”以上の凶報だろう。

 

 何せ、今は英雄ガープも老いて衰えており、彼の後を継げるだけの力を持った“新たな英雄”もいない。

 世界政府の最高戦力である三大将にしても、マデュラを止める前に四龍王に止められるのが目に見えている。そもそも、彼らがまとめてかかったところでマデュラを倒せるとは思えない。

 

 

 

 あれ、これ海軍マジで終わったんじゃね?

 

 

 

 レイリーは素直にそう思った。

 

 

 

 そして、間がいいのか悪いのか──。

 

「ん、何これ。新聞?」

「「あっ」」

 

 

 

 ──マデュラ、遂に頂上戦争の事を知る。

 

 

 何で片付けておかないのよ、レイさん。

 ……ごめんなさい。

 

 

 伝説の男とそのパートナーは、目と目でそんなやり取りをした。

 

 

 

「“火拳”が処刑? へえ……」

「マデュラ。行くなとは言わん。どうせ聞かんだろうしな。ただ、あまりやり過ぎて世界そのものを滅ぼす事だけはやめてくれ。私はもう少し生きていたいんだ」

「分かってるよ、心配性だなあ。革命軍からも二年後まで世界政府を滅ぼさないようにって言われてるし、せいぜい海軍本部が消えてなくなる程度だって」

「それはそれで世界中が荒れそうね……」

「んー。まあ、そこらへんはフィロアかラヴィが何とかしてくれるよ。きっと」

「だといいがな……」

 

 

 どうやら革命軍が先んじて手を打っておいてくれたらしい。

 グッジョブとしか言いようがない。

 どう説得したのかは知らないが、よくマデュラを納得させられたものだ。

 

 

 と、密かに感心するレイリー。

 

 

「白ひげと海軍の戦争ね……となると、その前に済ませておいた方がいいかなあ」

「うん?」

「ん、インペルダウンの殲滅。ついでだから世界政府の3大機関を制覇しておきたくてさ。エニエス・ロビーは消したし、海軍本部はこうして予定が入った。だから残るはインペルダウンだけなの。忙しくなりそうだから、海軍本部行く前にパパっと行ってこようかなって」

「ああ、なるほど。まあ、別に止めはしないが、日程的に大丈夫なのか? 下手をすれば肝心の戦争に乗り遅れかねないぞ」

「大丈夫大丈夫。いざとなれば友達に頼むから」

「友達?」

「うん。話してなかったっけ? なんか意思疎通ができる海王類がいてさ」

「ほう、それは興味深いな。なあ、シャッキー?」

「ええ、そうね。マデュちゃんの能力が関係しているのかしら?」

「わかんない。特別な子なんじゃないかな、たぶん」

 

 

 消し飛んだエニエス・ロビー。

 ロックオンされた海軍本部。

 更に、エースの護送任務で忙しいこの時期に、蛇王海賊団を迎え撃つ羽目になったインペルダウン。

 

 

 3大機関涙目にも程がある。

 

 

「インペルダウンと言えば、監獄署長マゼランが世界的な実力者として有名だな。あの監獄は、実質彼なしでは成り立たないと言っていい」

「へえ、そうなんだ。インペルダウンって行ったことないからよく分かんないや。海軍本部なら賞金稼ぎやってた頃に結構通ってたから知ってるんだけど」

「ドクドクの実を食べた“毒人間”ね。マデュちゃんって毒とか効くの?」

「効かないよ。むしろ毒魚とか結構好き。ピリッとしてておいしいんだ~」

「やれやれ……つくづく人間離れしているな、お前は。となるとマゼランでも止められないか」

「レイリーはどっちの味方なのさ」

 

 

 監獄署長マゼラン。

 世界中の凶悪犯たちが収容される大監獄、インペルダウンを守る“地獄の支配者”であり、海軍大将に準ずる程の実力を誇る“毒人間”だ。

 

 しかし、残念なことにマデュラに毒は効かない。

 それどころか、ちょこっとだけ強烈なスパイス扱いである。

 

 ちなみに、マデュラが好む毒魚というのは、マゼランの毒を食らって奇跡的に生還し、毒への強い耐性を得た人間ですらも侵す程に強烈な毒を持つ。

 それを「ピリッとしてておいしい」で済ませるあたりが実にマデュラらしい。

 

 

 ぶっちゃけ、この時点で既にインペルダウンの命運は決まったようなものだが、果たして……。

 

 

 

 

「よーし! 天竜人と鉢合わせたこのイライラは、全部インペルダウンにぶつけちゃうぞー!」

「……まぁその、なんだ。冥福を祈っておくよ、今のうちにな」

「やりすぎて“火拳”の処刑が延期、なんて事にならなければいいわね……」

 

 

 

 ……十中八九職場を失う羽目になるだろう、インペルダウンの皆様には、強く生きて欲しい。

 

 

 

「それじゃレイリー! もしかしたら海軍大将が来るかもしれないし、急いで出るね!」

「ん、ああ。この時期にお前と戦うなんて自殺行為は、さすがの海軍大将も避けるとは思うが」

「またね、マデュちゃん。今度はきちんと扉を開けて入ってきてね? 後で修理費を請求しておくわ」

 

 

 

 地味に商魂逞しい、シャッキーであった。

 

 

 

「……マデュラの奴、随分と素直に言う事を聞いてくれたな……。革命軍はあの子をいったいどう説得したんだ?」

「生きててよかったわね、レイさん」

「まあ、そうなんだが。いまいち釈然とせん……」

 

 

 

 こうして蛇王海賊団はシャボンディ諸島を後にしたのだが、その後もどうやら海軍大将は来なかったらしい。

 危うく巻き込まれかけた超新星たちは、揃って胸を撫で下ろしたとか。




マデュラ曰く“ピリッとしてておいしい”毒魚は、原作にてルフィが危篤に陥った毒魚、ヨロイオコゼよりも更に強烈な毒持ちという設定。
ヨロイオコゼは、ジェルマのレイジュに助けられたシーンの奴ですね。

地味に毒ってモンハンのモンスター相手でも結構効いたりするんですよねー。
ダラ・アマデュラには一切効きませんけど。
奴、爆破以外の状態異常全部無効なんですよ……。

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